魔術師ギルドの依頼 ~小休憩編~
和解の後に、全員が打ち解け合います。そこで、意外な事実が発覚。
人の縁とは不思議なものです。どこで何がどう繋がっているのか分からないのですから。
第三章 第八部<魔術師ギルドの依頼 ~小休憩編~>是非最後までお付き合いくださいませ。
それから、俺達がまだ名乗っていない事に気付いたから遅めの自己紹介をして、和気藹々とジェラルリードちゃんの名乗りフレーズ案を出し合った。まぁ、主に出してたのは重症患者の過去を持つ俺なんですが。まぁ、それはともかく、セレアとリアもすっかり打ち解けたようで何より。敵対するよりも仲良くできた方がずっといい。
「よしっ。これなら前のよりも絶対にインパクトもあるし、物語にも出やすいわよねっ。」
満足げなジェラルリードちゃん。
「でも、どうやって物語になってるかどうかって確認してるんですか?人間族の街に入り込むわけにもいきませんよね?」
「え?結構しょっちゅう入り込んでるわよ?」
「「「え!?」」」
リアの疑問にさらりと答えるジェラルリードちゃんに、俺達の驚きの声がハモる。
「ふふ~。ビックリした?」
何故か俺に視線を当てて聞くジェラルリードちゃん。もしかして、最初の登場で驚かなかった分を取り返そうとしてるんだろうか?
「した。おもいっきりした。どうやって紛れ込んでるんだ?」
「吸血鬼には変身能力があるのは知ってるわよね?」
「知ってるけど、アレって蝙蝠とか狼とか霧とかそういうの限定じゃないのか?」
「だから、蝙蝠になってよ。日が完全に落ちてから動き回ってても何の不自然もないでしょ?」
「あ~。なるほど。」
「まぁ、人間族の姿にもなれるけど。」
「なれるのか!?」
「ええ。他のどんな種族の姿にだってね。日光だって耐えられなくはないから普通にうろうろできるし。」
得意気に胸を張る。真祖、やっぱりパネェっす。
「・・・やはり真祖の力というものは凄いものなのですね・・日光は吸血鬼の致命的な弱点とばかり思っていました。」
「弱点は弱点よ。普通の吸血鬼じゃすぐに灰になって燃え尽きちゃうし、あたしだって真夏の真っ昼間とかは結構しんどいわ。だから、本になってるか見に行ったり、子どもへの寝物語に聞かせてるか調べたりするのは夜に蝙蝠の姿でってわけ。」
セレアの感嘆に答えるジェラルリードちゃん。真夏の真っ昼間は大体の人がしんどいと思います。こういう所は、さすがは真祖吸血鬼ってトコか。
「人の姿になるのは直接リサーチする時だけって事か。」
「そゆこと。」
「あ、ついでに、もうちょっと聞いてもいいか?」
「いいわよ。いいフレーズ考えてくれたお礼代わりね。」
「ありがと。」
礼を口にすると、ジェラルリードちゃんは何故か呆れた顔をする。
「・・・あんたって、ホントに変。吸血鬼にお礼を言う人間族なんて、物語にすら出てきた事ないわよ?それに」
セレアとリアに視線を向ける。
「人間族の奴隷になってる狼人族とエルフがこんなに元気で綺麗な格好してて、あたしが出てきた時なんて、心底こいつの事心配してたでしょ?命令もないのに、2人して前に出てきちゃってさ。」
また視線を俺に戻す。
「それをあんたはさらに前に出てくるし。まぁ、それはあんたが平然としてたからかもしんないけど。」
「あぁ。変人なんだよ。俺。」
「違います。ご主人様はとてもお優しいんです。」
苦笑混じりの俺の言葉を即座に訂正するセレア。ブレないね。君は。
「変わった方だというのは否定できませんけど、優しすぎる上に、懐が深すぎるから変わって見えるんだと思いますよ。とにかく、何もかもが規格外な方なんです。」
をぅ・・・とうとうリアまで俺を平然と持ち上げ始めたぞ。勘弁してくれ。恥ずかしいから。
「ふぅん。珍しいけど、いいわ。そういうの。他の人間族なんてもう見苦しいったらないし、不愉快極まりないのを見た事も何回も・・・って・・あれ?」
リアの顔を改めてマジマジと見るジェラルリードちゃん。
「ど、どうかしましたか?」
「あ、やっぱり。なんか見た事あるなぁって思ってたけど、リアってリブラベールの奴隷商会で売られて、あの糞みたいな冒険者に買われた子でしょ?」
リアが驚愕に固まる。
「しかも、同じ奴隷だってのに、あの猫人族の男も最低だったし。」
「ど、どうしてそれを?」
「何回か見掛けたから。蝙蝠の姿で街の中をうろうろしてた時に。悪いわね。見掛けた時にちょっとあいつらの意識を逸らして、そういうのに抵抗なさそだった鼬人族の方に矛先向けさせるくらいしかできなくて。」
「!!! あ、あれはジェラルリードさんが・・・」
リアの瞳から涙が溢れてくる。
「・・あり・と・・ありがとう、ございます・・あの時期がなかったら、私はきっと・・・」
「お礼なんてよしなさいよ。あたしだって一応女だし、それにあんなの根本的には何の解決には繋がってなかったんだから。第一、あんたが守ろうとしてなきゃ何もしなかったわ。」
「いいえ。私から矛先が逸れる時期がなかったら、辛すぎて自分で死を選んでいたかもしれません。それか、あいつらに殺されていたか・・・そうなっていたら、タカシ様に出会える事も今のこんなに幸せな時間もなかったんです。だから、本当にありがとうございます。」
「そう。まぁ、今が幸せならいいわよね。」
「はいっ。本当にありがとうございますっ。」
人の縁ってのは不思議なもんだな。思わんトコで繋がってるんだから。成り行きだったけど、ジェラルリードちゃんに剣を向ける事にならなくてよかった。
「あ、悪いわね。話を逸らしちゃって。で?聞きたい事って何?」
「あぁ。え~っと、なんだっけか。あ、そうそう。魔晶石から魔力を吸う方がいいって言ってたけど、もしかして、ジェラルリードちゃんがここにいるのってその魔晶石ってのがあるからなのか?」
「ええ。それも結構良質なのがね。あ、あんた達は依頼で来てるんだっけ。欲しい?魔晶石。」
挑発的な目で問いかけてくる。
「いや。別に。俺達の受けた依頼は魔石の採掘と回収、んでもって、可能ならこの採掘場からアンデッドを駆除する事だし。」
答えると、ジェラルリードちゃんに何故かガックリと肩を落とされた。
「あ、あんたねぇ。欲ってものが無いの?魔晶石よ?魔・晶・石っ。分かってる?」
そう言われてもなぁ。それがどういう物なのかサッパリだし。
もう言っちゃっていいかな?吸血鬼なら、俺の素性を知ってもそれをどうこうするなんて事もないだろうし。普通はそもそも人と相容れない関係っぽいから。何より、ジェラルリードちゃんはかなり理知的で人に本気の害意がない。自分の物語を流布させる為に喧嘩を吹っ掛けるっていう、なんとも傍迷惑な趣向は持ってるみたいだけど、俺に害が及ぶ事はまず有り得ないだろう。
「それがどういう物か、サッパリなんだよな。」
あんぐりと口を開いて固まるジェラルリードちゃん。女の子がそういう顔をしないの。
「異世界人なんだよ。俺。だから、魔晶石がどういう物かも知らないし、どれだけの価値があるかも知らない。」
「いっ、異世界人!?って事は、あんた、まさか勇者!?」
驚きの声を上げると共に立ち上がるジェラルリードちゃんだが、一瞬何かを考えて何故かすぐに座り直す。
「って、そんなわけないか。」
どういう意味だ?泣くぞ、こら。
「前の勇者と何もかもが違い過ぎるわ。あんないけ好かないガキと同じ勇者だなんて有り得ない。」
あれ?なんか意外にジェラルリードちゃんの中で俺って好印象?と言うか、いけ好かないガキって・・・
「ま、前にいたのですか?本当に勇者と呼ばれる方が。」
「いたわよ。さっき言った同族を滅ぼしたのが、その勇者。1500年くらい前になるかしらね。」
嫌な事を思い出したように、ジェラルリードちゃんの表情に怒りが混じる。
「あんた達の幻想をブチ壊すような話だろうけどね。あのガキは最低最悪よ。」
「まぁ、同族を滅ぼされてりゃいい印象はないだろうなぁ。」
「別にそれはいいのよ。」
さらりと言うジェラルリードちゃん。いいのか、おい。
「あいつはあいつでいけ好かなかったし。やたらと傲慢でこのあたしにすら上からの物言いをしてくれて、挙げ句の果てには、人種族を支配する為に自分の配下に加われなんて戯言をほざくような馬鹿よ?勇者が滅ぼしてなかったら、あたしが縊り殺してやってたわ。」
うわぁ。目がマジだぞ。相当に嫌いだったんだな。
「でも、勇者はもっと最低。それよりも前から人間族は他の人種族を差別してたトコはあったけど、あの勇者が世界征服とか言い出して、他の人種族の国を壊滅させていったせいで今みたいに極端な状態になったんだから。」
「「そ、そんな・・・」」
セレアとリアの失望の声が重なる。
「残念だろうけど、本当の話よ。」
「で、でも、勇者が滅ぼした国は悪政が蔓延って、その国の住人は貧困に喘ぎ、一部の富裕層や王族貴族だけが弱者から搾取していて、それを勇者が正す為にって・・」
「まぁ、獣人族や亜人族の国にもそういう事はあったかもね。でも、じゃあ今はそれが無くなった?人間族の中でだけでも?」
言葉に詰まるリア。
「その話はよくある勇者物語の1つなんだろうけど、完全に人間族にとって都合良く改変されてるわ。事実は違う。あのクソガキは、<ちーと>とかいう妙な力を振るってやりたい放題に自分の欲望を満たしてた最低最悪のクソよ。まぁ、人間族にとっては、正にユウシャサマだったんでしょうけど?最後は魔族の王とその側近にタコ殴りにされてくたばってたわね。」
憎悪すら滲ませて言葉を紡ぐジェラルリードちゃん。これはジェラルリードちゃんも何かあったに違いない。しかし、魔族の王と側近達、メチャクチャ強かったんだな。国を壊滅させるような勇者をタコ殴りにするって・・・やっぱり魔族とは事を構えないようにしよう。
それにしても、<ちーと>って、絶対にチートの事だよな?チートって、割と新しい言葉じゃね?少なくとも、1500年も前には存在してない筈だ。だって、元の世界の1500年前の時代って言えば、聖○太子とかの時代だろ?パソコンはおろか、まともな電子機器だって世界中のどこを探してもなかった筈の時代だ。
その筈なのに、召喚された1500年前の勇者と呼ばれた奴がチートなんて言葉を使ってたって事は、少なくとも、俺と同じ時代以降の人間の筈。いや、異世界がここと俺のいた世界だけなんて事はないだろうから、そいつのいた世界は俺のいた世界よりも圧倒的に科学が進んでたって事も有り得るか。
でも、チートなんて言葉が普通に使われるような文化や文明の発展の仕方を、別の世界でも同じようにするもんか?実際、この世界と俺のいた世界では文化も文明も、そして技術でさえも異なっている。そう考えたら、勇者召喚って魔法は次元だけじゃなくて、時代すら飛び越える代物だって考えた方が納得がいく。もしそうなら、マジでとんでもない魔法だな。
「で、あんたが異世界人だってのなら、ここに来る方法は勇者召喚の魔法以外には有り得ないでしょ。それがなんで勇者じゃないわけ?」
俺は勇者じゃないって前提で喋られてるぞ。勇者召喚で来た事は断言されてるのに。
いやまぁ、ジェラルリードちゃんの中では勇者の評価は最低最悪みたいだから、そう考えたらそう言われるのは嬉しい事なんだろうし、実際に勇者じゃないんだけど、なんだかなぁ。
「実際、勇者じゃないらしいんだけどさ。勇者召喚でここに来た事は断言されてるのに、何故に勇者じゃない前提?勇者って、ほら。なんつーの?一般的には、正義の味方でカッコいい皆のヒーローって感じじゃん?俺ってそんなに勇者っぽくない?」
「ぽくない。全然。まったく。」
ジェラルリードちゃんの即答に、思わずしゃがみ込んで膝を抱えてしまう。
別にいいやい。それぐらい分かってたもんね。所詮、俺なんて中の下のモブ男その1だし?聖剣抜きにはチャレンジすらできずに用無し認定されたし?セイギノミカタなんてつもりはこれっぽっちもないし?ヒーローになんかなれないのは昔っから分かってたし?
「ごっ、ご主人様は確かに勇者ではないのかもしれませんけれど、私にとってはお優しくて強くて頼り甲斐もあって最高の大好きなご主人様ですよっ!」
「そっ、そうですっ!私にとっても、懐が深くてこれ以上が絶対にないくらいの初めて身も心も捧げたいと思った人ですっ!だから、そんなに落ち込まないでくださいっ!」
セレアとリアが慌てて俺の側に駆け寄ってきて、両脇から抱き締めながら言ってくれる。2人の優しさに泣きそう。
「あ、あらぁ?思ってたよりショック受けちゃった?ごめんごめん。さっき、あたしの演出を全然平気って言ってくれたお返しのつもりだったんだけど。」
「泣くぞ。こんにゃろう。いきなりこの世界に呼び出されたかと思ったら、聖剣抜きにチャレンジすらできないままに用無し認定されて、即行で王宮から追い出されたんだぞ。俺。」
俺の言葉にジェラルリードちゃんは物凄く可哀想なものを見る目で、慈愛に満ちた微笑みを浮かべる。
「うん。ごめん。知らなかったとはいえ、あたしが悪かった。でも、大丈夫よ。今はこんな可愛い子が2人も側にいてくれてるじゃない。」
「はいっ。私は一生お側にいますよ。」
「私もです。」
ジェラルリードちゃんの慰めに、セレアとリアも続いて言いながら俺の頭を撫でる。いかん。情けなさ過ぎる。立ち直らないと。
「ありがと。も、大丈夫。」
言いながら、セレアとリアの背中をポンポンと叩く。自分でも意外だったけど、即行で放逐されたのが結構なダメージになって残ってるらしい。
「「はい。」」
2人してもう1度ぎゅっと俺を抱き締めてきてから離れ、それぞれ座り直す。
「あ、それで、なんだっけ?」
「魔晶石ってのがここにあるってトコまで聞いたところ。」
「あ、そうそう。あたしがここにいる理由がそれかって話だったわね。まぁ、それだけじゃないんだけど。」
「それはなんとなく察しがついてるよ。自分の物語をもう1回流行らせる為、だろ?」
「当ったり~。でもまぁ、それはもういいわ。ここからは引き上げてあげる。」
「いいのか?魔晶石は持ってけばいいとしても、このままじゃそっちの目的は果たせないぞ?」
「持ってけばいいんだ・・・ねぇ?魔晶石の価値を先に教えてあげたら?」
リアに視線を向ける。
「あ、はい。でも、多分、結論は変わらないと思いますけど・・・」
「まっさか~。それはないって。ほらほら。早く教えてあげて。」
「はぁ。それじゃ、魔晶石についてお話ししますね?」
「うん。興味はあるし。」
俺の言葉にジェラルリードちゃんは人の悪い笑みをニンマリと浮かべる。
「魔晶石は魔水晶のさらに高位のアイテムで、それ自体が魔力を宿しています。しかも、魔水晶が周囲の魔力を吸収して蓄えるのに対して、魔晶石はそれ自体で魔力を生み出します。勿論、無限にっていうわけじゃありませんけど。それだけに、魔法が苦手な人や覚えていない魔法でも、その魔晶石の持つ特性の魔法が使えるんです。」
「ほぉ~。つまり、火の魔晶石なら火の魔法が俺でも使えるって感じか。」
「はい。ただ、魔水晶に比べてもさらに数が少ないので、とんでもなく高価で取り引きされています。真祖であるジェラルリードさんが良質とまで言う魔晶石なら、多分売れば一生遊んで暮らせますね。」
「へぇ~。」
「ど?欲しくなったでしょ?」
「え?なんで?」
肩をガックリと落とすジェラルリードちゃん。
「い・ま・の・は・な・しっ、ちゃんと聞いてたの!?一生遊んで暮らせるだけの大金が転がってるのよ!?それをっ、まだ持ってけばいいなんて言えるわけ!?」
「お、おう。ジェラルリードちゃんがここに居座るにしても、とりあえず、魔石をある程度回収させてくれれば、こっちの依頼は成功になるから充分な報酬は得られるし、それもダメってなったも他の依頼を片付けりゃいいだけだし。」
何故かガックリと肩を落とすジェラルリードちゃん。
「ましてや、ここから引き上げてくれるってのなら、追加報酬で充分過ぎるくらいの報酬は手に入るからな。魔晶石はジェラルリードちゃんの食料?エネルギー源?まぁ、そんな感じっぽいのだろ?人の物を取ってまで高収入得ても寝覚めが悪くなるだけだし、ましてや、リアの恩人にそんな真似できないよ。第一、戦っても勝てる気がしないし。」
「こ、こいつは・・・欲どころか、プライドもないのか・・・」
「失敬な。人としてのプライドは持ってるぞ。恩には恩を、仇には倍返しで仇を返すのが人ってもんだ。」
「・・・今、なんかとんでもなく性根が腐ったような一言が混じってた気がするけど?」
「ほっとけ。人間なんかそんなもんだ。」
その言葉に何故かジェラルリードちゃんは愉快そうな笑みを浮かべて
「そうね。善人ぶってる偽善者よりもその方がずっと自然だわ。やっぱりあんた変な奴ね~♪」
とても愉快そうな声でそう言った。
ジェラルリードちゃんは主人公の人柄を探っています。表面には出しませんが、1500年前の勇者の件で異世界人には警戒心を持っているからです。だから、わざと主人公を煽ったり、魔晶石で欲を誘ったりしているのです。
しかし、主人公の反応は悉く予想を裏切り、主人公が自分を飾るわけでも善人ぶるわけでもない事に本当に好感を持っていっています。
では、<小心者の物語>一旦の閉幕とさせていただきます。次回もお付き合いいただければ幸いです。




