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54話 VSギュース②

 訓練場に剣戟の音が鳴り響く。

 あのままボコボコにされるかと思っていたギュースは意外と善戦している。


「早く諦めた方が楽だよ?」


 僕が操る影人形越しにギュースへ声をかける。しかし、人が心配してあげていると言うのにギュースは僕を睨み付けてくる。


「黙れ! こんな卑怯な手を使わないで正々堂々と勝負しろ!!」


 こいつ……始める前に『僕は魔法でもなんでもあり』ってルールを忘れているんじゃないの?

 少しムッとなりながらも人形に送る魔力を強くする。


 しかし、さすが親衛隊長と言ったところだろうか。繰り出す剣技は虚実が巧みに盛り込まれ、モンスターだけでなく人間も敵と想定しているものだ。

 そうだよ、武さんに足りなかったのはこう言う技だよ!


「武さん! ちゃんと見て……る……」


 振り向いた先で繰り広げられていた光景に僕は言葉を無くした。なぜなら、


「隊長、大丈夫ですか?」


「ああ、ブリジット悪いね」


「いいんですよ、ヒーラーを呼びますか?」


 既婚者が別の女性とイチャイチャしている光景が目に入って来たからだ。まさか武さんが浮気するなんて……。あ、僕も端から見れば僕もあんな感じなのか。


「……レイラにチクってやる……」


 ぼそっと呟いた僕の言葉に武さんは超が付くほど過敏に反応した。


「待て和泉さん! レイラは反則だろうレイラは!!」


「あれ~別にやましい事がなければ大丈夫じゃない?」


 実際問題、レイラだって一夫多妻が常識の世界で生きてきたのだ。『涼も男の子だもんね』とか言って納得はするんじゃないかな? 多分だけど。

 でもそんな事はお構い無しに浮気がバレた旦那の様に武さんはうろたえまくっている。

 と言うかあれが日本で暮らしてきた一般的な男性の反応じゃ無かろうか? となると、いきなり六人も嫁をもらった僕がオカシイのか??


「お前ら! 決闘中だぞ!!」


 いつの間にかガン無視していたギュースが怒りの声をあげてきた。おっといけない、影と遊んでいて余裕がないと思っていたけど、案外余裕じゃん。


「もう~武さんのせいで怒られたじゃん」


「オレか!? オレが悪いのか!?」


「お前らだ! お・ま・え・ら!!」


 ギュースが怒り心頭な様子で地団駄を踏む。よく戦いながら地団駄を踏めるね。


「さて……と、いい武さんあれが武さんの目指す方向だよ」


「あれがか?」


 僕がギュースを指差すと、武さんが心底嫌そうな顔をする。いや、気持ちはわかるけど……。


「『ギュース』自体じゃなくて、『ギュースの技』だよ」


「おお、そっちか」


 武さんはギュースみたいにならなくていいとわかると、今度は逆に心から嬉しそうな声を出した。


「何だかとてもバカにされた気分だ……」


 ギュースにしては鋭いじゃん。あれは完全にバカにしているね。


「いい? 僕も武道はかじった程度だから余り偉そうに言えないけど、武さんの攻撃は正直過ぎるんだよ」


 僕は喋りながら咲耶・岩長を鞘へ納めると、アイテム欄からハルバードを選択して左手に構えた。槍や長物は得意じゃないんだけどなぁ……全く何て友達思いな僕なんでしょう。


 僕は影と入れ替わる様にギュースの間合いに入るとバカ正直にハルバードを振り回した。


「おいおい、ここにきて何だ? なめてるのか?」


 所詮初心者がバカ正直に振り回しているだけの攻撃は、いとも簡単にギュースに避けられる。まぁそうだよね。これで決着ついたら誰でも隊長になれちゃうよ。


「そんな攻撃……当たるか……よ!!」


 ギュースはここぞとばかりに攻め立ててくる。こうして自分自身で攻撃を受けていると、ギュースが隊長を務めるのもわからなくもない。悔しいから絶対に認めないけどね!


「おっと……危ない危ない」


「ちっ! またこいつか!」


 危うく攻撃をくらいそうになったところで、再度影と入れ替わる。

 ふい~今のは危なかったね~マジで。


「どう? わかった? 今のが武さんの攻撃なんだよ」


 スピードとパワーは劣るけどね。


「ああ、わかったような……わからんような」


 しかし、武さんの口から返ってきた言葉は何とも要領を得ない言葉だった。

 この……人が真剣勝負の最中にわざわざ体をはって教えてあげていると言うに……。勝負の最中に他の事をやっていれば真剣勝負じゃないか。


「もう! 次はフェイントも入れるからね! しっかりと見ておいてよ!」


 武さんへ文句か注意かわからない言葉をぶつけると、魔力を活性化させていく。魔力の高ぶりを感じると髪はメタリックレッドへ変化し、ハルバードの刃先に炎がまとわりつく。

 水属性のギュース相手には、火属性よりも風属性の方が効果的なのだが、武さんの為に大サービスだ。


「いくよ……《ファイアボルト》!」


 ギュースに向かって四本の火矢が襲い掛かる。本当は同じ武器でフェイントが出来ればいいのだが、生憎と僕の槍スキルは高くない。なので魔法で代用させてもらう。


「この程度の魔法でっ!」


 ギュースはギュースで楽々と魔法を回避していく。が、人はひとつの事に集中するとどうしても周りが見えなくなる。ほら、ギュースだってここに大きな隙が。


「っら!!」


「がっ!?」


 回避に集中してがら空きになった脇腹へ渾身の力でハルバードを叩き込む。一応刃引きをしている武器なので、上半身と下半身がサヨナラする事は無いでしょう。相当痛いと思うけど。


 ギュースはそのまま僕との距離を開ける。僕の力ではギュースをあそこまで飛ばす事は不可能なので、多分自分から飛んでダメージを減らしたのだろう。けど、距離が開いたのなら好都合だ。僕は気合いを入れてハルバードを振り上げる。


「ほいさ!」


 間合いの遥か先でハルバードを上段から降り下ろす。すると、刃先に宿っていた炎がそのままギュースの左横を通りすぎる。


「もういっちょ!」


 今度は逆に下段から振り上げると、炎がギュースの右横を通りすぎる。これで彼は炎の壁に挟まれた形になった。


「最後ぉ《アース・パイク》!」


 三度ハルバードを降り下ろす。今度は斧の部分が地面にめり込むほど強く叩きつけると、刃先が地面にめり込むと同時に地面から円錐形の突起物が隆起し、真っ直ぐにギュースへ襲いかかる。左右を炎の壁に挟まれたギュースに逃げ場の無い!


「ふんっこのギュース・ニコルソン。この程度の魔法でやられはせん!」


 しかし当のギュースは、迫り来る土の錐を剣の一閃で全てを切り伏せた。


「このような魔法ではなく剣で勝負しろブッ!!」


 僕は全てを言い終わるタイミングでギュースの腹に根棒をぶち込み、派手に吹き飛ばした。今までの攻撃で魔法は囮だったのに……気付かないとは、残念だったよ。

 僕は即席で作った土の棍棒をただの土へと戻した。


「武さん見た? 解った? 理解した?」


 未だに起き上がって来ないギュースを無視して武さんに話しかける。


「いや、最初のは何となく解ったけど……今のは炎の壁が邪魔で見れんかったぞ」


「ガッデム!」


 この男はっ! 炎が邪魔なら心の目で見なさいよね!! まぁ無理か。


「とにかく! 必殺の一撃を確実に決めるためには、こういう細かい作業も必要ってこと!」


 指を指しながらちょっと強めに言ったのだが、武さんは首をひねっていた。

 え? これでもわからない? 僕の教え方が悪いの?


「くそっ! この俺様を散々コケにしやがって! 女相手に本気は出さないと決めていたが……ここからは本気で行くぜ!」


 武さんに残念な視線を送っていると、もうひとつ残念な声がかけられた。

 振り向くとギュースが片手用直剣からレイピアに持ち替えていた。初めから結構ガチで挑まれていたと思ったけど……。

 まぁいいや、武さんに言いたいことも伝えたし、魔法のレポート用のネタも回収出来たし。もういいか。

 僕は再度咲耶と磐長を構え直すと、ギュースへと向き直った。


◇◆◇◆◇◆◇◆


「ほうぅ……本気になった俺様に剣で挑むか」


 ギュースが何かほざいているが、あえて無視して武さんに話しかける。


「まぁ何だかんだ言ったけど、フェイントが重要って事だよ」


「あ~うん……善処する」


「無視するな!」


「うるさいなぁ……今大事な話しをしているでしょう!」


 僕は武さんへの言葉をそこそこに切り上げて、ギュースへと磐長を向ける。


「なめやがって……」


「はいはい」


 軽口を言っているが、僕は自然と攻撃の構えになる。ギュースも同じように間合いを測っているようだ。

 僕達の雰囲気を感じ取ったのか、周りの観客達のざわつきも聞こえなくなった。


 緊張感がピークに達した時。誰かの足元から砂利を踏みしめる音がなる。

 その音が合図となり、僕とギュースは同時に攻撃へと移る。


 余程集中しているのか、ギュースの突きがスローモーションのようにはっきりと目で見てとれる。

 僕は最小限の動きで突きを避けると、彼の横を通り抜けながら前の異世界で使っていた技を久しぶりに使った。


「二刀・四閃 八重桜」


 キンと高い音が鳴り咲耶と磐長が鞘に納まると同時に世界に音が戻った。


「いったい何が……?」


 目の前に居た僕が真後ろに移動していたため、ギュース驚きで声をあげるが、それも最後まで出なかった。


「ガハッ!?」


 ギュースの体に八本の線が走り、血が噴き出す。その姿はさながら満開に咲いた八重桜の様だ。


「ふむふむ、魔法の力が加わって、より必殺技っぽくなったね」


 一人納得している僕を他所に、ギュースには部下の人達が集まり声をかけたり脈をとったりしている。


「安心しなさい。峰打ちよ」


「いや、和泉さん。血が噴き出しているから……」


 せっかく格好よく決めたのに武さんが横槍を入れてくる。いいじゃない、ちょっと位格好つけたって……。


「し……勝者、イズミ!!」


 呆けていた審判が我に返り、ようやく決着を言い渡した。まったく、ちゃんとやってよね。


「《ヒール》、これで病院までもつでしょう。早く連れてってあげなさい」


 僕は未だに寝っ転がっているギュースにヒールをかけると、部下の人達に声をかけた。彼らは一瞬驚いた様な顔をしたが、直ぐにお礼を言いながらギュースを拾って走っていった。部下の人達は礼儀がいいじゃん。

 まぁ何にせよ、これでこの騒ぎも一件落着だろう。良かった良かった。


◆◇◆◇◆◇◆◇


 ギュースの騒ぎが収まり、気が付いたら昼を通り過ぎて夕方近くになっていたので、僕達は騎士団の人達行き着けのお店でお昼と夕飯を兼ねた祝勝会を開く流れになった。

 ギュースが負けたのが余程嬉しかったのか、全員参加のどんちゃん騒ぎと化している。


「やったな嬢ちゃん!! スカッとしたぜ!」


「なぁあんたも冒険者だよな? よかったらうちの部隊に入らないか?」


「お姉様と呼ばせて下さい!」


 若干訳のわからないコメントも含まれていたが、全員からありがたい言葉をかけてもらった。お姉様の件は丁重に断ったけどね。


「それにしても、最後の技。凄かったな」


「そう?」


 お酒を片手に出された料理を片っ端から食べていると、武さんとブリジットさんが近付いて来た。


「スピードだけならひなぞーよりも速いんじゃないか?」


 陽向もアサシン何てスピード重視の職をとっているけど、移動スピードなら負ける気はしないね。


「移動スピードならね。そのまま戦ったら僕が負けるよ」


 確かに移動スピードなら勝てるだろうが、接近戦になったとき、陽向に攻撃を当てる自信がない。きっと全部避けられて、その隙に殺られるんだろうなぁと簡単に想像出来る。


「私の時は本気ではなかったのですね」


 そんな事を考えていると、武さんの横からブリジットさんの悔しそうな声が聞こえてくる。

 まぁ女の子相手に本気は出せないよねぇ。


「まぁまだまだ世界は広いと言うことが解っただけでも良かったじゃないか」


「隊長……そうですね! 私はまだまだ強くなります!!」


「そうだ! その意気だ!!」


 何なん? この昔の青春ドラマ的な絵面は……。

 武さんとブリジットさんは人の目の前で何やら熱い会話をし始めた。夕陽があったら走っていきそうだ。


「イズミにもぜひ手伝って欲しいわ。頼めるかしら?」


「ん~? 良いよ。さすがに毎日は無理だけどね」


 まぁまだ店も開店していないし、時間はあるから良いと言えば良いけど……。


「あ」


「どうした? 和泉さん」


 そうだよ、店を開かなきゃ! すっかり忘れてた!!

 何で忘れてたかなぁ……リッカを迎えに行かなきゃいけなし……あーやることがいっぱいだよ!?


「何があったかわからんが、今日は飲もう!」


 そんな武さんの言葉に流されるまま宴会は続けられた。


 結局、解放されたのは翌日の早朝だった。

 こっちの世界に来てさらにお酒に強くなった気がする。

 しかし、そんなほろ酔い気分は自宅に帰った途端に霧散した。


 まず全力で抱き付いてきたエリスリナが同じく全力で離れていった。いや、むしろ全力以上のスピードだっただろう。

 そして「ママおさけクサイ!!」と一言だけ残し自分の部屋へと行ってしまった。


 さらに、朝食を作ってくれていたロレッタにコンコンと説教をされた。さすがシスターだけの事はある。


 決闘に宴会。そして説教と疲れはてた一日だった。

「そろそろお店を開こうと思うよ」

「そうか、ついにニート脱出か」

「いやニートじゃないよ!? 冒険者やっているし、稼いでいるよ!?」

「また嫁が増えるのか? 和泉さん」


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