7話 アキツ国のJob
さてと……どうやって逃げ出そう……。
ラグズランドの冒険者ギルドでみんなと別れた僕は神崎さんにお願いしてアキツ国まで転送してもらった。この国特有のJobを修得する為だったのだけど……
「どこの国の密偵だ!」
「黙っていないで何とか言え!」
「貴様! 命が惜しくないのか!」
戦場のど真ん中に転送してくれたおかげで僕は呆気なく厳つい武将さん達に捕まってしまってしまい、今は陣中で尋問中である。
それとやっぱりと言うか何と言うか武将さん達がしゃべっている言葉は日本語だった。
『どうしましょう和泉様! 捕まっちゃいましたよ!』
(どうしてだろうね~)
僕をアキツ国へ転送した張本人である神崎さんは僕の横で僕以上に慌てている。
と言うか、彼女には縄が打たれていない。何故なら彼女が望まない限り存在が他の人間に感知されないからと言っていた。全く理不尽だと思う。
感知されないという事は見えない、聞こえない、触れないという事……もう完全に幽霊じゃん。
てか、ここまで問題を起こせば悪霊レベルだよね。
『ヒドイです~こんなに頑張っているのに悪霊なんて!』
「じゃあこの状況何とかしてよ!」
『私まだ生きてます~死んでませ~ん!』
「そこじゃないでしょ!」
「こ……こやついきなり何を言い出すのだ?」
「黙んまりを続けていたと思ったらいきなり叫び始めるとは!」
「こやつ! やはり妖術使いか!」
「オッサン等もうるさーーーい!」
僕は手首を縛っていた縄を火の初歩魔法で焼き切り手の手の自由を得ると神崎さんに掴みかかった。
「何で貴女はいつもそうなの!?」
『なんですか!? 私が悪いんですか! 今回だってちゃんと里の近くに転送したじゃないですか!』
「近けりゃいいってもんじゃないでしょ!
じゃあ神崎さんは目的地の近くなら海の中でも転送するの? 火山の中に転送するっていうの!?」
『そんな事しませんよ!』
「じゃあ何で戦場のど真ん中なの!」
『私が前来たときはただの平野だったんです! 今回の戦がイレギュラーなんです!』
「前っていつ?」
『それは……』
「ねぇ神崎さん? 前って何時の話かな?」
『に……』
「に?」
『二ヶ月前……』
「オッサン!」
「わっ儂のことか?」
急に話しをふられたオッサン武将は戸惑っている。が、関係ないので質問を続ける。
「この戦はいつからここに陣を張っていたの?」
「陣を張ったのはここ数日だ」
オッサン武将の発言に神崎さんが勝ち誇った顔をする。
だがまだだ、まだ僕のターンは終わってないぜ!
「この戦はいつ頃から準備を?」
「そうじゃな、三か月前に我らの殿が義兄である尾田様を裏切ってから雲行きは怪しかったの」
「そうですか。ではここに陣地を築く予定は?」
「もし戦になればここは最前線じゃ、二ヶ月前には下見にも来ておったし。何人かはここで見張っておったぞ」
「ありがとうございます。
さて? 神崎さん。僕に何か言う事あるんじゃ?」
『うう……』
神崎さんは唸ったまま下を向いてしまった。
ふっ……勝った!
『ごめんなさい~私の調査ミスでした~』
「ま、誰にだってミスはあるんだし? 次は気を付けてね」
『和泉様。言い方に棘があります……』
「これも神崎さんを思えばこそだよ」
神崎さんがいじけてしまった。
少し言い過ぎたかな? でも僕だって命がかかっているんだ。
少しくらいいいでしょ。
「とことでよ、さっきから誰と話しているんだ?」
「ん?」
あ、オッサン等の事忘れてた。
そう言えば、手の縄も切れているし……
逃げれるんじゃね?
「あはははは……さらば!」
僕は全力で走り出した。
「に、逃げたぞー! 追えー!」
オッサン等が慌てて声を上げ追いかけてくるが、軽装+電光石火のスキル持ちの僕を鎧を着こんだオッサンが捕まえられる訳がない。
なんだ。最初から走って逃げればよかった。
『和泉様、その森の中へ!』
神崎さんも逃げれるように道を教えてくれる。
やれば出来るじゃない。
『そのまま走って大木を右です!』
「右だね!」
神崎さんに言われた通りに右に曲がり更に加速する。
すると一気に視界が開け、足の接地感が消えた。
『あ! 間違えました。左です! 右は滝があるのでダメです!』
神崎さんが叫ぶが、時すでに遅し。
さんざん加速した僕は止まりきれず滝壺に向かって全力で落ちていく。
「神崎ぃぃぃ! 覚えてろよぉぉぉぉ!」
水面におもいっきり叩き付けられて僕の意識は闇に溶けた。
◇◆◇◆◇◆◇◆
目が覚めるとどこか懐かしい日本家屋に寝かされていた。
どうやら滝壺から無事生還できたみたいだ。
しかし、よく生きてたなぁ
「感謝して下さいよ~私が助けてあげたんですから」
神崎さんが誇らしげに胸を張る。
が、落ちた原因は神崎さんだってことを忘れているのだろうか?
一度頭を叩いた方がいいのかしら?
「そっそれにしても運よく目的地に来られてよかったですね」
「急に話題を変えたね。それで? 目的地と言うと?」
「この里が目的の場所ですよ」
「あら? 目が覚めたのね」
神崎さんに質問しようとした時扉を開けて一人の少女が入ってきた。
見た感じは十代前半と言った感じで僕よりも背が低い。
黒い髪をショートにまとめて、見た感じはボーイッシュな少女だ。
「大丈夫? 君、ここまで流されて来たんだよ?」
「あ~滝に落ちちゃって……」
「滝ですって! 滝ってあの上流にあるあれの事? よく生きていたわね……」
「運がよかっただけだよ」
「本当にね~。あっ自己紹介がまだだったわね。私は桃華よ」
「僕は和泉。助けてくれてありがとう」
「あ~それなんだけどね。ちょっと困った事になっていてね」
「困ったこと?」
「いや~今回はしょうがなかったんだけど……
まぁいいか。とりあえずお頭の所に案内するわ」
「うん……」
僕は桃華に連れられて別の家へと連れて行かれた。
パッと見た感じ室町から戦国にかけての集落っぽいな~
つい珍しくて周りを見渡してしまう。海外に行った観光客の気持ちがよくわかる。
「そんなに里が珍しいの?」
「あ、ごめん。つい」
「いいわよ。ここはまだ問題ないから」
「そうなんだ」
“ここは”ってことは問題がある場所もあるんだな。注意しとかないと。
道すがら色々と質問してみると桃華はやはり僕より歳下で今年十五歳になるのだという。
ある事情で川へ行っていたところに僕が上流から流れてきたのだと。
本当に桃華には感謝してもしきれない。
連れて来られた家は里の中心に建つ大きな屋敷だった。
これはいわゆる庄屋さんの家なのかな?
「さぁ着いたわ。ここがお頭の家よ」
「あ~お頭。そう言えばそう言っていたね」
「聞いてなかったの?」
「ごめん。庄屋さんの家かと」
「あはははっ間違いではないわね。この里で一番偉い人の家だし」
「そうなんだ」
桃華に案内され客間に通された。部屋の中を見渡すと素朴だが、価値のありそうなモノをそろえている。
ふむ……やっぱり権力者の家ってのは何処も同じなのかね?
「それじゃお頭を呼んでくるからもう少し待っていてくれる?」
「うん。わかった」
桃華が出て行ったので大人しく待つことにする。
お頭ってどんな人なんだろう? やっぱり筋骨隆々で熊みたいな人かな?
でも案外優男かもしれないな……こう眼鏡が似合うドSな感じで。
しかし僕の予想は全て裏切られた。
「お待たせしてすみませんね」
「…………」
「あの……」
「あっすみません! お頭が女性だとは思っていなかったので!」
そう。僕の目の前に座ったお頭は“女性”だった。
桃華を少し成長させ髪を伸ばすとこんな感じかな~といった外見だった。
話しをするとなんとお頭は桃華のお姉さんで名前を桜華さんといい今年で二十歳になるのだと。
なるほど、僕と同い年で里一つ治めているなんてすごいなぁ
異世界に来ると自分の小ささを思い知らされるね。
「それで和泉さん。お話しと言うのは他でもありません。あなたの事なんです」
「僕の事?」
桜華さんは少し困った感じで話し始めてくれた。
なんとこの里は世間からは隔離されている隠れ里と呼ばれているようなところで、外部との接触はほとんどないとのこと。
たまに里に必要なものを近くの町に買いに行く位でほとんどは里の中で自給自足で来ているのとか。
「それで、この里の存在を知られる訳にはいかないんです」
「なるほど。事情はわかりました。
ですが、僕はたぶんこの里を探していたのです」
そう僕が言った瞬間部屋の中に殺気が満ちる。
マジで~この殺気ヤバすぎでしょ~てか何処にいるのさ! この殺気を出してる人達は!
手が自然と握りしめられ、汗ばんでくる。
「その理由をお聞きしても?」
先ほどと同じように話しかけてくれる桜華さんもどこか寒気を感じる視線を投げかけてくる。
「はっはい。実はですね……」
僕はこの里を探していた理由を説明した。異世界から来た事は言ってもアレなんで言葉を濁しておく。
友達を助けたいが今の自分では力が足りない事。
そこで特別な力を授けてくれる里があると風の噂を聞きここまで来た事。
そして、戦に巻き込まれて滝に落ちてしまったと言っておいた。
まぁ嘘はいってないよね。うん。
僕の説明を聞き桜華さんは黙り考え込んでしまった。
う~んもう少し同情してもらえるよに話しを盛っておいた方がよかったかな?
「そうですか。あなたの事情はわかりました」
「それでは!」
「慌てないでください。確かに私達が力を授ける事はやぶさかではありません。
が、まだ私達はあなたを信用したわけではありません」
「そうですよね……余所者の僕が信用されるなんて思ってもいません」
「ですので、少し試練を受けてもらいましょう」
「……試練ですか?」
「ええ。影丸、例のものを」
桜華さんが声をかけると突然襖が開き、男の人が一本の巻物を持って入ってきた。
この人は……真っ先に僕に殺気をぶつけた人だな。うん、間違いない。
だって今も凄い睨んでいるもの!
「これはこの里に代々受け継がれていく巻物です」
「はぁすごいですね……?」
「これはただの巻物ではありませんよ。
この村の秘密を死ぬまで守ると誓った人が名前を書く為の巻物です」
「それは契約書みたいなものですか?」
「そうですね……ただ契約するのは私達ではありません」
「え? では誰と」
「伊耶那美様です」
伊耶那美様って……あの伊耶那美様? 日本神話の最初に出てくるあの?
「えっと……あの神話の?」
「ご存じでしたか。そうです伊耶那岐命様の妹であり妻でもあるあのお方です」
「それがなぜ?」
「あのお方の最期は?」
「確か自分が産んだ火の神様に焼かれて……」
「そうです。その後黄泉の国の主宰神になられました。
ここまで言えばもうお分かりですね。ここに名前を連ねることの意味を」
約束を破ったらそのまま一気に黄泉の国へ連行ってわけか。
「それでも良いと思えたならここに名前を……」
巻物と一緒に筆が僕の手前に置かれる。
まぁここまできてやっぱやめますなんて言えないよなぁ
僕は少し迷ったが巻物に名前を書いて行く。
筆って苦手なんだよな~筆先だけで書いちゃうからどうしても細い字になっちゃうし……
「いいのですね?」
「え? ええ、僕の目的は変わりませんし。絶対に他人に言う事もありませんしね……
はい。書けました!」
名前を書き終えた瞬間。誰かに心臓を掴まれたような悪寒が走った。
……まさかこれ本物?
「和泉さんの覚悟しかと見届けました! これより里は貴女を仲間とし迎い入れましょう。
和泉。ここがあなたの第二の故郷ですよ」
さっきまで部屋を満たしていた殺気がなくなり、心なしか桜華さんと桃華の表情が柔らかくなった気がする。
「さて、早速住む所を見つけないといけませんね」
「僕がさっき目覚めた家は?」
「あんな荒ら屋でいいんですか?」
「ええ、屋根があって風と雨が防げればどこでもいいですよ」
「う~ん……それは余りにもアレですね~
あ、そうです。いっそここに住まわれては?」
「お頭!」
今まで黙っていた影丸さんが大声を上げる。そりゃそうだろう。
巻物に名前を書いたとはいえ、僕は余所者だ。警戒するに越したことはないだろう。
「いいんですよ影丸。和泉なら大丈夫でしょう。私これでも人を見る目はあるんですよ?」
「お頭が言うのであれば……」
あっさり下がっちゃったよ影丸さん。もっとさ、こう……何かないの?
「和泉もそれでいいですね?」
「僕は一向に構いません。でも本当にいいんですか?」
「いいんですよ。私も妹との二人暮らしなので少し騒がしくなるのに大賛成なんです」
「私も! 一緒に住みたい!」
「こら、桃華。はしたないですよ」
「あ、ごめんなさい」
「あ、僕はなんてお呼びすればいいですか? やっぱりお頭と?」
「修行の時や緊急時はお頭でお願いしますね。一応周りへの示しもありますから。
でもそれ以外なら普通に呼び捨てでいいですよ。あと敬語でなくても」
「そうですか? では桜華さんと呼ばせてもらいます」
「私は今までと同じで呼び捨てでいいよ!」
「ありがとう桃華」
「では改めて。
忍びの里代一〇三代目棟梁。桜華の名において歓迎いたしますよ。和泉」
「はい! これからよろしくお願いします!」
こうして僕の第一のJob『忍者』への道が始まった。




