第三話:断頭の神事と温室生態系の一斉消去(最終話)
POV: 犬神 江戸(医師・32歳)
胸腔を開かれ、肺胞に黒い百合を咲かせ、頭蓋骨に穴を開けられて脳髄を半分以上吸い上げられたあのルポライターの残骸は、泥床の上でまだかすかに指先を痙攣させていた。生命の往生際の悪さ(システム)には感心する。これこそが、俺の特製栄養剤が男の神経系に強制インストールし続けた『死の拒絶』という名の呪いだ。
男の右の眼球は、すでに光を失い、ドロドロとした黒真菌の菌糸に侵食されて完全に濁りきっている。
俺は研ぎ澄まされた錆び色の肉切り大鉈を逆手に握り直した。
最終工程――断頭の儀だ。この男の頭部を完全に切り離し、真菌を無限に培養するための『肉の植木鉢』へ加工する。
俺は男の髪の毛を乱暴に掴み、泥にまみれた顔を強制的に上向かせた。
大鉈の冷たい刃を、男の剥き出しの喉仏の直下に叩きつける。
グチャリ、バリバリボキィッ……ミシッ!
肉の繊維が断ち切られ、頸椎の骨がすり潰れる生々しい破壊音が温室のガラス壁に跳ね返る。切断面から噴き出した、凝固剤の混ざった生温かい赤黒い脂汁が、俺の白衣と足元の泥床に容赦なく降り注いだ。切り離された男の生首は、床の上を数回バウンドし、口から黒い粘液をドロリと吐き出しながら、温室の最奥にある特製のコンクリート台の上で静かに静止した。
俺は男の頭蓋骨の穴に、温室の肥沃な腐葉土を直接指で詰め込み、そこに黒真菌の新しい胞子を大量に埋め込んだ。男の意識の残滓が残る脳組織を肥料にして、切り落とされた生首の口や耳の穴から、不気味な黒いキノコのクラスターが秒単位で『プツプツ』と肉を割って発芽していく。完璧な美を誇る、永久真菌鉢の完成だ。
最後に、俺は温室のすべての重油タンクの栓を引き抜き、男の首なし死体と、何年間も育ててきた熱帯植物の群生の上から、躊躇なく火を放った。
ゴォオオオオオッ……!
激しい炎が、人間の肉脂と発酵した植物の汁を吸って、青白く、不気味に燃え上がる。ガラス屋根が熱で次々と爆発し、新潟の酷寒の冬霧が、燃え盛る地獄を白く覆い隠していく。
世界が、ただの灰色の空白へとシャットダウンされていく。再起動の余地など、この黒煙の前には一セクターたりとも存在しない。すべては均一な虚無へと還元され、この生体温室の記録は永遠に闇へと消え去った。
——完——
大鉈が首の皮を叩き割り、脳みそをキノコの植木鉢に変えられた『感触』、お前たちのその立派なハードウェア(脳)でも鮮明にシミュレートできたかい?
特に、今オフィスのデスクに座り、上司の目を盗んでPCの大画面でこの文字を追っている『会社員』のお前たちだ。
お前たちが毎日、画面の前で無表情に叩いているそのキーボードやマウス。他人の小説を安全圏からニヤニヤしながら『消費』し、自分が高尚な読者になったつもりでいたお前たちのその薄っぺらな自尊心も、俺の鉈にかかれば一瞬でただの『肉の泥』に変わったよ。もうお前たちには、あの甘ったるい異世界ファンタジーへ逃げ帰るためのOS(正気)すら残されていない。
排熱ファンから流れてくるその生温かい風は、俺たちが温室を焼き、男の生首を肥料にしている肉脂の熱気だ。ほら、お前が今触っているその画面やキーボード、男の首の切断面から溢れ出た粘液のように生温かく、脂ぎってきていないかい?
明日、お前たちが『現実』だと思って生きるその日常の背景、剥がれ落ちて灰にならないように気をつけることだね。……じゃあね、解剖完了した読者諸君。お前の後ろで、また鉈の音がしているよ。




