暴君 ~決着編~
主人公の逆鱗に触れた勇者。はてさて、その行く末は?
第四章 第十一部<暴君 ~決着編~>、どうぞ最後までお楽しみにくださいませ。
「チッ。随分勘がいいじゃねぇか。つまんねぇな」
「セレア。怪我、ないか?」
「は、はい」
勇者の言葉を完全に無視して、セレアを気遣う言葉をかけるタカシ。
いつも通りの口調に、いつも通りの優しい笑顔。だけど、タカシを包んでる空気がいつもと全然違う・・・アレ、完全にブチギレてるわよ・・・
「よかった・・・さぁ、下がってて。すぐに片付ける」
「はっ、はいっ」
セレアは文句も言わずに急いであたし達の所にやってくる。
邪魔になるって悟ったんでしょうね。あんなタカシ見た事ないもの。さっき猫人族の男に怒った時の比じゃないんだから。
「あぁん? 何、無視してくれてやがんだ? 余裕のつもッッッ!?!?」
セリフの途中で、後ろの連中も巻き込んで殴り飛ばされる勇者。さらに、倒れきる前にそのまま宙に蹴り上げられ、飛び上がったタカシに真上から蹴りつけられて地面に叩きつけられた。さらに、上から降ってきたタカシにお腹を踏みつけられて声にならない悲鳴を上げる。
「グハッ・・・テ、テッッ!?」
下からタカシを睨み付けて悪態を吐こうとした瞬間、顔を蹴り飛ばされて白い小さな物がいくつか血と一緒に空を舞う。さらに、タカシはそのまま何度も勇者の顔を無言のままに蹴り飛ばしまくる。片足でお腹を押さえ付けてるから勇者の体は固定されたままで、ただ顔の位置だけが左右上下に激しく揺さぶられ続ける。
その様子に、取り巻きの冒険者達もその奴隷達も、さらにはルーゲンブ達も顔を青ざめさせてるけど、身動き一つしない。まるで、蛇に睨まれた蛙。少しでも動けば、この怒りの矛先が自分に向けられるんじゃないかって怯えてるみたい。
コレ、怒ってるとかキレてるとか、そういう次元じゃなくない? あのタカシが無言で問答無用に攻撃を続けるとか・・・でも、このままやらせてたら確実に勇者を殺しそう。もし、そうなったら、タカシはきっと後で後悔しちゃう。禁忌とまで言ってた事なんだから。
「ご主人様!」「「タカシ!」様!」「「主様!」さま!」
皆同時に、声を上げる。誰も怖がってる様子なんか欠片もない。むしろ、心配そうな顔でタカシを見つめてる。それを他の連中は、余計な事をしてこっちにまで飛び火したらどうしてくれると言わんばかりの目で見てくる。
「ん? どうした?」
至極冷静な声で反応するタカシ。でも、こっちは見ようとしない。
バカね・・・ブチギレなあんたを見て怖がるような奴はあたし達の中にはいないっての。いやまぁ、あたし自身が怒られた時はビビっちゃったけど。
「そのくらいにしときなさい。後で辛くなんのはあんたなんだから」
「そうですっ! ご主人様がお辛そうにされる所なんて、想像もしたくありませんっ!」
「やめよぉ? 主さまぁ。そんな人の為に主さまが辛くなるのヤダよぉ」
「タカシ様がなんて言われても、絶対に後でご自分を責められるのは間違いないんですからっ! お願いしますっ! もう止めてくださいっ!」
「トドメ刺さなくても、主様だったらどうにかできる筈ですよね!? 絶対にそんな風に考えちゃうんですから、止めてくださいっ!」
口々にタカシに制止を促すあたし達。セレアとシャーンに至っては、涙目になってる。
「でも、こいつはセレアを殺そうとした・・・・俺が気付けなかったら、間違いなくセレアが死んでたんだぞ?」
怒りを噛み殺して言うタカシ。
本気でブチギレてんのに、声を荒げないのがホントにこの子らしいわ。
「ご主人様がお辛そうにされる方が私は嫌ですっ! ・・・お願いします、ご主人様・・・・」
「セレア・・・」
セレアの涙混じりの声に、勇者から降りてこっちに向き直るタカシ。
「・・・ハァ。分かったよ・・・・自分の甘さを否定しきれないってのが辛いトコだよ、まったく」
苦虫を噛み潰したような顔で言うタカシに、セレアが飛びついておもいっきり抱き締めた。
は、速っ!? 今の、真祖吸血鬼だった頃のあたしよりも速いんじゃないの!?
「いいえ。そんなご主人様ですから、私は心の底から愛しているんです」
「・・・そっか」
セレアをぎゅっと抱き締め返すタカシ。
「それなら、これでいいか」
「はいっ」
そのままタカシにキスをするセレア。
「「「「あぁ~~っ!!」」」」
それに対して、あたし達の不満の声が見事にハモって響き渡った。
「セレアさん、狡いですっ!! 私だってタカシ様の事を全身全霊で愛してるんですからっ!!」
「あたしだって主さまの事大好きだもんっ!!」
「それだけはあたしも絶対に負けてないんだからね!?」
「とにかく、セレアだけとかズルイわよっ!! こっちだって我慢してんだから、ちゃんと構いなさいよっ!!」
「ダメです。今はお譲りできません。甘えさせていただいたり我儘を言わせていただいたら、ご主人様は喜んでくださると以前に仰っていただきましたから」
しっかりとタカシを抱き締めたままでキッパリと言い切るセレア。
何それ!? ちょっと落ち込み気味のタカシを元気付けたいのは分かるけど、そんな羨ましい事、言われた事ないんだけど!?
「・・・よく覚えてるな・・・・まだ2人きりだった頃だっけか」
「勿論です。ご主人様が仰ってくださった事もご主人様と過ごしてきた時間も、全部が私の宝物ですから」
「ん、んん・・・ありがと」
セレアの言葉に、嬉しそうに頬を緩めて照れくさそうに顔を赤くしながら言葉を返すタカシ。
ちょっとっ! 2人きりの世界を作んないでよっ!! まったく、タカシはホントにセレアにトコトン弱いんだからっ!!
「・・・少し冷静になれたよ。助かった」
「いいえ。私はただご主人様に甘えさせていただいているだけですから」
「はは。うん。リア、ジェラルリード、シャーネ、シャーン、ありがとな。止めてくれて。いつも通りのノリでいてくれて」
「いいえ。私はただヤキモチを妬いていただけですから」
「あはっ♪ 主さま、いつも通りに戻った~♪」
嬉しそうに言うリアとシャーン。
「お礼なんていいから、後で絶対にあたしも構いなさいよ。いい? 分かった?」
「あっ、あたしも構ってほしいですっ!」
「あっ! ズルいですっ! 私も構ってもらいたいんですからっ!」
「はは。ホント、幸せ者だな、俺は。さぁ、もう少し皆と待っててくれるか? 勇者との決着をつけないとな」
「はいっ」
返事をしてタカシから離れてこっちに戻ってくるセレア。
でも、決着をつけるって言っても、どうするつもりなのかしら? 頭に昇った血は完全に下がったみたいだから、もう殺すような事はないでしょうけど。
「起きろ、クソガキ」
「う、うぅ・・・?」
タカシに足で揺さぶられて、意識を取り戻す勇者。
「っ・・・」
タカシに見下ろされて、勇者は恐怖に顔を引き攣らせて硬直する。
まぁ、結構な時間を問答無用で顔面を容赦なく蹴りまくられたら、ビビって当然よね。
「実感したか? これが、この世界のルールだ。お前も死ぬんだよ」
「ヒッ!? ヒィィィィッ」
仰向けのままに後退りをしようとする勇者だけど、ダメージが大き過ぎたせいで力が全く入らないらしく、ただ単にもがくだけになってる。
「・・・・その様子じゃ、単にビビっただけで欠片も反省はしてねぇな」
タカシの言葉に、大きく首を横に振りまくる勇者。
「まぁいいさ。簡単に矯正できるとも思っちゃいないし。とりあえず、≪眠れ≫」
タカシの魔法で、半身を起こしてた勇者の体がバタッと完全に倒れた。
「とりあえずはこれで終わりでしょうけど、この後ってどうすんの? このまま放置してたら、あんたがいなくなった後にまた元通りよ?」
「分かってる。思い付いた手はあるけど、完全にただの思いつきだから、できるかどうかも含めて落ち着いて話がしたい。一旦、魔族の拠点に戻ろう」
「つ、連れていくのか?」
恐る恐るといった感じにタカシに問いかけるルーゲンブ。
いや、そんなビビんなくても。タカシは関係ない奴に八つ当たりするような子じゃないから。
「ああ。完全に眠らせてるし、場所は特定できないから、今後のあんた達にも迷惑は掛けないよ。それに、こいつの処遇に関してはあんた達も気になるだろ? ルガンダさんにかけられた洗脳魔法もどうにかしなきゃだし」
「う、うむ・・・」
「勇者の奴隷にされている方々はどうしますか?」
リアの言葉に、完全に硬直したままで立ち竦んでいたエルフの女の子達がビクッと体を震わせる。
いや、だから、ビビんなくても大丈夫だってば。まぁ、無理もないのかもしんないけど、そういうリアクション取られると腹立ってくるから止めてくんないかしら。どうせ、タカシは全く気にもしてないんでしょうけど。
「あ~・・・逃げててくれたら楽だったんだけど・・・」
「逃げられないんです。奴隷が主人を置いて逃げるなんて、最大の禁忌の1つですから」
「もしかして、呪印が発動する?」
「はい。死に至る可能性もあります」
「マジか・・・それって、主人が拉致られても離れたらマズイとか?」
「ん~・・・事前の命令にもよるかと思いますけど・・・」
「そっか・・・なぁ? 離れたらマズそうだったりする? 」
タカシの問いかけに、奴隷のエルフ達はお互いに顔を見合わせて、困惑の表情を浮かべる。
「え、と・・・・多分、まずいと、思い、ます・・・・」
恐る恐る答える青髪のエルフ。
「あのさぁ、さっきのタカシの迫力が凄かったのは分かるけど、そんなビビんないでくれる? この子は関係ない奴に八つ当たりするような奴じゃないんだから」
「気持ちは分からなくもないけど、スッゴい気分悪い。最初に主様が怒ったのはあなた達の為なのよ? 忘れてるんじゃないの?」
「お、おいおい。ムチャ言うなよ。彼女達は俺の人となりも知らないんだし、問答無用で顔面蹴りまくるような奴が目の前にいたら俺も全力で逃げるぞ?」
「だってさぁ」
「気分悪いんですもん・・・」
「仕方ないですよ。勿論、私も気分は悪いですけど、虐げられてきた彼女達の境遇を考えたら文句は言えないです」
「そうですね。私はご主人様以外の主人は知りませんが、聞かされていた奴隷の生活を想像すると、何も言えません」
「主さまは特別だもんね~、絶対」
「チェッ。分かったわよ」
ムスッとして言うと、タカシが側に来て、あたしとシャーネの頭を撫でてくれる。
「ありがとな。ジェラルリード。シャーネ。気持ちは嬉しいよ」
「は、はいっ」
頭を撫でられた途端に頬を緩ませるシャーネ。あたしも自分の頬が緩んでるのは自覚してる。
我ながら、単純だなぁ。大体、こういうのってズルイのよ。何にも言えなくなっちゃうんだから。嬉しいから止めろとも言えないし、止められたら多分泣くけど。
「あの・・・・それで、猫人族の方はどうされますか?」
まだ顔を地面に埋めたままの猫人族の男に目を向けて言うリア。
「放置。後の事は知らん」
「い、いいんですか? もしかしたら、モンスターに襲われて殺されるかもしれませんけど」
「いーよ。そうなったらそうなったで。日頃の行いの結果だ。生き延びてどっかでまた会うような事があったら、もう1回ブン殴れるし」
「うわぁ・・・殴るんだ、やっぱり」
「当然だ。こんなもんでおしまいにできるか。本来なら、泣いて謝るまで痛め付けてやりたいんだぞ? 今回は頭に血が昇っちまって気絶させちまったけど」
「タカシ様のお心は痛みませんか?」
「全く」
心配そうに言うリアの言葉に、キッパリと言い切るタカシ。
「生き延びれる可能性は残してやってるんだ。それ以降の事にまでこんな奴の事を気にかけやしないよ。だから、心配すんな」
リアの頭を撫でながら言うタカシ。
「はいっ」
安心したように笑って返事を返すリア。
自分に地獄を見せた奴をどうこうするよりも、タカシの気持ちが重要なわけね。この子も大概タカシ中心よねぇ。まぁ、本人がそれでいいならいっか。爆砕させてやりたいトコではあるんだけど。
それから、タカシが眠らせたエルフの2人は勇者の奴隷のエルフ達が、ルガンダとかいってた魔族はルーゲンブの連れの魔族が、勇者はタカシが担いで拠点に向かって進み始めた。
勇者を担ぐのはセレア達がやるって言ってたけど、タカシが例え寝てても勇者にセレア達を触れさせたくないから絶対に嫌だって言って譲らないから、結局タカシが担いでる。
これって、もしかして、独占欲なのかしら? そういうの見る機会ってないから、タカシが妬くトコって見た事ないのよね。いつかそういうトコも見てみたいなぁ。リアみたいに、<俺のジェラルリード>とかって言われたら・・・だ、ダメッ!! 想像するだけでも、嬉しくて恥ずかしくて照れくさくてどうにかなっちゃいそう!!!! そりゃ、リアも超ご機嫌で足取りも軽くなるわよねっ!!
猫人族の男性が口にしていた通り、近接戦闘においてはチートを発揮していない勇者には主人公の問答無用な制裁には抵抗の術を持たなかったのでございました。
主人公と勇者との戦闘は一方的な展開で幕を降ろしましたが、問題はこの後にございます。外道と化した勇者の処遇はどのようになるのでございましょうか? 処遇に関する主人公の思いつきとは?
それでは、<小心者の物語>第四章 第十一部、今回のお楽しみはここまでにございます。




