6話 冒険者のスタート
僕が魔王(自称)から受けた魔法は『吸命の蕀』と言う闇魔法なのだと。
魔法をかけられた人の魔力を吸い、魔力が尽きたら今度は生命力を……そして蕀が成長し花が咲く頃には老衰のような死を迎える魔法なのだと。
そう言えばなんだか力が抜けるような?
それでも僕は闇魔法に適性があるおかげで魔力の減りも大分緩やかだとバジルさんに教えてもらった。
僕たちは当初の予定通り城を出発する事にした。
ノンナは城に残ってほしそうにしていたけど、この呪いを解くために魔法の知識をつけないといけない。
ここは心を鬼にしても出発するんだ。
◆◇◆◇◆◇◆◇
城を出たところで大神さんと神崎さんが立っていた。ちょうどいいタイミングだったので先程の魔王の一件を報告する事にした。
とりあえず立ち話もなんなので酒場へ移動しようと言う流れになった。
「それにしても魔王ですか……」
「大神さん。魔王はまだ復活していないって言いましたよね?」
「ええ、言いましたよ」
「じゃあさっきのは?」
「おそらくですが……魔王軍の幹部。それも側近クラスだと思いますよ」
「何故そう言い切れるんです?」
「声だけって言うのが気になります。
本当に魔王なら姿を見せたほうがより効果的に脅せれますしね」
「この世界なら知らない方がおかしい存在だからな」
「次に使った魔法です。
ノンナ姫を狙ったと言えば説明もつきますが、そもそも全員狙えば済む話しです」
「一人だけ狙って精神的に追い込む作戦では?」
「もしくは目撃者を残したかったか……」
「それもありますが、それならもっと上位の闇魔法を使うはずですよ。『吸命の蕀』なんて中途半端な魔法を使わずにね。
目撃者を残したいならそれこそ姿を現すべきですね」
なるほどね~そう思うとなんだか変な奴だったな。
「いずれにしても和泉様の魔法を何とかしなければいけませんね」
「和泉さんが自分で解除するって言うのは?」
「時間的に無理でしょう……
和泉様、蕀の状態を見せていただけますか」
僕は襟元を少し開き大神さんに刺青を見せる。
「ふむふむ、まだそんなに成長はしていないですね」
「私も見たいです~」
「そうですか……どれくらいもつと思います?」
「あ~和泉様こんな派手にタトゥ入れちゃって」
「そうですね……この様子だと三ヶ月は大丈夫かと」
「でも和泉様には似合わないですよ」
「三ヶ月……その間に解除できる人を探さないと……」
「な・の・で! 私が取っちゃいま~す」
「「さっきからうるさい!!」」
「ひゃ~~」
「“ひゃ~~”じゃないですよ! さっきから何やっているんですか!
あなたが喚んだ人が被害にあっているんですよ!」
「何勝手に人の胸元に手を入れているの! 変態なの?」
「私はただ和泉様のタトゥが似合わないから取って差し上げようと……」
「神崎さんに取れるくらいなら最初から頼んでますよ」
「大体触った位で取れ……取れてる……」
「何ですって? 和泉様ちょっと失礼」
大神さんが襟元を広げて覗き込んでくる。
「もう! 先輩! お店の中でそんなことしちゃダメですよ!」
「神崎さんは黙っていなさい!
……どういう事です? 魔法が解除されている」
ええ~~! どうした闇魔法!
「だ~か~ら~和泉様の胸のタトゥなら私が触った瞬間に砂みたいにこうサラサラ~って」
「「何だって!!」」
「神崎さんあなた何したんですか?」
「こういう事出来るなら最初から言ってよ!」
「そんな一気にしゃべらないでくださいよ~
えっとですね。闇魔法は興味があったので昔ちょこっと習った事があるんです。
でも私、根っからの光属性だったみたいで闇魔法とはとことん相性が悪いんですよ~」
「あ~もういいです。なんとなくわかりましたから」
「僕もです。とりあえず神崎さんのおかげで助かりました。何か釈然としないけど」
触っただけで闇魔法の呪いを解除するとか。神崎さんどんだけ光に極振りなんだろう……
「それで? あのタトゥは何だったんです?」
これだもの。折角助けてくれたのに感謝しきれないのは何故だろう?
あ、お城のみんなになんて説明しよう……まぁ後でいいか。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
何も頼まないで出るのもあれなんで、一杯だけ飲んで店を出た。
飲んだのはアスポールというリンゴのお酒で一杯五グラーと言われた。
会計を終えた大神さんに確認すると
一グラー=銅貨一枚
百グラー=銀貨一枚
一千グラー=金貨一枚
一万グラー=白金貨一枚
となっており、大体一グラ百円程度の価値があるそうだ。以前飛ばされた世界と同じ感じ感じかな。
と言うかお城から金貨三枚も貰ったけど、これ円に直せば大体三十万じゃんね。
やべぇ王族の太っ腹具合が凄い。
店を出た僕たちは予定通り冒険者ギルドを目指す事にする。
街を見ながら歩いていると目的の冒険者ギルドの建物は直ぐに見つかった。
「大きな建物だね」
「この国の首都ですからね。当然冒険者ギルドも本部になります」
「はぁ……まぁとりあえず登録だけしておこうぜ」
「そうだね」
「それじゃ私達はここでお待ちしておりますので、登録が終わったらこちらまでいらしてください」
「和泉様ファイトですよ!」
「え? 冒険者登録ってそんなに頑張らないとダメなの?」
一抹の不安を抱えながら冒険者ギルドへ入っていく。
冒険者ギルドに入るとそこは西部劇に出てくるような酒場だった。
ガラの悪そうな人達が入ってきた僕たちを一瞥するが、直ぐに興味を無くしたようで直ぐに自分達の会話に戻ってしまう。
まぁいきなり絡まれても嫌だし。さっさと移動しよう。
席を縫うように歩きようやくカウンター前にたどり着く。
カウンターにはお姉さんが二人、イケメンが一人、窓際に行きそうなおっちゃんが一人。
さて、どれに行くか……あ、お姉さんと目があった。
しょうがない。無視するのも悪いし……
僕たちは目があったお姉さんの所に行く事にした。
「ラグズランドの冒険者ギルドへようこそ。初めての方ですか?」
「あ、はい。冒険者の登録を……」
「かしこまりました。それでは市民カードの方をお願いします」
僕たちはノンナから貰った方のカードをお姉さんに預ける。
これ市民カードって言うんだ。どっかの行政が作っていそうな名前だね。
お姉さんは僕たちのカードを受け取ると一枚づつ石版のようなものに乗せていく。
あれはなんだろう?
「イズミ・ウエハラ様とヒナタ・ニイヤマ様。それにリョウ・タケダ様ですね」
「はいそうです」
「現在は『一般市民』になっています。このまま冒険者登録いたしますと職業は『ノービス』となりますが、よろしいですか?」
「お願いします」
僕の言葉に陽向と武さんも頷いた。
「かしこまりました。それではイズミ様からこちらに血を垂らして下さい」
そう言ってお姉さんはナイフと取り出すと僕に手渡した。
僕は右手人差し指に刃を当て少し引く。指に赤い一本線が引かれ血が滲み出てくる。
それを市民カードに垂らすと石版が光りだした。
おお~これも魔法の一種なのかな。
「はい……これで登録は完了です。これでこのカードはギルドカードとなりました。
引き続きこちらで初心者講習を受けていただきます」
お姉さんは笑顔で奥の部屋を示した。
しょうがない、行くとしますか。
◆◇◆◇◆◇◆◇
案内された部屋には僕たち以外にも四人椅子に座っていた。男性が三人に女性が一人だ。
この人たちも初心者なんだな。
空いている椅子に座って待っているとカウンターにいたおっちゃんが入ってきた。
「え~初心者の皆さんこんにちは、本日皆さんの担当教員となりますレオナルド・アンダーソンです」
ちょっ! レオナルドって! 頭バーコードだよ? メタボだよ?
なのにレオナルドって!
周りの人達もおっちゃんの名前に反応したのかざわつき始める。
「え~皆さん思うところがあると思いますが……講義を始めます」
レオナルドさんは僕たちを無視して講義を始めた。僕たちも笑いを堪えて講義を聞く事にする。
まずは冒険者としての心構えと注意事項を話してくれた。大体は『常識の範囲で行動しましょう』ということだった。
ただし、一番注意しなければならないのは街中での戦闘行為について。
特別な理由を除いて戦闘行為は全面的に禁止。もし戦闘行為を行い非戦闘員である一般市民を巻き込んだ場合、市民権を剥奪され奴隷として扱われるそうだ。
奴隷制度があるんだ……そっちにビックリだよ
一通り座学を済ませると今度は簡単にノービスのスキルの練習が始まった。と言ってもたいしたことはなく、アイテム倉庫の使い方の練習のようだ。
「皆さん、『メニュー』を開いてください。開けましたか?
そこに新しく『アイテム』とあるのがわかりますか?」
レオナルドさんはさも当然のように『メニュー』だの『アイテム』だのと言い始める。
やはりこの世界では常識なのだろうが、ちょっと違和感がある。
「では使い方を説明します。そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ。
出したいときはモノの名前を思い浮かべるか口に出す。逆にしまいたい時はモノに触れ『収納』と言えば言いです。簡単でしょう」
レオナルドさんの言葉を聞き全員が練習を始める。
手始めにお城でもらった袋を出し入れしてみた。
おお~すごいポーチを使うより楽だ。
「はい、皆さんそのままでいいので聞いてください。
お金等の貴重品はこのアイテムに入れることをお勧めします。スリや泥棒の被害に遭いたくありませんよね」
スキルの話しをした後、レオナルドさんがクエストの受け方の話し始めたぐらいで眠気が襲ってきた。
まぁ重要な事は聞けたし……ちょっと寝よう。
その後武さんに肩を叩かれるまで完全に寝てしまっていた。講義はとっくに終わったようだ。
何か記憶の片隅でレオナルドさんが大事な事を言っていたような気がするけど……いっか。
◇◆◇◆◇◆◇◆
初心者講習を終え一階に降りてくると大神さん達が席をとっておいてくれていた。
「とりあえずお疲れ様です」
「どうも。椅子に座っているだけだったがな」
「ノービスのスキルってそんなに無いし」
「何せ初心者ですから。皆さん思い思いのJobへ転職してしまいますしね」
「和泉様はもう何のJobにするか決めました?」
「ん~何となくはね」
「そうですか~では後で教えて下さいね」
何で僕は神崎さんにこんなになつかれてるんだ?
何かやったかなぁ?
「あ、そうそう。前回渡したアイテムポーチですが。
今回のアイテム倉庫と融合しておきまので」
なぬ?
メニューからアイテム欄を確認すると、確かにポーチに入れていたモノがリストに載っていた。ついでに容量が無くなっている所はツッコンだ方がいいのだろうか?
「まぁ気にしたら負けですよ」
「ですよね~」
本人が気にするなと言ったんだ気にしないでおこう。
そのままご飯を食べ、腹が膨れた所でJobについて話し合うことにする。
「さて、何のJobをとるか」
「みんな別々の方がいいよね?」
「いや、いいんじゃないか? 好きなのでも」
「そんなんでいいの?」
「いいですよ。普通の人は自分にあったJobを選びますが。
皆様に至っては人の三倍のスピードで成長するのですから、どれを選んでも一緒です」
ざっくりと言い切ったね……
「まぁ参考までに一覧にしたので見て確認してください」
大神さんから一枚ずつ紙を貰う。
そこには就けるJobが特徴毎にまとめられていた。
僕たち三人は食い入る様に一覧を見る。すると一覧の最後の行にとても興味のある一行が記載されていた。
「さて、決めたか?」
「そうだね、まぁ大体は説明を聞いた時に目星は付けていたし」
「オレも問題ないぞ」
僕たちは互いに頷き合う。
「じゃここからは別行動だな」
「そうだね。集合は一年後でいいかな?」
「そうですね。それくらいあれば魔王についても調べられると思います」
「じゃ集合は一年後のこの場所で!」
「死ぬんじゃないぞ」
「お互いにね」
僕たちはグラスを乾杯し、残りの飲み物を飲み干す。
そして別々にギルドから出て行った。
最後にギルドを出た僕は当然のようについて来た神崎さんに先ほどの一覧を見せて確認をする。
「この最後の行。これ本当?」
「先輩が調べたものなので確かですよ」
「それじゃ僕は一番最初はここにするよ」
「わかりました。では私が目的の国まで転送しますね」
「えらい太っ腹じゃん」
「だってこの国。行くだけで一カ月はかかりますよ」
「マジで!」
「大マジです。しかも魔法の船を使って時間を短縮して一カ月です」
神崎さんの転送があって助かった……
「それでは行きますよ~準備はいいですか?」
「大丈夫。やっちゃって」
「ほいさ」
え? そんな簡単な感じでいいの?
僕が驚いていると足元に小さな魔法陣が現れ一瞬で光の中へ落とされた。
◆◇◆◇◆◇◆◇
いやさ、確かに転送をお願いしたよ……
でもさ、もっとさ。こう……いい場所があったんじゃないかな?
「でもここが一番目的地に近いですよ」
へぇそうなんだ。でもね……
「黙ってないで手をあげろ!」
「いきなり現れた怪しい奴め!」
「気を付けろ! 妖術使いかもしれない!」
僕は一覧の最後に乗っていたあるJobに就くためにアキツ国まで転送してもらった。
しかし転送後、僕が立っていた場所は……
戦場のど真ん中だった!
しかも早速見つかって四方から槍を突き付けられている状態。
こんなの……こんなの……どうすればいいんだよ!
「こんな所に飛ばしやがって! このヘッポコ担当者ーーーー!」
僕の叫び声は周りの喧騒に掻き消された。