第35.5話:動き始めるランカーたち
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今から3年前にさかのぼる、草加市では町おこしという理由づけで風俗店等が締め出しをされると言う展開になっていた。
他の埼玉県外へ移転した業種もあるが、基本的には廃業が多かったようである。アカシックレコードには、その辺りの記述が曖昧と言うのもあって真意不明だが。
しかし、記述が曖昧だったのには別の理由がある。例えば、一部の政治家が利用していた店を特定されるのを防ぐ為、元アイドルがAV女優として店番をしている……。
一部勢力に知られる事で炎上のネタになると思われる記述は、意図的に曖昧な記述にしたり、真実を特定できないように内容を簡略化する等の処置がされていた。
そう言った物に限って、アカシックレコードと騙るだけの偽サイトと言うオチもある。アカシックレコードを利用して暴露本を作って利益を得る等の利用が出来ないようになっているのも、こうした事情があるのかもしれない。
「3年前と言えば、西暦2015年辺りか。雑居ビルが一気に取り壊しされ、更地をARゲームのアンテナショップにする等の地方ニュースが報道されたのも、この時期か」
加賀ミヅキはこの記述を例の施設で発見した。そして、その真相を関係者に聞きだそうと考えたのだが、不発に終わる。
「申し訳ありませんが、今回の件に関わった人物は東京の方へ転勤となりまして――」
「その事業部の方でしたら、神奈川の方へ……」
「店舗スタッフなら、別の市に配属が変わったという――」
関係する不動産関係やスタッフに尋ねても、このような返答ばかりで肝心の人物に合う事は出来なかったという。
時間は若干戻して6月5日、思わぬ伏兵の出現がネット上で騒がれ始める。ただし、本格的に名前が浮上するのは後の話と付け加えておく。
「ちょっと待て。あれだけのスコア……チートじゃないのか?」
「チートであればスコアの無効が表示される。チートと言うより、リアルチートだぞ」
「またもや店舗記録の更新をしたのか」
周囲のギャラリーが驚くのは、あるプレイヤーに対してのスコアだった。しかも、大淀はるかの店舗内スコアを破ると言うのは相当の実力と言える。
【まさか、このタイミングで山口飛龍か?】
【数日の修行で変わるようなスコアじゃないぞ】
【これがランカーの恐ろしさか?】
コンビニでドーナツを片手にネット上のつぶやきを見ていたDJイナズマも、この展開はさすがに読めなかった。
山口飛龍、彼のスコアは途中から頭打ちと言う状況になっており、ハイスコアプレイヤー候補にさえ上がっていない。
その状況で、これだけの異常なスコアを叩きだせるとは……彼に何が起こったのか?
「使用ガジェットがシールドビットなのは変更点がない。あの武装は初心者救済的な部分も大きいが、あれでスコアを狙えるという事を証明する気なのか?」
少し前に攻略ウィキにもシールドビットがハイスコア狙いのガジェットではない事は証明されており、それでハイスコアが出せると言うのは……。
しかし、チートを使用したり違法ツールやアプリを使った訳ではない。使用すればどのガジェットでもハイスコアは上がるだろうが、それではシールドビットの能力証明にはならない。
では、どのようなトリックを駆使したと言うのか。イナズマは、同じ攻略ウィキで興味深い数値を発見した。
「なるほど。能力調整のアップデートか」
発見した記事、それは少し前に行われたシステムアップデートの仕様リストである。一部の武装ばかりが集中し始め、本格的な調整を始める下準備として行われた物だ。
このアップデートでは銃タイプのガジェットが下方修正を受け、特に経験値稼ぎのパターンが発見されていたハンドガンやバズーカ系の調整が行われている。
他にもバランスブレイカーとなるようなパターンが発見されたガジェットが、揃いもそろって下方修正されているのが目立っていた。
その一方で、シールドビットやナックル、ブーメラン等のプレイヤーが少ない武装が微調整で強化されている。
「道理でブーメランのプレイヤーが増え始めていると思ったら、そう言う事か」
しかし、一部武装のプレイヤーが増え始めると、そこから調整が入る可能性があるのがミュージックオブスパーダでもあった。