第65話:トップランカー再び!(その2)
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8月5日午前10時30分、あるプレイ動画が公開されると同時に再生数がうなぎ上りで上昇する。
【あの人物、山口じゃないのか?】
【それはないだろう。山口がエントリーしたら、公式ホームページでも動きがあるはずだ】
【7月30日にログインし、そこからは音沙汰なし】
【数日で行方不明扱いにされるのは、あまりにも酷だろう】
【数か月の音信不通であれば話は分かる。しかし、1週間も満たない感覚で言うのは無理があり過ぎる】
【じゃあ、あの動き――ゴッドランカーシステムは、どう説明する?】
【5人目のゴッドランカーが誕生したと考えるべきだろうな】
ネット上では、この動画に対するつぶやきが拡散し、高速移動の使い方が的確な為か、山口飛龍と錯覚しているようだ。
しかし、この動画に姿を見せているのは、青と白をベースにしたカラーリング、SFロボットアニメ等で見るようなデザイン、メイン武装はソードと言う事で山口とは似ても似つかない。
この人物の正体は、一部のスレで話題になっていた謎のプレイヤーなのである。
謎の多いプレイヤーと言えば、過去にパッチワークやバウンティハンター、提督と名乗る勢力も存在したのだが、それとは一線を越えており、全く別勢力とみてもいい。
今回の動画を見て、じっとしていられない人物がいた。それは、木曾あやねである。服装は何時ものアレだが、サングラスはブルーライト対策の物に差し替えているようだ。
彼女はゲーセンにいたのだが、一連の動画を見てARガジェットのコーナーへと移動している。
「あの人物が、こちらの読み通りの人物だとしたら――」
何とかARゲーム専用のセンターモニターに到着し、そこで例の動画に関する物を探そうとするが、新着動画が多すぎて把握できない。
「せめて、何かキーワードになる物は――?」
木曾は自分宛てにショートメールが来ている事に気付かなかった。サングラスを差し替えたのが原因だろうか。
「やはり、ARグラスは24時間かけるような物ではないか。目に負担がかかる」
木曾がサングラスとして使用していたのは、ARグラスと呼ばれる簡易モニターであり、ARガジェットのバイザーと同じ役割を持っている。
そして、ショートメールをチェックし、そのキーワードを入力する。すると、動画を10件ほどに絞り込む事に成功した。
「やはり、エクシアか」
厳密に言えば、エクシアではなくエクスシアなのだが――そのキーワードで動画を絞り込めた為、タグの指定としては間違っていないようでもあった。
木曾が一通りエクスシアの動画をチェックしようとしたが、センターモニターを使おうと言うプレイヤーは何人かいる為、動画を最新の1本に絞り込んで視聴する事にする。
「曲名はアイム・ソー・ハッピー……?」
木曾は曲目に見覚えがあるように思えた。しかし、『クリスマス・イヴ』等に代表されるタイトルかぶりの曲は複数ある。その為、無駄な詮索はしない方が良いと判断した。
それに、どうあがいても被らないような楽曲は商標を使っているようなケース、その作品特有の単語を使っているケースだけだろう。
Aという世界では曲名に使われなさそうなフレーズでも、Bという世界では使われている可能性も否定できない。
それを踏まえれば、このような問題は些細な物と結論付けたのである。
「この曲は確か、大規模アップデート前のスコアトライアル中に更新された物のはず――」
楽曲の追加タイミング、それはスコアトライアルの行われている最中であり、プレイヤーにとってはさりげなく追加されていたという認識がされている。
「それ以外の楽曲は――」
その他にも引っ掛かったエクスシアの動画を見ると、そこにも見覚えのあるタイトルが存在していた。一体、これが意味しているのは何なのか?
「アルマゲスト――まさか?」
木曾は再び曲名で何かを思い出していた。アカシックレコードにあった、とある音楽ゲームの曲名リスト、そこに明記されていたのがアルマゲストだったのである。