古代遺跡 ヴェルデ・パレス ~目覚め編~
人化の禁呪の結果が出ます。禁呪がもたらすものは希望か絶望か・・・
第三章 第三十一部<古代遺跡 ヴェルデ・パレス ~目覚め編~>是非最後までお付き合いくださいませ。
禁呪の発動が完了して、ジェラルリードちゃんを包む激しい光が収まった。それと同時に、俺の手の中の魔核が崩れて、塵になっていく。魔力を完全に使い切ったんだろう。
俺も目の前がグラグラしてるし、額に汗が浮かんでる。禁呪の途中でジェラルリードちゃんが倒れたのを抱き止めたら、強烈な熱を放ってたせいで腕と胸が大火傷だ。
「ジェラルリードちゃん?」
声を掛けてみても、反応が無い。抱いているジェラルリードちゃんから、暖かさも何も感じない。
嘘、だろ?失敗・・・?
ガクリとそのまま膝をついてしまう。
「おい!?ふざけんなよ!?何が失敗しても俺のせいじゃないだ!!何が制御できてりゃ俺は無事な筈だよ!!んな事、途中で言い出しやがって!!!!!」
「ご主人様っ。」
セレアが俺に寄り添ってきてくれる。でも、俺の感情は溢れ出てきて止まらない。
「そんないい加減な魔法に賭けてんじゃねぇよっ!!!!他に何か」
「ご主人様っ!!」
初めて聞く俺の言葉を遮るセレアの強い口調に、俺はセレアの方に顔を向ける。頬が冷たい。どうやら、いつの間にか涙が溢れていたらしい。セレアはその涙を優しく拭ってくれる。
「大丈夫です。」
「え・・・?」
「ジェラルリードさんは生きてらっしゃいます。」
気が付けば、セレアの手が抱き抱えるジェラルリードちゃんの手を取っている。
「暖かいですし、しっかりと脈もあります。ご主人様はお怪我をされているせいで、感覚を無くされてしまって感じられないだけですよ。」
セレアはそう言って、俺の火傷した部分に手をかざして治癒の魔法をかけ始める。それを見たリア達も慌てて駆け寄ってきて、俺の治療を開始する。
「酷い火傷ですよ。こんな状態じゃ何も感じられるわけないじゃないですか。もう・・・」
治療をしながら、目の端に涙を残して言うリア。俺の反応を見て、ダメだったと思ったんだろう。リアもジェラルリードちゃんが途中で言い出した事には怒ってたしな。
「よかったぁ。息もしてるよ。」
ジェラルリードちゃんに顔を寄せてから、笑顔で言うシャーン。
「そう・・・か・・・・うまく、いったんだな・・・・」
全身の力が抜けてへたり込むと同時に、腕と胸から激痛が襲ってきた。
「イッテェェェェェェェッ!?うっ、腕と体がっ!?ちょっ!?セッ、セレアっ、ジェラルリードちゃん、支えるの変わってっ!!無理っ!!」
「はっ、はいっ。」
俺の言葉に、セレアは慌ててジェラルリードちゃんを受け取る。治癒の魔法で少しずつ痛みは引いていくものの、それでも半端無く痛い。涙目になってしまう。って言うか、コレ、普通に泣く。
「くすっ。必死でしたものね。ご主人様。」
ジェラルリードちゃんを抱いたまま、俺に肩を寄せて俯くセレア。
「ありがとうございます。また、お約束を守ってくださって・・・」
セレアは言いながら、肩を震わせている。
「ん・・・ありがとな。セレア。信じてくれて。」
痛みを堪えて、笑顔を浮かべる。
「いいえ・・・いいえっ。」
ジェラルリードちゃんを片腕で支えたままに、俺に抱きつくセレア。
「ほん・・と・・はっ、こわ・・・かった・・・す・・ご主・・様なら大・・夫と思・・・まし・・信じ・・ました・・でも・・・」
泣きながら言葉を紡ぐセレア。
セレアはいつも俺の安全を第一に考えてくれてる。リブラレールまで行く事を決めた時も、依頼の時の前衛を引き受けようとするのも、道中の戦闘でも、俺の身の安全を最優先に動いてくれてる。
遺跡に入ってから、俺の戦ってるトコが見たいなんて言ったのはジェラルリードちゃんっていう絶対安全の保証人みたいなのがいたからこそだ。そうでなかったら、道中で一切俺の出番を作らないような戦い方なんてしないだろう。普段は俺が出番をくれって言っても、自分の手に余る時には無理はしないから、その時には絶対に頼むとか言って頑として譲らないし。
それなのに、今回は俺の気持ちを察して、不安を押し殺して、笑って後押しまでしてくれた。俺が後悔しない為に。なんて女に惚れてもらってんだろうな。俺にはもったいな過ぎる。
それに、リア達も。シャーンなんてまだ付き合いも短いってのに、セレア並みに俺に理解を示してくれて、リアとシャーネも心底俺の心配をしてくれてたのに、最後には俺の我儘を通させてくれた。普通なら、呆れて愛想を尽かしそうなモンなのにな。
「リア、シャーネ、シャーンも。ありがとな。」
俺の言葉に首を振るリア。
「いいえ。私なんて、自分勝手な我儘を思っていただけで・・・セレアさんもシャーンさんも、タカシ様のお気持ちにまで理解が及んでいたっていうのに・・・・」
「そんな事ないよぉ。リアさんだって、ホントは分かってたんでしょ?主さまがそういう人だって。ね?」
「ああ。そうじゃなきゃ、我儘を通すのを認めてくれやしないだろ?リアもシャーネも。ホントに、いい奴らに恵まれたモンだよ。俺は。」
「タカシ様・・・」
「主様・・・・」
リアとシャーネは俯いてしまい、治療中の俺の腕に涙がポタポタと落ちてくる。
「でも・・・でも、私はきっとこれからもセレアさんやシャーンさんみたいに、タカシ様の後押しなんてできないです。例え、タカシ様に嫌われてしまっても、お側にいられなくなったとしても、タカシ様にだけは生きて、無事に生きていてもらいたいんです。後悔されても、生きていてほしいんです。」
「・・・・あたしもです。後悔した事がない人なんていないから、何も失った事のない人なんていないから、主様が何かを失って後悔されてでも、そうなる原因があたしになって恨まれても憎まれても、主様には生きていてほしいです。生きてさえいれば、やり直す事だって別の形で取り戻す事だって、できるかもしれないから・・・」
「・・・こんなの、奴隷失格ですよね・・・タカシ様に辛い思いをさせてでもなんて考えるなんて・・・」
「嬉しいよ。そんなに思ってくれるなんて。」
リアとシャーネは俺の言葉に、泣き顔のままで俺の方へと顔を上げる。
「セレアとシャーンは俺の気持ちを、リアとシャーネは俺の命を、それぞれ1番に考えてくれてるんだから。それで奴隷失格とか、馬鹿な事言うなよ。方向性が違うだけの事じゃんか。」
「タカシ様・・・」
リアとシャーネの目から溢れる涙の量がドッと増える。
「心配かけてごめんな。約束するよ。これから先、何があっても俺は命を賭けるような真似はしない。きっと、常識外の事はやらかすんだろうけど、確信と自信のある事以外はやんないからさ。だから、これからも俺の事を信じてくれるか?」
「「「「はいっ!!!」」」」
4人の返事が綺麗にハモる。
マジで心配かけたもんなぁ。今後は本気でチート能力の限界をしっかり把握しとかないと。んで、セレア達にもそれを見せて、無駄に心配かけないようにしよう。俺の持ってるチート能力は、確実にこの世界の常識を逸脱しまくってる。それだけに、しっかり見せておかないと安心なんてしようもないもんな。
そして、俺の火傷の治療が終わったから、改めてジェラルリードちゃんの様子を見ようとしたけど、思わず目を逸らしてしまった。何故なら、ジェラルリードちゃんの衣服が消えてるのに気付いたから。
禁呪発動中のジェラルリードちゃんからは物凄い熱が放たれてたけど、アレは多分魔法の効果によるエネルギーの奔流だったんだろう。んで、そのせいで元々着てた服はそれに耐えられずに消滅したんだろうと、予想はできる。実際に、俺の火傷は半端無く酷かったみたいだし。
ジェラルリードちゃんが気を失ってて良かった・・・でも、これ、俺が見たなんて知られたら、ブン殴られるじゃね?経験無いってな事も言ってたし。
「え、え~と、リア?ジェラルリードちゃんに着替えの服を着せてあげてくんない?目のやり場に困る。」
「あ、はいっ。」
「手伝うね。」
「お願いします。シャーネさん。」
少しして、リアとシャーネがジェラルリードちゃんに服を着せ終わり、俺は改めてジェラルリードちゃんの様子を見る。静かに胸が上下している。呼吸も正常そうだし、顔色もいい。
そう。もう、真祖吸血鬼だった頃の青白い肌じゃなくて、血の通った普通の人間の肌色をしているのだ。耳も普通の人と変わらない長さになってるし、閉じた口元から覗いていた牙ももう見えない。ジェラルリードちゃんは完全に人間族の女の子に戻ったのだ。
「眠ってるだけ、だよな?」
「はい。もしかしたら、存在の変換による一時的な休眠状態かもしれませんけど、少なくとも、何か危険な状態という事はないと思います。」
「休眠?」
「はい。私が知っているのは真祖吸血鬼化の秘法ですけど、それを使った場合は、1日か2日程度の休眠状態になるそうです。存在が別の物に変換された肉体的な疲弊を回復する為だって聞きました。」
「なるほど。」
リアの答えに頷く。確かに、肉体が変化すれば少なからず負荷がかかってても不思議じゃない。むしろ、その方が自然に思える。それなら、無理に起こしたりはしない方がいいだろう。
「それじゃ、ジェラルリードちゃんはこのまま運んで街に戻るか。ここで目覚めを待ちたいトコだけど、それだと食糧が足りなくなっちまうからな。」
「「「「はいっ。」」」」
「では、申し訳ありませんが、ジェラルリードさんを運ぶのはご主人様にお任せさせていただいてよろしいでしょうか?」
「へ?なんで?それだと、守護者とか道中のモンスターの相手ができないんだけど。」
「ご安心ください。それについては私達で対処します。」
「はい。タカシ様は禁呪を使われた後なんですから、しっかり体を休めてもらわないと。」
「任してです。あたし達で主さまとジェラルリードさんをしっかり守れるです。」
「ちゃんと休んでくださいね?魔法で援護なんてダメですよ?ただでさえ、禁呪なんて使った後なんですから。」
口々に引っ込んでろ的な意見を言うセレア達。
うわぁ。俺の出番を一切作る気がねぇ・・・まぁ、禁呪を使った後なだけに心配してくれてるんだろうけど・・・
「いやでも、全然平気だぞ?それに、罠の感知は俺じゃないと厳しくないか?」
「大丈夫です。ジェラルリードさんが仰ってました。一旦解除すると、半日は再起動しないそうなので。ですので、ご主人様は私達の中心で安全にお過ごしください。」
セレアよ。いつの間にそんな情報収集を・・・意地でも俺を先頭に立たせたくありませんか?
「勿論、無理は絶対にしません。ご主人様のお力をお借りしないと厳しい時には必ずお頼りしますから、ご安心ください。」
いつもと違う迫力のある笑顔で言い切るセレア。
グゥの音も出ないくらいに言い切りましたね。もしかしなくても、ムチャをしたのを怒ってますか?ホントにごめんってば。
「分かったよ。任せる。頼りにするからな。」
「はいっ。」
俺の言葉に、いつも通りの嬉しそうな笑顔で返事をするセレア。
ご機嫌が直ったみたいで何より。いや、マジで。セレアは怒らしちゃダメだな。さっきの笑顔はジェラルリードちゃんが凄んだ時よりも、ある意味怖かったっす。
それから、元来た道を引き返しつつ、見つけたアイテムを適当に回収して遺跡を無事に脱出。
セレア達の無双っぷりが凄かった。ジェラルリードちゃんみたいな瞬殺ではないものの、守護者がまるっきり相手になってない。セレアが抑えて、リアの魔法やシャーネとシャーンの羽根弾丸が削って、セレアがトドメを刺すという黄金パターンとでも言うべき見事な連係で蹴散らしていったのだ。
それから、街への道を進むわけなんだけど、これもまた出番が完全にない。
セレアが臭いで敵の存在を感知したら、なんと、リアがジェラルリードちゃんと同じ魔法を使って出会う前に殲滅してしまったのだ。魔力の消費はそれなりらしいけど、数が多い時に限定して使えば問題無いとガンガン出会う前の敵を倒してしまうのだ。確かに、ジェラルリードちゃんはエルフになら問題なく扱えるとは言ってたけど、こうもあっさりやってしまうのはリアがかなりの魔法の腕をもっているからなんじゃないだろうか。
遭遇する敵は、複数の時はシャーネとシャーンが羽根弾丸で殲滅するし、単体ならセレアが瞬殺。
この子達、強過ぎやしませんか?狼人族とかエルフとか有翼族とかって、皆こんなに強いんだろうか?もしそうなら、いっそクーデターでも起こして人間族優位の社会なんて潰してしまってもいいような気がするんだけど。
そして、その夜は野宿をして、翌朝再び街に向かって出発。ジェラルリードちゃんは気持ち良さそうな顔をして俺の背中で眠り続けたまま、その日も夜を迎えた。セレア達に野宿の準備を任せて、俺はジェラルリードちゃんを広げた外套の上に寝かせる。
「そろそろ起きてもいいんじゃないか?眠り姫様よ。」
言いながら、ジェラルリードちゃんの頭を撫でる。
リアの言う通り、休眠状態なんだろうし、存在そのものが変化するんだから、体への負担を考えればその方が自然だとも思う。でも、眠ったままの状態を見ていると、やっぱり不安にもなってくる。本当に目を覚ましてくれるんだろうか、実は失敗してるんじゃないかって・・・
「な~にを情けない顔をしてんのよ?」
「え?」
いつの間にか俯いていた顔を上げると、ジェラルリードちゃんが照れくさそうに顔を少し赤くして、俺を見つめている。
「よかった。無事だったの」
俺は思わずジェラルリードちゃんを抱き締め、ジェラルリードちゃんのセリフを途絶えさせてしまう。
「え?え?ちょ、ちょっと、タ、タカシ?」
「それは俺のセリフだっ!この大バカ野郎ッ!魔法の途中であんな事言い出しやがってっ!!どれだけ心配したと思ってんだっ!!!」
「あ・・・ご、ごめん。」
「今後一切あんな真似は許さねぇからなっ!!!」
「・・・うん。ごめんなさい。」
よかった。本当によかった。成功してたんだな。こんなにチートに感謝したのは初めてだ。チート能力をくれたのが神様だってのなら、本気で心底神様に感謝だ。
「ね、ねぇ?リア達が見てるんだけど・・・」
「え?あ。」
慌ててジェラルリードちゃんを離して、体を離す。ジェラルリードちゃんは耳まで真っ赤になっているけど、俺も顔が熱い。
「もう・・・ばーか。」
ジェラルリードちゃんは言いながら、体を起こす。
「ジェラルリードさん。よかったです・・・」
「ホッとしました。休眠状態に入るのは知っていましたけど、実際には見た事がなかったですから・・・」
「途中であんな事言うから主さまもリアさんもスッゴく怒ってたし、主さまはずぅ~っとスッゴく心配してたんだよぉ?」
「ホントですよ。もう見てられないくらいに心配してたんですから。」
シャーン、シャーネ、余計な事を言うんじゃないっ。ハズイだろっ。
「ん・・・本当にごめん。タカシに危ない真似させちゃって・・・」
言って頭を下げるジェラルリードちゃん。
「いいえ。それは仕方がない事ですから。」
「うんうん。主さまだもん。」
俺がムチャをするのは仕方ないんですか?いやまぁ、確かにそうかもしれんが。止められてもやってただろうし。
「お体に異常はありませんか?」
「あ、うん。ありがと。変なトコは無いと思うわ。真祖吸血鬼の頃と感覚がいろいろ違うから、違和感はあるけどね。まぁ、直に慣れるわ。」
リアの問いに、笑顔で答えるジェラルリードちゃん。
「よかったですね。ご主人様。ご無事に目を覚まされて。」
「ん。ああ。」
セレアは暖かい笑顔で俺に言いながら、肩を寄せてくる。
「昨日から、本当に見ていられませんでした。ずっと心配されていたのに、私達に気を遣わせないように普段通りに振る舞われて・・・でも、やっといつものご主人様の笑顔を拝見できました。」
やっぱりバレバレだったか。普通にしてたつもりだったんだけどなぁ。しかし、セレアよ。当人の前でそゆ事を言うんじゃないの。死ぬ程恥ずかしいから。
「そ、そっか・・・そんなに心配してくれてたんだ・・・・」
ジェラルリードちゃんはさらに赤くなりながら俯いてしまう。
クォラッ!そこっ!嬉しそうな顔で照れくさそうにするんじゃないっ!!余計に恥ずかしいだろ!?
そう思いながらも、ジェラルリードちゃんが無事に目を覚ました喜びに表情筋はひたすら緩んでしまう。今夜は顔を引き締める事はできそうにないな。
主人公は本当に心底心配していて、自分の魔法の結果に不安を抱えていました。野宿の準備をセレア達に任せてしまっている事にその一端が現れています。普段は荷物を持つ事にすらセレア達だけに任せる事はないのに、そうなっていたのはジェラルリードちゃんの事が心配で堪らない主人公をセレア達が気遣った結果なんです。
幸い、無事にジェラルリードちゃんは目を覚ましました。人にも問題なく戻れたようです。
ちなみに、冒頭で主人公の体の不調が描写されていますが、あれは魔力消費によるものではありません。単純に火傷の酷さが原因です。あえて描写を避けましたが、段階としてはⅢ度熱傷という1番酷い状態でした。急に痛みがきたのは、気が抜けた事の他に、治癒魔法で回復してきた事が原因だったりします。治癒魔法の効果で痕は残りませんけどね。
では、これにて第三章 第三十一部の幕を下ろさせていただきます。最後までお付き合いいただいた皆様に感謝です。また次もお付き合いいただければ幸いです。




