第65話:トップランカー再び!(その1)
###
8月5日午前10時、山口飛龍は自宅で新曲をパソコンで作成していた。
使用しているのはSOFで使用される楽曲を作成するツールではなく、汎用のDTMツールである。
この辺りは南雲蒼龍も同じような環境で作成している為、同じフィールドで立つという意味で使っているのかもしれない。
「楽曲を慌てて作成する必要はないか」
山口は楽曲の投稿〆切を確認する。イベントは10月1日に投票開始、10月末には投票終了――。
「9月末までには時間がある。だからと言って……」
山口がパソコンから視線を向けた先にある物、それは未使用状態のネオARガジェットだった。
「今は楽曲に集中すべき時期。8月中旬には同人音楽のイベントもある。そちらへ楽曲を出すとすれば、楽曲作成のスケジュールは――」
ふと、山口は自分が参加する予定のない同人音楽イベントを思い出した。しかし、飛び入り不可である事を思い出すのに数分かかったのは言うまでもない。
それ程に山口の状況は追い込まれているというよりかは、何かをして気を紛れさせたいと言う思いもあったのだろう。
「ミュージックオブスパーダは既に頂点を極めたはず。なのに――」
本当に頂点を極めたのか、まだやり残したことがあるのでは……という考えも頭をよぎる。
ソーシャルゲームではカードやアイテムのコンプリートが一つの到達点と言われているが、ミュージックオブスパーダにそうした概念があるとは思えない。
彼がであったプレイヤーの中には、ハイスコアを目指す者、自分のプレイスタイルを極める者、エンタメ精神でプレイを楽しむ者――そのプレイスタイルは攻略本やウィキで一言にまとめられない数に及ぶ。
本当に一つの大会で優勝しただけで極めたと言えるのか? 音楽ゲームのプレイスタイルは格闘ゲーム以上に出来る事が多いともネット上で言われている。
その状況で、本当に休止を宣言する事が正解なのだろうか? ミュージックオブスパーダを挫折した理由、アンケートでトップだったのはプレイスタイルが決められないと言う物であり、ゲームの難易度は二の次だったと言う。
音楽ゲームの場合は高難易度のみをプレイするスタイルが多いという話もあるが、逆にエンジョイ勢もいる。大きく2つに分けられる音楽ゲームのプレイスタイル、そこにだけ集中した結果――それが本来の音楽の可能性を奪っているのではないか、と。
山口はしばらく考え込んだ。本当に音楽ゲームのプレイスタイルは2つだけで決められるのか……と。
「ミュージックオブスパーダ、それが生まれた理由か」
今までの音楽ゲームの常識を破るシステム、それはハンティングゲーム――いわゆる狩りゲーのシステムを応用した物であり、従来の音ゲーとは確かに一線を越えた。
しかし、それは表面的な部分だけで終わったのか? 本来の音ゲーは楽曲を楽しむ、あるいは楽曲を演奏するという疑似体験が出来るという物だったはず。
それが作業ゲーと言われるようになったのは、高難易度インフレで初心者が入り込めなくなったのは――音ゲーには格闘ゲーム以上に難題が山積みになっている。
「南雲は、どういう理由があってあのシステムを採用したのか」
単純に流行のシステムに便乗しようと考えたのであれば、もっと別の要素を加えたり、今の様なシステムにする必要はない。
それこそ、別の小説サイトみたいに旬ジャンルの二次創作で会話だけの雰囲気重視のSSを書くような――特定の勢力向けだけに人気が出る物を作ればいいだろう。
南雲がミュージックオブスパーダを作るきっかけ、それは本当にARゲームのシステムが優遇される遊戯都市奏歌の計画に乗っただけなのか?
同日午前10時30分、見たいアニメを視聴後、改めて作曲作業を再開しようとした山口だったが、何かが引っ掛かっていた。
「やっぱり、南雲の言葉が気になる」
南雲は過去に『超有名アイドルのディストピアを止める』と自分に向かって言っていた。
アカシックレコードにも同様の事を言及している人物が何人でもいるが――それは少数派では済まない人数に及ぶ。
大多数の人間に媚びるようなタイプの人間ではないのは、過去に彼の楽曲を聞いて分かっていた。
では、ARゲームのシステムを使用する事になったのは何故なのか。今まで通りの筺体で音楽ゲームを出すことは不可能だったのか?
ゲームの開発者であれば、新たなシステムに興味を持つのは当たり前。しかし、ARゲームがブレイクしたのは遊戯都市計画が発表される前の事だ。
『超有名アイドル信者及びアイドル投資家、それに政治家が裏で手を組んで超有名アイドルコンテンツによる全世界掌握を考えていたとしたら――』
あの時にDJイナズマが言っていた事、彼は超有名アイドルコンテンツで全世界掌握考えている世界があったのではないか、と訴えているようでもあった。
実際、彼は過去にアカシックレコードへのアクセスを行っており、そこで得た知識でネット上に小説を発表した事もあった。
その結果は無残という表現を使うまでもない位に敗北した――とネット上のつぶやきで言及されているが、それを鵜呑みにするような程――自分は流行に飲み込まれたりはしない。




