03話 英雄の本質
――まだ距離はあるが、視認できるところまで魔王軍は進行してきている。
魔王軍の数は報告通り、100体ほどだ。
どの個体も俺が知っている異世界のモンスターとは違う。
ゴブリン、オーク、オウガなんかを想像していたが――
前方に現れたのはそれぞれが異なる色、形をしている。
――これが、魔人。
――ここに来るまでの道中――
案内人が説明を一方的にしてきた。
その内容は―
この世界のすべての生物は微量であっても魔力を持っている。
そして、この世界には人間以外に魔力を使うことができる生物が二種類存在している。
魔人――言葉を話すことができ、基本的に人間より魔力量が多い。
魔物――言葉は話せないが魔力を使うことができる。
この二種類で魔王軍は構成されている。
見た目にも特徴がある。
魔人――二足歩行の人型が多い。
魔物――獣、昆虫、爬虫類が変化したような見た目。
もちろん獣型でも言葉を話す生物は存在する。その場合は魔人という分類になるらしい。
最大の分類点は言葉を話すかどうか。
これは聞かなかったが人と同じ言葉を話すんだろうか?
――俺は迫ってくる異形に目を向ける。
たしかに二足歩行だ。人型と言われれば人型だが、明らかに人とは違う見た目をしている。
まず大きさが全然違う。高さも幅も。
「――あの真ん中にいる青い魔人、かなり強いですね」
俺が魔人たちを観察していると――
ミトハが真ん中の魔人を指さし、言った。
体の大きさは俺たちとそんなに変わらないが何を理由に断定したんだ?
「わかるのか?」
「はい、私のスキル光輪識破で魔力の大きさを感じ取れます」
便利なスキルだ。
勇者のスキルはレベルが低くても意外と役立つのかもしれない。
俺がミトハのスキルに関心していると――
「――あの、私たち2人から全く魔力を感じないのですが……」
彼女は聞き逃せないことをいった……
「――全くって0なのか? 少ないという比喩ではなく?」
「は、はい」
「まじか……」
俺は絶望した。
異世界に来たからには魔法が使えると思っていた。
俺のスキルは映像を切り取って、色々やっているせいで作業感が強い。
全く魔法感がない。スキルだから当然かもしれないが……
いや、まだ魔力をもらうイベントがある可能性はある。そう信じよう!
それにしても、あの案内人は本当に最低限の説明しかしなかったみたいだ。
俺たちに魔力がないなんて戦いにおいても重要な情報だ。
まあ、さっきの戦闘でも分かったがスキルだけで十分戦える。
「俺は魔力なしでも戦えそうだが、あんたはどうだ?」
「大丈夫だと思います、身体を強化するスキルもあるので戦えます!」
身体強化? なんか勇者のスキルの方がカッコいいな。
「――それであの真ん中にいる青い魔人の魔力はどのくらいだ? あの壁上で見物してる騎士と比べてどうだ?」
先の戦闘で、俺は騎士団の実力を知った。
たとえ騎士団の全員があの隊長レベルだったとしても負けないだろう。
前の魔王軍が、そのくらいのレベルだと助かるんだが。
「周りの魔人たちは騎士団の人よりも少し多いくらいですね。でも――」
「でも?」
「――中央の青い魔人は10倍以上の魔力量です」
十倍。
単純に考えて、十倍の強さか……
青い魔人は剣を持っている。
近接戦闘だろうか。だが、魔剣のように魔法を放ってくる可能性も――
圧倒的情報不足。戦いの基本は情報収集。
俺はそう考えてきた。中学のときだって…… いや、やめよう。
今は自分の命がかかっているんだ。あの頃とは違う。
もうこれしかないな。
「作戦は俺が周りのやつを引き受ける。あんたは真ん中のやつを頼む」
俺は勇者に丸投げした。
「わたしが青い魔人ですか―― わかりました!」
何か言いたそうだが、了承してくれた。
――だが実際のところ、これしか方法はない。
俺に魔力がないということは、俺はスキルを持っている以外は普通の人間。
身体能力も耐久力も日本にいたときと同じなんだろう。
そんな俺が近接戦闘をするわけにはいかない。
「――たのむ。だが、倒す必要はない! とにかく情報が欲しい」
俺は続ける。
「できるだけ長く戦ってくれ、もちろん勝てそうなら倒していいが――」
「わかりました! やってみます」
――勇者は「では、行きましょう!」と言い歩き出す。
「ここでいいだろう、なぜ移動する?」
「もし、私たちが負けたら…… 次は騎士団が戦うんですよね? それなら門の前は開けておいた方がいいと思たんですが、まずいですか?」
――驚いた。
俺は俺が死んだ後のことなんて、考えてもいなかった。
彼女は違う。この王都を守るために戦っている。自分の命をかけている。
俺は彼女から勇者の資質を感じた。
能力的な資質ではなく精神的な……
これが本当の勇者。
俺は自分ではなく、彼女が勇者でよかったと心から思ってしまった。
この気高さが俺にあれば俺の人生はもっと違ったのだろうか……
異世界にきて、これから命がけの戦いという時に、また同じことを考えている。日本にいたころと同じ……
「――なるほどな、たしかにそのほうがよさそうだ。騎士団のヤツらが背後から俺たちめがけて、魔法を撃ってくるかもしれないしな」
「た、たしかに。その可能性は考えてませんでした」
勇者は笑っていた。
俺たちは魔王軍を迎え撃つため前進する。