第27話:ニューランカーの出現(後篇)
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5月29日午後4時30分頃、自宅で大和杏はテレビを付けながら夕食を作っている。
「ニュースでは国際情勢のニュースばかりがメインで取り上げられている。国内のニュースでも交通事故等の様な物ばかり……」
大和はラーメンの麺をゆでながら、テレビの方を見ているのだが……ラーメンの方をスルーしている訳ではない。
テレビと言っても、キッチンの後ろに置いてあるタブレット端末でラジオ代わりにチェックしていた。その為、ラーメンの方に集中出来るという訳である。
ラーメンの具はねぎのみじん切り、なると、わかめと言った物に、何故かポテトコロッケが準備されている。それに加えて、ひとかけらのバターも……。
しばらくして麺の茹で終わりを確認し、スープの方も準備する。余談だが、スープは本格的なものではなく袋麺についていた醤油味のスープである。
「見た目は本格的。でも、あのアカシックレコードに書かれていたラーメン店と同じ味は不可能だけど――」
大和はアカシックレコードで料理のレシピも調べており、そこにあったコロッケラーメンを再現しようと考えていた。
他にも春雨サラダのサンド、たこ焼きのたこをチョコに変えたようなチョコ焼き、その他にも誰も発想しないような料理レシピがアカシックレコード内に存在する。
おそらく、これらのレシピは別の世界で存在していた料理を書きこんだ物と思われるが、実際に挑戦した人間からの報告は存在しないと言う。
まずいという事で報告しないのではなく、他の料理店にレシピを独占されるのではないか……というジレンマが働いている可能性は否定できない。
同日午後5時、テレビのニュース番組では超有名アイドルを抱える芸能事務所の最大手に警察の強制捜査が入る事が報道され、テレビ局はそれ一色となった。
唯一の例外はアニメで有名なテレビ局で、そこは数分程流しただけで次のニュースへシフトする。興味がないという訳ではなく、視聴率争いをしている訳でもない。
これに関しては色々とネット上で言われているのだが一種の伝説として伝わっており、このテレビ局が緊急特番を組むのは地球滅亡時に限定などと神格化されていた。
実際は予算的な部分等の諸事情と言われているが、ネット上ではその辺りをスルーしている様子がうかがえる。
【あのテレビ局は速攻で切り上げたな】
【他のテレビ局は同じニュースと言うと、明日の朝の報道バラエティーの方にも集中的に流す可能性がある】
【他のテレビ局は長期戦に突入する可能性もあるな。政治家の辞任などが飛び出さない限り、このニュースを続ける気だ】
【せっかく取材を受けたと言うのに、特集が潰されるのか――】
【別のテレビ局では、事故のニュースも簡略化されている。それだけ、あの芸能事務所支配が長かったという証拠か】
ひとつの時代の終わりは、唐突にやってくる。この大手芸能事務所が積み上げてきた物は、おそらくはゴッドオブアイドルとは比べ物にならないだろう。
その中で、わずかな不祥事や家宅捜索であっという間に潰され、この芸能事務所が立て直すのには相当の時間がかかると思われる。
実は、この芸能事務所が抱えるアイドルグループと言うのは夢小説勢力が一番メイン題材にしていたであろう、あのグループだ。
最近では県内某所で大きなライブを行ったが、地元からは思わぬ所でトラブルが起こる等の悲劇を生みだした存在でもある。
アカシックレコードでも、このアイドルグループに関してはさまざまな世界で形を変え、反面教師として記述が残されているのが現状だ。
5月30日、トップランカーになった長門未来だったのだが、その顔には達成感と言う物はなかった。
トップランカーも一つの通過点にしか考えておらず、彼女が目指す目標は別にあったのである。
「ミュージックオブスパーダ、どちらにしても人を選ぶ音楽ゲームではあったが……」
長門はプレイを止めることはせず、トップランカー到達後はエンジョイプレイとしてアップデートで更新された新曲などを楽しむ事にした。
下手に力を入れ過ぎて大怪我をする可能性もあっての判断だが、ある意味でも長門の判断は正解となったである。
【ランカー狩りと言うか、夢小説勢の残党が動いているらしい】
【まだ超有名アイドルネタを引っ張ると言うのか?】
【彼らは3次元アイドルが国会を掌握し、全銀河系を握る位の妄想をしているのだろう。フーリガンと言う単語を使うのも、ファンに失礼だ】
【やはり、夢小説勢の一部にいる『悪目立ち』をする連中が、コンテンツ業界を苦しめる吐き気を催す邪悪だったという事か】
【悪目立ちする勢力は、他のまとめサイト等でも問題視され、こうした勢力さえも活性化させようと言う動きが一部の政党であるらしい】
【そんな事をすれば、本当に超有名アイドルが全世界線さえも――】
ランカー狩りについて言及しているつぶやきの流れで、あるつぶやきだけが途切れると言う事態が起きた。電波障害と言う訳ではなく、メッセージは送ったはずなのに――。
【ある単語に関してはつぶやきサイトでも表示できないという事が言われているらしいが、こういう事か】
【つまり、その単語をつぶやこうとすると別の単語に差し替わるとか。例えば、『かきくけこ』とか……】
【そこまでのシステムがつぶやきサイトのプログラムに組まれているとは思えない。そうした技術があれば、もっと別の案件を規制するだろう】
こうしたつぶやきを見て疑問に思ったのは、DJイナズマだった。彼は、規制された単語が何かを知っているからだ。
「アカシックレコード……遂に、向こう側が動き出す時が来たという事か」
そして、彼はまとめサイト類を眺めつつ、何かを考えていた。
「まとめサイトも申請制度になり、コンテンツ業界も超有名アイドルに掌握されれば……それだけ危険性が増す。反超有名アイドルの過激派が大量破壊兵器を持ちだす程に」
「それこそ、ある程度のガイドラインを作る事も必要だが……臨機応変が可能なものにしなければ、コンテンツ業界は今度こそ滅びを迎えるだろう」
「創作された作品から影響を受け、そこから二次創作を生み出す事が不可能になる――メーカーから認められた一次創作しか存在できない世界」
様々な事をつぶやきつつ、彼はインターネットのサイトを検索しつつ、そこからとあるキーワードを発見する事に成功した。
「超有名アイドルと【悪目立ちするファン】をイコールさせ、都合よく超有名アイドルを排除しようと言う勢力……そう言う事か」
しかし、イナズマが発見した勢力は既に警察によってメンバーが逮捕されている。その正体とは、過激派とも言えるようなアイドルファンだった。
「アイドル投資家よりも性質が悪いと言うべきか……彼らの場合は、無差別テロも起こしかねないような軍事力も隠し持っていた」
彼の言う軍事力、それはアカシックレコードから抽出したデータで作成した物だろう。しかし、アカシックレコードは流血のシナリオを起こすような存在を許さない。
「結局、アカシックレコード側が手を下す前に警察へ情報を横流ししたと言うのか……南雲蒼龍」
彼らを警察へ密告した勢力、それをイナズマは南雲蒼龍を初めとした【音楽ゲームのイースポーツ化】を目指す勢力だと考えた。