63 激流
「「うわああ!!!」」
アレンの体から発生した水は津波のように押し寄せ、僕たちは遠くに流されてしまった。
「ランス!大丈夫か!」
「うん、なんとか…」
でも落ち着いている暇はなかった。
また次の波がすぐそこまで押し寄せてるからだ。
「ランス、一旦離れるぞ!」
「あぁ………イっ…!」
さっきあいつに踏まれた左足がバカ痛い。立ち上がれない。
波がもう一度僕たちの体を包み込む。
流されないように体を互いに預け合い、波が去ったあとにガンダは「乗れ!」と背中を向けてくれた。
言葉に甘えて僕はガンダの背中に乗った。
「しっかり捕まってろよ!」
ガンダは一軒家にあるパイプを伝い、屋根の上に登った。
2人分の体重を乗せて上がるなんて、ガンダも強くなったものだ。
そう感心している間もなく、屋根の上に登れば見えたのは地獄絵図だった。
ここはシティ・セントロだが、既に街の3分の1が水に浸かってしまった。
たくさんの人が屋根の上に登って避難をしている。
「アレンは!?」
「あそこだ!」
卵のような形をしている大きな渦の中心にアレンはいた。
「アレーーーーン!!!聞こえるかーーーー!!」
ガンダの声が届くはずもなく、アレン は水の中で微動だに動かない。
下を見ても!道は既に洪水状態で、足の踏み場は無さそうだ。
水かさがどんどん上がっている。
「おい!!助けてくれ!!!」
声のする方を向くと、さっき僕たちを捕まえようとした兵士の一人が流されないようにポールに捕まっていた。
片手をこちらに向けて助けを求めてる。
「なんだよ!!さっきまで俺たちを地獄送りにしようとしてたくせに!!」
「命令だったんだ!悪かったよ!だから助けてくれ!」
「誰が助けるか!!そのまま流されちまえ!!」
兵士の顔は真っ青で、今にも流されてしまいそうなほど力がないようだった。
「ガンダ、助けてあげて」
「ランス!?」
「あの人にもう僕たちを捕まえる気はないよ。それに、ここで見放したら僕たちの方が気が悪くなるだろ?」
ガンダは顔をしかめてとても不本意そうな顔をした。
だけど「あーーークソッ!!」と、自分に折り合いをつけて溺れかけた兵士に手を差し伸べた。
兵士はギリギリのところで引き上げられた。
「すまない……助かった、ありがとう」
「礼ならランスに言え!」
「2人ともありがとう。それと先ほどの愚行を謝らせてくれ」
「それはもういい。それよりどうにかできないのか?友達が苦しんでるんだ!」
「どうにかって…こんな事態初めてだし、何から手を出せばいいのか…」
その時、兵士の無線に連絡が入った。
『義勇兵……。ザザッ……を閉鎖………ロマーノで必ず食い止め………ザザッ‼︎』
「なんだよ!全然聞こえねぇじゃねぇか!!」
「水没したか」
「"閉鎖"って言ってたね」
「あぁ。多分、シティ・パレスの門を閉鎖するんだろう。その門に辿り着くまでこの水量を止める手段はない」
「ええ!それじゃ王族しか助からないじゃねぇか!!シティ・ロマーノまでの人たちはどうする!?見殺しにする気か!?」
「ハッ、何を言う少年。それを平気でするのが奴らだろう?」
兵士はハァ…とため息を吐き、力なく笑った。
「いっそのこと、このまま飲み込まれてしまえばいいんだ」
「何言ってんだ…そうしたら!!」
「そうしたらなんだ!?この国が終わるか!?願ったり叶ったりじゃないか!お前らもこの国から出たくて今まで生きてきたんだろう!?俺もさ!!もうこの国の半分は水に浸かってる。もう俺たちにできることは何もねぇんだよ!!」
兵士は屋根の上で大の字になって天を仰いだ。
確かに彼の言う通りかもしれない。だけど。
「アレンはどうなる…」
「彼女には犠牲になってもらうしかない。だが彼女はきっと英雄になるだろう。俺たち下民のヒーローさ!アレン万歳!!」
「ふざけんな!!あいつにはダンデリオンに入るって夢があんだぞ!!!」
「絶対見捨てない。何か方法はあるはずだ」
「ここにいたか、少年たちよ(‼︎)」
振り返ると、そこにはエヌさんの姿があった。
肩で息を弾ませている。僕たちを探していてくれてたんだ。
「エヌ!!」
「年上にタメ口とは失礼な…まあ良い。少女はどうした」
「信じられねぇなもしれねぇけど、この洪水の発端はアレンが起こしたものなんだ!」
「彼女は体内から水を生み出すことができて…!今、あそこに!」
僕が指を指す場所にエヌさんが視線を移す。
アレンの状態を見て、エヌはすぐに「あやつ…ブルーマーだったのか」と声を漏らした。
「ぶるーまー?」
「スター・カメリアという花と契約を交わすと、何かを代償に人離れした能力を手に入れることができる。そやつらのことを花を咲かせし者、"ブルーマー"と呼ぶのだ。彼女は何かを代償に水を操る力を得たのだろう。ただ今は暴走状態にあるがな」
「確かに契約がどうたらとか言ってたな!」
「どうやったら止められるんですか?」
エヌさんは僕たちの声を無視して、マントの下から鳥の形をした機械を取り出し、それに話しかけ始めた。
「こちらエヌ。目標を確認。目標はブルーマー、暴走状態です。至急応援をお願いします」
「仲間を呼んだのか?」
「あぁ…だが、仲間たちがここに来るまでにも被害は拡大する。最善策は…」
次の瞬きの間、僕らの隣にエヌさんはいなかった。その代わり。
ガラガラガラガラ!!!と大きな音を立てて建物が次々と崩れ落ちていった。
呆気に取られる間も無く、エヌさんは再び僕たちの後ろに現れた。
「い、今……これ、お前がやったのか?」
「水を堰き止めた。これで少しは時間を稼げるだろう」
エヌさんが壊した建物をよく見ると、アレン を中心に円を描くように意図的に壊している。おかけで水の流れも多少遅くなっている。
「いやいやいやそこじゃねぇ!!建物をクラッカーみたいに割りやがってどんな馬鹿力だよ!お前女だろ!?いや男でもできねぇよ!」
「か、怪物………!」
僕たちを襲った男兵士は怯えてそのまま意識を失ってしまった。
(すごい…これがダンデリオン…!)
感心している暇もなく、新たにダンデリオンの人が3人やって来た。
「エヌ!応援要請を請けて来た」
「…たったこれだけか」
「仕方ないだろ。他の奴らは国民の救出、救護、貴族の世話に手一杯だ」
「この国はダンデリオン毛嫌いしてる。故に同行人数も最小限に抑えられて来た。それでこの状況をどうしろと…!」
「外部にも応援を要請したが、この様子だと着く前に国の3分の2は水没してしまう!ひとまず目標をどうにかして取り押さえろと、ジェネラルが」
エヌさんはしばらく一人で熟考し、彼らに指示を出した。
「最優先事項。その少年たちと兵士をシティ・パレス内へ。この建物もいつまで持つか分からん」
「了解」
「え、ちょっ!」
「残った2人と私は目標に接近し、意識を奪うことに専念する」
「待てよエヌ!!俺たちもここにいる!!アレンを助けてやらねぇと!!」
ガンダが叫ぶと、エヌさんは冷たい眼差しを僕らに向けた。
「残念だが今のお前たちにできることは何もない。我々でさえ"最悪"を回避することに精一杯になりそうなんだ」
「っ…でも!!」
と、その時。地面が大きく斜めに傾いた。
僕たちのいる建物が崩れたのだ。
「ああああああああ゛!!!!」
落ちる落ちる落ちる落ちる
死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ
人が死を感じる時、走馬灯とかそういうのを見るもんだと思ってたけど
そんなもの見る暇もなく、呆気なく暗闇に引き込まれるんだろうと。
僕はそう、思ったんだ。
お久しぶりです。
執筆が進みましたので3話分だけ掲載いたします。
ジョワブル王国編完結です。次回掲載日は未定です。
よろしくお願い致します。




