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51話 和泉、家を借りる

 優しい日差しに清々しい風……そして脇を固める少女が二人。

 どうしてこうなった?


 爽やかな朝が両脇の存在で一気に緊張感を帯びた朝に早変わりだ。


「……母様……」


「お母さん……」


 右腕はノンナが、そして左腕はノンナの奴隷であるシェリーちゃんがそれぞれ抱いて気持ち良さそうに寝ている。そういえば前の世界でも同じ様な朝を迎えた事があったっけ。

 それにしても両手が使えないのは不便なので二人を起こす事にする。


「ほら、シェリーちゃん起きなよ、朝だよ。ノンナも、今日も仕事でしょ?」


 力を入れすぎないように加減しながら腕を上下に揺する。というよりはがっちりと固定された腕ではこれ以上動かしようがないのだ。


 上下に揺らすとちょうど肘の付近が二人の胸部に当たってしまう。

 もう一度言おう、わざとじゃない。二人に固定されているから仕方がないのだ。


 両手に当たる感触からどうやらノンナよりもシェリーちゃんの方が発育が良いようだ。見た目も細いノンナはもう少し食べた方がいいのではないか?


「ふわぁ……朝ですか?」


 そんな事を考えているとシェリーちゃんが先に目を覚ました。やはり朝から仕事があるメイドさんは目覚めるのも早いようだ。


「あれ……あたしの部屋じゃない……」


 しかし、頭はまだ覚醒していないようで辺りを見回している。


「おはよう、シェリーちゃん。とりあえず髪を整えようか」


「あれ? イズミ様の声……が!?」


 だんだんと思い出してきたようで頭がはっきりしてくると同時に顔も赤くなっていく。


「あ、あたし何でイズミ様と!?」


「昨日ここで気絶しちゃったの覚える? シェリーちゃんの部屋がわからなかったからここで寝てもらったんだよ」


 説明しながら自由になった腕の確認をする。先程のシェリーちゃんの声が煩わしかったのか、ノンナは腕を放し反対側を向いてしまっていた。

 とりあえず混乱しているシェリーちゃんを鏡台の前へと座らせると、後ろからブラシを使って寝癖を整え始める。毎朝エリスリナにやっているのでずいぶんと手慣れてしまったものだ。


 シェリーちゃんは栗毛色の髪を肩口まで伸ばしている。癖のない毛でサラサラとしている。


「シェリーちゃんの髪は素直で良いね~」


「イズミ様だって綺麗な髪ですよ?」


 二人でおしゃべりをしながら髪を解かしていく。十分に解かしたら最後に前髪をヘアピンで止める。ヘアピンは僕のコレクションからブドウのワンポイントがついたものをチョイスした。

 もはや日本男児とは口が裂けても言えないね……。


「このブドウのヘアピン可愛いです」


「気に入ってもらえて良かった」


 二人ではしゃいでいると腰に衝撃が襲った。何事かと振り向くと金色の物体が腰にしがみついていた。


「二人してえらい楽しそうじゃの……」


「ノンナ」

「姫様」


 金色の物体はノンナの頭だったようで、下から拗ねたような声が聞こえてくる。


「はいはい、じゃあ次はノンナの番ね」


 僕はシェリーちゃんに退いてもらった椅子にノンナを座らせるとシェリーちゃんと同じように髪を整えていく。金髪を解かしていくとふとアイアンシティにいる友人を思い出した。


「髪型はどうする? ドリルにでもする?」


「妾の髪は掘削機ではないぞ!?」


 あのクルックルの髪型を思い出し、ついつい聞いてしまった。ノーラは元気にしてるかな? リッカを連れに行く時に会えるのが楽しみだ。そう言えば……まだライバルなのだろうか?


 整えた髪に昨日のオリハルコンの残りを使い髪止めを作る。一応姫様だし? 安物の髪止めよりはいいでしょう。

 その後二人は呼びに来た人達によってそれぞれの仕事へと出向いて行った。


◇◆◇◆◇◆◇◆


 二人が出ていった部屋でステータス画面を見ながら時間を潰していると、朝食を持ったバジルさんと陽向と武さんがやって来た。


「朝食をお持ちしましたよ」


 バジルさんってこの国の宰相でしょ? そんな事やってていいのかな?


 皆とご飯を食べながら今日の予定について確認した。武さんは自分の隊の訓練があるとかでこのお城に残るそうだ。てかちゃんと騎士をやっているっぽい。

 残された陽向と僕は住居探しだ。ずっと宿屋でもいいのだが、リッカとお店も開きたいしね。


 朝食を食べ終えた僕達は街へと繰り出した。

 まずは不動産屋を目指す事にした。何事も専門家に任せるのが一番である。


 バジルさんに紹介された店はメインストリート沿いの不動産屋で何て言うか……一般人が利用するような建物じゃない気がする……。

 他の建物と明らかに違って高級感を全面に押し出していて、貧乏人は入口を見ただけで二の足を踏むだろう。現に僕がその状態だ。本当にここで合っているのだろうか?


 陽向と僕、それにロレッタとエリスリナが店の前で佇んでいる。僕達が住む家だからロレッタとエリスリナは先ほど合流してもらったのだ。

 てっきりバジルさんも一緒に来てくれると思っていたのだが、仕事が忙しいらしく紹介状を手渡されただけで笑顔で送り出された。本当に大丈夫だろうか……。


「立派な建物だね……十二単で来た方がよかったかな?」


「落ち着けバカ、逆に目立つわ。さて、眺めてたってしょうがない、行くぞ」


 そう言うと陽向は入口へ向かって歩き出していく。何て言うか、男らしいね。

 僕はエリスリナの手を握ると意を決して一歩を踏み出した。



「いらっしゃいませ。本日はどの様な御用でしょうか?」


 入店すると直ぐに男性の店員が声をかけてきた。カイゼル髭がよく似合うナイスミドルなおじ様だった。


「すみません、家を借りたいのですが……」


 なんとなくおじ様の雰囲気に圧され逃げ腰になってしまう。おじ様はカイゼル髭をひと撫ですると笑顔のまま応対を続けてくれた。さすが高級店。接客態度は完璧だ。僕だったら確実に怪しむね。


「失礼ですが、紹介状等はお持ちですか?」


 僕はアイテムボックスからバジルさんの紹介状を取り出すとそのままおじ様へと手渡した。


「拝見します……」


 おじ様は紹介状を受け取ると中身を読み始めた。そして数秒後、目を見開いたまま固まってしまった。そして待つこと数秒、再起動したおじ様は先ほど以上の笑顔で話しかけて来た。


「お客様、大変申し訳ありませんでした! ささ、こちらへ!!」


 バジルさんって凄い人だったんだ……。

 態度を変えたおじ様を見て無駄に感心してしまった。



 案内された応接室は決して派手な訳ではなく、全体的に落ち着いた雰囲気を出している。しかし、置いてある家具や調度品を見るとどれもこれも高級感が漂っている。


「どうぞ、こちらへ御掛けください」


 薦められたソファーは優しく体を包み込み、固過ぎず柔らか過ぎず最高の座り心地だ。

 ヤバい……ずっと座っていたい……。


「私、本日担当させていただきますエイドリアンと申します」


「ご丁寧にどうも。私は陽向と申します。そしてこっちが……」


「和泉です」


 おじ様ことエイドリアンさんは名刺の様なものを差し出しながら頭を下げてきたので、僕達も自己紹介しながら名刺を受け取った。貴方はジャパニーズビジネスマンですか? 


 その後簡単な質問に答えると実際に家を見に行くことになった。陽向は一人暮らし用の集合住宅と言うことで何件か候補があるようだが、僕の希望に添える物件は今のところ一件だけなんだと。まぁ店舗兼住宅の物件なんてそうそうないだろう。


◆◇◆◇◆◇◆◇


 店の前で陽向と別れた僕達は、エイドリアンさんの案内で紹介された家へとやって来た。

 工業区と住宅区の境目に建てられ、脇には水路と水車まで併設されている。大きな二階建ての建物で一階が商業スペース、二階が住居スペースになっているそうだ。


「こちらが一階になります。お店を出されるのでしたら十分な広さだと思いますよ」


 中に入るとすかさずエイドリアンさんの説明が始まる。棚も何もない広々としている空間はちょっとしたダンススタジオの様だ。


「それではこちらへどうぞ」


 ドアを開け奥に移動すると、正面に階段が目に入る。左手側には直ぐドアがあり、右手側は少し廊下が続きそこにドアが二つ。そして右手正面にもドアがある。


「まず左手側ですが、こちらは半地下になっておりまして水車の動力とかがあります。作業場としては最適かと。逆に右手側は裏口と手前のドアからお風呂とトイレになっております。一階が店舗になりますので、ご家族で使う際の玄関にもなりますね」


 エイドリアンさんの説明を聞きながら二階へと登る。階段を登りきると、右側に三部屋と風呂トイレが。左側は店舗スペースの半分を有するダイニングキッチンと部屋が三つ。こうして見ると結構大きな家だ。


「どうですか? オススメの物件ですよ?」


 そうエイドリアンさんはカイゼル髭を二三度撫で、自慢気に言ってきた。カイゼル髭をいじるのは癖なのだろうか?


「結構広い家だね」


「広~い」


 ロレッタとエリーは結構気に入ったようだ。部屋も六部屋あるなら皆で暮らせるだろう。


「今なら契約金と六ヶ月分の家賃を合わせて八〇〇〇(グラー)でいかがですか?」


「はっ八〇〇〇G!?」


 エイドリアンさんの提示した金額にロレッタが大声を上げる。八〇〇〇と言うと日本円で八〇万ほどか……。指輪一個が一万で売れるし……まぁ問題ないかな?


「わかりました。契約します」


「イズミィ!?」


 ロレッタの顔色がコロコロと変わって見ていて楽しい。さて、ロレッタの顔はいつまでも見ていたいけど、ここは我慢して契約をするために店まで戻ることにした。



 エイドリアンさんのお店に戻ると既に陽向が到着していた。


「やぁ早いね」


「正直、住めれば何処でもいいからな」


 陽向の横に座るとエイドリアンさんが素早く書類を出してくる。書類と言っても名前を書いてギルドカードを見せるだけだったけど。


「はい、確かに。それではお支払ですが……」


「あ、はい」


 エイドリアンさんが銀行とかでよく見かけるトレーを出してきたので、財布から金貨を八枚取り出してそのまま乗せる。これで手持ちの金貨は後二枚程か……また稼がないといけないな。

 エイドリアンさんはトレーに乗った金貨を数え終わると、確かにと頷きお金を持って部屋を出ていった。


「いずんちゅはいくらの家を借りたんだ」


「月一〇〇〇G」


「ほう」


 驚くかと思って正直に言ったのだが、返ってきた反応は意外と淡白なものだった。逆に後ろで見ていたロレッタが口をパクパクしているのだけど……気にしたら負けかな?


 暫く待っているとエイドリアンさんが鍵を持って来てくれた。正面と裏口のものをスペアを含めて四本だ。無くさないように急いでアイテムストレージに入れることにする。


「それでは、これで契約は完了になります。更新される時は早めにご来店ください」


 エイドリアンさんの注意事項を聞いて店を後にした。店を出る際店員が全員で頭を下げていたのは僕の気のせいだろう。


◇◆◇◆◇◆◇◆


 家は決まったけど、家具類など生活用品は何もない。その為、僕達はそのまま買い物へと繰り出した。陽向は陽向で買い物があるそうなのでここでお別れだ。


 まず家具屋で部屋の数分のベッドやタンス机に椅子など思い付くままに買っていった。家具のグレードとかよくわからなかったので適当に選んでいたのだが、慌てた様子のロレッタが駆け寄り家具を選び直してくれた。やっぱり女の子の方がセンスがいいね。


「ありがとうロレッタ。助かっちゃった」


「気にしなくていいわ。あのままだったら家具だけで破産していたもの」


 ははは、何を仰るお嬢さん。そんなこと有るわけないじゃん。

 ロレッタは僕の顔を見ると一回大きなため息をついた。


「イズミって商売もするんでしょ? 本当に大丈夫かしら?」


 ロレッタの呟きを聞かなかった事にして、僕は買い物を続ける。

 家具を買い終えたらそのまま生活用品を揃え、全てが終わったのは陽が傾き始めた頃だった。


「いや~買ったね~」


「イズミは一回金銭感覚を直した方がいいわ」


 ロレッタは疲れた感じで言ってきた。

 そんなこと無いよ、僕の金銭感覚は正常だよ。


 そんな話しをしながら僕達は新居に向かって歩いていく。エリスリナは歩き疲れてしまったのか先ほどから僕の背中でグッスリと寝ている。龍族と言ってもまだまだ子供なのだろう。


 家の前に到着すると、見慣れた二人がちょど反対側から歩いてきた。


「あれ、武さんと陽向じゃん。何してんの?」


「何って家に帰るんだよ」


「ちょうどそこで陽向と会ってね。話しを聞いたら家が同じ方向だったのさ」


 なんかこのパターンは見たことがあるような無いような……。


「いずんちゅがここにいるって事は家もこの近くなんだろう」


 陽向は辺りを見渡しながら質問してきた。嘘をつく理由もないから僕は素直に今日借りたばっかしの家を指差した。


「ここだよ」


「「はぁ?」」


 二人は揃って間抜けな声をあげた。はぁ?って……そんなに驚く事かな?


「だから、この家が僕の家」


「マジか……俺あそこだぞ」


 そう言って陽向が指差した先は通りを挟んでちょうど反対側に建っている集合住宅だった。


「おいおい冗談だろ。寮の真向かいじゃねーか」


 陽向が指差した建物を見て今度は武さんが声をあげた。言葉から察するに、陽向の集合住宅の真向かいにある大きな洋館が武さんが借りている寮らしい。

 全員バラバラに家を借りたのに、ここまで近くに固まるなんて……偶然や奇跡を感じる前に作為的なものを疑ってしまう。


「まぁ何はともあれまた近くに住んでるんだ。よろしくな」


 武さんが右手を出しながら爽やかに言ってくる。


「異世界まで来るとんだ腐れ縁だな」


 口では文句を言いながら陽向も右手を上げている。


「さっさと魔王とやらを瞬殺して帰るよ~」


 僕も右手を上げ二人とハイタッチをする。エリスリナを背負っているのでちょっと不格好だったけどね。やっぱりなんだかんだ言っても仲が良いんだろな、僕達は。

 僕達は暗くなる街並みに背を向けてそれぞれの家へと帰っていった。

「これから朝と夜はいずんちゅの家で食事だな」

「手間が省けるね」

「いいけど……食費は払ってよ?」

「「………………」」

「払ってよ!?」

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