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ブラッド・フラワー  作者: 御稲荷 薫
ジョワブル王国/ペティット村編
65/67

65 革命未遂

時間を……?そんな馬鹿なことがあり得るのか。

いや、でも今目の前で見たことを説明するには…


Mrs.Whoが初めて地面を踏んだ。


その瞬間、まるで神が降り立ったかの如く群衆が湧く。


「Mrs.Who様ーーありがとうーー!!!」

「この国の救世主!!万歳ーー!!」


そんな黄色い声を受けながら、Mrs.Whoは倒れているアレンの前に立った。


耳をつんざく程の歓声が、ピタッと沈黙に変わる。


気づけば俺もランスもこの場を離れ、アレンの元に向かっていた。


ここからだと、アレンが無事かどうかも分からない。


辿り着いた頃には、先ほどの沈黙はアレンへの罵声に変わっていた。


「Who様、その者に鉄槌を!」

「この国を滅ぼそうとした悪魔だ!!」


その言葉を聞いて、頭に血が上った。


「あいつら…!」

「待ってガンダ!」


その時。


「…⁉︎」


体中の力が抜けて、この場にいる全員が地面に膝をついた。


体に力が入らない。

金縛りだ……


原因は勿論、すぐに分かった。


Mrs.Whoは気分が良さそうに笑った。


「うるさい鳥共だ。少し黙っててくれ」


Mrs.Whoはゆっくりとアレンに近づき、屈んでアレンをじっと見つめた。


アレンはピクリとも動かない。


後ろからダンデリオンの軍服を着た兵士たちが次々と現れた。


医療器具を持った兵士たちがアレンの周りを囲んでいく。


中でも、偉そうな男がMrs.Whoに話しかけた。


「マスター、ご迷惑をおかけしました。私は貴族たちの介抱で手一杯で現場まで手が回らずこのような結果に…」

「貴様の言い訳など求めていない」

「はい…して、例の女児は…」

「おい!!アレンはどうなったんだ!!」

「なっ…!」


我慢できずガンダがMrs.Whoに向かって声を荒げる。

こいつ、まだあの人が誰か分かってないのか…!


「まさか…死んでなんか……」

「死んでない(‼︎)」


Mrs.Whoはあっさり答えた。

そして目線をアレンの方に移しながら言う。


「心配なら実際に見ればいい」


僕らは一度目を合わせ、アレンの元に駆け寄った。


僕はアレンの首元に指を当てた。

…大丈夫だ、脈がある。


「体力が尽きて眠っているだけのようだ。命に別状はない」

ダンデリオンの兵士が教えてくれた。


僕らはひとまず胸を撫で下ろした。

今までの疲れが今、ドッと出た気がした。


その時。


「そこをどかんか、この愚民共が」


振り返ると、神輿に担がれた煌びやかな装いをした人物がいばり顔でやって来た。

隣には同じような格好をしている若い男の人も立っている。


「国王様…!王子まで…!」


誰かがそう呟き、周りの人たちはみんな一斉に地面に頭を擦り付けた。


僕らはその様子をただ眺めていた。


「あれが…」

「初めて見たぜ」


国王は神輿に担がれながらMrs.Whoの前まで来た。


Mrs.Whoは両手をコートのポケットに入れ、不満げそうに眉間に皺を寄せた。


「気分が悪いな…上から見下されるのは」

「うぬも今非常に虫の居所が悪い…言葉遣いには充分気をつけたまえ」


さっきまでMrs.Whoと話していた偉そうな男の人が軽く頭を下げながら国王に話しかける。


「お初にお目にかかります。ジョワブル王国国王殿、王子殿。直々にシティ・セントロまで出向かわれるとは、一体何かございましたか」

「どうもこうもない!うぬの要求はただ一つ。そのガキをこちらによこせ」


国王はアレンを指差しながら言った。

男兵士は言いづらそうに国王に伝えた。


「申し訳ありませんが、彼女はダンデリオンで保護致します。なので身柄を引き渡すことはできません」

「できないとはどういうことだ。うぬは国王だぞ。うぬの命令は絶対だ!」

「では…この子を一体どうするつもりか、お聞かせ願えますか?」


国王は気色の悪い笑みを浮かべながら大声で言った。


「ハッ!そんなこと決まっている。死刑じゃ!この国を半壊し、国に恥をかかせた!全国民の前で大罪人を処する。これ以外に何があるという!?」

「ふざけんな!!!」

「そんなことさせるか!!!」


僕たちは思わず国王に言い放った。

もちろん、空気は一瞬にして凍てついた。


ここで王子が前に出た。


「貴様!!今父様に口答えをしたのか?」

「ヒッ…!」

「ああそうだよ!!このクソジジイ!!なんか文句でもあんのか!!」

「プッ!」


国王が怒りでブチギレる声は、Mrs.Whoの甲高い笑い声に掻き消された。


「この無礼者!!!何が可笑しい!!!!」

「マスター、やめて下さい!国王の機嫌が損なうのは我々にもメリットが…」

「だってお前、これが黙って見てられるか?滑稽で仕方がない…」


Mrs.Whoの目には涙が浮かんできた。

そして片手をお腹に抱えながら言う。


「悪いが国王、こいつの回収はうちのトップの命令なんだ。背けば私はこの組織にいられなくなる。すまんな」

「誰がそんな勝手なことを許すか!そいつはこの国を滅ぼしかけたんだぞ!」

「へぇ…証拠は?(⁉︎)」


Mrs.Whoがそう聞くと、国王はウッと息を詰まらせた。


それはそうだろう。Mrs.Whoによってこの国はすっかり綺麗に元通りになってしまっている。


アレンがこの国を破壊した形跡なんて、微塵も残ってはいないのだ。


今度は王子が言い放った。


「こ、国民全員が証人だ!!全員そいつに殺されかけたんだ!!」

「記憶は証拠にならねぇよ、青二才が。具現化して証明できねぇ限りな」

「なっ…!?」


国王はもう座る体制さえ崩しかけていた。

こんな無礼な言葉を浴びせ続けられたのは初めてなんだろう。


「ならば力づくでも奪う!!やれお前ら!!!」


国王の後ろに付いていた義勇団が一気に襲いかかってきた。


そこからは一瞬だった。


Mrs.Whoは数多いる兵士の間を楽々と掻い潜り国王の前に現れ、右手を彼の顔の前に当てた。


「あばよ」


眩い白い光があたりを包み込み、僕たちは思わず目を瞑った。



…しばらくして、オギャーオギャーという産声が聞こえて僕は目を開けた。


開いた口が塞がらないとは、まさにこの事を言うんだろう。

周りの人もみんな同じ顔をしていたから。


神輿の上にいたのは国王ではなく

赤ん坊を抱き上げているMrs.Whoだった。


「あれ…まさか……!?」

「父様ーーーーー!?!?」


国全体に震撼が走った。

まさか、そんな。


「笑えるな、先程まで憎まれ口だった男が。こうなると愛おしく見える。だがガキの世話は専門外なんでね。ほれっ」


そう言ってMrs.Whoは赤ん坊を王子に向けて軽く投げた。


王子は慌てて赤ん坊をキャッチする。

恐る恐る赤ん坊の顔を覗き込む王子。


「第二の生をやったんだ。せいぜい仲良くやんな」

「あっ…あぁ……」

「王子ーーー!?」


王子は赤ん坊を抱えたまま気絶してしまった。

義勇兵が王子と赤ん坊になってしまった国王の介抱に気を取られ、アレンのことなんて誰も忘れてしまった。


Mrs.Whoは再び地面に降り、僕たちの前に立った。


「そういうことで、そのガキはうちで預かることになった。渡してくれるかい?」

「人間が若返るなんて…ありえんのかよそんなこと…」

「荒手さ。いた仕方ないってやつだ。で、渡してくれるのか?」


Mrs.Whoは、さっき国王を赤ん坊に変えた右手を僕たちに差し出してきた。


僕たちがその手を恐れながら見ていると、Mrs.Whoは僕らの気持ちを察してハハっと笑った。


「すまないすまない。別にお前たちを赤ん坊に変えるつもりはない」

「…ダンデリオンのことは信頼してるよ。僕たちを命懸けで守ってくれた。だけどあなたのことはどうしても…心から信じ切れない。アレンを本当にあなたに預けていいのか不安なんだ」


勇気を出して僕は言った。

この人に何をされるか分からない。

それでも友達を無下にこの人に預けることはできなかった。

それは隣にいるガンダも同じ気持ちのはずだ。


案の定、Mrs.Whoの顔から笑みが消えた。


どうしようかと考えた、その時。


「大丈夫だ少年」と声がした。

エヌさんだ。松葉杖をついている。


「少女は…私が責任をもって本部に送り届ける。だから、安心して預けてくれ」

「エヌさん…!」


僕たちは顔を見合わせ、頷き合った。

エヌさんなら、安心して任せられる。


「ほう…ガキからの信頼が厚いようだな?エヌ」


憎まれ口にエヌさんはMrs.Whoを睨み返し、僕たちの側に来た。


「まあ何でもいい。任務完了。本部へ帰還する」

「はっ!」


兵士たちが着々と帰還の準備を始める。


ある兵士が、アレンの手首に黄色いキラキラと光を放つ花がついた蔓を巻き始めた。


「なんだこれ?」

「"サンフラワー"。太陽と同じエネルギーを放ち、ブルーマーの能力を封じ込めることができる。ダンデリオンが独自栽培しているから、なかなか他で見ることはできない代物だ」

「へぇ、いろんなもんがあるんだな」

「ところで…これから少年たちはどうするのだ。ダンデリオンへの入隊の話、私はまだ忘れてはいないが」

「うん…さっきガンダと2人で話してたんだけどね」


僕らはまた顔を見合わせ、うん、と深く頷き合った。


「僕たち、この国に残るよ」


エヌさんは顔には出していないが、少し驚いたように肩がピクッと動いた。


「…いいのか」

「残るっつってもいつかは出るぜ?今じゃねぇって話だ」

「デモをしようと思うんだ。身分も格差もない、平等な社会を世界に向けて訴える。逃げてばっかりじゃこの国は永遠に変わらない!」

「婆さんのおかげで国王もあんな状態。変わるなら今しかねぇって思わねぇか?」


そう言うと、エヌさんは唐突に僕たち2人を抱きしめた。


僕ら2人はエヌさんの体の中にすっぽり埋もれてしまった。改めて本当に体が大きい人だ。


「お前たちを誇りに思う。心から応援する」

「うん…ありがとう」


僕たちはもう検問されることのない港へ見送りに行った。


アレンを乗せた船はどんどん水平線へ消えていった。


今日起きた出来事は、知る人ぞ知る幻の事件になった。


世界最強の女、Mrs.Who。彼女の脅威は計り知れない。


アレンはジョワブル王国で永遠に語り継がれる名前になるだろう。


既に今日の出来事は「革命未遂事件」として国内の至る所で言われている。


それでも僕たちの友達であることには変わりない。


アレンがいなければ、僕たちがこんなに強くなることは絶対になかった。


「また会えるかな」


ガンダが小さく呟いた。


「会えるさ、きっと」


僕も小さく、そう呟いた。

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