5 そうして輪廻は巡る
こうして僕は、高い峰に住まう火の神——高峰坐黒焔神という名をもらい、ヒネの子孫が暮らす里の守り神となった。
竜神に命を救われたエイの子孫が代々、高峰坐黒焔神の社を守り、僕を祀る役目を担っている。
時が過ぎると、僕が里に姿を現したことは事実というよりも神話の一部として語り継がれるようになり、高峰坐黒焔神は親しみをもって峰様と呼びならわされるようになる。
岩に覆われた小山の頂上。里を見下ろすことのできるこの場所に、その社はある。僕は今日も岩場に座して、里を見守っていた。
神代から時代が下るにつれて、神々の姿を目視できる人間は減少した。神としての力が強まれば、人の視界に入るように顕現することは容易になるだろうが、あいにく今の僕にはその力はない。
高峰坐黒焔神の社に仕える神官たちも、僕の姿を一度や二度しか見たことがないようだ。しかも、あまりにも稀にしか見えないものだから、いずれの邂逅も「幻覚」「縁起の良い夢」ということにされてしまう。
人々に必要とされて、僕は満たされていたけれど、消えない孤独を抱えてもいた。永劫の時を生きる火の神。それは永遠の独りを定められた存在であり……。
「あなたは……峰様ですか?」
透き通るような声がした。振り返るとそこには、驚きに頬を強張らせた少女がいた。
「僕の姿が見えるのか」
答えると彼女は、少しほっとしたように表情を緩め、微笑みながら僕の前に膝を突いた。
「ああ、やはり高峰坐黒焔神なのですね。私はヒナと申します。私の曾祖母は、あなた様により火事から救い出されました。その日から、我が家系はあなた様を祀り、宗家の末娘は代々巫女となる習わしとなりました。峰様、私は当代の巫女です。この身が朽ちるまで、お側でお仕えいたします」
ふわり、と微風がヒナの髪を揺らした。どこかで嗅いだことのある、桜の花のような甘い香りがした。
<番外編 おわり>