04話 魔人グラディス
――俺たちは魔王軍と対峙する。
「その赤髪、お前が勇者だな。となりの男はなんだ? 見慣れぬ格好をしているが」
勇者が一番強いと言った、青い魔人がきいてくる。
俺は学校をさぼる気満々だったので、黒のパーカー姿だった。
それよりも、やはり勇者は赤い髪になるようだ。
勇者=赤髪なんてイメージないんだがな。
「お前ら雑魚どもに勇者が出るまでもないからな、俺が相手してやるよ」
俺の挑発に、一番でかくて、ゴツいやつが引っかかる。
「なんだこいつ? 魔力をかんじないぜ? しかも黒髪、龍月国のやつか?」
ゴツい魔人はニヤリと笑う。
「なんにしろ雑魚だ。おまえら! おれにつづけ!」
魔人たちは次々に突撃してくる。青い魔人を残して――
あんな挑発でここまで簡単に操れるとはな。
言葉は話せるが、知能は人間ほどではないようだ。
「じゃあな……」
俺は地面をトゲのような形にする。とくに先端をは鋭利に尖らせる。
変形した地面に魔人たちは反応できずに串刺しになった。
人生で、はじめての殺しだ。罪悪感は感じない。
殺したのが人間じゃなかったから?
――俺はこの世界についてよく知らない。
だから、こいつらが悪と決まったわけではない。
自分の命のため、王様に、騎士団に言われた通りに殺した。
こいつらが王様や騎士団と敵対しているのは確かだろう。
だからと言って、こいつらが人間に害をなしていると決まったわけではない。
王様や騎士団の方が人間にとって害である可能性は低いがある。
この殺しは正しいのか?
いや正しさなんて求めていない。この殺しをとがめられるのが怖いだけだ。
王様の策略でほんとうは殺してはいけない生物だった可能性だってある。
俺はこいつらが悪であってほしい。
自分の行動を正当化したい。
「――な、なんだこれは! ガハッ……」
ほとんどが即死の中、先頭を走っていたゴツい魔人は生きている。
見た目通り人間の何倍も丈夫な体のようだ。何本か刺さらずに折れているトゲがある。
「――お前たち魔人は人間を殺すのか?」
俺は聞かずにはいれなかった。
こいつらが人間を殺すなら、俺の行動が責められることはない。
「ガハッァ―― あ、あたりまえだろう」
安心してしまう自分がいた……
ザッ―― ドスゥッ――
鈍い音と共に、魔人の首が吹き飛び地面に落ちる。
青い魔人が首を吹き飛ばしたようだ。
反応できなかった。
さっきの騎士団隊長より何倍も速い。化物……
「なんだ、お前? つまんない顔しやがって! 迷いながら戦場になんかくんじゃねよ」
俺の迷いは顔に出ていたらしい。
「オレたちは魔人、お前たちは人間。それが現実でそれ以外に戦う理由はいらねぇ」
青い魔人は剣についた血を払い、こちらに歩いてくる。
「てきとうに集めたやつらだったからな、勝手にはじめるわ、負けるわ――」
「これでは、魔人が弱いと思われてしまうな」
青い魔人が俺を睨む。
これが殺気…… はじめて感じる感覚に俺は動けなくなる。
「わたしが殺る!」
突然、勇者が叫んだ。
そして魔人に向かって剣を振り下ろす。
彼女はこいつの殺気を前にひるみもしない。
彼女のスピードはさっき戦った騎士団の隊長よりも少し遅い。
ミトハは攻撃を見切られ、カウンターをくらい吹き飛ばされる。
スキルが弱いのもあるが、それ以前に動きが素人そのものだ。
あれでは……
「なんだ? 今回の勇者はかなり弱いな。それじゃオレの相手にはならないぞ? まだ、そっちの変なスキルを使う男のほが楽しめそうだな」
青い魔人はそう言うと、俺の方に向かって歩いてくる。
スピードを上げないのは、俺のさっきの攻撃を警戒しているんだろう。
ここまで実力差があるのに、全く油断していない。
「まだ! おわってない!」
勇者の剣が黄色いオーラのような光で包まれる。
おそらく『光刃』――強度と切れ味を上げる――だろう。
彼女は連撃を打ち込むが、かすりもしない。
魔人は剣をバットのように持ち、勇者に向かって振り上げた。
そして剣にも触れていないのに、彼女は吹き飛ばされる。
――今の攻撃はなんだ?
「は! 何が起こったかわからんだろう? これが魔人と人間の圧倒的な差だぜ?」
青い魔人は勇者のほうに向かって歩きながら説明する。
「今のはお前ら人間の言う剣術と魔法の合わせ技、魔力量が少なくて貧弱な体のお前らにはぜったいできないんだぜ?」
なにも知らない俺にはわからないが、さぞすごいことなんだろう。
俺は勇者の方を見る。
――二回の攻撃でかなりボロボロになってる。頭と腕からの流血はかなり痛々しい。
それでも、彼女は立ち上がり、鋭い眼光を魔人に向ける。
俺もこの状況に慣れてきた。彼女の強さに助けられたな。
「――ふん、これだけの実力差があって、まだその目をオレに向けるか! 面白い!」
魔人は急に叫ぶ。
「オレは魔王軍幹部! イグニス・フューリアの右腕! グラディス!!」
まさか、幹部クラスと戦っていたとはな。
グラディスは高々と名乗ると、天高く飛び上がる――
着地する瞬間、地面に向かって力の限り剣を振り下ろした。
「――まずい!」
俺はミトハのいる場所にできるだけ近づき、自分とミトハの前に分厚い壁を作った。
――ボゴォッー!!!
ものすごい音と共に突風が吹く。
――突風が収まり、俺は辺りを見渡す。
俺が作った壁は半壊している。
辺り一帯の地面はひび割れ、ボロボロになっていた。
クソッ、規格外にもほどがある。召喚されたその日に戦う相手じゃない!
「――すまん、時間稼ぎしてもらったのにロクな作戦を思いつかない」
あまりの強さに驚かされただけだった。
「いや、わたしも戦いにすらなっていなかった……」
――彼女はそういうと剣を杖代わりにして立ち上がる。
もう、彼女は限界だ。そして俺のスキルだけであの化物を倒せない。
――俺と勇者で最高威力の攻撃を打ち込む。
もう、これしかやれることがない!
「あんた! 勇者のスキルで一番高い攻撃力のスキルって、レベルいくつだ?」
「――えっと、『光焔衝』というやつでレベル5よ!」
「でも…… わたしのスピードでは当たらないわ」
俺はグラディスをみる。
グラディスはこちらに向かって歩いている。
俺のスキルを警戒しているのだろう。たしかにあのスピードでは目の前に棘を出しても意味がないだろう。
だが、逆にチャンスだ。今は少しでも時間がほしい。
「一つ方法がある。だが、もし攻撃を避けられたり、受けきられたら、まず間違いなくあんたは死ぬ。それでもやるか?」
「わたしの命をあなたに預けるわ!」
即答か。こいつは本当に勇者だ。
俺は方法を詳しく説明している時間がないので、ミトハがこれからする行動のみを伝えた。
俺と勇者はグラディスと向かい合う。
――覚悟を決めた俺たちに対して、グラディスは「こい!」と一言だけ言う。
次の瞬間、ミトハの体が光輝き、全身が白金色のオーラをまとう。
グラディスは剣を構える。
だが、気付いた時にはグラディスは地面に巻き付かれていた。
足元の地面が形を変えていたのだ。
もちろん俺のスキルだ。
しかし、一秒ともたずに拘束はとかれる。
だが、わずかなスキがあれば、それで十分だった。
その一瞬で、高速移動したミトハが『光焔衝』を打ち込む。
「クソッッ……」
グラディスはギリギリでガードする。
だが、ガードした剣と共に、白金の光と衝撃波に包み込まれる。




