第43.5話:理論値の余談
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6月18日午前12時、理論値を達成したプレイヤーが続々現れているという情報が拡散する。
「どう考えても、この短時間で理論値が連発するはずがないだろうな」
長門未来は公式ホームページのハイスコアランキングを確認しながらつぶやく。
「3曲の理論値は100%で確定している。しかし、初日で100%が出たという話は知っている範囲では目撃例がない」
初日で理論値と言うのは非公式では数例があったらしいが、それらのスコアは全てチートを使用したとして無効となっている。
同刻、同じランキングを見ていた人物が別にいた。ゲーセンで別ゲームの待機列で座っているDJイナズマである。
「初日で理論値を出すというのは、数日後にそれを上回るスコアを叩きだされると言う……典型的なかませ犬のパターンだ」
待機列はARゲームのモニター近くまで続いていた為、そこで別のプレイ中継を眺めながらつぶやく。
「それに、チートや外部ツールでスコアを出したとしても楽しい物か……疑問に残る。それが炎上サイトに依頼された等のケースだったら――」
同日午前12時30分、ある動画をセンターモニターで鑑賞していたのは山口飛龍である。
「どう考えても、彼の理論値はおかしい。使用しているガジェットがシールドビットであれば尚更――」
彼が見ていたのは、自分が使用しているガジェットと同じシールドビット。
ここ最近はアップデートで修正がされており、そうした関係上でプレイヤーが増えたガジェットでもある。
「この挙動は……?」
山口は課題曲でのラストパートにおける挙動で、不審な個所があると突き止める。
その後、このプレイヤーのスコアは不正ツールでのスコアと発覚し、失格処分となった。
しかし、こうした動きに対してチートに対する過剰反応と猛反発する勢力は存在するのだが……。
同日午前12時45分、昼食を食べ終わった大和杏はテレビのニュースで気になる物を発見する。
『次のニュースです。今年の7月を目途にARゲームのイースポーツ化に関して検討すると――』
そのニュースはARゲームのイースポーツ化を委員会が検討すると言う物だったが、何かが引っ掛かっていた。
「委員会のメンバーには超有名アイドルに関係する人物はいない。しかし、ネット上でも議論中の課題に対し、動きが早すぎるように思える」
それに加えて、ネット上でも何者かの策略やネット炎上勢が罠を仕掛けた等の話が拡散されており、この混乱は後に争いの種になると大和は考えていた。
「これをきっかけに、流血を伴う争いが起これば、ARゲームは間違いなく――」
大和が考えていた現実、それはARガジェットに偽装された大量破壊兵器が持ち込まれ、それを利用した超有名アイドル投資家が全てを破壊しつくすというシナリオ。
こうした事が起これば、ARゲームへの風当たりが悪くなり、それこそコンテンツ流通は超有名アイドル関係オンリーになってしまうだろう。
「何としても、流血のシナリオに直結するような争いは止めないと」
しかし、アガートラームがこの件に関して反応する事はない。一体、アガートラームは何を伝えようとしているのか。