暴君 ~遭遇編~
予想外の問題は起きてしまうものの、主人公はようやく1つの大きな目的を果たす事になります。
しかし、やはり全てが平穏無事にというわけにはいかないようでございます。
第四章 第四部<暴君 ~遭遇編~>、どうぞ最後までお楽しみにくださいませ。
それから少し歩いて、リアの販売元の奴隷商会、ライバン商会に到着。
受付で冒険者証を提示してからリアの買い取りを申し出たところ、とりあえずは中へと案内されて応接間に通された。
「恐れ入りますが、こちらで少々お待ちください」
「はい」
俺の返事を受けてから、案内してくれた中年男性が退室する。
むぅ・・・リアを買い取りたいだけなのに、また応接間に通されるとは思ってなかったな。まぁ、向こうにすれば商売チャンスになるんだから、他の人も見せて買わせたいんだろうけど。
「これ、絶対に他の奴隷も紹介しようって考えてるわよね」
「だろうなぁ。話をスムーズに進めようと思って冒険者証を出したけど、失敗だったかな」
「出さなくても、結局はこうなってたような気もしますけど。ジライ商会だと、相手の冒険者階級には関係なく絶対に応接間に通してたみたいですし」
「ジライ商会は特別だよ、シャーネ。他の商会じゃ、冒険者証を出したらコロッと態度が変わってたんだから」
「そうなんですか?」
「うん。武器屋とかもそうだけど、やっぱり金持ってそうかどうかってのは重要なんでない?」
「あぁ・・・でも、それならどうしてジライ商会だと階級とかで態度変えないんでしょう?お金が無い相手だと、時間が勿体無いですよね?」
「今の階級が低くても、この先で昇級して上客になるかもしれないから、だろうな。感じのいいトコならまた足を運ぼうって気にもなるだろ?」
「なるほど・・・」
「ふぅん。徹底して商売人って感じなのね」
「だな。実際に、俺が王都のジライ商会に初めて行った時はまだ鉄級だったけど、白金級になってからのスクラヴォーヌでの対応と何も変わりがなかったし」
「それはご主人様の将来性を大きく感じ取っていたからではないでしょうか? ご主人様に引き取っていただける事になった後、デューイさんから、これから先で上客になるかもしれない方ですから全力で尽くして印象を良くするようにと言われましたから」
「そんな事言われてたのか。あの人は一体俺のどこを見てそんな高評価を出してきてたんだか・・・」
「人を見る目があるんですね。そのデューイさんという人は」
「はい。あの時点で、ご主人様が白金まで昇級する事を見通すのですから、それに関しては疑いようもありません」
「いやいやいや、俺が白金級になったのはどっかの真祖吸血鬼の悪戯の結果ってだけだから。なぁ?」
俺の言葉にプイッと顔を逸らすジェラルリード。
「いーじゃない。結果的にはプラスなんだし」
「はい。それに、あの件がなくても、タカシ様なら確実に白金級になっている筈ですから。早いか遅いかだけの話だと思います」
「はいです。主さまがなれなかったら誰も白金級なんてなれないです」
「そうよね~。ムチャクチャな強さしてるんだし」
リア、シャーン、ジェラルリードの言葉に、大きく頷くセレアとシャーネ。
「それに、何よりもご主人様はお優しくて懐の深い、暖かくて素晴らしい方ですから。何をお知りになっても、どういう環境にあっても、ご自身のお考えや姿勢を崩される事なく貫いてこられています。ご主人様以上の人物なんて存在し得ません」
さらにセレアが自信満々に言い切ってきて、顔が熱くなってしまう。
いや、あのね? セレアさん? いっつも思うんだけど、君の俺に対する人物評価はおかしいから。高過ぎるなんてモンじゃないから。単純に我が強くて我儘なだけだよ?否定しても、さらに被せてくるだろう事は予想できるから何も言わないけど、死ぬ程ハズイ。
そこに、かなりガタイの良い、人も良さそうなおっちゃんが入ってくる。
「お待たせして申し訳ございません。私、当商会のオーナーのライバンと申します」
「どうも。タカシ リュウガサキといいます」
「これはこれは。ご丁寧に。ありがとうございます」
人当たりのいい笑顔を浮かべて、ライバンさんは俺達の向かいに座る。
「まずはお礼からですな。我が商会の商品をお持ち帰りくださり、誠にありがとうございます。エルフはこの地では需要が高い奴隷でして、特に今は品薄な状態でしたので非常にありがたい」
「特に今は? 何故ですか?」
「おや? まだご存じありませんかな? 実は今、この街には伝説の勇者様がお越しになっておりましてな」
ライバンさんの言葉に、僅かに眉をしかめるジェラルリード。
をい・・・なんかいきなり聞きたくない奴の話が出てきたぞ。しかも、エルフの奴隷が少なくなる理由と勇者が絡むって、どう考えても面白い話にはならない。
「あぁ、それなら耳にはしましたよ。まぁ、それはともかくとして、商売の話をしましょう。こちらの要望はお聞きいただいてますよね?」
面白い話にならないのが予想できてるのに最後まで聞くような趣味はないから、強引に話を打ち切って本題に入る。
「はい。しかしながら、勇者様からのご命令でしてな。女のエルフは全てそちらで買い取らせるようにと」
「なっ!?」
思わず声を上げてしまうリア。ライバンさんはそれをかなりキツイ目付きで睨みつける。
「それは少し横暴では? こちらは王都からの長い道程をここまで連れてきたんですが?」
俺の言葉に、一転して弱ったような顔をするライバンさん。
「それはごもっともなご意見とは思いますが、何分こちらも商売でして。相場の」
ライバンさんの言葉を中断させるように、金貨の入った袋をテーブルの上にドンッと置く。
「300万エニーあります。どうぞ、確かめてください」
「な・・・」
驚愕に固まるライバンさん。
「タッ、タカシ様!?」
「ん? どした? リア」
「いっ、いくらなんでもそんな大金を」
「端金だよ。この程度。で? 足りませんか?」
「め、めめめ、滅相もございませんっ!!いや、むしろ、たかがエルフの奴隷風情にこっ、ここまでの大金はとてもいただけませんっ」
「別に構いませんが? 勇者さんが難癖つけてきた時の迷惑料だと思ってください。ただし、それでも何か因縁をつけてくるようなら、例え、相手が伝説の勇者であろうが全力で叩き潰しにかかりますがね」
俺の言葉に、額にビッシリと汗を浮かべて絶句するライバンさん。
「タカシ様・・・」
涙目で俺に体を寄せて、きゅっと俺の服の裾を掴むリア。俺はそのまま頭を撫でてやる。
勇者と関わりを持ちたくないのは本心だ。確実にチートを発動してる人格破綻者と、誰が好き好んで関わりたいと思うかっての。
でも、それがリアの身に関係してくるなら話は別だ。エルフの女性に限って買い占めをしてるって事は、ほぼ間違いなく、あのクソガキは俺と同じオタク系で、しかもエルフフェチ。リア程に可愛くて綺麗な人は見た事ないけど、それでもこれまでの街で見掛けたエルフの奴隷達は綺麗な人ばかりだったから、この世界に来てから目覚めたのかもしれないけど。何にせよ、そんな奴にリアの身柄を奪われるなんて冗談じゃない。いやまぁ、そんな奴じゃなくても絶対に許しませんが。
でも、ライバンさんはあくまで商売として利点があるからその指示に従ってる。高く買ってくれる方に売ろうってのは至極当然の話だ。だから、そこの筋だけは通しておくべきだとは思うから、前に聞いた相場の遥か上の、確実に常識外と思える金額を提示してやったのだ。そこの筋を通しておけば、後に力ずくな展開が待ってても心は痛まないから、自重無しの全力を振るえる。恐らくは俺よりもずっとチートだろう勇者相手に、僅かでも引け目を感じるような要素を持ってたら勝てるものも勝てなくなりそうだしな。
そして、そのまま無事にリアとの正式契約が完了。俺達はライバンさんに見送られて商会を後にした。
「ありがとうございます。タカシ様。私なんかの為に・・・」
「馬鹿言うな。俺の為だ。言ったろ? 名実共にリアを俺のものにしたいって。大体、約束しただろ。何があっても絶対に生きて、一生俺を守ってくれって」
「はいっ。」
溢れそうなくらいに涙を目に溜めながら、心底嬉しそうに笑って返事をしてくれるリア。
「にしても、おもいきったわねぇ。300万エニーをポンッと・・・アレ、まだゴネるようなら上乗せする気満々だったでしょ?」
「おう。あと200万くらいなら出せるからな」
「200って、ほとんど全財産じゃないですか!?」
リアが引き攣った声を上げる。
「金なんて働けばいくらでも稼げる。リアを失ったら、一生後悔する。どっちを選ぶかなんて明白だろ?」
「タカシ様・・・」
「まぁ、それはそうだけど、目の前で迷いもしないでやられるとやっぱりビックリするわよ。あんたならそうするのが分かってても」
「まぁ、普通なら相手の言い値を聞いてからですもんね」
「甘いな。交渉の主導権を握る為には、こっちが条件を出さないとダメなんだよ。可能な限りに相手の度肝を抜いて、ゴネた時用の追撃の手段も残しとく。商売の基本だ。まぁ、元々、リアを引き取る時に足下を見られる事は予想してたんだけどな」
「足下を? どういう事でしょうか?」
「俺は何が何でもリアが欲しい。ってなれば、相手が値段を吊り上げてくるのは当然じゃないか?」
「あ、なるほど・・・」
「・・・え? という事は、まさか・・・・」
「おう。元々、300万は叩き付ける予定だった。だから、この前、持ち金の整理しといたんだよ」
リアの予想の言葉を肯定すると、何故だかセレアとシャーン以外がおもいっきり脱力する。
「さすがはご主人様です。先の見通しをそこまで立ててらしたなんて・・・」
「いやいやいや、セレア? そこ、感心するトコじゃないから。呆れるトコだから」
「主様ってお金に頓着ないなぁって思ってたけど、本気で全然ないんだ・・・」
「失礼な。人を浪費家みたく言うなよな。単純に金に代えられないものに対しての基準がハッキリしてるだけだ」
「でも、交渉になったら面倒だから早く話を済ませようとかって考えてませんでした?」
シャーネの鋭い指摘に、一瞬言葉に詰まってしまう俺。
「・・・まぁ、それが無いって言えば、嘘にはなる。リアを引き取る為のものをケチりたくなかったってのもあるけど」
「タカシ様・・・凄く嬉しいんですけど、もう少しご自身の事を考えてください。危険な目にも遭って手にされたものなんですから・・・」
「巨大女王蟻の時くらいだろ?危険らしい危険なんて。あの程度なら、俺1人でもう1回行ってこいって言われても、リアを引き取る条件にしちゃ軽いもんだ」
俺の言葉に、真っ赤になってしまうリア。
「まぁ、勇者まで叩き潰すって宣言するくらいだもんねぇ」
「あくまで、因縁をつけてきたら、だけどな。今でも進んで関わりを持ちたいとは思ってないよ。と言うか、一切の関わりを持たずに済めばいいと思ってる」
「あ、そこ、弱腰なのは変わんないだ」
「変わるか。ヘタレでチキンな性格がそう簡単に改善されると思うなよ?」
「あはは。ご主人様がそんなのだったら、他の人なんかみ~んなダメダメになっちゃうのにね~」
「ご主人様は謙虚な方ですから」
「たまに、急におもいきりが良くなってビックリしますけど」
「それはご主人様が大切に想われている方が関係する時ですよ。巨大女王蟻の緊急討伐依頼を受けられた時もそうでしたし、今回の件もリアさんの身柄が関係しているからこそです」
「ジェラルリードさんの時も凄かったよねぇ。ジェラルリードさん、物凄い迫力だったのに、主さまは全然引かないんだもん」
「むしろ、あの時は主様の方が怖かったです。ジェラルリードさんの誤解の仕方に本気で怒ってましたもん」
「タカシ様が激怒されたのはあの時が初めてじゃないですか?」
「はい。少なくとも、私がご主人様とご一緒するようになってからはあの時が初めてですね」
「いやまぁ、本気で腹が立っちまったからな。怒鳴ったのはちょっと大人げなかったなぁと反省はしてる」
「そうなんですか?私は羨ましかったんですけれど・・・」
「そうですよね。いつも温和で優しいタカシ様があんなに怒るくらいに、ジェラルリードさんは大切に想われてるんですから」
「いやまぁ、そこは嬉しいんだけど、怖かったのよ?本気で」
「だからあの時にも謝ったろ~?ごめんってば」
「ずっと根に持ってやんだから。覚悟してなさいよ?」
嬉しそうに頬を緩ませながら言うジェラルリード。
勘弁してくれよぉ。本気で根に持ってるわけじゃないのは分かってるけど、それをネタに攻撃されたらグゥの音も出ないってのぉ。
それから俺達は休む為に宿へ。もう結構遅い時間になってしまっている。勿論、恒例のセレア達への扱いを宿屋の人達に改めてるように促す一連の流れは有り。
ちなみに、宿はそれなり以上に高そうな感じのトコを選んだぞ。情報収集ができなかったから風呂があるかどうかは分からないけど、これまでの経験上、ある程度以上に高級なトコじゃないと風呂は付いてないからな。まぁ、極力滞在時間を削りたいから朝までコースは自重しなきゃなんだけど、それとは別にしても風呂には入りたいのだ。
「では、ご案内します。こちらへど」
受付の人が案内しようとした瞬間に、宿の奥から半裸の女性エルフが飛んできた。
俺はそれを咄嗟に抱き止めて、究極に嫌な予感を覚えてしまう。が、今はそれよりもこの人だ。
「大丈夫ですか?」
「え・・・? あ、は、はい。あり、がとう、ございま、す・・・?」
混乱しながらも礼を口にする女性エルフ。俺はそっと降ろし、立たせてリュックから外套を取り出して女性エルフの肩にかけて前を隠させる。女性エルフはますます混乱したようにオロオロとしてしまう。
大きな怪我がなかったのはよかったけど、正直、目のやり場に困ります。混乱してる理由は察しがつくけど、とりあえず隠しといてください。
「おいおい~? 勝手に人の物に手ぇつけてるんじゃないってぇの。ブッ飛ばされたいのかぁ? あぁん?」
女性エルフが飛ばされてきた方向から、見覚えのある剣を背負って若い男がやってきた。半裸の女性エルフを何人も首輪で繋いで、這いつくばらせた状態にして鎖のリードで引っ張って。
どの人も悲壮な顔をしていたり苦渋に満ちた顔をしていて、どう見ても望んで今の状態になっているようには見えない。中には死んだような目をしている人までいる。
「・・・・ごめん。どうにも自重できそうにないや」
「はいっ」
「それが私の大好きなタカシ様ですよ」
セレアは満面の笑顔を浮かべた返事を返してくれて、リアの優しい笑顔を伴った言葉を投げかけて、揃って俺に並んで身構える。
「はいですっ。これで我慢なんて、主さまらしくないもんっ♪」
「むしろ、ここであたし達を心配とかして見過ごそうとしてたらガッカリしてましたよ。やっぱり、主様は最高ですっ」
「そうねぇ。あたしもそうしてたら嫌いになってたかも?」
シャーン達も嬉しそうに笑って、臨戦態勢を取る。
ありがとな。みんな。
「あぁん? なぁにをゴチャゴチャブフォォォォッ!?」
セリフの途中で俺の拳が顔面にメリ込み、吹っ飛んでいく17~18歳くらいの茶髪ロン毛気味のイケメン。
俺がこの世界に来て、最初に出会った奴。青い顔して震えてた、俺と同じ異世界人。それがなんでこんな胸糞悪い真似が平気でやれるようになるかね?
危険が大きいのは予想できるから、関わりたくなんかなかった。でも、こんな真似をしてるトコを見て、スルーできる程には大人じゃねぇんだよ!!!どれだけ王宮でチヤホヤされて増長したのかは知らんが、性根を叩き直してやる!!!クソガキが!!!
主人公が怒り心頭になった理由は、勇者が奴隷を極端に酷く扱っている事でございます。その事を察するには充分過ぎる程の女性エルフ達の表情と待遇。
主人公は聖人君子というわけではございませんが、我が身可愛さに目の前の理不尽を看過できる程に冷徹でもございません。また、そんな主人公だからこそ恋慕うセレア達にも、それを止める理由は無いのでございます。
それでは、<小心者の物語>第四章 第四部、今回のお楽しみはここまでにございます。




