暴君 ~後始末編~
勇者を完膚なきまでに叩きのめした主人公でございますが、命を奪わない以上は倒しておしまいとは参りません。主人公の思い付きとは如何なるものでございましょうか?
第四章 第十二部<暴君 ~後始末編~>、どうぞ最後までお楽しみにくださいませ。
ルーゲンブさん達に借りた拠点に戻ってくると、もう辺りは完全に暗闇に包まれていた。
ここまでの道程は、例によってセレア達に先導を任せた。何せ、相変わらず俺の方向感覚は当てにならない。そこそこの期間を旅してるってのに情けない限りだけど、無理して迷ったりしたら洒落にならないから仕方ない。
ここまでの道中で感じたけど、ルーゲンブさん達からの視線がちょっと変わっちまった。若干、ビビられてる。まぁ、問答無用で顔面蹴りまくってるトコなんて見たら無理もないけど、ちょっと居心地が悪い。セレア達にまで怖がられてたらショックで死にたくなってたろうけど、セレア達が全然気にしてないっぽいのは安心した。
と言うか、何故に皆して上機嫌? 特に、リアの機嫌の良さは最高潮みたい。軽くスキップしてたし。もしや、猫人族の男に言った<俺のリア>ってセリフが良かったんだろうか? でも、それなら機嫌がいいのはリアだけだろうし・・・まぁ、いいか。あんなトコ見ても、変わらず側にいてくれるってのは嬉しいもんだからな。
拠点の館に到着して、大人数用の大部屋に眠っている人達をそれぞれ横にならせる。勇者は俺の独断と偏見で床に置いた。
「ご主人様。思い付かれた手段というのはどういうものなのでしょうか?」
心配そうな顔で聞いてくるセレア。
「そんな心配そうな顔をするなよ。今回は常識外かもしれないけど、俺のチートを使うわけじゃないし」
俺の言葉に、セレア達全員がホッとした顔をする。
うん。俺が危なっかしい事する時はチート発動させる時ばっかだもんね。いつもいつも心配かけてごめんなさい。
「でも、<ちーと>を使わないんだったらどうするのよ?」
「勇者を奴隷にさせられないかなぁって」
「「「「「奴隷に!?」」」」」
ルーゲンブさん達と勇者の奴隷の女性エルフ達が揃って驚きの声を上げる。
「そ。同じ立場になって、同じ目に遭わなきゃ反省もせんだろ、こいつは。まぁ、俺が引き取ったりはしないから、その後どうなるかは知らんけど」
「監視をせんのか?」
「したい気もするけど、俺達に同行させる気は全く無い。こんな奴をセレア達の側に置いとけるか。こいつが次にセレア達に手を出そうとしたら、今度は絶対に許せん」
俺の言葉に、顔を引き攣らせるルーゲンブさん達。
手を出すってのは、攻撃とかだけじゃなくてあらゆる意味でだけどな。男の奴隷が女性奴隷にってのはよくあるって話だし。万が一が起こり得るような状況は断固拒否する!
「で、これまで聞く機会がなかったけど、どうなったら奴隷になる羽目になるんだ?」
「あ、はい。獣人族と亜人族のほとんどは税金が払えなくて奴隷落ちします」
「税金?」
「はい。人頭税として、二季節毎に5000エニーを課せられています。人間族の場合は100エニーだけですけど」
「・・・それ、完全に奴隷を確保する為の税金じゃねぇか」
「そうだと思います。私が生まれるよりもずっと前からあった法律で定められたものだそうですから」
「ハァ・・・本気で腐ってやがるな、この国は。他には?」
「あ、えっと・・・」
答えてくれていたリアが口ごもってしまう。
「・・・いいよ。どう考えたって面白い話にはならないのは分かってるから」
「あ、は、はい。あとは、人間族にも共通するものですけど、罪を犯した場合と、その・・・・身売りです」
「身売り?」
「他の家族を守る為に、誰かが奴隷商会に自分を売りに行くんです」
リアの説明に、思わず頭を抱えてしまう。
全員が奴隷落ちするよりはマシだからって事なんだろうけど、本気で胸糞悪いぞっ!!
「・・・差別が極端になったのは初代勇者のせいだって話だったよな?」
「ええ。そうよ」
「マジで余計な真似をしてくれたもんだな、くそったれが」
「過ぎた事をどうこう言っても仕方ないわよ。少なくとも、リア達はあんたと一緒にいられて幸せなんだから」
「はいっ。その点に関してだけは奴隷になって良かったと思えますっ」
「あ、そっか。奴隷じゃなかったら、主さまに会えなかったかもしれないんだ」
「そうよね。あたし達の故郷なんてこの国の南の端っこの方だし」
「そうですね。リアさんの仰る通りだと思います」
「ハァ・・・前向きなだな・・」
セレア達の言葉に、苦笑いを漏らしてしまう。
まぁ、ジェラルリードの言う通り、こいつらが幸せでいてくれるんなら、これからもそれが続くように全力を尽くせばいいか。
「んじゃ、勇者を奴隷にするにはこいつ自身に身売りをさせればいけるのか?」
「多分、ですけど・・・」
「それで大丈夫な筈です。ジライ商会にいた頃に、人間族の女性が身売りをしたというような話をされていましたから」
自信無さげに言うリアに、セレアが肯定の言葉を続けてくれる。
「でも、勇者が自分でってやるかなですよ?」
「確かにねぇ・・・いくらタカシにビビりまくってても、その後の事を考えたら死ぬ気で抵抗されるんじゃない?」
「まぁ、今まで自分がやってきた仕打ちがモロに返ってくるワケだからな。強制的に奴隷にさせる方法がなけりゃ厳しい、かぁ。せめて完全に無力化させとかないとなんだけどなぁ・・」
「・・・・タカシ殿。よいか?」
「ん? 何?」
「タカシ殿の魔法の腕があれば、古代の魔法が使えるやもしれん。それが使えれば、勇者を無力化するという点だけであれば、なんとかできる筈だ」
「古代の魔法って、洗脳魔法とかか?」
俺の言葉に首を横に振るルーゲンブさん。
「いや、古の時代から伝わる制約の魔法だ。奴隷の自由を奪うというものだそうだが、難度が余りに高く、扱える者は現在はいない」
「呪印みたいな感じか?」
「似たようなものだろう。ただ、奴隷の呪印と大きく異なるのは、指定した行動に反すれば、即座にその奴隷の命を奪う程に強制力が強いという事だ」
「つまり・・・例えば、<動き続ける>って制約をかけたら、止まった時点で死亡って事か?」
「そうなるな」
「あぁ、それって強制魔法でしょ? 確かに、人種族には難易度が高い魔法よ。元々は真祖吸血鬼が人種族を家畜兼奴隷にする為に考えた魔法だし」
ジェラルリードの言葉に、俺達以外の面々が呆気に取られたような顔をする。
「・・・そ、そうなのか?」
「ええ。初代の勇者に滅ばされた奴が初めて使った筈よ」
「それ、いけ好かないって言ってた奴の事か?」
「そ。何がどうなって魔族に伝わってるのかは知んないけど」
肩を竦めて言うジェラルリード。
ふむ。まぁ、別に伝わった経緯はどうでもいいか。現時点では使い手がいないって話だし。
「じゃあ、勇者に<奴隷として生きる>って制約をかければいいわけか」
「そうね。それなら、奴隷になる為の行動を取っていれば死ぬ事はないし、奴隷契約の魔法を<ちーと>で解除する事もできないし。まぁ、普通は奴隷契約の魔法を解除なんてできないけど」
「うん。ついでに、対人の暴力も禁止しとくか。それなら、同じ奴隷に対して酷い事もできないだろ」
「はいっ。それなら、女性の奴隷にとっても安心だと思いますっ」
俺の言葉に、リアが嬉しそうに賛同の声を上げる。
「しかし、提案しておいてなんだが、本当に扱えるのか? 失敗のリスクは大きいぞ?」
「大丈夫よ。あたしが使えるから」
「へ?」
「何回か使った事あるのよ。街に帰ったらあたしとの遭遇話を嘘はナシで10人に話せとかって」
「おいおい・・・」
「だぁって、失敗を隠したいからって、あたしが逃げた事にして話す奴が多かったんだもん。そんな話の広げられ方、望んでなかったし」
「アハハ・・・もしかして、それで紅と漆黒の美姫っていう二つ名が広まったとかですか?」
「当ったり~♪ リア、いい勘してるわ」
「うわぁ・・・なんて傍迷惑な・・・・真祖吸血鬼が自分の物語を広める為にちょっかいかけてくるだけでも堪らんだろうに・・・・」
「なぁによぉ。いいじゃない。あたしからちょっかいかける時は誰も殺してないんだし」
「まぁ、別にいいけど。今更だし。でも、人間族に戻ってるのに、ホントに大丈夫なんだろうな?」
「大丈夫。ムチャしたらまた怒られそうだから、無理そうなら言わないから」
俺の念押しの確認に、キッパリと言い切るジェラルリード。
あら。遺跡で怒ったのは結構応えてるのな。しかし、心持ち嬉しそうに見えるのは気のせいか?
「・・・・ご主人様?」
「ん?」
隣に座っているセレアとリアが肩を寄せてくる。
「あの・・・ムチャをするつもりなんてないんですけど・・・」
「・・・・その・・私が無茶をしたり馬鹿な事を言っても、ジェラルリードさんの時のように叱っていただけますか?」
「わ、私もあんな風にタカシ様に叱ってほしいです」
「へ?」
「あ~、セレアさんとリアさん、ズルいぃ。あたしも主さまに怒ってほしいのにぃ」
「お、怒らせたいわけじゃないんですよ? でも、その、何て言うか・・・・いいなぁって思ってて・・・」
「いいなぁって、結構ガチギレしてたぞ? 特に、遺跡の中で大声出しちまった時は」
「そーよ? 結構怖かったんだから、アレはあたしにだけでいーの。大体、リアとセレアはブチギレしてくれてたじゃない」
「勿論、あんなに怒ってくださったのは凄く嬉しいです。でも、私自身にもあんな風に叱っていただきたいんです」
「はい。いつも大切にしてもらっていますし、大切に想ってくださってるのも分かってるつもりですけど、ああいう風に怒ってもらえるのも羨ましいです」
「うんうん~。なんか上手く言えないけど、分かる~」
セレアとリアの言葉に、おもいきり頷きながら言うシャーンと、おもいきり縦に首を振りまくるシャーネ。
怒られたいって、何故に? って、もしかして、俺が前にセレアに言ってたのと同じような感じなのか? 怒るのも心を開いてるって捉えたら嬉しいって事か?
「バーカ。怒るに決まってんだろ。っつーか、セレア? 俺、セレアには怒った事あるぞ?」
「え?」
きょとんとするセレア。
「獣臭いとかなんとか言ってただろ? 有り得んっつーのって」
「あ・・・す、すみません。嬉し過ぎて、怒られていると思っていませんでした」
「おいおい・・・いやまぁ、確かに、怒鳴ったりとかはしてないけど。全否定してたのに」
俺が言い切ると同時に、ガバッと首に腕を回して抱きついてきて、この上なく嬉しそうな笑顔を浮かべるセレア。
「すみません。思い返してもやっぱり嬉し過ぎて、怒ったと仰っているのに幸せな気持ちにしかなれません」
「う、うん。まぁ、いいけどな」
そのまま頭を撫でながら言うと、さらに頬を緩ませるセレア。
うわぁい。メチャクチャ照れくさいぞぉっ。
「・・・・やっぱりこの子にだけは絶対に敵わないんでしょうねぇ・・・・」
「えへへ。でも、主さま、怒ってくれるって」
「怒らせたくなんてないですけどね・・・でも、そう仰ってもらえると、想像以上に嬉しいですね・・・」
「うん・・・えへへ」
半ば脱力して言うジェラルリードと、頬を緩ませるリア達。
「ん、んん。んで、ちょっと話が逸れたけど、勇者が奴隷になった後、勇者の奴隷になってる人達はどうなるんだ?」
「多分ですけど、身柄が勇者が身売りした商会に移ります。奴隷にはあらゆる所有権がありませんから」
「あぁ、奴隷の持ち物は全部主人の物になるって話があったっけか」
「じゃあ、変なトコでは身売りさせちゃダメね。スクラヴォーヌとかで売られたりしたら、命がいくつあっても足りないでしょうし、リブラレールも魔族との小競り合いで他の土地よりもかなり危ないし」
「うむぅ・・・となると、勇者に身売りさせる場所も指定しといた方が無難か」
「王都でいいんじゃない? 治安の良さは折り紙付きでしょ?」
「却下。王都にはそう遠くない内に俺達がしばらく滞在する事になるんだ。こいつの顔は見たくない」
「あ、そっか。復讐があるんだっけ」
「ふ、復讐? 王都に仇でもいるのか?」
「いや、そんな大袈裟なモンじゃないよ。惨めな思いをさせてくれた礼に、ネチネチと地味な嫌がらせをしてやりたいってだけ。勇者が言ってたろ? 俺は勇者じゃないってので用無し扱いされて放逐されたんだよ」
「・・・・つまり、タカシ殿も異世界の人間という事か」
「ああ。こいつと一緒に召喚されて、この世界に来たんだ」
「やはりか・・・勇者との会話で予想は着いていたが・・・」
「あ、あの・・・・」
恐る恐るといった様子で声を上げる青髪女性エルフ。
「ん? 何?」
「あなたは異世界の方なのに、勇者様ではないんですか?」
青髪女性エルフの質問に、思わず膝を抱えて顔を伏せてしまう。
「え!?」
「そーだよ? 聖剣抜きに挑戦すらできずに、即行で用無し認定されたから。右も左も分からない世界で靴も無しで、どこへなりと好きにしろって言われたよ? 別にいーけど。所詮、俺なんかモブ男その1だし。脇役だし」
「あぁっ!? ごっ、ごめんなさいっ! そ、そういうつもりで聞いたんじゃなくてっ!! 勇者様よりもずっと強いから、実は真の勇者様とかじゃないのかなって思ったりしただけでっ!!!」
俺の落ち込み具合に相当に驚いたらしく、慌てた声でフォローしてくれる青髪女性エルフ。
優しい子だなぁ。咄嗟に<真の勇者>なんてフォローできるなんて。でも、それ、フォローにしても持ち上げ過ぎです。
「うわぁ・・・結構本気でダメージおっきいのねぇ・・・・」
「だ、大丈夫ですよ、ご主人様っ。ご主人様にそんな扱いをした者達が愚かなだけですっ! ご主人様はとてもお強くて凛々しくて、それでいてこの上なくお優しくて懐の深いとても素敵な私の愛するご主人様ですっ!!」
「そうですよっ! ですから、そんなに落ち込まないでくださいっ!!」
ジェラルリードの憐れむような声に続いて、セレアとリアが両側からぎゅっと俺を抱き締めて、渾身の慰めの言葉をかけてくれる。
うん。我ながら、ここの部分に関しては立ち直れてないのが意外だ。あの時の追い詰められてた時間はトラウマになってるっぽいな。時間としては僅かなモンだった筈だけど、結構長く感じたしなぁ・・・
それから、ジェラルリードが気絶中の勇者に強制魔法をかけて、魔法の使用を禁止した上で奴隷として生きるように命令を下した。身売りをさせる場所はリスタニカに指定。あの辺りならまだ治安もいいし、多少は王都から離れてもいるからとの事で決定した。これで顔を合わせる事になったら諦めるしかない。
あと、即行で死なれても反省させる事も後悔させる事もできないからってので、初回に限って魔法を使おうとしたら全身に激痛が走るだけなように調整してもらっておいた。
細かい調整ができる辺りがこの魔法の難易度を上げている要因らしい。その点、奴隷契約の魔法は結構大雑把らしいから、強制魔法の劣化版が奴隷契約の魔法って事になるのだろう。
勇者はこの後の人生全てを奴隷として送る事となりました。これまでの己の行いが全て己の身に返ってくる事となったのでございます。因果応報とは、正にこの事でございましょう。
それでは、<小心者の物語>第四章 第十二部、今回のお楽しみはここまでにございます。




