第54話:ランカー事変(後編)
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7月13日午後1時35分、各地では超有名アイドルファンが襲撃しているというつぶやきを拡散していた人物を特定し、あっさりと逮捕された。
それ以外にも複数のアフィリエイト系炎上ブログの管理人やコピーサイトの管理人も逮捕された。これらは鉄血のビスマルクが提供した情報による所が大きい。
「ビスマルクの方は――派手にやっているな」
DJイナズマは回転寿司店で遅い昼食をとりながら、一連のニュースを確認していた。一人で食事をしている訳ではなく、前の席には私服姿の信濃リンもいる。
「昼飯と言うのは、回る寿司ですか」
信濃の方はファストフードや半額弁当でないだけ若干マシか……と言うような表情をしている。取っているのは寿司皿ではなく、うな丼と天ぷらうどん、ショートケーキだが。
「回らない寿司だったら、コンビニやスーパーの寿司になっていた所だ。それに、今回の資金はARゲームで得た賞金――」
嫌なら食べるなではないが、信濃の表情を見ていると何か気になる部分があるとイナズマは思った。そして、信濃にタブレット端末で自分が見ていたサイトを見せる。
そのサイトとは、アカシックレコードの考察サイト……ではなく、本物のアカシックレコードだった。これには信濃も無言で驚きを表現していたのである。
「ある人物がネット炎上を誘導するサイト、アフィリエイト系のネットまとめ等を一斉にアキバガーディアンへ突き出し、ネット情報ロンダリング勢力を魔女狩りしているという噂だが」
イナズマが切り出した話、それは鉄血のビスマルクが行っている一件に関してだ。しかし、この段階でもビスマルクが行っている事はネット上でも確認されておらず、ソース待ちと言う状態らしい。
「ネットスラングでも言及されている情報源ロンダリングね。しかし、そんな事をして有利になる勢力がいるかどうか――」
信濃は一連の情報操作とも言えるような一件も、他のジャンルを有利にするような作戦とは考えにくい部分があった。
実際、アカシックレコードでもこうした情報操作に関しては詳細に書かれている物も存在し、手の内はばれているに等しい。これは攻略本を片手にゲームをプレイすると同じ。
こうした状況を踏まえ、信濃は一連の作戦には乗り気ではなかった。予選落ちをした段階で別の音ゲーでイベントも始まった為、そちらをメインにしたいと言う理由もある。
「情報を掌握する方法は既にテンプレがあったとしても、それを細工すれば十分に使えるだろう。それはARガジェットのシステムがアカシックレコードから流用したのと同じ原理だ」
イナズマの話を聞き、信濃のうな丼を食べていた手が止まる。確かにアカシックレコードの技術は誰かが独占してよい物ではないのは、誰もがガイドラインを見聞きして知っている物だ。
そうなると、今回の作戦はどのようにして立てられたのか。南雲蒼龍は、何をする為にARゲームと言うジャンルで音楽ゲームを作ろうと考えたのか。
他にも疑問点は浮上するのだが、今は何を考えても後手に回るのは間違いない。そうした点を踏まえ、信濃は一連の動きを様子見する事に決めた。
「所で、単に昼飯をおごるという理由で呼んだ訳ではないのは――」
ショートケーキを食べる前、信濃はコーヒーを注文する。回転寿司でコーヒーは……と言う意見もあるかもしれないが、最近ではコンビニでも淹れたてコーヒーに出来たてドーナツを販売する店舗がある位だ。
食べ物とは無縁のお店出ない限りは、淹れたてコーヒーを販売する業種は増えるだろう。
「呼んだ理由は、君に確認をしたい物があったからだ」
タブレット端末で、手際良く該当ページを信濃に見せる。そのページとは、あるガジェットが掲載されたページだった。
そのページを見た信濃は、言葉を失うしかなかった。そのページとは、何とアガートラームの設計図。
アガートラーム、それはケルト神話における【銀の腕】を意味する物だった。様々な文献で形状は異なるが、意味合いは同じものを指す。
世界線におけるアガートラームの立ち位置、それは――。
「アガートラーム、これを量産できる技術は存在しない。それは、どのアカシックレコードでも同じはず」
信濃もアガートラームを見るのは初めてだった。大和杏が使用しているガジェットがアガートラームらしいという噂はあったが。
「これを量産されれば、その能力を軍事転用されたりするのは明白だ。それ程の破壊力がある」
イナズマの方もサイダーを注文しており、グラスには冷えたサイダーが注がれている。氷に関しては入れなくても冷えているようだ。
「アガートラームは、何時か起こるであろう災いに対抗する唯一の力――という見方がされているのが、解読犯の公式見解のはず」
「表向きという条件が付くが。この力を別の方向で必須と考えていたのが、何を隠そうアキバガーディアンだった」
「アキバガーディアンは、何のためにアガートラームの力を?」
「求めた理由は単純だ。チートや外部ツール、違法改造ガジェットの流通を防ぎたかった事だろう」
「アガートラームと言う圧倒的な力でチートを防ぐ、とでも?」
「そうではない。アガートラームの持っている力、それはチートの無効化だ。だからこそ、安易に解読が困難な仕様にした」
イナズマと信濃の会話は続く。そして、イナズマはこうも言及した。
「チートを含めた存在、それをコンテンツ業界で当てはめると偽グッズや違法コピー等だろう。そうした存在を駆逐する為、正規品の流通を増やす事で塗り替えようとする」
イナズマの言う事は若干難しい表現ばかりだが、それでもある程度は信濃にも分かっていた。
「テレビ番組の無料配信が公式で行われるようになった事も、それに類する事と?」
「それだけではないが、そう言う事だろうな」
信濃の疑問に答えるイナズマだが、それらの考えがすべて正しいとは限らないとも答えた。
7月14日、フラッシュモブを初めとした勢力を一掃した段階でスコアトライアルが開催、そこで山口飛龍がゴッドランカーモードを発動、圧倒的な力でリードする。
その後、他の3人もゴッドランカーシステムを使用するのだが、その入手経緯が語られる事はなかった。
敢えて語らず……と言うよりも、下手に超有名アイドルファン等に聞かれ、ゴッドランカーモードを違法改造ガジェットに組み込ませない、と言う事もあったのかもしれない。
「結果としては予想通りか。しかし、ここまで秘密裏に処理してもよかったのか……南雲自身は」
フラッシュモブや一般市民がネット炎上のネタにする事を懸念し、決勝の開催日を再変更、それが14日になっていた。
しかも、この告知が発表されたのは前日の午後8時ごろである。どう考えても、イベント運営が後手後手過ぎないか。
しかし、南雲はそうした批判やクレームのメールでさえも超有名アイドル投資家の仕業とも考え、返答は控えてきた。それは公式非公式問わず。
大会の結果は山口の優勝だが、AR演出で表示されるトロフィーと特殊称号を得られた以外は大きな賞品はなかったのである。
これに関しては、様々な憶測が出る展開になったのだが――その真相が明らかになるのは、情報解析の時間が予想以上に必要になった。
「山口の優勝だけで納得すると言うのが無理な話か」
スコアリザルトを含めた結果を分析していたのは、鉄血のビスマルク。彼女はイベント中に一部勢力の妨害などもあった事を踏まえ、イベントは無効になるとも考えた。
しかし、スコアトライアルは強行と言うよりも妨害を百も承知で続行したと言うべきだろうか。
何故、このような状況になったのかは分かる人には分かるのだが、憶測で物を言うとアフィリエイト系サイトに炎上のネタにされるだろう――と言う事で、誰も言及しないのが正解かもしれない。
「伏線だらけで真実が見えない――と断言するにも、情報が不足している」
結局は現状でイベントを妨害された原因を特定できない事情があり過ぎる事も、今回の結果に納得できない勢力が多い原因なのかもしれない。




