暴君 ~恩返し編~
勇者と完全に対立する事になった主人公一行。普通ならば、先行きの暗さに気が滅入るような状況な筈なのでございますが、主人公達はいつもと変わらぬノリのままなのでございます。
第四章 第六部<暴君 ~恩返し編~>、どうぞ最後までお楽しみにくださいませ。
「セレアさんばっかりズルいですよぉ」
そう言いながら、リアが膨れた顔をして後ろから抱きついてきた。
いや、だって無意識とか可愛過ぎて、ついつい・・・ごめんなさい。謝るから、そんな可愛い事言って抱きつくのは勘弁してください。ニヤけ面が止まらなくなるから。
「リアさんもズールーイ~っ! やっと部屋の中まで戻ってきたのにぃ」
「とりあえず座りましょうよぉ。くっつくトコが足らないですっ」
「そうよっ。外では我慢してるんだからっ」
「お、おう」
シャーン達の不満の声に抱き締めていたセレアを離すと、セレアは死ぬ程不満そうな顔で俺から離れて、リアも渋々といった感じで離れる。2人共、他のメンバーを恨みがましそうに見てたりする。
そんな顔してくれるなよ。またニヤニヤしちゃうだろ。まったく、こんな可愛い子達が揃ってこんな事を言ってくれるとか、ここに来る前の俺が見たら確実に暗黒面に堕ちて呪いを顕現させてるぞ。
頬が緩むのを抑えきれないままにベッドに座ると、セレアが間髪入れずに俺の右腕を取ってくっついて座り、それに半拍遅れるようにしてリアが左腕を取ってきて、ジェラルリードは膝の上に座り、シャーネとシャーンは揃って後ろから抱きついてきた。
ジェラルリードが人間に戻ってから、宿に泊まる時はこの状態が標準。まぁ、体を重ねてる時間の方が長いかもしれないけど。
「それで? なんでこの宿に泊まった方が安全なのよ?」
「はい。勇者さんが戻ってくるとすれば、まずはここでしょう。そうなれば、遭遇率が1番高いのもここだと思われるのですが・・・」
「まぁ、無駄に宿の中をフラフラしてたらそうかもしれないけどな。でも、勇者と鉢合わせしないようにって全員が宿を変える事を考えたろ? 普通はそうだろうな。揉める事が決まりきってる相手とわざわざ同じ宿にいようとは思わない。んで、そう考えるのは勇者も同じ。挑発に簡単に乗ってきたり、頭に血が昇ったら見境なく無差別広範囲の攻撃してきたりとかなり単純な頭してるみたいだったから、ほぼ間違いなくな。だから、次の行動も大体読める」
「なるほど。他を捜すのに必死になって、ここを捜そうとは考えない、という事ですね?」
「ああ。多分、ここから離れた宿とかを中心に捜すんじゃないか? 勇者である自分に喧嘩を売ったんだから、ビビって隠れてるに違いないってな。そんな風に思い込んでそうだから、多分、一通り捜し終わるまではあのエルフ達にも俺達の行方は聞こうともしないと思う」
「確かに、あの感じはそんな感じに動きそうね・・・」
「でも、だからっていつまでも大丈夫ってワケじゃない。俺の予想が外れて、即行でここを捜す事も有り得る。だから、残念だけど、今日は早くに休んでいつでも出れるようにしておきたい」
俺の最後の言葉に、セレア達は揃ってガックリと肩を落とす。
いや、確かに俺も死ぬ程残念だけどね? 宿に泊まった日に何も無しなんて基本的に有り得なかったし。でも、全員落ち込み過ぎ。どれだけ楽しみにしてくれてるんだ。嬉し過ぎて理性が飛ぶから止めて。
「お風呂をご一緒させていただくのもダメ、ですか?」
涙目になって俺を見上げながら言うセレア。
「う・・・・」
何かが音を立てて崩壊していくけど、頭を振って全力で邪念を振り払う。物凄く久しぶりに鋼の自制心と理性を総動員だ。
「ごめん。理性を保つ自信がない。っつーか、絶対に吹っ飛ぶ。でも、疲れを残したまま出発するのは危ないよ。王都方面に向かうにしろ、どこかで方向転換するにしろ、リブラレールから離れたら当分はゆっくりできなくなるんだから」
「はい・・・そうですよね・・・・我儘を言ってしまってすみません・・・・」
涙声になってますます俺にくっつくセレア。
うぅ・・・とてつもない罪悪感が・・・でも、少しでも疲れは取っておかないと、体力の限界がくるのはヤバイ。モンスターだけならともかく、道中で勇者と事を構える事になるかもしれないんだから。
「次の街ではゆっくりしよう? だから、そんな顔してくれるなよ。な?」
言ってからセレアに軽くキスをすると、セレアは一気に真っ赤になってしまう。
「は、はいっ」
「・・・ホンットにセレアにはとことん甘いんだから。残念なのはセレアだけじゃないってのに」
不満顔で俺を見上げてくるジェラルリードにもキスをすると、ジェラルリードは耳まで瞬間的に真っ赤になる。
「ごめんってば」
「う、うううう、うん。・・・あんた、それ、ズルいわよ・・・」
「タカシ様ぁ」
「セレアさんとジェラルリードさんだけズールーイ~っ!」
「うぅ~。主様ぁ。あたしもぉ」
「わ、分かった分かった」
せがむような視線を向けてくるリア達にもそれぞれキスをする。
これで機嫌を直してくれるんだから、ホントに俺は果報者だよ。照れくさいったらないけどなっ。
それから、食事と風呂を済ませて全員一緒にベッドで就寝。やっぱり疲れてたらしく、セレア達は横になるとあっさり眠りに落ちた。おもいっきり密着してくれてるけど、俺も思ってたよりも疲れが溜まってたらしく、理性と本能の戦いが激化する前に俺の意識も夢の中へと落ちていった。
そして、翌早朝。やっぱり開戦してないと起きるのは早い。もう完全に日課となってる目覚めの挨拶で理性がぶっ飛びそうになったけど、頑張って耐えて宿を出た。我ながら、凄い自制心と理性だと思う。まぁ、セレア達の聞き分けがいいからこそですが。意識的に誘惑されてたら絶対に耐えられません。
それから、道中の食糧と水を準備を済ませて、即行で街を出発。勇者と完全敵対するきっかけを作った俺が言うのも難だけど、少なくとも、街中では戦り合いたくはない。あの見境の無さだと、周りの被害がとんでもない事になりそうだ。何せ、竜の巣をメチャクチャにするような攻撃を宿の中でブッ放そうとしてたんだから。
「勇者の奴、ホントに来なかったわね。予想よりも戻ってくるのは早かったみたいだけど」
「はい。街の中で走り回ってる冒険者の姿をいくつも見かけました。恐らく、勇者さんの指示でご主人様を捜しているのではないかと思われますから」
「そうですね。タカシ様の姿を見て足を止めていた人もいましたし」
「でも、それならなんで止められなかったんだろうね? 主さまの特徴って分かりにくいのかな?」
「まぁ、背が高い黒髪黒眼、男の冒険者ってだけじゃ絞り込み切れんわな」
「それに加えて、勇者と揉めてる奴がゆったり堂々と買い物しながら街中を歩いてるなんて思わないんでしょ。ホントにあんたの読み通りね」
「さすがはご主人様です。ご主人様は人を見抜く眼力もお持ちなのですね」
「いやまぁ、元の世界じゃ接客業をしてたからな。どんな奴かってのは大まかには分かるようになるモンだよ。まぁ、外れる事もあるけど」
「接客業をしていると分かるようになるものなんですか?」
キョトンとした顔で言うシャーネ。
「ああ。問題起こしそうな客とか扱い辛そうな後輩とかメンドくさそうな上司とか、うまく見分けないと後々クソ面倒な事になりかねないからな。自然とそういうのに鼻が利くようになるんだ」
「へぇ~。そういうものなんですね」
「! 何かがこちらに向かってきます。数は10」
突然、セレアの緊張した声が静かに警告を発した。それに応えるように、それぞれが自然な戦闘体制に入る。
げ。まさか、勇者の手下か何かにもう完全に見つかったのか? しかも、結構な数・・・こりゃ、戦闘は避けられない、か?
「しかしこれは・・・」
「どうした?」
俺の問いかけにセレアが答えようと口を開きかけた時、少し離れた前方に複数の人影が木の上から降ってきた。
「止まれ。人間族達」
前方に現れた人影の制止の声に、俺達は足を止めて身構え、そこで相手の姿を視認する。
「魔族?」
「そうだ。本来なら奇襲をかける所だが、レーシャ達の報告にあった者達とパーティー構成が同じなのでな」
先頭に立つ短く刈り上げた銀髪の男性魔族が俺の呟きに答える。
「レーシャさんからの報告って事は、無事に戻れたんだな? 全員?」
「え?・・・あ、ああ。他のメンバーも含めて無事に帰還しているぞ」
俺の問いに、一瞬呆けたような顔をした後、何故か戸惑ったような顔で答える銀髪男性魔族。
「そっかぁ。よかったよかった。ん? あんた、どことなくレーシャさんに似てる気がするけど、もしかしてご身内の方とか?」
「あ、ああ。兄のルーゲンブだ」
「おぉ。やっぱり。俺はタカシ。タカシ リュウガサキ」
俺の言葉の後に、何故かルーゲンブさんは頭を抱え、他の魔族の面々も呆れたような顔で互いに顔を見合わせている。
はて? 何か変な事言っちまったか? 極普通の事しか口にしてないと思うんだけど。
「あの、タカシ様? 仮にも敵対種族を前にしてるんですから、いきなり世間話に入られると相手の方はビックリしちゃいますよ?」
「そうですよ。相手の人達は、報告を受けてたとしても半信半疑で警戒もしてるでしょうし」
「大体、面識のない敵対種族なんだから、少しは警戒なさいっての。いくらこっちには敵対の意志がなくたって相手が襲ってくる事は有り得るんだから」
「いやだって、わざわざ確認しようとしてる時点でそれは無いだろ? 敵意があるんなら即行で攻撃開始して奇襲に出る方が相手にとっては有利なんだし」
「まぁ、そりゃそうなんだけどさぁ」
「い、いや、もういい。とてつもなく馬鹿馬鹿しくなってきた。ここまで敵意が見えんと、警戒している方が愚かに思える」
「よろしいのですか? ルーゲンブ様」
「構わんだろう。レーシャの報告通り、かなり特異な人間族のようだ。俄には信じられん内容の話だったが、目の前にしては信じざるを得ん」
半ば投げやりな口調で言うルーゲンブさん。
特異とはなんだ、特異とは。<異常>って言われるのも大概だけど、<特異>って響きもなんかヤダぞ。そう考えると、<規格外>ってのは悪くない表現かもしんない。さすがは心配りの細かいセレアが最初に使った表現なだけあるな。
「それで? あたし達に何か用かしら?」
「うむ。街に潜ませている者達からの報告で、昨夜遅くから何やら大掛かりな人捜しが行われているというものがあってな。その対象がレーシャの報告にあった人間族の特徴と一致している事と、どうやらその者が勇者と呼ばれるバケモノじみた強さの人間族と対立しているらしい事から様子を探る為に接触を試みたのだ」
ルーゲンブさんの何気無い一言に、俺の顔が僅かに引き攣ってしまう。
昨夜遅くって、マジ? 勇者のヤツ、そんなに早くに戻ってきてたのかよ。竜の集団に集中攻撃されてたってのに、あいつのチートも大概だな。
「? どうしてでしょうか? 勇者さんは現在、魔族にとって脅威となる存在の筈です。その勇者さんと事を構えている相手など、放置するならともかく、接触しても利点は何も無いかと思われます。」
「そうね。あなた達魔族にとっては<たかが人間族1人>なんだから、共通の敵だからって戦力として迎え入れようなんて気も起きないだろうし、下手に接触してそれが勇者側に知られたら余計に目の敵にされかねないんだから」
「この子を利用しようとかって考えてるんだったら、止めとく事ね。この子が何て言ったって、そんなのはあたし達が許さない」
「タカシ様に危険が及ぶような事は私達が全力を以て排除します。例え、レーシャさんの身内の方が相手であってもです」
ジェラルリードとリアの言葉に、面食らったような顔をして苦笑するルーゲンブさん。
「なるほど。確かに、レーシャ達の話の通りだ。タカシ殿、だったか? 貴殿の奴隷は、他の冒険者どもの所有する奴隷とは根本的に主との関係性が異なるようだな」
「この目で見てもまだ信じられませんね・・・亜人や獣人の奴隷が人間族の主の身を真剣に案じているなんて、見た事も聞いた事もありませんよ」
「確かにな。いや、すまない。誤解を与えたようだが、我らはタカシ殿への借りを返しに来たまで。利用する気など毛頭無い」
「はい? 借り?」
「我が妹達の命を救ってくれたのだ。貴殿らが望むのであれば、勇者の探索の手が届かない地まで案内したい。必要とあれば、護衛も付けよう」
ルーゲンブさんからの予想外な申し出に、俺達は思わず顔を見合わせる。
マジでか。ありがたいのはありがたいんだけど、さすがにちょっと怖いんですが。何せ、仮にも敵対種族。罠の可能性も否定しきれない。まぁ、罠にしてはまどろっこし過ぎるけど。
それに、勇者の手が届かない地までって事は、確実に王都からかなり遠いよな? それは困る。俺はまだあのクソ国王とクソ大臣に復讐という名の嫌がらせの嵐をお見舞いしてやれてないのだ。
「無論、すぐに答えを求めるつもりはない。私とは初対面で、私達は敵対関係にある種族同士。警戒するのが当然だ。しかし、体を休める場所は必要だろう? 当面は安全な寝床を提供する。当然、そこには魔族は1人たりとも近付かせはせん。近付く者は敵対者として対処してもらって構わん」
「マジですか。そこまで?」
「当然だ。同胞の命、5人分の対価としてはこれでも足りないくらいだぞ」
「・・・何か、聞き覚えのあるようなセリフですよね?」
「あ、確かに。巨大女王蟻の討伐の頃に、俺がそんな事を言ってたんだっけか」
「提供する寝床は我らが拠点の1つとして利用しているものだから、人間族には知られていない。充分な休息が取れてから、その後の事は改めて話し合いたい。遠話の魔法は使えるか?」
「あ、俺、遠話の魔法って知らない。この腕輪でしか使った事ないし」
「あたしが使えるわ。体を充分に休めたら遠話魔法で連絡を取り合うって事でいいのかしら?」
「うむ。どうだ?」
「あ、これから案内する拠点からはもう他の魔族を撤退させてあるぞ。案内するのは私1人」
「いや、案内は私がする」
「「「「「「「「「ルーゲンブ様!?」」」」」」」」」
ルーゲンブさんの言葉に、他の魔族一同が驚愕の声を唱和させる。
うむぅ。ずっと様付けで呼ばれてて、しかも他の人達のこの反応。もしや、ルーゲンブさんって魔族のお偉いさんなのではなかろうか? まさか、魔王、とか?
「意見は受け付けん。私が決めた事だ」
「しっ、しかし、万が一にも」
「タカシ殿達に我らの拠点へと足を運ばせようというのだ。敵対の意志が無い事の証明にこれ以上の対応があるか?」
「し、しかし・・・・」
「タカシ殿達にも同様の不安と疑念があろう。同等のものを背負わねば言葉に重みなど生まれん」
「いやあの、そこまでしなくていいって言うか、むしろそこまでされると困るっつーか・・・全員で案内してくれりゃ充分だよ? 拠点から帰る時が危ないし」
「ちょっと。万一にも罠だったらどうすんのよ?」
「大丈夫。全力で逃げるから。逃げる為の奥の手は確実なのがあるし」
「確実な手段、ですか?」
「そ。言ってどうにかできるモンじゃないから言っちまうけど、転移魔法でみんなまとめて離脱するって反則技」
「「「「「あ」」」」」
俺の言葉に、納得の表情を見せるセレア達と怪訝な顔をするルーゲンブさん達。
「というワケだから、ルーゲンブさん1人ってのは止めといてくれ。恩人からの達ての頼みって事で」
「むぅ・・・そう言われると、返す言葉がないのだが・・・・良いのか?」
「ああ。逃げ足にだけは絶対の自信があるからな」
勿論、チート発動での転移魔法あってこその逃げ足だけどな。言わないけど。
「・・・分かった。逆に気を遣わせて申し訳も立たんが、お言葉に甘えさせていただこう」
嘆息混じりに言うルーゲンブさん。
多分、転移魔法でってトコにはおもいっきり疑問を持ってんだろうなぁ。でも、そこを突っ込むと探りを入れてるみたいで信用を失いかねないから、敢えてスルーしてるって感じだな、この顔は。
やっぱり、人間族よりもずっと道理を弁えてる気がするぞ。わざわざ恩返しの為に俺達に接触を図るくらいだし。
ヤバいなぁ。ますます人間族が嫌いになりそう。アンナちゃんとかエラーデさんみたいな極一部の人を除いて。
情けは人の為ならずとはよく言ったもので、意外な所からの助け船が寄越された主人公一行。
しかしながら、主人公は最大の目的である復讐を忘れる事はございません。道草・寄り道ばかりの主人公ではございますが、妙な所だけはぶれないのでございます。
それでは、<小心者の物語>第四章 第六部、今回のお楽しみはここまでにございます。




