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57話 ドワーフの花嫁(終結)

 最初と比べるとだいぶ少なくなった来賓からの拍手に応えるようにチビがリッカの肩を抱き、勝ち誇った顔で僕を見てきた。


「これでリッカさんは僕の妻だ! つまり、僕の勝ちだ!!」


 まるでリッカを物のように扱う発言にキレそうになるが、ここは我慢だ。


「しょうがない、その子が選んだのなら諦めよう」


「ふんっえらく殊勝な心掛けじゃないか。まぁその心掛けに免じて慰謝料50万Gで許してやらない事もないぞ?」


 コイツ……どんだけ金の亡者だ。

 こめかみの辺りがひきつるのを無理矢理抑え込み、歪ながらも笑顔で返事をする。


「お心遣いどうも。ですが、僕も予定の者を手に入れたので、これで失礼させてもらうよ」


「はっ! 何を言うかと思ったら。貴様が奪おうとしたリッカさんは既に僕の妻だ! 一体何を手に入れたと言うんだ」


 チビが忌々しそうに怒鳴ってくる。その姿とこれから起きる事を想像すると、さっきまでの無理矢理作った笑顔ではなく自然とした笑顔が浮かんでくる。


「そいつは……これさ!!」


 僕は仰々しくマントをはためかすと、影となった所から目的の人物を取り出した。

 その人は中学生位の身長で、明るい栗色の髪が雪原の様に白いウェディングドレスにとても似合っている……。


「リッカさん!?」


 正解を言い当てたチビに見せつける様に、リッカの腰に腕を回し抱き寄せる。


「今まで待たせてごめんね」


「イズミさん……? イズミさん!!」


 状況が理解できて居なかったリッカに笑いかけると、ようやく思考が追い付いたのかリッカの方から力強く抱き締めてくれた。


「バカな!! それじゃこの人は……?」


 チビが慌てた感じで、隣に居るリッカ(仮)の顔を覗き込む。隣で急にチビが動いたのにも関わらず、一切の身動ぎをせずリッカ(仮)は俯いたままだった。


『騙されないであなた。が本物のリッカよ。アイツは偽物を使って混乱させようとしているのよ』


「そ、そうですよね! リッカさんの言う通りだ! 向こうのリッカさんが偽物で、僕の横に居る人が正真正銘のリッカさんだ!」


 俯いたまま喋りだしたリッカ(仮)の言葉にチビが嬉しそうに頷いた。


『誰があんな貧乏人の所に嫁にいくもんですか! 世の中は金! 金なのよ!! 玉の輿ヒャッホー!!』


「リ……リッカさん……?」


 突然の告白にチビが目を白黒させていると、今度はこっちのリッカから抗議があがった。


「なっ! 何て事を言うんですか! イズミさん(・・・・・)


 いや~だってね、何だか楽しくなってきちゃったんだもの。しょうがないよね?


「イズミさん? 何を言っているんだ?」


 チビが訳が分からないといった具合に首を傾げ始める。まぁ目的の大半は達成したからもういっか。


「いや~ごめんね、つい楽しくって」


 僕は仮面を取りながらリッカに向かって話しかける。彼女の声色を真似たままで。


「なっなんだって----!!」


 今日一番と思われる叫び声が教会にこだました。てかこのチビ反応いいな。


◆◇◆◇◆◇◆◇


 今回、事前に入手出来た情報は少なく相手側が公表している情報に少し毛が生えた程度だった。

 教会を守る為に雇われた人達は冒険者くずれのチンピラの様なもの達だと言うこと。

 そして、式を執り行う司教はラグズランドの教会本部から派遣されるということだった。


 正直、冒険者くずれが何人来ようと物の数ではないのだが、侵入に戸惑っていたら元も子もない。

 と言うことで初めから教会に侵入しておくことにした。そして、司教がラグズランドから派遣されてくると言うことは僕にとってもいい情報だった。


 それから僕はラグズランドの教会へ飛びアンスさんから結婚式のやり方を習い戻って来たのだった。


 本当の司教様は残念ながら退場願った。まぁ命は取ってないし、大丈夫だよね?

 そして、闇属性の忍術である『影傀儡』を自分に使い、僕本人が司教、影が侵入する役と分担したのだ。


「ば、バカな……ではこのリッカさんは……?」


 事件の謎解きをする探偵よろしく、今までに起った事をチビに教えてやっていると、チビは恐る恐る隣で俯いているリッカ(仮)に触れた。


「ひっ冷たい!?」


 頬に触れた瞬間、その手に伝わった冷たさに思わず悲鳴をあげた。


「これは……ゴーレムだと言うのか……?」


「残念、そんないいものじゃないよ。ただの土人形さ」


 チビの呟きに律儀に答えてやる。

 本当はゴーレムを用意出来ればよかったのだが、ゴーレム等の召喚、使役系の魔法は『ソーサラー』の専売特許だ。僕が取った魔法系Jobは攻撃魔法主体の『ウィザード』では扱うことが出来ない。


 そこで僕はリッカの影から型を作り、そこに土魔法でコーティングしただけの土人形を作ったのだ。

 ただ顔の部分は露出しているし、誓いのキスの場面でチビに触られる為、キス直前まではリッカの影を直接使い、キスの寸前でどこかのドワーフと交換した。きっと今頃、この都市の何処かでいきなりキスされたように感じたドワーフが居ることだろう。ごめんなさい。


「さて、これで説明も終わったし。僕は失礼するよ」


 僕の影にリッカをエスコートさせ、僕自信は仮面を仕舞いながら歩き始めた。


「ふんっいいさ! 連れていけよ! けどな、こっちには借金の借用書があるんだ!! いつでも奪い返してやる!!」


 あ~そうだった。忘れていた。まさかチビの悔し紛れの叫び声で思い出すなんてね。

 僕は阿形をリッカの護衛にまわすと、アイテムの中からズタ袋を取り出し未だに何か叫んでいるチビの元へと歩み寄った。


「あ~そうだった、そうだった。忘れる所だったよ、思い出させてくれてありがとう。

 カートラ家が借りていた借金100万G。確かに返した……よ!」


 僕は持っていたズタ袋を勢いよく振りかぶると何の躊躇もなくチビの頭へ降り下ろした。


「ガフッ」


 チビの顔が地面に叩きつけられると同時に緩んだ袋の口から大量の金貨が流れ出た。

 金貨千枚分の重さは堪えたかな?


「これで借金はちゃら。二度とリッカに近付くなよ」


 気絶しているチビに聞こえたかどうかはわからないけど、一応言葉を残してから教会の出口へと歩いていく。




「待ちたまえ」


 もう既にこの教会には誰も居ないと思っていたのに、男性の声に呼び止められた。


「これだけ式を滅茶苦茶にしたと言うのに、君は借金だけ支払って帰るつもりかね?」


 声の方向を振り返ると、一人のドワーフが立ち上がっていた。

 この状況で逃げなかった事と、今まで座っていた場所からチビの血縁だとは思うけど……。


「おっと、自己紹介がまだだったな。今さっき君が金貨を叩きつけてくれた者の父親だよ」


 なるほどね、血縁だとは思っていたけどまさか父親だったとは。でもそう言われると目元が似ているかもね。悪人面として。


「あらあら、お父様でしたか。それで? こんなダメ息子を育てたダメ親が何の御用です?」


「はっはっは! 言うではないか」


 おっさんドワーフは笑い声を上げながらぽっこりと膨らんだ腹を擦っている。目は笑っていなかったけど。


「調子に乗るなよ小娘。いくらバカ息子が勝手にやらかした結婚式だとしても、結婚式は結婚式だ。

 我々にも面子と言うものがあるのでね、このまま“はいさようなら”と帰すわけにはいかんのだ」


「それで、何がお望みで? って聞くのは野暮ですね。先ほど借金だけ(・・・・)と仰いましたし。結局お金ですか……随分と浅ましい考え方じゃありませんか?」


 真っ向から睨み付けてくるおっさんにこちらも負けじと睨み返す。


「なに、少しまとまった金を払うだけで我がブルック家と縁が切れるのだ、安いものだろう」


 おっさんは嫌らしい笑みを浮かべながら近付いてくる。絶対に自分に逆らわないと決めつけ、他者を見下す。そんな嫌らしい笑みだ。

 当然、そんな奴に払う金なんてないし、払う気もない。


「ん? どうした? 金が無いのか? なら暫くの間ワシの相手をすると言う方法でもいいぞ。当然、夜の相手だがな」


 こいつは何を言っているんだ? 僕に相手をしろだって? 頭の中が沸いているんじゃないの?


「胸が無いのが残念だが、まぁ慰みものとしてはいい方だろ」


 ぷっちん。


 この時確かに僕の中で何かが切れる音が聞こえた。


「さんざん可愛がった後は息子にでも……どうし!?」


 僕の方からゆっくりと近付くと、未だに何か喋っているおっさんの足に氷柱を突き刺した。


「くぁwsでふqじkp!?」


 今までにダメージを負ったことが無いのか、おっさんは声にならない叫び声を上げた。


「うるさい」


「!?!?」


 おっさんの叫び声なんて耳障り以外の何物でもない。僕はもう一本氷柱を作り上げると反対の足に躊躇うことなく突き刺した。


「「旦那様!?」」


 遠巻きに見ていたおっさんの関係者達がざわめきたつ。


「はっはや……早く!! 早く助けろ!!」


 おっさんの悲痛な声が上がると、数人の人間が動き出した。


「無駄なことを……」


 助けに来ようとしている人達に向かい右手を上げると、僕とおっさんの間に何かが飛んで来るのが見えた。

 バックステップで距離をとると何やら見覚えがある槍が突き刺さる。


「ダンナ様ハ、ヤラセナイ……!!」


 そして、その槍を掴み杖代わりに立つマッチョマンが……

 股間をおさえ内股気味に立っていた。


◆◇◆◇◆◇◆◇


「……大丈夫?」


 産まれたての小鹿以上にプルプルとしている足を見ていると自然と声をかけてしまった。


「オマエガイウナ!!」


 折角心配して声をかけてあげたのに、逆に怒られてしまった……理不尽だ。


「オマエハ、オマエダケハユルサナイ! カクゴシ……」


「だから、うるさいっての」


「Oh my God!!」


 震える足で懸命に戦おうとしたマッチョマンの股間に特大の雷玉をぶつけた。

 バリバリと雷鳴を轟かせながら光る股間……うーん、イルミネーションとしては最悪の分類になるだろうなぁ。


 股間を抑え白目を向き、口から泡を吹いているところを見るとどうやら完全に倒した様だ。


「主よ、意外とえげつないな」


 いつの間にか戻って来た阿形がこちらを見上げながら呟いた。てか、


「いきなり来てご主人様を悪く言わないで! そんな事より、ちゃんと送り届けてくれたの?」


「心配ないぞ主。ちゃんと金髪ドリルに預けてきた」


 阿形は自信満々に答えるとそのまま抱き付いてきた。何だかんだでこの狛犬達は甘えん坊なのだ。


「スンスン……主よ! 腹の辺りから血の匂いがするぞ!? 排卵日か!?」


 急に顔を上げたと思ったら何を言い出すんだこの駄犬はっ!


「ばっバッカじゃないのっ!? 男の僕が排卵日とか有るわけ無いでしょ!!」


「ならばただの怪我か……つまらん」


 いや、つまらんって……君の主が怪我をしているんだよ? そこは心配するところじゃないのかい?


「ようやく我輩の子を身籠れるようになったと思ったのだが……ちぇ」


「うるさい駄犬! さっさと片付けるよ!」


 いまだに抱き付いている阿形の頭を軽く叩くと目の前の敵を睨み付ける。

 おっさん達はまだ氷を抜くことが出来ずに四苦八苦していた。


「……主よ、我輩あんなのよりも若い女性が好きなのだが……」


「文句を言わない!」


 半ばため息をつきながら阿形は子供の姿から大きな狛犬の姿へと変化する。しかし、そのやる気は目に見えてない。


「ほれおっさん共、我輩が相手してやる」


 前足でちょいちょいと手招き? する姿は可愛らしいのだが、いかせんサイズがサイズだ。ただ大きい狼が挑発している様にしか見えない。


「くっそー殺ってやる……アウチ!」


「こちとら長年の経験が……ガハッ!」


「たかがデカイ犬ごときに……ヒデブッ!」


 挑発にのった数名のおっさん達が手に武器を持ち勇ましく阿形に迫るが、間合いに入る前に前足でペシャリと叩かれる。

 阿形のやる気が無いためか、たいしたダメージを負ってないおっさん共は再度阿形に挑んでいく。


 叩かれる→起き上がる→立ち向かう→叩かれると言う無限ループ。

 なんとも面白そうなアトラクションがここに誕生していた。


「主よ、我輩も飽きてきたぞ? 早く終わらせるのだ」


 しばらく眺めているとさすがに阿形から文句が入った。さてと、じゃさっさと終わらせますか。


 僕はゆっくりとチビの親父に近付き、ニッコリと笑いかけた。そして右手を包み込む様に両手で握ると優しく話しかけた。


「もう諦めたらどうですか?」


「ふざけるな! 貴様らただで済むと……」


 この状況でも諦めない気持ちは立派だけどね。


 無駄だよ。


 僕は笑顔を絶さずに握っていた右手を凍り付かせた。ちょっと力加減を間違えて肩の辺りまで凍っているけど……ま~いっか。


「ギャーーーー!?」


「もう一度聞きますよ? 諦めたらどうですか?」


 必死に僕を振り払おうと動かしている左手を今度も優しく両手で包み込んだ。そして出来るだけ優しく、笑顔で話しかけた。


「わかった……! 諦める! 諦めるから助けてくれ!!」


 すると意外と早く心が折れたのか、親父は半泣きの状態で助けを求めてきた。


「本当ですか! ありがとうございます!!」


「ああぁぁぁああ!?」


「あ、いっけなーい。嬉しくってついつい魔法が発動しちゃった☆」


 肩までしっかりと凍った左手を離し、あざとく“てへぺろ”をやってみた。これならきっと許してくれる……


「……主よやはりえげつないぞ……」


 わけないか。まぁわかっていたけど。

 おっさん共との遊びに飽きたのか、ため息をつきながら阿形が近付いてきた。

 あれ? この場面さっきも見たような……?


「主よ、終わったのなら帰るぞ」


 デジャブっている僕を尻目に、子犬モードになった阿形が胸めがけて飛び込んできた。

 全く、甘えん坊で困ったものだよ。


「あ、そうそう忘れてた」


 阿形を抱いたまま入り口に向かって歩き出したところで、重要なことを思い出した。

 くるっと反転し、三度チビの親父の前に立った。


「た……助け……」


「いい? わかっていると思うけど、このあと僕達にちょっかいを出したら酷いからね?」


 息も絶え絶えな親父は何回も頷いた。助かるためとはいっても必死過ぎでしょ。


「僕達って言うのはリッカの実家もだからね。もし破ったら……」


 僕は片手でアイテム欄を操作しひとつの紙束を取り出した。


「これをこの国のトップに送りつけるからね……あ、これって言ってもわからないか。じゃ少し読み上げてあげよう」


「そんな事より……助けて……」


 聞いているのかわからないけど僕は紙束を目の前に掲げ読み上げた。


「『皇王歴六二0年、現在の地位につくために評定委員を買収』わお、二十年前から悪いことしているんだ。何々次は……」


 一つ一つ項目を読み上げる度にどんどんと顔色を悪くしていく親父。やばい、見てて超楽しいんですけど?


「んで、最後にこの結婚式っと、ざっと大きなものだけ読み上げたけど、これでわかっていただけました?」


 僕の問いかけに赤ベコもビックリな勢いで頷きはじめた。


「よろしい、んじゃ僕は帰るから。……《デスペル》《サンクチュアリ》」


 僕は親父を解氷し、教会内を範囲指定した回復魔法を設置してから教会を後にした。これで救助が来るまでに死ぬことは無いでしょう。

 あ~あ、敵に情けをかけるとか……僕も甘いなぁ。

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