第58.8話:レジェンドアイドル襲来(後篇)
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7月27日午前12時15分、自宅でニュースを見ていた大和杏は、ある記事を発見したのだが……。
「やっぱり。どの世界でも神格化は繰り返されるのか」
大和が発見したのは、流行語大賞の記事だった。そこに書かれている単語を見て、その傾向から何かを彼女は悟った。
「流行語にアカシックレコードがないのは、発見されたのが数年前と言うのもあるが……」
それ以外の単語も超有名アイドル絡みである。おそらく、候補の単語の90%は超有名アイドル関係が独占していると言ってもいい。
おそらく、超有名アイドル側も後がないと考えているのだろうか。しかし、流行語大賞の候補が出るのは11月の為、大和は何かの違和感を抱く事になる。
「西暦2016年の物か。しかし、その結果はかき消されているのが気になる――」
何処の日本と指定されていなかった別の流行語大賞の記事も、西暦2016年の物は結果が黒塗り状態で見えなくなっている。
向こうの流行語に関してはスポーツ関係、お笑い関係、その他にも政治関係と色々な物が並んでおり、自分達の流行語とは格差がある事を思い知った。
「そう言えば、去年の流行語大賞はレジェンドアイドルがあったような」
案の定だった。2017年の流行語大賞の記事を見ると、そこにはレジェンドアイドルがノミネートされていた。
晒し的な意味でノミネートされた訳ではなく、おそらくは芸能事務所が大金を出して裏取引をしたという類だろう。
しかし、こうしたやり取りに関しては実際にあったかどうかは定かではなく、真相を確かめる手段は存在しない。
「やはり、あの芸能事務所は超有名アイドルを神化させるつもりなのだろうか――」
大和は色々な事を考えたのだが、その結論が出る事はなかった。
今までも、この件に関しては焦りにも近い感情を持っており、超有名アイドル商法を何らかの方法で正常化させる事が先決と考えている。
フーリガンの様に暴れまわるファンの爆買いは、アイドル投資家にとっても格好の狩り場と化している。
こうした状況が生み出す物を大和はアカシックレコードで何度も目撃していた。このままでは日本が超有名アイドルを――。
「何度も繰り返される展開、超有名アイドル商法によるエンドレスループを断ち切らないと。あの商法が永久に続く事は、あってはいけない」
考えた末に、大和は若干落ちつきを取り戻していた。何かの物に当たったとしても、展開が変わるとは思えない。ならば、自分が変えなくてはいけないのだ。
そして、大和は決戦に備えてアンテナショップの通販サイトを開き、そこでガジェットカスタマイズを依頼した。
アガートラームとは別に、新ガジェットを調達しようと考えているらしい。なお、新システム導入からはアカウントが複数所持出ない場合に限り、複数ガジェットが正式に認められるようになった。
以前までは故障や修理等の緊急時限定でサブガジェットの使用を認めているのみであり、通常使用における複数ガジェットは認められていない。
武装が複数あるように見えるのは、あくまでもメインのARガジェット以外はCG表示になっている為でもあるのだが……。
同日午後2時、ワイドショー番組でレジェンドアイドルの活動再開に関して取り上げられ、テレビ局がその話題でもちきりとなった。
例外があるとすれば、午後という時間帯に映画を放送しているテレビ局1つだが……あのテレビ局は、相当な事件でない限りは動かない。
つまり、レジェンドアイドルの一件は相当な事件に該当しないのだろう。
『レジェンドアイドルと言えば一世風靡した程のアイドルとしても有名で、彼女以上のアイドルはいないとまで知られていたのですが――』
『突如として復活した事には驚きです。少し前にレジェンドアイドルの後追いアイドルが姿を見せたと思ったら、自作自演だった事が判明しましたが――今度は本物であって欲しい物です』
男性司会者からは、彼女が正真正銘の本物であると願うコメントがあった。これが本心かどうかは不明である。
しかし、以前の自作自演に関する事件はレジェンドアイドルとは別物だった事に触れており、本物が現れる事を望んでいたのは本当らしい。
『あの時は芸能事務所の複数が廃業に追い込まれ、国会の与党にも賄賂の疑惑が浮上したほどです。これほどまでに政治にまで干渉したアイドルは異例中の異例でしょう』
男性司会者は、あの事件が初の事例ではないと力強く断言している。つまり、超有名アイドルと政治家は裏で繋がっている事例が他にもあったと示唆する物だ。
このような発言がある為か、この番組は草加市内及び奏歌市では放送されず、別のアニメ番組に差し替えられる状態になっていた。
草加市内と奏歌市では報道バラエティーや信用出来るソースのない週刊誌等が規制の対象となり、このような状態になっている。
ただし、動画サイトにまで規制を広げると、逆に炎上する材料を与えると言う事で、そちらの方はノータッチ。それに加え、ケーブルテレビやワンセグ等も規制対象外だ。
この辺りは視聴している年齢層に配慮したようだが、地上デジタルのアンテナでは視聴出来ないのは間違いない。
同日午後3時、衝撃の発表がミュージックオブスパーダのホームページ上で発表された。
《新システムを導入したARガジェットを28日から順次入荷を行います》
これには上位ランカーを初めとした人物も衝撃を受けていた。本来であれば8月上旬予定とも触れられていたのだが……。
「スケジュールを早めたのか、それとも別の理由か」
ホームページをタブレットでチェックしていたビスマルクは、今回の発表に何か意図している事があるのではないか、と考えていた。
同刻、今回の発表を行った後で事務所に置かれたARガジェットをチェックしていたのは、南雲蒼龍だった。
ガジェットの形状はクリスタルの刃で出来たようなサーベルであり、音楽ゲームで使う様な物とは程遠い。しかし、これを決めたのは自分なのは間違いないのだが――。
「音楽とバトルを組み合わせたアニメは過去にもあった。しかし、今回のミュージックオブスパーダは、それらと類似する可能性は――」
普通に音楽ゲームを開発するはずが、今回の仕様になったのは別の理由が存在していた。それは、アカシックレコードにも記されていない程の機密事項でもある。
「あくまでもARゲームはARゲームであるべきだ。人々を楽しませるエンタメ精神も必要だろう――」
そして、南雲がビームサーベルを握ると、青い光と共にブレードが展開された。一般的なビームサーベルとは原理が違うらしい。
「ARゲームを超有名アイドル商法や政治の材料にしてはいけない。それは、アカシックレコードでも――」
南雲は何度も悩み続けていた。自分が本当にやろうとしている事は何なのか……と。