06話 『祝福の魔女』
「見事な戦いぶりでした! 勇者様!」
俺たちが正門につくと、さっきまでの態度と正反対の騎士団が出迎える。
――怪しいな。
「――あ、ありがとうございます」
ミトハは騎士にそういうと、俺の背中から降りようとする。
「歩けるのか?」
「うん、ここまでありがとう」
絶対に強がりだが、本人が大丈夫というならいいだろう。
――俺がミトハを下すと、正門が開かれる。
正門の横にはバカでかい同じ銅像が二つ置いてある。
仮面をつけた女騎士? 守り神かなんかだろうか。
「――ドラス王の命により、あなた達の処刑命令は破棄されました。手厚くもてなせと命をうけをております」
騎士は続ける。
「治療師と宿をご用意しております」
宿? 絶対に罠だろ。
「治療はありがたいが、宿はいい。そのくらい自分たちで探せる」
治療も断りたいが、さすがにミトハは治療してもらわないとまずい状態だ。
「――そのですね、勇者様の情報はまだ民には発表していなくてですね。勇者様の赤い髪は目立つので――」
必死だな。断られると思っていなかったのか?
「明日には発表予定ですので! 明日からはお好きな宿に泊まっていただいて問題ないのですが、今日だけは――」
どうしても、罠にはめたいらしい。
しかし、ミトハと違う宿になるわけにもいかない。
それに、これ以上ごねたら怪しまれるかもしれない。
俺が暗殺者の存在を知っていることだけは、バレてはいけない。
――俺が分かったと返事をすると、騎士は満足そうに俺たちを案内した。
「認めてくれてよかったわね。これでもう殺される心配もないのね!」
ミトハは嬉しそうに言う。
「……そうだな」
俺は暗殺者のことを彼女に伝えていない。
迷ったが、伝えない方がいいだろうと判断した。
どうみても、顔に出るタイプだし、今日はもう戦えないだろう。
彼女をフォローしながら暗殺者を待ち受けるのはリスクが高い。
――俺たちは王城の目の前にある、6階建ての宿に案内された。
「目立ちますので!」と言われ、地下道を通ってきた。
しかし、そこでの襲撃はなかった。
「――ここは王城に入る権利を持つものしか、利用できない宿泊施設です! 王国騎士でも泊まることはできません! 本日は勇者様一行の貸し切りとなっております。ごゆっくり疲れを癒してください」
そういうと、最上階の部屋の鍵をわたしてきた。
「治療師は部屋に向かわせますので、しばしお待ちください――」
かなり大きい宿だったが、スタッフのような人はいない。
よっぽど俺たちを国民に見せたくないらしい。
――俺たちは最上階の角部屋に入る。かなり広く豪華な部屋だった。
正直、今すぐ寝たいくらい疲れている。
最後に、ここまでの階段でとどめを刺された。
これも罠の一部だろうか……
――これからもう一度、命のやり取りがあると思うと憂鬱だ。
もう逃げてしまおうかとも思うのだが、逃亡生活になる。
そしてミトハを見捨てることになる。
さすがに、俺もそこまで人でなしではない。
「――部屋かなり広いけど、一部屋なのね」
ミトハが当然の疑問を呈する。
た、たしかに……
まずい、暗殺者のことで頭がいっぱいで気付かなかった。
しかし、同じ部屋にいてもらわないと守ることができない。
隣の部屋ならなんとかなるか?
「……たしかにな、隣の部屋の鍵をもらってくるか」
俺が隣の部屋なら何とかなるかと考えていると――
「まあ、こんだけ広ければ、仕切りでもすれば大丈夫でしょ」
「そ、そうかもな……」
ありがたい提案だが、なんか気まずい。
――ミトハはそのままベットに倒れこみ寝てしまった。
やはり限界だったようだ。
――数分後、コンコンとドアがノックされる。
どうやら、治療師がきたらしい。
この治療師が暗殺者であることも十分に考えられる。
俺はフルーツの横にあった、ナイフをパーカーのポケットに隠しドアをあける。
――俺がドアを開けると、とんがり帽子をかぶった茶髪の女性がたっていた。
「勇者の治療を頼まれた『祝福の魔女』リュミエル・セレスタだ」
――俺はこの魔女がどんな動きをしても対応できるように、ポケットの中のナイフを握りながら、彼女の後ろに立つ。
魔女はベットで寝ているミトハを一目見て言う。
「ずいぶん無茶したようだな。全身打撲に加えて、何か所も骨折している」
見ただけで分かるのか。
――そんなに重症だったのか! ちゃんと治るんだろうな。
「治療は三十分てとこだな、大丈夫。明日には治っている」
魔女はそういうと、ミトハに手をかざす。
次の瞬間、ミトハの上に魔法陣が現れ白く光る。
俺は初めて見る魔法に意識がいくのを抑えて、魔女の監視を続けた。
少しすると、ミトハが目を開ける。
「――あなたは治療師の方ですか。よろしくお願いします」
彼女は起き上がろうとする。
「寝ていろ」
魔女がそう言うと、ミトハは再び目を閉じ眠りにはいる。
俺は少し不安になり、呼吸しているかを確認する。
大丈夫みたいだ。
さっきまで、辛そうな顔をしていたが、今は落ち着いている。
「――あのな小僧、そんなに殺気まるだしで後ろに立たれると、さすがに気分がよろしくない」
まずい、殺気なんて出ていたのか……
それにしても、小僧呼ばわりされるとは、たいして年は変わらないだろう。
「心配しなくとも何もしない。『祝福の魔女』の名のもとに必ず治すと誓おう」
とりあえず、この魔女が暗殺者という可能性は低そうだ。
……油断はしないが。
「――なあ、『祝福の魔女』ってなんなんだ?」
俺は気になっていたことを聞いた。
「――どうせ、治療の間は暇だ。答えてやる」
俺はベットを挟んで、魔女の向かい側にある椅子にすわる。
「『祝福の魔女』というのは私の異名だ。魔女になったものには異名がつけられる。まあ、自分でつけることもあるが、大体は師匠につけてもらう」
「あの、そもそも魔女がわからないんだが? 魔法を使う女性のことなのか?」
魔女は「そこからか」とため息をつく。
「魔女を知らないとなると、この国のことも何も知らないんじゃないか? 騎士団は教えてくれなかったのか?」
「いきなり戦いだったもんで――」
本当はいきなり処刑だったが……
「それは災難だったな。じゃあ、この世界について教えてやるから心して聞け」
魔女はこの世界について、語り始めた。
――魔王領土最西端、魔王城――
ぼくはいつものように玉座に座り外を眺める。
――また、勇者が召喚されたようだ。
今回の勇者はぼくのところまでこれるだろうか。すぐ殺されてしまうだろうか。
いや、今回は面白くなりそうな予感がする。
だからグラディスを送り込んだ。勇者はあいつに勝てるかな。
結果が楽しみだ。
――ぼくが外の景色を楽しんでいると、一匹のドラゴンが現れ、部屋の中に入ってくる。
――ドラゴンは勢いのまま着地するが床は崩れも揺れもしない。
ここで正体に気付く。
ドラゴンが入ってくるなど珍しいこともあるとワクワクしたんだがな。
現実はこんな程度だ。
「ヴァリディア、ドラゴンを殺したのかい?」
「ルシヴェル様! カッコいいでしょう? 特にこの羽の赤い――」
ぼくはムカついたので羽を切り落としてやった。
「ごめんなさい、調子に乗ってました……」
ヴァリディアはそういうと元の姿に戻る。
「やっぱりぼくが作ったその姿が一番いいね、思いが加速するだろう?」
「……勇者が召喚されたと聞きました」
グラディスにきいたのか。
「――奪ってきていいですか?」
「いってらっしゃい、ぼくのクリエトゥーラ――」