エピローグ7:新たなるステージへ
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8月12日午前10時45分、鉄血のビスマルクはエクスシアと戦闘状態になっていた。
そのエクスシアの正体は加賀ミヅキ――とビスマルクは考えている。彼女が影で全てを操っていたとは考えにくいのだが……。
『超有名アイドルのような炎上商法を誘発するような物は、反超有名アイドルを生み出す可能性がある』
「だからと言って、反対派を全て賛成派に回ればコンテンツ流通が正常化する訳ではないだろう!」
『人間が生み出した物である以上、賛成派と反対派が出てくるのは避けられない。しかし、それでも少数派を抑え込めれば――コンテンツ流通は正常化する!』
「そう言う考え方の人間がいるからこそ、コンテンツ流通で異常な行動がピックアップされ、それが炎上商法に利用される。それこそ無意味な繰り返しとは思わないのか!」
『超有名アイドルがコンテンツ支配をする事が無意味だと言うのか? 視聴率の数字に惑わされないコンテンツ自体が既に――』
エクスシアが発言している途中で何者かがスナイパーライフルを放ったらしく、それが加賀と思われた人物の顔にノイズを発生させた。
「ARシステム特有の画像ノイズ? 一体、どういう事だ」
画像ノイズを確認したビスマルクは、目の前にいる加賀と思われた人物が偽者と言う事に対し、激しい怒りを覚えた。ビスマルクは滅多な事では感情を表に出すことはないのだが……。
同日午前10時47分、AR画像ノイズが修正され、加賀と思われた顔が別のARアーマーへと変化した。
先ほどの変化とは異なり、元々のフレームに別のCGを重ねたような仕様でアーマーデザインが変わって行くのである。
この状況に関してビスマルクは困惑する。一体、自分は何と戦っていたのか?
「こちらの計画さえも台無しになるとは――図ったな、バウンティハンター……」
その正体は、アキバガーディアンの超有名アイドル推進派とも言える人物だった。彼に関してはガーディアンの管理人である隼鷹も注視していた程。
しかし、彼の顔はARバイザーを被っている為に全く見えない。それが別人だと錯覚させた可能性がある。
それ以上に彼が使用していたARガジェット、そこにヒミツがあるのかもしれないのだが……。
同日午前10時49分、彼が振り向いた方角にいた人物――それはビスマルクも驚愕する人物だった。
「加賀ミヅキ――本物なのか?」
「自分のなりすましがいるという話を南雲から聞き、探っていた結果が――超有名アイドル推進派だったとは」
そこにいたのは、新型レールガンを構えていた加賀ミヅキの本物。
装備しているARギアはバウンティハンター当時とは違うのだが、他のアカシックレコードを流用したようなデザインでもない。
「超有名アイドルコンテンツ、それが日本に唯一残された経済再生の鍵だと言うのに、それを捨てろと言うのか?」
「炎上商法と言われようが、それがきっかけで売れた以上は、それに依存して経済を立て直す方が最優先すべきこと」
「ARゲームも、過去に黒歴史があったからこそ、今の繁栄があるのではないのか?」
「その黒歴史を肯定している以上、お前達に超有名アイドル商法を否定する権利はない!」
彼は加賀に向かって、超有名アイドルの重要性を語る。しかし、その煽りとも言えるような発言にも加賀は耳を貸す気配はない。
そして、加賀は再びレールガンの引き金を引き、今度は彼のARガジェットに繋がっているエネルギーパイプに命中、太陽光を含めたエネルギー供給を止めた。
「ARガジェットの太陽光システムを知っているか――だが!」
彼はエネルギーパイプが破壊された程度では怯まない。それどころか、他のARガジェットを展開し、総攻撃を開始したのである。
同日午前10時50分、このエリアに未確認勢力が来ると言うメッセージが表示される。
「こちらの増援だ。これで、お前達のようなコンテンツ流通の改革派を潰せば――」
彼の方は自分達の増援が来たと考え、慢心をしていた。
「万事休すか――」
加賀の方は未確認勢力が自分達とは違う勢力だと確認し、降伏もやむ得ないと考えている。
「本来であれば版権作品のファンアートや二次創作、それをランキングに載りたいという理由だけで自分で書いたという理由だけでオリジナルとしてイラスト投稿サイト等へ投稿する――そんな悪目立ち勢力のテンプレ連中に、遅れをとると言うのか!」
ビスマルクは、無予告の増援として姿を見せた便乗勢力等に対し、徹底抗戦を続ける。しかし、このような事を続けても泥仕合になるだけだ。
同日10時52分、未確認勢力と認識された増援が姿を見せた。そして、ここでシステムの強制変更が何故か行われた。
《今回のマッチングにおいて、不正挙動を確認しました。ARゲームのジャンルを変更し、再起動をします》
このメッセージを見て驚いたのは、アキバガーディアンの人物だ。無言ではあるものの、この再起動は想定外と考えている。
「このタイミングで再起動? 一体、誰が――」
加賀はシステムの再起動理由に関してある程度の予測は出来ているのだが、確信するには早計だった。
「再起動がかかると言う事は……仕切り直しと言う事か」
ビスマルクの方は逆に仕切り直しを行う事に関して、さほど不利とは考えていない。ぶっちゃければ、これは逆転のチャンスとも言える。
同日10時55分、システムの再起動が終了し、ARゲームのジャンルも先ほどまではバトル型リズムゲームだったのが、サバイバルバトルに変化した。
「またしてもジャンル変更だと? こちらのARガジェットは未完成だと言うのに――」
何かを言おうとした矢先、音速とも言えるような巨大ナックルの一撃がボディに直撃する。その一撃によって、ARガジェットは機能を停止した。
「超有名アイドル商法や炎上商法を正義と断言するような投資家は、ソーシャルゲームでチートを罪悪感なしで使うプレイヤーと同じ物を感じるが――」
この声を聞いたアキバガーディアンは、驚きの声を上げようとするのだが……バイザーのシステム故障で音声変換システムが動かない。
それに加え、バイザーのフェイスオープンも強制的に行われ、その顔が目の前にいる人物に晒される事になった。
「大和杏――チートを絶対悪として憎む理由は、何だ?」
「チートなんて使われたら、イースポーツ化なんて夢の話になってしまう。だからこそ、不正ツールやそうした手段を封印や規制をする事で、よりフェアな環境でゲームが出来るようにする」
「イースポーツも――マッチポンプの舞台にされると知っているのか? そこに大量の資金が流通する事、その意味を理解しているのか?」
「理解しているからこそ、私はイースポーツ化を推進しようとした。そして、ギャンブル依存の様な問題をクリアした形で、イースポーツ化を進めようと考えた」
大和杏の目には、涙が流れている。大和のARガジェットはアガートラームのみ――素顔もはっきり分かる状態だ。
「お前は――ゲームで金儲けを考えているのか? 実況者や動画タレント、歌い手等の――」
アキバガーディアンは、何かを言おうとも考えていたのだが、そこで気絶する。結局、大和は彼の顔を確認する事はなかった。
「ゲームでお金儲け――ね。そう言う風に認識している限り、私の真意は分かるはずもない」
大和はゲームがお金儲けの為に利用される部分に関して、否定も肯定をしなかった。
しかし、そうした損得勘定と言う物で見ている限り――彼女の真の目的にはたどり着けない。
大和は今回の一件で、ARゲームをイースポーツ化するにはハードルが存在する事を知った。それを踏まえ、この話は白紙に戻す必要性があると考える。
8月14日、ARゲームのイースポーツ化に関しては環境の整備が必要と言う結論に達し、差し戻しと言う事になった。
事実上の白紙撤回に近いのかもしれないが、ARゲーム用の専門ライセンスと紐付けする形で賞金制度を導入する事に関しては、否定をしなかったという。
ARゲーム全てが賞金制度を導入すれば、青少年育成に影響が出る……と考えた上での動きかもしれない。
8月16日、遊戯都市奏歌では新たなARゲームのロケテストが行われていた。
このARゲームは一部で言われていたARパルクールにも酷似しているが……。
「遊戯都市出身以外のARゲームが、ここで稼働する事になるとは」
谷塚駅近辺でロケテストの様子を見ていたのは、南雲蒼龍だった。気分転換と言う意味でロケテストに参加している。
その他にも、見覚えのある顔がARパルクールのロケテストには参加しており、その中には山口飛龍の姿もあった。
「これが、ARゲームなのか?」
ARパルクールは特定のコースを持たず、市街地や商店街等でもコースに出来ると言う話だ。
しかし、そのような危険を伴う様なARゲームを遊戯都市奏歌が導入するとは思えない。
それらを踏まえ、山口はロボットにも近いARガジェットを見て驚いていた。全長は2メートル位と言う事もあり、ロボと言うよりはバウンティハンターの様なパワードスーツに近いが。
「ARゲームは、日々進化し続ける。それも、こちらの想像を上回る程に」
山口の隣に姿を見せたのは、大和だった。手にはドーナツを持っており、買い食いに近い……と思ったが、袋からは出していない。
出せない理由は、ARガジェットが精密機械と言う事でゴミなどを散らかされると困ると言う部分もあるのだろう。それは、ミュージックオブスパーダなども一緒だ。
「ARゲームには多くの可能性があると言う事ですか?」
山口は大和に質問をする。それに対し、質問に答えたのは大和ではなく……。
「ARゲームは進化を続けている。それこそ、他のジャンルに無意味な繰り返しをさせないように促す役割を持っている程に」
ロケテストに姿を見せたのは、改造軍服姿のビスマルクだった。そして、山口の質問にも答える。
「無意味な繰り返し、ですか」
「ソーシャルゲームでのコンプガチャ問題、エンブレムのトレス問題、超有名アイドル商法――そうした問題は、ARゲームにも存在した。それが、無意味な繰り返しだった」
「コンプガチャの問題は知っていますが、それ程に大きな問題だったのですか?」
「特定ファン層のみに特化させたゲームだけを提供した結果、新規ファンが獲得できなくなる事があった。フジョシ勢力や夢小説をイメージすれば分かるか」
「もしかして、繰り返しって――」
「それ以上は言及しなくても、プレイヤーたちには嫌という程に分かっている。特定勢力の悪目立ち等が原因で公式が暴走し、そのファン層だけの作品にしてしまう。それがARゲームにおける黒歴史――」
ビスマルクの言うARゲームにおける黒歴史、それは俗に言う実在プレイヤーを題材にした夢小説が展開される事件を意味していたのだが――その真相に山口が言及する事はなかったと言う。
そして、遊戯都市奏歌は新たな一歩を踏み出し、ARゲーム技術の更なる発展を願う為の都市として、テレビや雑誌で注目される事になる。
こうした動きが目立つようになったのは、西暦2018年9月の事である。
ARゲームには残された課題もあり、こうした課題を解決させていくには各方面の意見を取り入れる事が重要と考えた。
後にスパーダ事変と呼ばれる事になった事件は、世界線上のアカシックレコードにも刻まれる事になり、そこからさまざまな問題も浮上するだろう。
その真相が別の世界に伝わる事はなかったか――そう言われると、否定も肯定も出来ない。
この問題が抱える根幹にあるもの、それはコンテンツ業界全体で考えていくべき課題でもあるのだから。




