暴君 ~洗脳編~
まずは勇者との対話を目的とした行動を開始した主人公一行。しかしながら、戦闘中と思われる勇者との対話は成立するのでございましょうか?
第四章 第九部<暴君 ~洗脳編~>、どうぞ最後までお楽しみにくださいませ。
爆音が断続的に響く方向に進んでしばらくして、セレアが厳しい表情で足を止めた。半拍遅れて、俺達も足を止める。
「間違いなく勇者さんです。しかも、追われているのはルーゲンブさん達のようです」
「チッ。俺達の所からの帰りに鉢合わせしちまったのか」
「タイミング的にそうでしょうね。どうするの?」
「・・・予定通りに行動に移す。ルーゲンブさん達を連れて逃げ出すだけになるかもだけど」
「・・・・・分かりました。しかし」
「分かってるよ。約束は守るさ」
泣き出してしまいそうなのを必死に堪えているセレアの頭を優しく撫でてやる。
「・・・はいっ!」
「うん。場所は?」
「右前方、おおよそ1時間程の距離です。そこから前方へと蛇行するように進んでいます」
「了解。んじゃ、ちょこっと行ってくる。皆はここで待っててくれ」
「「「はい」」です」「うん」
セレア以外の4人の返事が重なる。
「絶対に無事に帰ってきてくださいね? タカシ様がいなくなっちゃったら、私は生きていけないです」
「絶対だよ? 絶対、絶対の絶対に無事じゃなきゃヤだからね?」
「無事じゃなかったら泣きますからね?」
「約束破ったら承知しないんだから。分かっているでしょうね?」
「任せとけ。俺が1度でも約束を破った事があるか?」
皆の不安を少しでも軽くできるように、不似合いな不敵な笑みを浮かべて似合いもしない強気なセリフを口にしてみせる。
すると、勇者の位置を答えてから、口を開かなくなったセレアは弱々しく俺の服の裾を掴んできた。目には涙が零れ落ちんばかりに溜まっているのに、必死で笑顔を保とうとしている。
「・・・い、ってらっしゃい、ませ。ご主人様」
「セレア・・・ばーか。そんな顔するな。すぐに戻る」
セレアを優しく抱き締めると、今までで1番力強く抱き締め返される。
「俺を信じろ」
「! はいっ!!」
涙が溢れ、流れ落ちながらも精一杯の笑顔を向けてくれるセレア。
こんな寂しがり屋で甘えん坊な可愛い奴を残してどうにかなるワケにはいかんよなぁ。ましてや、勇者を放っておけないってのは単なる俺の我儘なんだ。それでこいつらを悲しませるような結果だけは絶対に許されない。
セレアにキスをして、離れさせる。
「≪我が望む場所へ≫」
転位魔法が発動する寸前にセレアの手が俺に伸びてきて、届く前に発動して俺の視界からセレア達が消えて、次の瞬間には醜悪な笑みを浮かべた勇者と取り巻きの冒険者達が映った。
「「「「「「「「なっ!?」」」」」」」」
突然の乱入者の出現に、勇者一同は驚きの声を上げて固まる。チラリと勇者達の進行方向へと目を向けると、魔法を防いだ直後なのか、爆煙の中にルーゲンブさん達の驚いた顔が見えた。
なんとか無事か。でも、少数で対抗できるような相手じゃないって言ってたのに、正面から魔法を防いで足を止めてるって事は追い詰められてたって事か? 危ねぇ・・・ギリギリじゃんか。
「テッ、テメェは!?」
「よぅ。勇者くん」
「よくもヌケヌケと俺様の前に顔を出せたモンだなぁ!?」
「フゥ・・・別に期待しちゃいなかったけど、増長具合は改善どころか悪化してんじゃねぇの? 日本で<俺様>なんてリアルに口にしてたら、失笑モンだぞ?」
「な・・・なんで・・・・」
「大体、王宮にいた時は青い顔して震えてたってのに、よくそこまで増長できるよな?」
「あ・・・・テ、テメェは・・・・」
「ここが異世界だからって常識と良識まで無くしていいって道理にはならねぇぞ。エルフの奴隷の扱いといい、魔族を相手に嬲るような真似をしてんのといい、マジでモラルも何もかも無くしてんのか? 」
「うっ、うるせぇぇぇっ! 何が常識だ! 何がモラルだよ!? ここじゃコレが常識だろうがよ!? 綺麗事並べやがって!! 大体、テメェも奴隷相手に好き勝手やってんだろうが!メスの奴隷ばっか引き連れやがってよぉっ!!」
俺と勇者とのやり取りに、他の面々はワケが分からないといった感じで硬直してしまっている。話の邪魔にはまだならなさそうだ。
でも、ルーゲンブさん達にまで動く気配がないのは困った。できれば、俺に注意が向いてる隙にコッソリ離脱しといてほしいんだけどなぁ。まぁ、仕方ない。いざとなれば、俺の転位魔法でまとめて跳べばいいだけだ。
「勘違いするなよ。彼女達は彼女達の意志で俺の側にいてくれてるんだ。まぁ、ハーレム築いてる時点で日本にいたら周りは全部敵になるだろうけどな。奴隷契約で強制的にしか動かせないテメェらと一緒にするんじゃねぇよ」
「ケッ! 勇者になれないで捨てられた奴がイキって説教垂れてんじゃねぇぞっ! ・・・そうだ。俺は王国が認めた勇者様なんだよ。亜人も獣人もっ! 人間族の道具にしか過ぎねぇのがこの国の常識だろうが! その国が認めた俺様に偉そうな事ぬかしてんじゃねぇっ!!」
「・・・なるほど。お前はもう、この世界、この国の常識で生きてるわけだな? 元の世界の倫理観も常識も良識も、何もかもがもう関係ないってわけだ」
「ハッ! 当たり前だろうが!? ここがどこだか分かってんのかよ!? 指輪を外したら、言葉も通じねぇ別世界だろうがよ!! もう2度と戻れねぇ世界の事なんざ関係あるかよ!!」
「OKOK。お前の言い分はよぉく分かった。≪それなら≫」
セリフの一部を魔法発動の言葉に換えて、勇者の背後に転位する。
「なっ!? ど、どこに!?」
「うっ、後ろっ!」
冒険者の言葉にバッと振り返る勇者。
「この世界の決まりに従って生きるって事は、この世界の決まりに従って殺されても文句はないな?」
「な・・・」
「ここの基本は弱肉強食。強い奴が殺して、弱けりゃ殺される。チート発動で自分と同格以上の奴がいなかったから想像もしてなかったか? お前も、殺されるんだよ」
「ぐ・・・」
「でも、ただでは死なせない。お前が他の人達に与えた屈辱と絶望の分だけ、恐怖と苦痛の中で狂い死ね。それが嫌なら、今の自分の考え方を悔い改めて、これまでに虐げてきた人達に許しを乞え。許しが得られたら生かしておいてやってもいい」
「舐めてんじゃねぇぞ!」
勇者が吼えると同時に、勇者の脇から恐ろしい勢いで拳が伸びてくる。
「なっ!?」
慌てて身を翻して拳を躱し、大きく飛び退いて距離を取る。
勇者がニタリと笑い、横に一歩体をずらすと、そこには拳を突き出したルーゲンブさんのお付きの1人の青髪男性魔族の姿。
「ちょっ!?」
「ウ、ア、アアァ」
青髪男性魔族は機械的な動きで俺に再び襲いかかってくる。
ちょっと待てぇぇぇっ!? 何がどうなってこうなってんだ!? この人が俺に反感持ってたにしても、勇者は謂わば共通の敵だろ!? それを無視して攻撃される程には嫌われるような事した覚えはないぞっ!?
「ギャハハハハハッ! どぉしたどしたぁ? 舐めた口叩いといて、逃げるだけか? あぁっ!?」
青髪男性魔族の拳をひたすら躱し続ける俺に、勇者の嘲笑が飛ぶ。
「ちょっ! 待った待った待った!! 俺、あんたにそこまで嫌われるような事した覚えがないんだけど!?」
「なんだぁ? テメェ、魔族と知り合いなのかよ? ギャハハハハハッ! こりゃ笑わせやがる!! 全人間族の敵決定だなぁ、おい!!」
「クソどやかましいわ! お前はちょっと黙ってろ! 先に潰すぞ!!」
「あぁん? まぁだこの俺様にそんな口叩く余裕があんのかよ? ≪行け!!≫」
勇者の言葉に、勇者の近くに立っていた冒険者達の体がビクンッと震えると、そのまま青髪男性魔族のように機械的な動きで俺に襲いかかってくる。その数、6人。
待てぇぇぇっ!? いくら何でもこの人数相手に手を出さずに無傷を保つ自信なんてないんですが!? っつーか、人間族が魔族と共闘して俺に襲いかかってくるって、俺はどんだけ嫌われ者なんだよっ!?
「倒せ! ルガンダも、もはや正気ではないっ!!」
必死で身を躱す俺に、ルーゲンブさんの悲痛な叫びが投げ掛けられる。
「正気じゃないって・・・!! まさか・・・・勇者!? お前、洗脳系の魔法で操ってやがるのか!?」
俺の言葉に、勇者はニタリと醜悪で邪悪な笑みを浮かべる。
こ、こいつ・・・仲間な筈の人間族の冒険者までとか、有り得ねぇだろっ!?
俺がルガンダと呼ばれた青髪男性魔族の拳を躱すと、その拳が俺を取り囲もうとしていた冒険者の1人の腹に刺さり、貫通する。それでも、俺に襲いかかってきている冒険者達は僅かにも気にかけた様子もなく、ゆっくりと倒れていく冒険者を押し退けるようにして俺に攻撃を繰り返す。
しかし、魔法をかけられていない冒険者達はそうはいかない。口々に動揺の声を上げる。
「うぅぅるせぇぇぇっ!! 文句があんのなら、殺った魔族に言いやがれ!! それか、とろくせぇ真似したあの馬鹿本人になぁっ!」
「ざっ、ざけんなっ!! テメェが操ってんだろ!? 仲ッマ、ヲ」
勇者が小さく口を動かすと、抗議の声を上げた冒険者はセリフの途中で体を震わせ、俺への攻撃メンバーに加わってくる。
「・・・・俺に文句がある奴は言ってみろ。糞程の役にも立ちゃしねぇ雑魚どもが」
勇者の言葉に、冒険者達は押し黙り、恨みがましそうな視線を地面に向ける。
し、心底腐ってやがる。人間ってのはここまで腐れるモンなのか? 矯正とか、俺の考えが甘かった・・・こいつは真性のクズだ!
俺がまた攻撃を躱して、ルガンダさんとの距離が少し開くと、そのルガンダさん目掛けて火炎球が放たれる。
「! ≪立て!! 水柱よ!!≫」
「な!?」
俺の魔法がルーゲンブさんの放った火炎球を押し上げるように飲み込むのと同時に、ルーゲンブさんの驚きの声が上がる。
「何をしている!? 言っただろう!? もはや」
「それはこっちのセリフだ!! 何、仲間殺そうとしてやがんだ!? 正気じゃない!? 俺の知った事か!! 勝手に諦めて余計な真似してんじゃねぇっ!!」
「な・・・」
「こんな真性のクズの為に、何かを失うなんて真っ平御免だ!! このクソガキの思い通りになんか何一つならせてたまるか!!」
「タカシ殿・・・」「テメェ・・・」
ルーゲンブさんの感情を圧し殺した声と、勇者の憎悪が籠った声が重なる。
「とりあえず、1回離れてもらうぞ! ≪吹き飛べ!!≫」
俺を中心にして、突風が巻き起こり、俺に攻撃を繰り返すルガンダさんとルーゲンブさん達、さらに倒れた奴を含めて7人の冒険者が大きく吹き飛ばされる。勇者はガードしたらしく、周囲の冒険者達も含めて微動だにしていない。
「舐めてんじゃねぇぞ!」「≪跳べ!≫」
勇者の激昂と俺の転位魔法発動の声が同時に上がり、俺はルガンダさんの側に転位する。
「≪おやすみ≫」
側に来た俺に尚も襲いかかろうとするルガンダさんは俺の魔法でアッサリと眠りに落ちて、その身を地面に横たわらせる。
「≪消し飛べぇぇぇっ!!≫」
そこに、勇者の放った無数の火炎球が辺り一面に降り注いでくる。
こいつっ! マジで徹底して見境が無さ過ぎるっ!!
「≪連続転位!!≫」
俺は咄嗟に思い付いた魔法を発動させて、ルーゲンブさん達の所へ転位して視界に捉えた瞬間、さらにルーゲンブさん達ごと転位する。
うぉ・・・これ、結構疲れる。
「ご主人様!」「タカシ様!」「主さま!」「主様!」「タカシ!」
視界にセレア達が映った瞬間に、全員が一斉に飛びついてくる。当然、踏ん張り切れる筈もなく、揉みくちゃ状態で倒れてしまう。
「イテテ・・・わりぃ。遅くなった。でも、無傷記録は無事更新だから許してくれよ?」
声を上げて泣きじゃくるセレア達を、そのまま抱き締めて言葉を紡ぐ。
予定外に長くなっちまったからなぁ・・・悪い事しちまったな・・・・
「よか・・よかった・・・・ご主人様の、身に何、かあった、のか、と」
「長過ぎ、で、すよぉぉぉぉ」
「ごめん」
「何やってんのよぉ。このばかぁ~」
「主さま~ぁ」
「ヒグッ、ばかぁ~」
「ごめんってば。でもほら、無傷記録はちゃんと更新してきたから。な? もう泣いてくれるなよ」
しゃくりあげながらセレア達は俺から離れて、それぞれ立ち上がり、俺も立ち上がる。
「ご主人様・・・」
再びセレアは俺に抱きついてきて、きつく抱き締めてくる。
「ん。心配かけたな。ホントにごめん」
言いながらセレアをそっと抱き締め返す。
「いいえ・・・ご主人様がご無事なら、セレアはそれだけで充分です・・・・本当によかった・・・」
「一体何があったんですか? 勇者がいる方向からとんでもない爆発が起きて、ここから見えるくらいの大火事になってますよ?」
「げ、マジでか?」
リアの言葉に、セレアを抱き締めたままで視線を勇者達がいた方向へと向けると、薄闇色の空の一部が赤く染まっている。
これ、取り巻きの冒険者達は死んでんじゃないのか? 一緒に連れてこられてた奴隷の人達が無事ならいいんだけど・・・
「さっきの爆音が響いたのと同時にあんたが戻ってきたのよ? あ、ルーゲンブ達もか」
「ついでか、ルーゲンブさん達は。いくらなんでも失礼だぞ、ジェラルリード」
「いや、構わん。助けられた身でそんな事で文句を言う気にもならん。すまん。また借りを作ってしまったな」
ルーゲンブさんの言葉に、俺はセレアを離してルーゲンブさん達の方へ向き直る。
「別にいーよ。拠点を貸してもらってるんだから、それでチャラだ。それより、そっちは怪我とかないのか?」
「ああ。大した怪我はしておらん。しかし・・・」
ルーゲンブさん達の視線が眠ったままのルガンダさんに注がれる。
「? なんで寝てるの? この人」
「俺が眠らせたんだ。勇者の洗脳系の魔法にやられちまってたからな」
「洗脳魔法!? まさか、本当に使えるんですか!?」
「ああ。しかも、敵対してる魔族だけならまだ理解のしようもあるけど、仲間な筈の人間族の冒険者達にまで洗脳系の魔法で操って俺にけしかけてきやがった。多分、1人は死んだだろうし・・・」
「・・ムチャクチャですね・・・生身で洗脳魔法が使えて、しかも複数の対象を同時に・・・・」
「だから言ったでしょ? <ちーと>ってのは理不尽極まりないって」
「<ちーと>? それが奴のあの魔法を操る力の正体か?」
「正体が分かっていれば、対抗策もあるのではないのか?」
「残念だけど、正体ってより能力の名前が分かってるってだけ。対抗策も何も、あれは理不尽の塊みたいなもんとしか思えないんだから」
ルーゲンブさんとお連れの金髪男性魔族の質問にジェラルリードが投げやりな口調で答えると、ルーゲンブさん達は少し肩を落とす。
「・・・ところで、タカシ殿。聞きたい事があるのだか」
「あ~・・・さっきの勇者との話の内容に関してか?」
俺の確認の意味での問いに軽く首肯するルーゲンブさん。
うむぅ・・・まぁ、あそこまで喋っといて、もう隠しとく意味もないか。でも、その話より先にルガンダさんの洗脳魔法を解除しとかないとマズイんじゃなかろうか? オーガを撲殺するような拳に狙われるのはもう御免被りたい。マジで怖いっての。
「分かった。それに関してはもう隠しとく意味もないだろ。でも、先にルガンダさんの洗脳魔法をなんとかしないと、もう襲われるのは真っ平だぞ」
「「「「「<襲われる>?」」」」」
おもいきり怒気を滲ませたセレア達の声が見事にハモった。
「どういう事でしょうか?」
「事と次第によっては、タカシ様が許されても私達が許しませんよ?」
「説明、ちゃんとしてくれるわね?」
「ま、待て待て待て。洗脳魔法って言ったろ? 勇者に操られての事だってば」
「ホントに? それだけ?」
「む、無論だ。タカシ殿は恩人であり、勇者の戦力を削る為の重要な戦力だ。勇者を放ってまで敵対する理由も利点もない」
ジェラルリードの威圧感全開の問いかけとセレア達の放つプレッシャーに、顔を若干引き攣らせながら答えるルーゲンブさん。
こ、怖ぇぇぇぇっ! 迫力が半端ないんですけどっ!? ルーゲンブさんは魔族のお偉いさんっぽいのに、ちょっと気圧されてんぞ、おい。
勇者に対する主人公の認識の甘さが浮き彫りとなりました。この勇者に対して、主人公は今後どういった対処を行うのでありましょうか?
それでは、<小心者の物語>第四章 第九部、今回のお楽しみはここまでにございます。




