第64話:純粋なリズムゲームとしての側面(その2)
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8月4日午前12時、フードコートが混雑し始め、ARゲームの方もお客が増えてきた気配がする。
こうなった事には理由があり、ARガジェットの説明が長かった。大体が5分~10分で済む場合もあるが、長いと15分はかかる。
しかも、今回はオープン初日と言う事でエントリーしようと考えていた新規プレイヤーが大量に現れたのも理由の一つだろう。
「お昼を先に食べて正解だったのか、あるいは――」
混雑状況を見ていたのは大淀はるかで、今の彼女はチーズバーガーを手にしている。ベンチで買っておいたファストフードに手をつけているのだろう。
大淀を目撃し、スマホで撮影を試みようと言う人物もいたのだが、何故かスマホのカメラ機能が動かないという状態になり、撮影をしようとしていた人物は疑問に思った。
しかし、その理由はすぐに判明する事になる。しばらくして、スマホの画面にエラーメッセージが表示され、起動不可能の状態となったのである。
このショップ内では機密に関係するような物も展示されている関係上、スマホを含めての写真撮影は一部エリア以外では不可となっている。
それに加えて下手に盗撮でもしようと言うのであれば、アキバガーディアンが駆けつける可能性は高いだろう。
つまり、このショップ内ではマスコミであろうとテレビカメラであろうと撮影不可能――。そこまで守ろうと言う機密があるのかと言われると、大淀にも疑問符が浮かぶ。
「アンテナショップでも撮影不可だったな。確か――」
引き続きスマートフォンで情報を収集する大淀、彼女の目的はアンテナショップ内の機密情報を見つける事にあった。
機密情報の正体に関しては、ネット上でも曖昧すぎて特定されていない。一説によると、ファン以外にはどうでもいい情報と言う事らしいのだが――。
「ホームページでも、それらしい情報はない。一体、何があるというのか?」
チーズバーガーの次はヤキソババーガーを食べ、手早くホームページの方をチェックする。しかし、サイト上に機密情報を置くようなことは――。
「!?」
思わず、声にならないような声を上げた大淀、ホームページ上に注意事項として……。
《機密データの撮影に関する注意》
別の意味でも想定外の事だった。『灯台もと暗し』とはよく言った物である。
《ARアミューズメントでは、純粋にゲームを楽しんでもらう為にも一部の機密エリア含む撮影をご遠慮いただいております》
前置きにしては、引っ掛かる部分がある。アカシックレコードの技術を機密データとして仮定するならば、既に広まり過ぎている気配もある。
このような注意書きを書く以上は、アカシックレコード以外の何かが使われているのだろう。
注意書きに関しては、撮影禁止以外にも、該当エリアでの破壊行為等も禁止していた。
細かい部分まで記述されていたが、純粋にゲームを楽しめなくなるので、禁止項目に関しては行わないでほしい、と言う事である。
ゲームのジャンルによってはネタバレを禁止しているゲームも存在し、一部の音楽ゲームではシナリオモードのネタバレをネット上にアップしないでほしいとも告知した作品もある位だ。
「純粋に楽しもうと言う勢力にとって、ネタバレや外部ツールでのプレイ、転売行為等で営業妨害をするのは――ARゲーム勢にとっても最大の敵となる」
大淀はARアミューズメントの各所にある監視カメラ、謎のブラックボックスを確認しながら、注意書きをチェックしていた。
注意書きにはブラックボックスに関しての記載がない。この周囲が撮影禁止エリアなのは先ほどの盗撮をしようとした人物の行動からすれば、予測は出来る。
【機密とは目に見える物だけとは限らない。アカシックレコードの情報、ARゲームのシステム……そう言った物が軍事転用されれば、どうなるかは想像できるだろう】
大淀が見つけたつぶやき、それは南雲蒼龍がつぶやいたかのような口調で書かれていた。
しかし、それがなりすましである事を大淀は把握している。その理由の一つが、アカシックレコードに触れた人物。
大淀もアカシックレコードを利用した特殊技術を使用しており、大和杏のアガートラーム、加賀ミヅキのバウンティハンターシステムも該当する。
それらの技術は超有名アイドル信者やチートプレイヤーに関して絶大な威力を発揮し、ファンタジーにおけるドラゴンキラーとも言える技術だ。
これ以外にも使用されている形跡は特になく、山口飛龍等が使用していたゴッドランカーはアカシックレコードの技術なのは間違いないが、アガートラームの様な威力ではない。
「そう言う事ね。アカシックレコードがチート勢や超有名アイドル信者として変換している仮想敵の正体は――」
しかし、これを知ると言う事はARゲームの存在理由やARゲームの根幹にも関わる。そして、後戻りはできなくなるだろう。
「これを知った所で、今の状況を覆せるとは考えにくい。そして、それをひっくり返すという事は超有名アイドルと言う概念を全ての世界から消し去ることと同義――」
大淀が弾きだした答え、仮想敵を知った段階でARゲームの世界は現実を侵食し、ゲームと現実が入れ替わる危険性もある。それを止める事、それが大淀の考えた結論だった。