暴君 ~憤怒編~
セレア達と合流した主人公とルーゲンブ一行。問題が山積みとなった状況でございますが・・・
第四章 第十部<暴君 ~憤怒編~>、どうぞ最後までお楽しみにくださいませ。
「で? 洗脳魔法をどうにかするって、どうすんの?」
「解除の方法ってないのか?」
「正直、見当もつきません。洗脳魔法自体が超々高等魔法ですし、エルフにも使える人なんていませんでしたから」
「うむぅ・・」
「やはり、命を絶つしかないのではないか?」
「短絡的な答えを出すんじゃねぇよ。言っただろ? 何一つあのクソガキの思い通りにはならせやしねぇって」
ルーゲンブさんの言葉に、低い声音で念押しする俺。
「しかし、洗脳魔法がそのままでは、目が覚めればまたご主人様を襲うのではありませんか?」
「まぁな。それも真っ平御免だから、何がなんでも何とかする」
「何故そこまで・・・」
「別にあんた達の為でもこの人自身の為でもないよ。ただ、あのクソガキの思い通りになるのは癪に触る。ここでこの人を死なせてみろよ。次にあのクソガキと顔を合わせた時に勝ち誇られるに決まってんだろ。我が身可愛さに操られてるだけの奴を殺した、綺麗事並べててもテメェも俺と同じだってな」
「・・・しかし、事実として、対処のしようがなければそうしざるを得まい?」
「だ・か・らっ、それが嫌なんだっての。それに、ここで洗脳魔法の解除方法を見つけとけば、万一セレア達が同じ目に遭わされてもすぐに対処できるだろ。ぶっちゃけた話をすりゃな、別にルガンダさんだけを殺すってのなら好きにしてくれりゃいいんだよ。でも、セレア達だけは何があっても絶対に死なせられない。殺させてたまるか」
「・・・甘いな・・・・」
「甘いんじゃなくて、死ぬ程我儘なんだよ、俺は」
「我儘、だと?」
「ああ。俺は何一つ失う事なく、皆で笑って明日を迎えたいんだ。その為なら、何でもしてやる」
「そんな事がいつまでも続くわけがなかろう! 現実を見ろ!」
堪えかねたようにルーゲンブさんが声を荒げる。
「あの勇者の戦闘力は完全に常軌を逸しているのだぞ!? 洗脳魔法など、最早伝説上の代物だ!! 解除法など、お伽噺にすら出てこんっ!! その上、奴の魔法は発動の速さも威力も尋常ではないっ! それを相手に何も失わんなど、理想論を通り越して幼子の夢物語だっ!!」
肩で息をしながら一気に言い切り、それから肩を落とすルーゲンブさん。
うむぅ・・・これは相当に追い詰められてんなぁ。次元の違いを見せつけられたけど、魔族全体の為には勇者を放っておくわけにはいかない。でも、それには仲間の犠牲を覚悟しざるを得ないってトコに、理想論を吐かれて頭にきたって感じかね?
「ジェラルリード?」
「ん?」
「あの禁呪と洗脳魔法とじゃどっちがムチャな代物なんだ?」
「禁呪、だと?」
「そんなの、禁呪に決まってんでしょーが。真祖吸血鬼を元の人間に戻すような魔法が洗脳魔法ごときと比べられる方がおかしいわ」
ルーゲンブさんの訝しげな言葉を無視して、俺の問いに答えるジェラルリード。
「ついでに、四属性複合魔法の方も洗脳魔法よりも有り得ないから。ましてや、それを初級魔法と同じ難易度に感じてるとか、もう理不尽とかどうとかじゃなくて笑うしかないわね」
さらに言葉を続けるジェラルリード。その声には微妙に険が混じっている。
「えぇ~っと・・・・もしかして、魔力操作力で圧倒したのを根に持ってる?」
「べぇつぅにぃ? ポッキリと心が折られそうになったけど、真祖吸血鬼としてのプライドがズタズタにされたような気がするけど、ぜ~んぜん根になんか持ってないわよ?」
「・・・しっかりと持ってんじゃねぇか・・・・」
「何を・・・何を言っている?」
「分からない? あたしは元真祖吸血鬼だって言ってんのよ」
ジェラルリードの言葉に、唖然として固まるルーゲンブさん達。
「紅と漆黒の美姫って知らないかしら? アレ、あたしよ」
「ば・・馬鹿馬鹿しいにも程がある。貴殿は人間族だろう?」
「≪影よ。我が望む地へ誘え≫」
ジェラルリードの姿が影に沈み、俺の後ろから浮かび上がるように現れて抱きついてくる。それを見て、ルーゲンブさん達は驚愕の表情で硬直する。
いやまぁ、普通の人間族にはできない事をして証明しようって意図は分かるんだけど、抱きつく必要はないんじゃない? セレア達が恨みがましそうに見てるんですけど。
「どう? これでもあたしがただの人間族だと思う?」
「・・・し、しかし、真祖吸血鬼が人間族になるなど、聞いた事も・・・・」
「そりゃそうでしょうよ。2500年以上前に考えられてはいたけど、誰も使った事がなかった禁呪なんだから」
「・・・・確かに、貴殿もただの人間族ではないのだろう。しかし、いくらなんでも話が荒唐無稽過ぎる。信じられるわけがなかろう」
「でしょうね。だから、タカシに見せてもらえば? 禁呪はもう使いようがないけど、四属性複合魔法なら今でも見られるんだし」
「有り得ん!! 四属性複合など、夢物語、いや、妄想に過ぎん!!」
「だーかーらぁ、見せてもらえって言ってんのよ。目の前にしたら信じるしかないでしょ?」
「四属性複合魔法ってそんなに有り得ないモンなのか?」
「はい。普通は相性の悪い属性が2つあるんです。その属性の魔法を使う場合は、同じ規模の魔法でも相性の良い属性の魔法よりも難易度が跳ね上がってきてしまうものなんです」
「あぁ、確か、レンシディオさんがそんな事言ってたっけ」
「しかも、2つ以上の属性を複合させる魔法自体が超高等魔法です。そこに、相性の悪い属性を含めるとさらに爆発的に難易度が跳ね上がります。まず、成功できません」
「成功できないって、それ、魔力欠乏で死ぬんじゃ?」
リアの解説に、顔が軽く引き攣ってしまう。
無自覚に普通なら死ぬような魔法を使ってたって事ですか? あの時はジェラルリードを説得する為に必要だったとはいえ、思い返すとゾッとするな。まぁ、それを知っててもやったんだろうけど。
「死ぬわね、間違いなく。真祖吸血鬼の連中には二属性複合魔法すら扱えない奴らもいるくらいなんだから」
「真祖吸血鬼でもか!?」
「複合ってのが難易度も威力も跳ね上げてるのよ。同時発動だけでも充分に人間族には不可能な芸当だし」
「凄かったよね~。あの時の主さま」
「凄いって言うか、凄まじいって言うか・・・・言葉になんないわよ、アレは」
「ま、言ってても信じられんだろ。外に出ようぜ。見せてやっから」
「断っておくが、幻術の類いは我らには通用せんぞ」
「はいはい」
剣呑な口調で言うルーゲンブさんの言葉を軽く受け流す俺。
しかし、どこに向かって撃とう? 適当な方向に撃っても、アレ、とんでもない威力があるからどこに向かって撃っても結構な規模の自然破壊になりそうなんだよな。下手に目立ったら勇者にここがバレるかもしれないし。まぁ、地面でいいか。さすがに地殻をブチ破るような事にはならないだろ。
「≪大地よ。我が意に従い投擲槍と化し、雷炎と切り裂く風を纏いて、大地を穿て≫」
俺の魔法が少し離れた所の地面に突き刺さり、爆音と共に盛大に土煙を上げて巨大なクレーターを作り出す。それを見て、ルーゲンブさん達は驚愕の余りに口を半開きにして完全に硬直する。
やべぇ・・・想像以上に威力がパネェ。これ、遠くからでも確実に分かっちまうぞ。転位魔法でここに来られると厄介だ。すぐに移動しないと。
「話の続きは後だ。すぐに移動する」
「あ、はいっ」
「そ、想像以上の威力だったもんね・・・居場所、バレたかしら?」
「多分な。だから、とりあえずは拠点の」
俺の言葉の途中で、突然、目の前に見覚えのある女性エルフが2人、初めて見る男性猫人族が1人の姿が現れる。
転位魔法・・・くそ、やっぱり見つかっちっまってたか。しかも、本人じゃなくて奴隷に先行させるとか、本気で心底腐ってやがる。
「あ・・・」
「当たり・・・いえ、この場合は大ハズレね。違う事を願ってたんだけど・・・」
「はぁ? 何言ってやがんだ。<いませんでした>であのユウシャサマが納得するかよ」
悲しそうに顔を俯かせる女性エルフ2人に対して、吐き捨てるように言う男性猫人族。
「また会えてよかった。あのあとの事が気にはなってたんだ。あのクソガキに酷い事されてないか?」
「え? あ、は、はい・・・平気です・・奴隷になってから初めてあんなに優しくしていただけましたから」
悲しそうな笑顔を浮かべて言う橙髪女性エルフ。
平気って事は、やっぱり何かされたのか・・あのクソガキ・・・!
「ごめんなさい・・・あんなに優しくしていただいたのに、私達はタカシ様を殺せと命令されてるんです」
「だから、タカシ様。どうか、私達を殺してください」
「なっ!?」「はぁぁぁぁっ!?」
俺と男性猫人族の驚きの声が重なる。
「何バカ言ってやがる!? 多少魔法に強かろうが、あのユウシャサマですら肉弾戦になりゃ屁でもねぇ程度なのは分かってんだろうが!? ん?」
喚き立てる男性猫人族はこちらに目を向けて、何かに気付いたような不意に語気を緩める。
「お前・・・リアじゃねぇのか?」
「え? あっ!?」
声をかけられたリアは驚きの声を上げると同時に、表情を一気に嫌悪で埋める。
「へぇ~。生きてたのかよ? あんな派手な魔法使って蟻どもの注意を集めまくってくれたから、てっきりもう蟻の餌になっちまってるかと思ってたぜ。まぁ、おかげで俺は安全に逃げられたけどな」
「リア? もしかして、あいつは・・」
「惜しいと思ってたんだぜ? 結局お前は喰えてなかったガッ!?」
リアが口を開こうとしたところに、確信を持って余りあるセリフが男性猫人族から吐き出され、言い切らせる前に殴り飛ばしてやる。
「ギッ。テ、テメェ・・・」
「生きててくれて嬉しいよ。お前」
「ヒッ!?」
起き上がりながら悪態を吐く男性猫人族は、俺と目が合うと声を引き攣らせたような短い悲鳴を上げて後退りをする。
「前の主人は間違いなく、くたばっちまってるからな。俺のリアに苦渋の日々を与えてくれた奴らに礼ができそうもなくて悔しかったんだ。ホントによく生きててくれたよ」
俺はゆっくりと歩み寄っていくが、それ以上の勢いで後退りをして俺から逃げようとする男性猫人族。
しかし、後ろ向きに進んでいたせいか、盛大にすっ転んでしまう。
「おっ、おおお、俺っ、ちがっ、違うっ」
四つん這いになって、尚も逃げようとする男性猫人族の尻尾をおもいきり踏みつける。
「イギィィィッ!?」
「何が違う?」
男性猫人族の髪を鷲掴みにして、そのまま立ち上がらせる。
「同じ奴隷なのに、辛い境遇にあるのを承知の上でリアを襲おうとしてたんだろ?」
「ちがっ、おっ、俺は結局何もォォォッ!?!?」
俺の膝蹴りが男性猫人族の鳩尾に入って言葉を中断させる。
「襲おうとしてただけで充分に万死に値する・・・リアの苦しみの億分の一だけでも味わえ」
髪を鷲掴みにしたままで男性猫人族を顔から地面に叩きつけて、間髪入れずに上から踏みつけるように蹴りを叩き込みまくり、頭の半分が一気に地面にめり込んだ。男性猫人族の体はピクピクと小さく痙攣している。
「タカシ様・・・」
「ん。ごめん。一気に頭に血が昇っちまった。言いたい事もあったろうにな」
首を振って俺に飛びついてくるリア。俺はそのままぎゅっと抱き締める。
「いいえっ。タカシ様がこんなに怒ってくれたのが嬉しくて、何もかも全部が吹き飛んでいきましたっ。ありがとうございますっ! 本、当に・・ありがとうござ・・・す・・・」
俺の胸の中で小さく声を漏らして泣き出すリア。
トラウマの一部だろうからな・・・俺なんかじゃ想像もできないくらいに辛い日々を送ってたんだ。こいつをブチのめしたところで、ほんの少しの気休めにしかならないだろう。こんな事しかしてやれないのが死ぬ程もどかしい。
「・・凄い迫力だったわねぇ・・・しかも、問答無用であそこまで叩きのめすのなんか初めてじゃない? まぁ、当然でしょうけど」
「主さまもこんなに怒ったりするんだ・・・いいなぁ、リアさん・・・」
「うん・・・いっつも優しくて、全然手を出したりしないのにね。ちょっと羨ましいかも・・・」
「ご主人様は私達に対しての事にだけは寛容ではありませんから。できれば、もっとご自身に対する態度にも厳しくしていただきたいんですが・・・」
「そうね~。自分の事に関しては滅多に腹も立てないんだから」
「俺の事はいーんだよ。冒険者証1つで済む程度の事だし、そもそも目立ちたくないんだから」
「ふふ。キョドっちゃうもんね~。アレはホントに笑えたわ」
小さく肩を震わせて笑いを堪えながら言うジェラルリード。
こんにゃろう・・・アレで白金に昇級させられて、挙動不審がどんだけ加速したと思ってんだ。セレアとリアが元気付けてくれなきゃ、外に出るのが嫌になるトコだったんだぞ。まぁ、結果としちゃおもいっきりプラスにはなってるけど。
「あ、ごめんな。怖がらせちまったな」
女性エルフ2人に視線を戻して言うと、2人とも静かに首を振る。
「いいえ。この人は私達にも酷かったですから、少し気が晴れました」
「そっか。なら、よかった」
「すみません、タカシ様。落ち着きました」
俺の腕の中で涙を拭きながら言うリア。
「ん。でも、もうちょっとこのままでいてくれるか?」
「え?」
赤くなりながら俺を見上げるリア。
「こうしてたいんだ。ダメか?」
俺の言葉に、おもいきり首を振りまくり、再び俺をぎゅっと抱き締めるリア。
「ダメなわけないですっ! 一生このままがいいくらいですっ!!」
「ありがと。リア」
長い耳を真っ赤に染めながら言うリアに軽くキスをすると、リアは心底嬉しそうに笑って、照れくさそうに俺の胸に顔を埋める。
やっぱり胸当が邪魔っ! 防具はマジでいらんぞっ!!
「・・・・ほ、本当に仲がいいん、ですね・・・・」
半ば信じられないといった口調で言うリアと同じ緑色の髪をした女性エルフ。
「ま、惚れてるからな」
俺の言葉に、俺を抱き締める力が一瞬きゅっと強くなるリア。
本気でこいつはリアクションがいちいち可愛過ぎなんだよっ。そういうのは照れくさくなるから勘弁してくださいっ。
「そ、それはそれとして、殺してくれってのはどういう意味だよ?」
「・・・勇者様に命令されているんです。タカシ様を殺してこいと。私達の命と引き換えにしてでも、手傷は負わせろと・・・」
「・・・つまり、生きてる限りには俺を攻撃しなきゃならないって事か・・・」
「はい・・・・でもっ、タカシ様は自分のものでもない会ったばかりの私達に優しくしてくださいましたっ。ご自分が危険に晒されるのも厭わずに、私達を気遣ってくださいましたっ!」
「そんな・・・そんな方に刃なんて向けたくありませんっ! だから」
「やめろよ、そういうの」
「「え・・・?」」
「簡単に命を捨てるような事を望むんじゃない。俺なら、あんた達を殺さずに無力化するくらいなんとでもできる」
「でもっ! 生きている限りには貴方を殺そうとしていないと、呪印が発動して死んだ方がマシなくらいの痛みに襲われるんですっ!! もう、あんなの・・・耐えられない・・・・」
涙を溢れさせる橙髪女性エルフ。
「・・・だから・・・・・楽に、してください・・・・・タカシ様に殺されるなら、我慢できます、から・・・・」
緑髪女性エルフも涙を流しながら言ってくる。
「でも、その命令が撤回される、もしくは無効になれば平気だろ?」
「そんなの、どうやっても」
「≪おやすみ≫」
俺の魔法で女性エルフ2人が眠りに落ちて、そのまま地面に倒れる。
「眠らせてどうすんの? 奴隷の呪印が無効になるわけじゃッ!?」
ジェラルリードは俺の顔を見て、セリフを中断させてしまう。
うむぅ・・・いかんな。怒りが顔に出まくってたか。
「タカシ様?」
腕の中のリアが俺を見上げてくる。
「ん・・・元気出たか?」
「はいっ。タカシ様のおかげですっ。ありがとうございますっ」
リアの明るいいつも通りの声を聞いて、リアをゆっくりと離す。
「ううん。俺にしてやれるのなんか、これくらいの事だけだからな」
「ちょ、ちょっと? タカシ? 何考えてんの?」
「ご主人様?」
不安気に声をかけてくるジェラルリードと心配そうな声を出すセレアに、できる限りにいつも通りの笑顔を浮かべる。
「うん。ごめん。今からあのクソガキ潰してくる」
「お1人で行かれるおつもりですか!?」
「洗脳魔法がある以上は誰も連れていけない。洗脳された後の対策を悠長に考えてる余裕もなさそうだしな」
「しかし、勇者さんには取り巻きもいる筈ですっ! お1人でなんて、いくらなんでも無茶過ぎますっ!!」
セレアの悲痛な言葉が言い切られると同時に、死ぬ程に嫌な悪寒が背筋を走る。
「≪強制転位!!≫」
俺の魔法でセレアが俺の腕の中に転位してくると同時に、セレアが元いた場所のすぐ後ろに勇者が現れる。何人もの冒険者と奴隷を後ろに引き連れて、セレアのいた空間に剣を突き出すようにしながら。
それを認識した瞬間、俺の頭の中で何かが切れる音がした。
勇者がとうとう主人公の逆鱗に触れてしまいました。基本的に事なかれ主義な主人公ではございますが、追撃に現れた勇者一行にどのような対処をするのでございましょうか?
それでは、<小心者の物語>第四章 第十部、今回のお楽しみはここまでにございます。




