出発前夜の甘い空間
サブタイトル通りの内容です。
第三章 第二十部<出発前夜の甘い空間>、壁殴りの準備をお澄ましの上で、是非最後までお付き合いくださいませ。
ジライ商会を後にした俺達は、セレアとリアの自己紹介の後に武器屋に向かって歩き始めた。以前、セレアとリアから、靴は武器屋や防具屋で売られている物の方が普通の物よりも丈夫で長持ちすると聞いていたからだ。
無論、その時にリアの靴も新しく買い換えてある。まだ今のが使えるから大丈夫とか言ってたけど、大概痛んでいたから強制的に買い換えたのだ。
「あ、あの、主様。」
シャーネがおずおずと声を掛けてくる。
「ん?どした?」
「えと・・・ありがとうございます。妹共々お引き取りくださって。」
「ありがとうございます。」
シャーネに続いて、シャーンも一緒になって頭を下げてくる。
「ご恩に報いる為にも、どのようなご命令にも全身全霊を以てお応え致します。」
うわぁ。ガチガチだなぁ。まさかコレが素って事はないよな?最初の頃のセレアに通じるものがあるし、心無しかシャーンは震えてるし。
「うん。まぁ、何て言うか・・・え~と・・・・・」
「〔タカシ様。この子達は、と言うよりも、普通の奴隷は自分の値段以上の利益を求められるものですから、萎縮してしまっているんだと思います。この街ですから尚更、白金の冒険者の要求はどれだけ過酷なものかと。〕」
リアが小声で耳打ちして、2人の気持ちを代弁してくれる。
なるほど。しかし、なんでこの街だったら尚更なんだ?まぁ、とりあえずそれは置いとくか。
「んじゃ、早速だけど、2つ命令させてもらおっか。シャーネ。シャーン。」
「「はい。」」
「あんまり堅くならなくていいから。普通に喋っていーよ。と言うか、そう畏まらないでくれ。マジでそういうの苦手なんだよな。無理矢理崩せってわけでもないけど。」
キョトンとする2人。
「んで、恩に報いてくれるつもりなんだったら、無理も無茶もしない事ように。せっかく姉妹一緒にいられる事になったんだから、無理してどっちかに何かあったら意味がなくなるだろ?」
「え・・・?」
「んで、これは命令じゃなくて、あくまでお願い。嫌な事は嫌って言って、やりたい事はやりたいって言ってくれ。せっかくだから、皆で楽しく笑って過ごしていきたい。」
「え・・・え?」
表情が困惑で埋め尽くされて、何て答えたらいいのか分からないという様子の2人。
「あの。ご主人様。私の時にも仰ってくださいましたが、ご主人様のお優しさは奴隷の身には想像の範疇外以上ものです。驚きで何と言えばいいのか、本当に分からなくなってしまいますよ?」
「え?そなの?」
「はい。奴隷になる前に聞かされた話や想像していた奴隷の生活とは掛け離れ過ぎていて、申し訳ない事ですけれど、私は何かを試されているのかと邪推してしまっていました。」
セレアの言葉にギョッとした顔でセレアを見る双子。これは図星って感じか?
「あぁ。なるほど。都合が良すぎると、何かの罠かって思うもんな。」
「はい。」
「そっか。んじゃまぁ、聞いてくれてるだけでいいや。習うより慣れろって言うしな。」
困惑に固まる双子の頭を軽く撫でてやる。
「え、と・・は、はい。」
「は、はい。」
これは、靴を買ったり宿の部屋を分けたりしたら、懐かしい反応が返ってきそうだ。うん。いっそ、ビックリさせまくって、驚いてるのが馬鹿らしくなるようにしてしまった方がいいかも。セレアは早々に何かを諦めてたし。
そして、武器屋で靴を買ったり、宿に戻って部屋を2人用に新しく取ったりしてたら、双子は予想通りに驚きまくって恐縮しまくってた。まぁ、慣れてくれ。これがこれからの日常になるんだから。
「あ、そうだ。シャーネとシャーンは魔石は扱えるか?」
「あ、え、えと・・・も、申し訳ございませんっ。私とシャーネは魔法の才能が無く、魔石への魔力供給は・・・」
「謝る事ないって。」
頭を深々と下げるシャーネの頭を優しく撫でる。
「じゃあ、リア。悪いんだけど、シャーネ達の部屋の風呂の準備してやってくれるか?晩飯の後にでも。」
「はいっ。」
困惑が溢れ返った顔で俺を見つめるシャーネ。
「お、お叱りに、なられないの、ですか?」
「? 何を?」
「そ、その・・魔石への魔力供給ができませんので・・・」
「怒らん怒らん。あ、でも、夕食はちゃんと摂らないと怒るからな?受付で頼めば食堂でも部屋でも、好きな方で食えるからちゃんと食事は摂ってくれ。体を壊したら何にもならない。」
「え?あ、は、はい。あり、がとうございます。」
「風呂は、まぁ、嫌いなら無理に入らなくてもいーけど。入った事ある?」
「いっ、いいえっ。そのような贅沢はとても・・・」
「んじゃ、試しに入ってみなよ。気に入ったら教えてくれ。リアの負担にならない程度なら、何回でも入れるから。」
「ここの浴槽にお湯を溜める程度の魔石への魔力供給なら、何十回しても負担にはなりませんよ。だから、入りたいだけ言ってくださいね。」
「は、はい。」
「あ、あの・・・ありがとうございます。」
リアの言葉に戸惑いながらも、シャーネの返事に続いてお礼を言うシャーン。
「リア。ホントに大丈夫なんだろうな?俺でも一応やれるんだぞ?」
「はいっ。エルフは保持魔力量なら他の種族よりもずっと多いですから。」
「そっか。んじゃ、頼むな。」
「はいっ。」
嬉しそうに首肯するリアと、それを見て頬を膨らませるセレア。
そういう顔をしないの。魔法関連に関しては仕方ないだろ?俺が部屋に行ったら、この2人に誤解させそうだし。
「んじゃ、今日はもうゆっくりしようか。何か困った事とかあったら言いにおいでよ。」
「あ、あの・・・」
なにやら、思い詰めた顔で俺の方を向いて俯くシャーネ。
「ん?」
「・・・い、いつ頃にお伺いしたらよろしいでしょうか?」
「はい?」
このフレーズ、リアの時に聞いた覚えが・・・
「セレアさんとリアさんがご一緒との事なので、先に体は綺麗にさせていただいておきます。主様にご満足いただけるようにご奉仕させていただきます。」
悲壮感が混じった覚悟の眼差しで、顔を上げて言い直すシャーネと隣で肩を震わせながら首肯するシャーン。
「いやいやいやいやっ。いいからっ。そういうのは強制しないからっ。」
やっぱりだったぁぁぁぁぁっ!ジライ商会さんっ、性奴隷として仕える事も明言させるのは商売上の戦略なんでしょうけど、自分から言わせるようにまでしなくてもいいんじゃないですかねっ!?
「えっ!?あ、あのっ、け、経験はございませんが、精一杯ご奉仕させていただきますのでっ。どのように扱っていただいても構いませんっ。私達にもどうかお役に立たせてくださいっ。」
「おっ、お願いしますですっ。」
怯えた様子で頭を下げてくるシャーネとシャーン。
なんか、物凄い勘違いをされてませんか!?
「い、いやっ。だから・・セ、セレア。リア。へるぷ。」
ガクリと項垂れて、助けを求める。
「「はい。」」
「よろしいでしょうか?シャーネさん。シャーンさん。」
「「は、はい。」」
声を掛けたセレアに顔を向けるシャーネとシャーン。
「ご主人様はとてもすぐには信じられない程にお優しい方です。獣人奴隷の私にすら、初めてお逢いした頃からずっと変わらないお優しさと暖かさを持って接してくださっています。今は、もっとそのお優しさを感じられていますが。」
言いながら、俺に寄り添うセレア。
然り気無く惚気るんじゃないっ。嬉し恥ずかしいっ。
「タカシ様が仰っている事は、素直に本当にそのまま受け取っていいんです。何も深読みする必要なんてないです。」
言葉を切って、少し赤くなるリア。
「確かに、私もタカシ様に隅々まで可愛がっていただいています。もう、これ以上の幸せは有り得ません。でも、それは私がタカシ様を心からお慕いして、心からタカシ様に抱いてもらいたいとお願いした結果なんです。」
言いながら、俺の腕に抱きつくリア。
「初めにお慕いして、可愛がっていただいたのは私ですよ。私がご主人様の1番奴隷ですから。」
セレアは言いながらリアに対抗するように、胸に俺の腕を挟んで抱き締める。
「いいですもん。タカシ様は私も可愛がってくださってますもん。」
対抗し合うセレアとリアを、ポカンとした表情で見つめる双子。
なんか話の趣旨が変わってきてませんか!?シャーネとシャーンが置いてきぼりになってますよ!?
「あ、すみません。話を逸らしてしまいました。」
双子の視線で我に返ったセレアが軽く頭を下げる。俺の腕はそのままだけど。
「つまり、ご主人様を心からお慕いするまでは体を捧げる事は認めないという事です。」
セレアさん、なんかニュアンスがおかしくないですか!?内容自体はそういう事なんですけどね!?
「そうです。それ以外はタカシ様も望まれないですし、私達も嫌です。奴隷の義務感なんていうもので、至福の時間に水をさされるなんて絶対に認めません。」
うわぁ。思ってた助け船と方向性がかなり違~う。セレアもリアも私情が入りまくりじゃ~ん。いや、嬉しいんだけどね?そんなに俺とのイチャイチャタイムを大切に想ってくれるのは。
「そ、それでいいんっ!!それでよろしいんでしょうかっ?」
慌てて口調を正すシャーネ。
「うん。まぁ、概ねはそんな感じ。追加で言っとくと、それでシャーネとシャーンを冷遇するなんて事は絶対にしないから安心してくれ。」
「は、はい。でも、それでは主様に何も利点が・・・」
「可愛い子が身の回りに増えるってだけで充分だよ。可愛い子を見てれば、それだけで幸せなんだから。」
俺の言葉に驚きながら真っ赤になる双子。
「あ、それとな。」
リアが抱きついてる方の腕を抜いて、シャーネの頭を優しく撫でる。
「そう気を張らなくてもいいよ。俺の奴隷になった以上は、俺がちゃんと妹もシャーネ自身も守ってあげるから。これからは自分1人で頑張んなくても大丈夫だよ。お姉ちゃん。」
シャーネの表情が驚きに固まって、それから目が潤んでいき、俺が言い切った時には俯いてしまっていた。
シャーネはジライ商会にいた時から、シャーンを庇うように常にシャーンの少し前に立っている。それに、何か口を開く時には率先して自分が口を開き、まるで矛先を自分に集中させようとしているかのように見えるのだ。きっと、今までもそうやってシャーンを守ってきたのだろう。双子で年も同じなのに、自分は姉だからと責任感が強い子なんだろうな。しかし、シャーン同様、シャーネも多分まだ相当に若い。見た感じはセレアと同い年かそれ以下に見える。妹を守るなとは言えないけど、無理をする必要もない。少なくとも、これからは。
「は、い・・・あり、が・・・ありが、とう、ございます。」
「お姉ちゃん・・・ありがとう、ございます。主さま。」
涙声で礼を言うシャーネと、姉を気遣う視線を送り、戸惑いながらも礼を言うシャーン。
「おう。んじゃ、また明日な。」
「「はいっ。」」
双子の返事を受けて、俺達は先に部屋に入り、ソファーに並んで座る。
明日は双子の装備と服を整えてやんなきゃな。ここには予想外に長居する事になったから、できれば明日には出発したいし。
「あ~。でも、疲れた・・・ジライ商会はマジで規模が違ったなぁ。他の所の倍以上の人数が紹介されるとは思ってなかった。」
「お疲れ様です。ご主人様。」
「お疲れ様です。タカシ様。」
「セレアとリアもお疲れ様。いやしかし、ホントに人数多かったよなぁ。」
「そうですね。でも、あの人達は全員調教済みの人達ですから、まだ途中の人はもっといる筈ですよ。」
「あ、そりゃそうか。でも、なんでここまで奴隷の需要が高いんだ?近くに遺跡があるからって話だったけど。」
「あ、それは・・・」
俺の問いに、リアが答えを言い淀む。
「・・・まさか、蟻の討伐の時みたいに奴隷に先行させまくってて、それで奴隷の死亡率が高いから、とかか?」
「・・・・はい。罠も多いですし、遺跡内の守護者が凄く強力なんです。しかも、罠も守護者もどうやら自動で修繕される古代魔法がかかっているようなので、遺跡の完全攻略も難しいんです。」
この世界の冒険者はマジで腰抜けのクソッタレばっかりかよ。胸糞悪い。それがこの街では尚更ってリアが言ってた理由か。
「なんでそんな危険な遺跡に、奴隷を買い替えてまで潜ろうとする奴が絶えないんだ?この街が奴隷商の街なんて呼ばれるくらいに長い間攻略できてないんなら、遺跡に入るメリットがないだろ?」
「いえ。守護者を倒すと、倒した残骸の中に魔水晶が残っている事があるんです。見つからない事もあるので、どういう理由で守護者の残骸から魔水晶が見つかるのかは分からないんですけど。」
ドロップアイテムかよ。でも、ゲームじゃあるまいし、一体どういう理屈だ?いや、それよりも、リアのこの口振り。リアも行かされてたのか?
「もしかして、リアも行かされてたのか?なんか実体験みたいに聞こえるんだけど。」
「あ、はい。何度か。魔水晶はとても高額で取り引きされますから。」
「よく無事でいてくれたな。その感じじゃ相当にキツかったろ?」
「はい。魔水晶を手に入れられるまで続けさせられましたから・・・」
その頃を思い出したんだろう。表情が曇るリアの頭を優しく撫でる。
「もうそんな事は一切ないからな。」
「はいっ。でも、タカシ様の為なら、あの程度って思えます。だから、もし遺跡に行かれるんでしたら、絶対に私も連れていってくださいね?」
また健気で可愛い事を。
「分かった。置いてきぼりになんかしないよ。まぁ、行く必要性がないから行かないけど。」
「よろしいのですか?今回、シャーネさんとシャーンさんを買われて、かなりの出費をされてしまいましたが・・・」
「ん~・・・・ちなみに、エルフの奴隷ってどれくらいの値が付けられてるか知ってるか?」
「あ、はい。ご主人様にお会いする前に買われたエルフの男性は、自分に付いた値段は15万エニーだと言っていました。」
「私は25万エニーでした。」
「15から25万エニーくらいか。それなら、やっぱり危険を冒してまで遺跡に行く必要は無いな。まだ500万エニー以上残ってるし、明日はシャーネ達の装備とか服とか揃えるけど、リアを買う資金が足りなくなる心配はなさそうだからな。」
「「はい。」っ。」
返事と共にリアは嬉しそうに俺に抱きつき、セレアも俺に肩を寄せてきた。
そして、夕食後、リアはシャーネ達の風呂の準備をする為に一旦部屋を出ていく。
「ご主人様っ。」
リアが出ていった途端に、セレアが正面から俺に抱きつき、唇を重ねてきた。俺もしっかりと抱き返す。
「すみません。ご主人様のお優しさに甘えてばかりで、どんどん我儘になっていってしまっています。」
「ん?どこが?」
セレアは真っ赤になりながら、上目使いで俺を見つめる。
「その・・・ご主人様とお2人きりになれたのが凄く久しぶりなので、僅かな時間ですけれど、えと・・あの・・・・私だけを構って、ほしい、です。」
セレアの言葉に、思わずおもいきり抱き締めてしまう。
何!?この可愛過ぎる生き物!?可愛過ぎて愛し過ぎるんですけど!!
「うん。久しぶりの2人きりだもんな。」
セレアの唇を塞ぐと、首に腕を回され、情熱的に舌を絡ませ合う。唇が離れて、とろんとした表情のセレアをお姫様抱っこで抱き上げ、ベッドに運ぶと、セレアは表情が緩みきり、耳が完全に垂れる。
「こうしてご主人様に抱き上げてもらうのは、リスタニカに到着した日以来です。ご主人様に抱き上げてもらうと、どうしてこんなに幸せなんでしょうか。」
そういえば、こんな風にベッドに運ぶ機会ってあんまりないんだよな。大概が既にベッドの上だし、リアが加わってからは尚更だし。
「好き?抱き上げて運ばれるの。」
セレアはさらに赤くなりながら、コクンと頷く。
かっ、可愛いぃぃぃぃぃっ!甘えん坊モードが久しぶりに全開ですか!?
「じゃあ、こうしてほしい時は、腕を広げて呼んで。いつでもやってあげる。」
言い切って唇を軽く塞ぐ。
「はい・・・ご主人様ぁ。」
とろんとした口調で、初めて聞かせてくれる甘えた声を上げて、首に回したままの腕で俺を引き寄せ、唇を重ねて、舌を絡ませてくる。
そのまま、初戦に突入して、その最中にリアが帰ってきた。
「あぁっ!?やっぱりですかぁっ!?わっ、私も我慢してたんですよぉ・・・」
言いながら涙目になるリア。
君は何故にそんなに嬉し可愛い反応ばっかりしてくれるかなっ。
「ごめんごめん。魔石の作業、お疲れ様。リアもおいで。」
俺が言い切ると同時に、服を脱ぎ捨てて飛びついてくる。そのままリアの唇を塞ぐと、一瞬で機嫌が直るリア。若干、恨みがましい視線をリアに刺しているセレアだけど、またキスをすると、こっちもすぐに機嫌が直った。俺、ホントに愛されてるよなぁ。元の世界じゃ本気で女性に縁がなかったってのに。幸せ過ぎる。
それから、また連戦激戦。
風呂に入る時に、セレアが早速お姫様抱っこをおねだりしてくれた。それを猛烈に羨ましがったリアにもやったけど、セレアはそれには特に妬く事もなかった。どうやら、本気で順番が1番重要らしい。
んで、明日は出発という事で、朝までコースは自重して、早めにベッドで2人を抱きながら休む事に。まぁ、早めとは言っても、かなり夜遅くになったのは言うまでもないけど。
主人公が双子を引き取った理由はお察しいただけましたでしょうか?セレア・リア級の可愛い子達だという事も勿論ですが、姉妹が離れ離れになってしまうのが忍びなかったんです。かなりの高額であった為、他の冒険者では二人を同時に引き取る事が難しいのは想像に難くなかったでしょうから。
2016/4/30 本文の一部を修正しました。
では、これにて第三章 第二十部の幕を下ろさせていただきます。最後までお付き合いいただいた皆様に感謝です。また次もお付き合いいただければ幸いです。




