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37.エピローグ

 小春の問題が解決した次の日曜日。俺と小春、それに栞と恭平の四人はファミレスに集まっていた。題目は、長澤さんたちの件に片が付いたことへの打ち上げだ。


「みんな、飲み物は持ったかい?」


 恭平が呼びかけると、俺たちは各々自分のコップを持ち上げる。恭平は俺たち三人を見回し、自分のコップを四人の中心に突き出した。


「それじゃあ……心矢さんの奮闘と成長を祝して、乾杯」


「「乾杯」」


「かんぱーい!」


 俺と栞が小さく声を出す中、小春はハイテンションな声を出す。そして、四つのガラスコップをカチンとぶつけ合った。


 それから小春はすぐにストローに口を付け、ジンジャーエールを啜る。続けざまにピリ辛唐揚げを幸せそうに頬張る小春を見ていると、俺も自然と表情が緩んだ。


 小春が元気になってよかったなぁ……。あの時小春と長澤さんの間に割って入って、本当によかった。


「ん? どうしたの陸?」


 不意にこちらを見てきた小春と目が合う。


「ううん。なんでもないよ」


「ふぅん……」


 俺がそう誤魔化すと、小春は一瞬無表情な目で俺を見つめた。それからすぐに、小春はいたずらっ子のようにニヤニヤと微笑んだ。


「もしかして陸は、このピリ辛唐揚げが食べたいのかなぁー?」


 小春は食べかけの唐揚げを箸で摘み、「ほれほれー」と俺を煽るように左右に揺らす。


「そんなわけないでしょ」


 俺が否定すると、小春は芝居がかった大袈裟な仕草で二度頷いた。


「うんうん。一見すると確かに、陸が苦手な辛いものを食べようとするはずがないって思いますよねぇ?」


「一見するともなにも、そう思ってるんだけど」


 俺は小春に白い目を向けつつも、内心は嬉しかった──小春がいつも通りに冗談を言ってくれたから。


 やっぱりニヤニヤしながら冗談を言ってる小春は見てて癒されるなぁ……。それに、自爆するところもかわいいんだよねー。


 俺が考えていることなんて見ず知らず、小春はチッチッチと得意げに人差し指を伸ばす。


「しかし今回だけは、陸がこのピリ辛唐揚げを食べたいって思う要因があるんですよ」


 探偵気取り? な小春はそこで一呼吸置き、ニヤリと口角を上げる。


「ズバリ陸! あなたは学校一の美少女であるわたしと間接キスがしたい。違いますかっ?」


「うん。違うよ」


 俺は即答した。


「ちょっ……即答しないでよぉー! わたしの間接キスに全く価値がないみたいじゃん!」


 頬を膨らませた小春がジトっとした上目遣いで見つめてくる。


 そう言われてもね……だって妹だよ? 家族との間接キスなんて気にする人いないでしょ。


「まあまあ。小春はかわいいからねー。クラスの男子たちは喜ぶんじゃないかな?」


 そう言って俺は、小春の口元についている赤い粉末を拭ってあげた。すると小春はほんのりと頬を赤らめ、いっそう強いジト目を向けてくる。


「むぅ……陸はなんにもわかってないよぉ」


 でも俺も、小春がクラスの男子と間接キスするのは嫌だな。そうは言っても、俺が小春の恋愛にどうこう言う権利はないけどね。


 そんな俺と小春のやり取りを見ていた栞と恭平はと言うと──。


「ねぇ栞。陸と心矢さんの距離感についてどう思う?」


「完っ……全に付き合い立てのカップルよね」


「だよなー」


 栞は「早くくっつけよ」とでも言いたげにため息を吐く。恭平は爽やかスマイルを崩し、ハハッ! と笑った。


「これは心矢さん、大変だな」


 そうして栞はカルボナーラ、恭平はナポリタンを同時に啜った。


***


「栞、目里くん、またねー!」


「ん。じゃ」


「心矢さんも陸もまたな」


「うん。じゃあね」


 俺と小春はファミレスの前で栞と恭平の二人と別れ、帰路につく。お互い特に話すこともなく、俺と小春はしばらくの間、心地いい沈黙に浸っていた。


「ね、ねぇ陸」


 帰り道を歩いていると、不意に小春が口を開く。


「ん? どうしたの?」


「あー、えっとその……」


 言葉に詰まる小春は頬を赤くし、目を泳がせる。そして小春の視線は俺の手に向いた。心なしか俺と小春の手が近付く。けれど、小春はすぐに俺の手から目を逸らし、紅い葉がまばらについた街路樹を見上げた。


「も、もう秋も終わりだねー。あはは……」


「……? うん。そうだね」


 なんだったんだろう?


 明らかに何かを誤魔化した小春に首を傾げていると、小春はブンブン首を横に振った。そして短い髪をふわりと揺らし、太陽のように眩しく笑う。


「陸っ! これからもよろしくねっ!」


 急にどうしたんだろう。なんて野暮な考えは微塵も思い浮かばなかった。


 気付くと俺は、自然に小春に微笑み返していた。


「もちろん。小春もよろしくね」


 そう言った途端、体の内側からポカポカとした温もりが湧き上がってきた。


 ……なんだか、幸せだなぁ……。


 俺が小春と一緒に住み始めてからおよそ一ヶ月。小春が家賃を払い終わるまで、後三ヶ月はある。


 この冬は、楽しくなりそうだね。

この話を読んでいただきありがとうございます!


これにて完結です!

最後までお付き合いいただきありがとうございます!


ただ、もし好評であれば続きを書くかもしれません。


「面白かった!」

「もっと陸と小春を見たい!」


と思っていただけたら、


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