プロローグ:生体温室の肉脂泥と黒真菌の発芽
【作品の閲覧に関する重要、かつ無慈悲な警告】
本作は、未だに「異世界転生」や「無双」といった低俗で安上がりな現実逃避を求めている甘ったれた読者のための物語ではありません。
1991年の新潟の生体温室を舞台に描かれるのは、救いようのない猟奇解体と、人間の肉脂を苗床にして増殖する黒真菌の寄生、そして生態系の一斉消去です。
もしあなたが、都合の良いハッピーエンドや、思考停止したまま読める娯楽を求めているのなら、今すぐブラウザを閉じ、安全なファンタジーの世界へ逃げ帰ることを強くお勧めします。
本作を読み進めることで発生する、脳の拒絶反応、激しい頭痛、およびアイデンティティの崩壊について、当方は一切の責任を負いかねます。
【プロローグ前書き:解剖台へ進む家畜諸君へ】
わざわざオフィスで上司の目を盗んでPCの大画面を見つめている会社員も、都会の雑踏やベッドの中でSPの液晶を指先で汚しているガキどもも。
朝から、あるいは貴重な時間をドブに捨てて、なぜこんな救いのない文字を追っているんだい?
お前たちが安全圏からニヤニヤしながら消費しているその情報(嘘)は、お前たちの現実の脳髄を少しずつ融解させている。自分は『読者』という安全な席に座っていると思い込んでいるお前たちのその薄っぺらな知性を、今から江戸の手で徹底的に解剖し、温室の肥料にしてやろう。
さあ、肉切り大鉈の鳴り響く漆黒の温室へ進むがいい。
お前たちの現実(OS)が、完全にシャットダウンするその瞬間まで。
POV: 犬神 江戸(医師・32歳)
「人間の肉体など、神聖なる植物を狂わせるための、ただの生温かいクソ肥やしに過ぎない」
1991年、11月。新潟の冷たい冬霧が、この巨大なガラス温室を外の世界から完全に遮断している。温室の泥床の上には、全裸の男――東京からやってきた生意気なルポライターが、四肢を極太の生木に打ち付けられて固定されていた。男の皮膚の下では、俺がリンパ管に直接流し込んだ黒真菌の粘ついた胞子が、すでに爆発的に増殖を始めている。
本物の寄生は、お前たちが想像する以上に泥臭く、そして吐き気がするほど非情だ。
俺は研ぎ澄まされた解剖包丁を握り、男の肥大化した腹部へと深く突き立て、そのままみぞおちまで一気に引き裂いた。
グチャリ、じわぁっ……っ!
割れた肉の隙間から、血の代わりに、黒い菌糸の網に絡みついた薄黄色い皮下脂肪と、植物のドロドロとした粘液が混ざり合った赤黒い脂汁が温室の泥の上へと溢れ出す。男は猿ぐつわを噛み締め、白目を剥いて全身の筋肉を激しく痙攣させた。だが、意識を極限まで保たせる特製の薬品が、男の脳髄に『死の拒絶』を命令し続けている。
「……う、ぐ、喉が……肉が、蠢いて……っ」
男の喉からは、もはやまともな悲鳴すら出ない。黒い菌糸が食道から声帯までをびっしりと覆い尽くし、肺から漏れるのは、ただ湿った肉が擦れ合う「ヒュウ、ヒュウ」という異様な空気の音だけだ。
俺の目的は、こいつの意識を完全に保ったまま、その肉体がゆっくりと『異形の植物』へと変貌していく絶望を観察することだ。男の脳はリアルタイムで、己の眼窩から、そして指先の爪の隙間から、黒い真菌の芽が肉を割って伸びていく感覚を正確に知覚し続けている。これこそが、現実に即した生体解剖であり、最高峰の芸術だ。
俺は霧吹きを手に取り、男の顔面に生えた黒い真菌のクラスター(群生)に、静かに水を吹きかけた。水分を吸った肉の芽が、ピクピクと生き物のように波打つ。
外では冷たい雨がガラス屋根を叩いている。俺は、言葉を失った素材の肉体が放つ極上の腐臭を呼吸しながら、次の実験記録を静かにノートに書き留めることにした。
生きたまま意識を残され、己の肉体を植物の苗床に変えられていく『感覚』、お前たちのその立派なハードウェア(脳)でも正確にシミュレートできたかい?
特に、今オフィスのデスクに座り、上司の目を盗んでPCの大画面でこの文字を追っている『会社員』のお前たちだ。
お前たちが毎日、画面の前でカタカタと無表情に叩いているそのキーボード。もし明日、お前たちのその指先の爪の間から黒い真菌の芽が肉を割って生えてきたら、一体どんな気分だろうな? お前たちのその薄っぺらな承認欲求も、犬神家の温室の『腐葉土』に混ぜてやったら、きっとよく肥える。
排熱ファンから流れてくるその生温かい風は、俺たちが男の眼窩に胞子を植え付け、肉の中で根が蠢いている熱気だ。ほら、お前が今触っているその画面やキーボード、男の顔面に生えた真菌のように生温かく、粘ついてきていないかい?
さあ、現実逃避のぬるま湯の異世界小説へ逃げ帰りなよ。まあ、お前たちのその薄っぺらな知性は、もう犬神家の温室の『肥料』として処理されているけどね。クソ食らえ、液晶の裏側で震えている読者諸君。




