魔術師ギルド長の困り事 ~ギルド長の受難編~
礼儀を欠いた態度は、相手によっては本当に身を滅ぼしかねません。それはこちらの世界も異世界でも同じようです。<身を滅ぼす>の意味合いは大きく異なりますが・・・
第三章 第十四部<魔術師ギルド長の困り事 ~ギルド長の受難編~>是非最後までお付き合いくださいませ。
「あら?その子、倒れちゃったけど?」
「まぁ、ジェラルリードちゃんの正体に気付いたんでない?真祖吸血鬼って、個体数も少ないんだろ?それなら、なかなか御目に掛かれる事もないだろうし。」
言いながら、1度立ち上がって窓のカーテンを閉めて、またベットに戻る。
真祖である事をレンシディオさんに悟らせる為に日光を遮断してなかったけど、失神するレベルで察してくれたんなら、もうそうしておく必要もない。ジェラルリードちゃんがいくら真祖だから平気だとはいえ、弱点には違いないらしいし。
「まぁ、普通はそうよねぇ。どっかの誰かみたいに、平然と名乗りのセリフにツッコミ入れてくるなんて絶対に普通じゃないしぃ?」
どうやら、根に持たれてるらしい。しかし、どこか嬉しそうに聞こえるのは気のせいか?
「ほう?じゃあ、悪戯でとんでもない演出効果を出してくれる真祖吸血鬼ってのは普通なんでしょうかねぇ?」
プイッと顔を背けるジェラルリードちゃん。
こっちもそれなりに根に持ってんだぞ。ある種の開き直りはできてきてるけど。
「ま、まぁまぁ。タカシ様。ジェラルリードさんも悪気があったわけではないですし。」
「ジェラルリードさんも、ご主人様はいろいろと規格外なだけで決して悪意があったわけではありませんので、どうかお気を悪くされないでください。」
人間族と真祖吸血鬼が亜人族と獣人族に宥められる光景って、相当にレアな光景なんじゃないだろうか?レンシディオさん、貴重なシーンを見逃したな。
「分かってるよ。ある種の開き直りはできてきてるし。本気で気にしちゃいないって。」
「そうそう。あたしもおかげで格好いいフレーズがいっぱいできたしさ。軽い挨拶みたいなもんよ。お互いに多少は根に持ってたりはするけどね?」
「そりゃそうだ。それくらいの方が面白い。」
ジェラルリードちゃんは楽しそうな笑みを浮かべて、俺の膝の上に座ってくる。
「んで?なんであたしに暴れてほしいの?」
俺にもたれながら言うジェラルリードちゃん。
物凄く気安過ぎないですか?いくらアンデッドとはいえ、人と大差のない容姿の美少女が無防備にってなると、若干ドギマギするんですが。まぁ、セレアとリアのおかげで昔よりは耐性がついてるから大丈夫だけど。
「簡単に言うとだな。力ある者の道理が通らない方がおかしいとか言ってるクソ野郎と、それに乗っかって馬鹿をやってる阿呆の鼻っ柱を叩き折って、以後一切調子に乗らせないようにしたいんだ。」
俺の簡単な説明に、ジェラルリードちゃんの紅い瞳がキラリと光り、ニンマリと悪い笑顔を浮かべる。
「面白そうじゃない。詳しく聞かせなさいよ。」
ウキウキした口調で説明を促すジェラルリードちゃん。
勇者の話をしてた時の様子からして、そういうのは好きそうだと思ったから乗り気にはなるだろうと思ってたけど、これは期待以上に楽しんでやってくれそうだな。
ジェラルリードちゃんに事の経緯と理由を、採掘場のイケメンと受付の金髪イケメンの対応と態度、あと、その金髪イケメンへのレンシディオさんの対応からその話が嘘ではなさそうだという事も併せて説明する。
「なるほど。あたしを関わらせたら目立つのは必至なのに、その辺はどうするのかと思ってたけど結構考えてるのね~。その条件なら、仮に、その副ギルド長一派があたしの事で騒いでも、権力争いに負けた腹いせに荒唐無稽な与太話をしてるだけにしか取られないでしょうし。そもそも、真祖吸血鬼を使い魔みたいに扱うような話自体が眉唾もいいトコだからね。」
「お、おいおい。使い魔って、俺はそんなつもりじゃ・・」
「ふふ。そんな困った声を出さなくても、それくらい分かってるわよ。あんたはお人好しもいいトコだもの。」
優しい声音で言うジェラルリードちゃんの言葉に、頬を掻く俺。
そんなつもりは確かにないけど、そういう風に言われるとなんか照れる。しかし、ジェラルリードちゃんの俺に対する評価が妙に高く感じてしまうのは気のせいだろうか?
「いいわ。徹底的に恐がらせてあげる。楽しそうねぇ。思い上がった馬鹿をトコトンまで怯えさせるのは。あ、でも、1つだけ条件付き。」
「? うん。俺にできる事なら。」
「その採掘場の馬鹿と受付にいた馬鹿がいたら教えなさい。」
「はい?」
「まぁ、いるかどうかは分からないでしょうけど、採掘場の馬鹿は天才とか言われてたんでしょ?それなら、来る可能性は高いじゃない。そこで倒れてるギルド長の子がそれなりに強いんなら尚更ね。」
「うんまぁ、確かに言えてるかも。それを教えるのは構わないけど、なんで?と言うか、そんな条件だけでいいのか?」
「ええ。あんたがその子に言ったのと同じよ。あたしもそういう愚か者は大ッ嫌いなの。それに、あたしの物語を広める為としてはなかなかの舞台になりそうだし。それで充分よ。」
うむぅ。そう言われてしまうと、何も言えなくなってしまう。
どうにもジェラルリードちゃんには勝ち切れない。この辺りは、やっぱり年の功というモノなんだろう。若干悔しくはあるけど。
我ながら、しょーもないトコだけは負けず嫌いなもんである。
「ありがと。じゃあ、お言葉に甘えさせてもらうよ。」
「よろしい。素直な子は好きよ♪あ、それじゃ、そろそろ、その子、起こしてあげましょうか。《目覚めよ。》」
ジェラルリードちゃんの力ある言葉と同時に、薄い黄色の靄がレンシディオさんを一瞬だけ包む。
「ん・・・・あ、れ?・・・夢・・・?そ、そうですよね。いくらなんッッッ!?」
身を起こしながらこちらに向き直り、俺の膝の上に座るジェラルリードちゃんが視界に入ると、言葉が途切れて硬直してしまった。
あちゃぁ。インパクトが強過ぎたか?真祖吸血鬼ってのは本気で恐怖の対象なんだなぁ。ジェラルリードちゃんしか知らないから、いまいちピンと来ないんだけど。
「え~と。大丈夫ですよ?他はどうだか知りませんけど、ジェラルリードちゃんは理知的で温和ないい子ですから。」
俺の言葉に軽く肩をコケさせるジェラルリードちゃん。
「いい子って、あんたねぇ。2500年以上も在り続けてるってのに。」
「見た目年齢が14、5歳だからなぁ。2500年とか言われても実感湧かないぞ。壮大過ぎる。」
レンシディオさんの顔が思いきり引き攣る。
「に、2500年以上・・・ま、まさか、伝説の真祖、紅と漆黒の美姫・・・?」
「あらぁ♪そんな昔の二つ名、まだ知ってる子がいたのね♪」
「紅と漆黒の美姫?」
「100年くらい前かしら?金級の冒険者パーティーが・・・5組くらいだったかしら?まぁ、それくらいの数で当時のあたしの塒にしてた城に攻めてきたのよ。その時に付けられた二つ名♪結構お気に入りなのよね~♪」
「一体何を仕出かしたんだ?」
「ん?あんたの時とおんなじ事。あ、でも、その城は廃城になってたのを貰っただけよ?」
「・・・100年前から同じ事してたのか・・・・」
「いいえ?もう1000年以上。」
「飽きないのか?それ。」
「飽きるわけないじゃないっ。時代が変わったり語り部が変われば、物語の内容も全然変わってくるんだからっ。」
「なるほど。」
「・・・にしても、あんた。全く態度変わんないのね。」
「? どゆこと?」
「ハァ。伝説の真祖とか言われてるのよ?少しは警戒したりとか恐がったりとかしてもいいんじゃない?誰も責めないわよ?」
「そうした方がいいんならそうするけど。」
「フゥ。まぁ、いいわ。今更感全開だしね。あんたって絶対に変だし。」
「当人の前でおもいっきり変人認定してんじゃねぇよ。」
言いながら、ジェラルリードちゃんの頭を撫で回してやる。
「ちょっとぉ。こういう話を聞いた直後に、子ども扱いするかしら?」
「変人だからな。別に気にしないで、おもいっきり子ども扱いしてやる。」
文句を言ってはいるが、心無しか声が嬉しそうだから撫でるのは止めない。
「・・・タ、タカシ様がその真祖吸血鬼をッッッ!?」
ジェラルリードちゃんの雰囲気が突然変わり、レンシディオさんの言葉が中断させられる。
「勘違いするな。人間族の女。あたしが気に入ってるのはこの3人であって、お前はその対象にない。口の聞き方には細心の注意を払わないと、寿命を縮めるぞ。」
「まぁまぁ。何が気に入らないのかは分かるけど、一旦抑えて。話が進まなくなっちゃうからさ。」
「・・まぁ、あんたがそう言うんなら・・・癪だけど。」
ジェラルリードちゃんから発せられていた殺気と威圧感が霧散する。
「ありがと。さすがに迫力が違うなぁ。ちょっと冷や汗が出た。」
「・・・どこが?平然としてるくせに。」
「いや。多分、今のを俺が向けられたら、セレアとリア連れて即行で逃げるぞ。なぁ?」
「は、はい。凄まじいです。改めて次元の違いを感じました。」
「思わず、少し腰を上げちゃいました・・・」
「あはは。ごめんごめん。」
俺は、完全に血の気が引いて硬直してしまったレンシディオさんに目を向ける。
「理知的で温和ではありますけど、それだけに礼を欠いた態度はお勧めしませんよ。モンスターにカテゴライズされてる種族とはいえ、理知的って事はそれだけの知能もあるんですから。それに、付き合いはまだ短いですけど、俺の友人でもあります。軽視するような言動を取られるのは俺も面白くはないですからね。」
ジェラルリードちゃんがキョトンとした顔で上を向いて、下から俺を見つめる。
「友人?」
「あ、あれ?違った?もうそのつもりだったんだけど。」
俺の返答に、ジェラルリードちゃんは慌てて前へ向き直り、下から手を伸ばして俺の顔を両手で挟んで上へ向けさせる。
「いっ、今、こっち見たら、絶対にコロスわよ!?そのまんま上を向いてなさい!あたしがいいって言うまで!!いいわね!?」
「いでで。分かった分かった。でも、そういう反応って逆に分かりやすいぞ?絶対に照れッテェェェ!?」
おもいっきり頬をツネられて、思わず声を上げてしまう。
「余計な事は言わないでいいのよっ!このスカタンッ!!」
「す、すんません。」
ジェラルリードちゃんは相当に照れ屋らしいな。ここは素直に謝っておく。
「ったく・・・ほら。話の続きっ。」
「えぇ~?上を向いたまんまっすか?喋り辛いんですけどぉ。」
「つべこべ言わないっ。自業自得よっ。」
理不尽な。まぁ、いいけど。可愛い妹分の我儘って感じだし。でも、本人に言ったら、またツネられそうだから言わない。
「んじゃ、このままで失礼して、話を続けますね。レンシディオさん?」
「は・・・はい・・・・」
恐る恐るといった感じで返事をするレンシディオさん。
俺を相手にはそう怖がる必要もないんだけど、まぁ、さっきのジェラルリードちゃんの迫力は半端なかったし、無理もないか。
「え~っと、まぁ、つまりは礼儀さえ守れば大丈夫って事です。相手を示すのに、<その>なんて表現は見下している相手か、もしくは、敵対してる相手にしか使わない表現でしょう?」
「あ・・・は、はい。し、失礼致しました。申し訳ございません。」
「フン。まぁ、いいわ。こいつに免じて水に流してあげる。」
「あ、ありがとうございます。」
声が震えているレンシディオさん。
こりゃ、早めに話を終わらせた方がいいな。レンシディオさんの体が持ちそうにない。顔面蒼白だし。
「それで、どういう手を使うかってのはもう察しが付いてるかと思いますけど、ジェラルリードちゃんに副ギルド長一派を蹴散らしてもらいます。まぁ、死ぬ程怖いでしょ。徹底的に怯えさせてくれるそうですし。」
レンシディオさんの顔がさらに引き攣る。想像してしまったらしい。
「あ、でも、死人は出さない方向で約束もしてくれましたから、それは安心してもらっていいです。それに、真祖吸血鬼が助っ人にくるような冒険者がバックに付いてるとなれば、その後からはレンシディオさんに逆らって馬鹿な真似を続ける事もないでしょう?」
コクコクと首を縦に振りまくるレンシディオさん。
「では、先にお伝えした2つ目までの条件を揃えられたら、またご連絡をいただけますか?副ギルド長一派が戦力を整えるのにも、多少の時間は必要でしょうから今夜ってわけにもいかないでしょうし。」
「は、はい。で、では、早急に段取りを整えます。」
「あ、1つ言っておくけど、この子がバックに付くってのは副ギルド長一派を懲らしめる為だけよ。それ以上にこの子の名前を使って、万一にもこの子の名前に泥を塗るような真似をするのはあたしが許さない。いいわね?」
「はっ、はいっ。勿論ですっ。ご助力いただいた恩を仇で返すような真似は決して致しませんっ。」
「そう。なら、いいわ。」
「はっ、はいっ。ではっ、し、失礼致しますっ。」
飛ぶような勢いで、レンシディオさんは部屋を出ていってしまった。
「そんな心配ないと思うけど?あの人、この世界の人の中では差別意識は割と緩めの人みたいだし、悪い人だとも思わないし。」
「バーカ。自分のバックが強力になれば、調子に乗るのが人間族ってもんよ。釘は刺しておくべき。」
うむぅ。確かに、昇進したら人が変わるなんてのはよく聞く話だし、否定はできないか。
「それもそうか。ありがと。ジェラルリードちゃん。」
「いーえ。」
「んで、そろそろ顔の向き、戻していい?首が痛くなってきた。」
「ん。仕方ないわね。」
俺の顔から手が離されて、ようやく普通に前を向けるようになった。
「さて、それじゃ、さっきの子から連絡が来たら、また呼んでちょうだい。」
「打ち合わせとかしなくていいのか?」
「そうねぇ。まぁ、正に吸血鬼って感じで登場したいけど。」
「んじゃ、さっきの転移魔法でってどうよ?影は魔法で作っとくから。」
「それ、吸血鬼っぽいかしら?」
「はい。影を利用しての転移魔法なんて超高等魔法、普通は気軽に扱えるものじゃないですし、吸血鬼は光を嫌いますから、イメージにもピッタリだと思います。」
「そう?でも、地味じゃない?」
「いやいやいや。闇の中、影から出現して、紅い瞳を輝かせ鋭い牙を覗かせるとか、完全にホラーだから。急にやられたら、俺は泣く自信があるぞ。」
「あのねぇ・・・情けない事を胸を張って言わないの。この子達の前でしょ?少しはカッコつけなさいっての。」
「無理にカッコつけたら、すぐにボロが出るもんなんだよ。」
「大丈夫です。ご主人様はそんな事をされなくても、充分過ぎる程に凛々しくて素敵な方ですから。」
「「へ?」」
頬を赤らめながらいうセレアの言葉に、俺とジェラルリードちゃんの間の抜けた声が重なる。
「タカシ様は自然にしていても、ちょっと反則ですもん。素敵な時は胸が破れるかと思うくらいに高鳴りますし、可愛い時は胸が暖かくなって抱き締めたいのが我慢できなくなりますし。」
「気を抜かれている時のお顔にも癒されてしまっています。それに、その・・・て、照れてくださっている時は、もう言葉にならないです。幸せな気持ちが溢れ返ってしまって・・・」
「分かりますよぉ。タカシ様を見ている時はいつも幸せですけど、その時はいろいろ振り切れちゃいますもん。」
2人して、赤くなりながらも嬉しそうな顔をして言葉を繋ぐ。
ちょっ!?マジで勘弁してくださいませんか!?一気に体温が10℃くらい上がった気がするんですが!?嬉し死、恥ずかし死するぞ!?
「うわぁ。惚気るわねぇ。熱い熱い。」
言いながら、掌で顔を扇いでみせる。
「熱過ぎて灰になっちゃいそうだから、あたしはそろそろ行くわ。連絡来たら呼びなさいね。じゃね~。《影よ。我が望む場所へ繋げ。》」
俺の膝から降りて、そのまま影に潜るようにして、ジェラルリードちゃんはこの場から去っていった。
影を使った転移魔法かぁ。カッコいいけど、超高等魔法だってリアが言ってたし、使うのは無理っぽいかな。
とか考えて、恥ずかしさと嬉しさで熱くなった顔と体を冷まそうとしてみたけど、どうにも無理。誤魔化し切れんっ。あんな風に言われたのは人生初なだけに、どうしていいのか分からんっ。
「あ、あの・・・ご主人様?」
「う、うん?」
「その・・・もう、この後はご予定はありません、か?」
もじもじしながら言うセレア。
「あ、うん。ない、かな。」
あ、理性が消える予感。
「で、では・・・もう、我慢できない、ですっ。」
セレアが俺を押し倒して、唇を塞ぐ。
「あぁ!?ずっ、狡いですよぉっ!」
珍しくセレアが攻勢に出てきて、リアが追撃に回ってきたおかげで、予感が的中。
間の小休憩中に聞いたら、ジェラルリードちゃんが膝の上に乗っていたのが羨ましくて仕方がなかったという事らしい。リアもそれは思っていたそうで、俺の膝や前に座って抱き締められるのを競い合うみたいに取り合ってくれてた事に納得。
なんて可愛い。と言うか、可愛過ぎぃぃぃぃぃぃっ!!!もう、何か他の表現ってないのか!?表現し切れない可愛さと愛しさが溢れ出して止まりませんっ!!!!
些細な事でから相手に不快感を与えてしまうなんて事はよくある話かもしれませんが、レンシディオさんはジェラルリードちゃんが主人公の僕だと勘違いしかけていたせいで、地雷を踏んでしまったようです。ジェラルリードちゃんがフレンドリーに見えるのは、あくまでも気に入った主人公達だからこそなんです。
レンシディオさんが少し可哀想な気もしますが、身内とそうでない相手とで差が出てしまうのは致し方ないでしょう。
では、これにて第三章 第十四部の幕を下ろさせていただきます。最後までお付き合いいただいた皆様に感謝です。また次もお付き合いいただければ幸いです。




