第64話:純粋なリズムゲームとしての側面(その4)
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ミュージックオブスパーダの誕生経緯、表向きには『ARゲームと音楽ゲームの融合』的な事が書かれているニュースサイトが多い。
しかし、いつからARゲームと音楽ゲームを融合させたゲームが1作品だけだと錯覚していたのだろうか。
大型ショップ等でプレイできるARリズムゲームも、まごう事なきARゲームである。
単純な事を言えば、現在稼働しているARリズムゲームはARゲームではないとニュースサイトが言っているのと同じだ。
一方で、これらのARゲームは従来の音楽ゲーム筺体をスリム化させただけと言う識者も存在し、こうした議論はネット上でも見かける。
こうした議論が展開される事態は、決して悪い事ではない。しかし、こうした議論さえも封じてしまう存在も確認されている。
アキバガーディアンの少数勢力――それも以前に拘束されたはずの人物、メビウス提督だ。それ以外にも、3次元アイドルの夢小説を書いている勢力もカウントされるだろうか。
「メビウス提督は釈放されたようだが、その後の足取りは不明。それに、夢小説勢は――」
谷塚市内のARガジェットショップを偵察しつつ、鉄血のビスマルクは何かを探していた。
「真犯人捜しは振り出しに戻り、再びARゲームには論争と言う名のバトルが始まる。アカシックレコードの筋書きとは異なるが――」
そのビスマルクの目の前に現れたのは、ARインナースーツとは若干異なるようなデザインのSFスーツを着ていた人物だ。しかも、素顔はバイザーの影響で見えない。
「全ては遊戯都市の筋書き通りとでも言いたいのか? それとも、日本政府か? あるいは超有名アイドルの支配が――」
ビスマルクは若干の歯ぎしりをしながらの発言、そこには周囲に遊ばれているという事に対しての怒りも込められているのだろうか。
「そこまで言う必要性はない。ARゲームは軍事に利用されるような――?」
SFスーツの人物は、周囲に何者かの視線を感じ、ビスマルクに場所を変えて話すとARガジェットのショートメールに送信する。
メッセージを受け取ったビスマルクも、目の前の人物と同様に尾行されている雰囲気は感じていた。
そして、二人は場所を変えて話す事にした。その場所は、何とオープンしたばかりの大型ショップである。
8月4日午後2時、ビスマルクは入り口付近でしばらく待つようにと指示を受けた。
SFスーツの人物が待てと言ったのだが、それ以外にも混雑的な意味でもスタッフに制止されたのもある。
「キャパは2000人オーバーと聞いていたが――」
ビスマルクはタブレット端末を取り出し、ARアミューズメントのホームページをチェックする。そこには、キャパシティ3000人と言う記述もあった。
「3000人規模のキャパは、それこそ北千住等の都心部のARゲーム専門店に限定される。ここでは、1000人~2000人が限界だろう」
姿を見せたのは、ビスマルクも驚くような人物だった。この素顔を見せた状態でビスマルクに会うのは初めてではないが――。
「明石春、今更になって何を……」
明石春、イースポーツではスカイエッジと呼ばれる有名人でもある。その彼女が、何を話そうと言うのか?
ビスマルクと明石が入店したのは、南口と呼ばれるエリア。そこでは北口と違い、FPS系やロードサーフィンと言ったような変わり種ガジェットも展示されている。
ARゲームとしてはFPS、TPS、シューティング系が比較的に多く展示されており、3階までのエレベーターも設置されていた。
このアミューズメントショップは3階構造で、地下駐車場の様な物はない。あくまでも自動車は近くにある有料駐車場に止める形になっているらしい。
その為、基本的にARアミューズメントは電車や自転車で行くというのがメインになる。中には、ARガジェットで移動する人もいるのだが。
「あそこで話をしよう」
明石が指差す場所、そこはゲームコーナーではなくフードコートである。それも、スイーツメインの。
入店から5分後、ビスマルクは目の前に姿を見せたスイーツに対し、驚きのリアクションをする。
「これ、スイーツなの?」
目の前に置かれたのは、明石が注文したスイーツだった。お任せとは言ったのだが、見た目はどう考えても……。
「これは、たこ焼きのチョコ版とも言うべき物、チョコ焼きよ」
チョコ焼き、文字通りのたこ焼きのたこをチョコにした見た目である。
しかし、青のりではなくクッキーチップ、ソースはチョコ、生地はホットケーキミックス風味……見た目に惑わされてはいけないタイプだろうか。
「お前が頼んだ物、そちらは何だ?」
「これ? これはチョコレートパフェちくわ風よ」
ビスマルクは、更に明石の頼んだパフェに関しても質問してきた。そして、ストレートな回答をするのだが、ビスマルクは困惑をしている。
「ちくわ風? ちくわっておでんのちくわ……」
「そのちくわだけど、本物ではなくチョコスティックよ」
「それもチョコなのか?」
「ここはチョコ専門のスイーツ店だけど、コラボカフェでもあるのよ」
掴みというつもりで注文したスイーツだが、逆にビスマルクを混乱させるだけになっている気配がした。
「お前が話したい事とは、このスイーツとは違う――」
「こちらは、あくまでも掴み。本筋は、これよ」
明石がタブレット端末でビスマルクに見せた物、それはアカシックレコードである。しかし、その内容は様々な部分で加筆修正がされていた。
「どういう事だ? 2次元アニメからのアイドルユニットが――あの音楽番組に出るのか?」
ビスマルクは、目の前に書かれていた記事を見て、率直に驚くしかなかった。
それもそのはず、超有名アイドルの宣伝番組として揶揄される事の多い、あの音楽番組にアニメ作品から飛び出したアイドルグループが出演する事になったからである。