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42話 街の守衛隊

これまでのお話し

教会でプリーストとしての修行を始める和泉。しかし思うように成果が出ず悩んでいた。

そこに颯爽と表れた神崎さんがリッカの腕輪を改造すると……

 神崎さんによるブレスレットの改造は見事に成功したようで、翌日の訓練の時からメキメキと成果が出始めた。今までは遅かった回復速度も普通の人……いやそれ以上の速度で回復することに成功した。まぁ魔力制御はその分難しくなったけどね。


 魔力制御に重点を置いて訓練を繰り返す日々を過ごす事数週間後の事だった。

 何時ものように最後にお風呂へと入り、部屋でロレッタと神崎さんが話している間に少し荷物を整理しようとしている時の事に起こった。


「和泉様、何をしているのですか?」


「いや、ちょっと荷物の整理をね……最近やってなかったし」


 と言うか神崎さんよ。貴女は人にばれちゃいけない設定じゃ……いいか、本人も気にしてないようだし。


「荷物の整理とか……何かあったのですか?」


「いや~ちょっと気になってね」


 神崎さんに答えながらアイテム欄を色々といじくる。

 あ~そう言えばこの水晶、最近全然出して無かったっけ。アルヴ・ヘイムでは通信がうまくいかないって事で一回も出さなかったしなぁ。

 僕はノンナから手渡された水晶を久しぶりに取り出してみる。


「きれいな水晶ね。イズミの趣味?」


 ロレッタが興味深そうに水晶を覗き込んでくる。ロレッタと言えばここ最近でまた距離が縮まったのか普通にタメ口で話してくれるようになった。敬語でもいいんだけど友達ならやっぱりタメ口がいいな。


「いや、ある人に貰ったんだけどね。すっかり忘れていたんだ」


 水晶をロレッタに渡すと彼女は嬉しそうに手に取り色々といじり始める。するとまるでスイッチを押したかの様に急に水晶が光だした。


「きゃ!」


「何だ?」


「ん~ママ眩しい……」


 三者三様に驚きの声を上げる。驚いていないのは神崎さんくらいだ。


『やっと繋がったのじゃ~~~~!!!!』


 光の中から出て来たのはちょうど話題に上がっていたノンナ・ラグズ・ルーズガスその人だ。


◆◇◆◇◆◇◆◇


「やぁノンナ。久しぶり」


『“久しぶり”……じゃ無いのじゃ! 一体どれ程待たせれば気がすむのじゃ!』


 今日のノンナは大変ご立腹らしく、挨拶をしても怒鳴られてしまった。何が悪かったのだろう?


『大体じゃな、何故毎回毎回行き先を告げずに行動してしまうんじゃ? 一言位妾にあってもおかしくないじゃろ!』


 ごもっともな意見である。が、忘れてしまうのだからしょうがないじゃないか!

 と怒ったところで更に攻撃されるので黙っているけどね。


「ノンナ姫様!!」


 しばらくノンナの愚痴を聞いていると光のショックから回復したのかロレッタが地面に方膝を付き頭を下げた。初めて式典に出たときにやったポーズだ。


『妾を姫と呼ぶとは……イズミ、そなた今何処に居るんじゃ?』


 平伏するロレッタに片手を振りながらノンナが質問してきた。


「何処だと思う?」


『質問に質問で返されたのじゃ!』


 ちょっとふざけてみるとノンナは思いの外ショックを受けたようだ。


「ここはラグズランドのカンシュザーキ教会です、姫様」


 ふざけている僕に替わってロレッタが質問に答えていた。なんとまぁ真面目なんでしょ。


『教会じゃと? 城の直ぐ側ではないか!』


 そう言えばここからお城が見えるね~


『そなた、名は?』


「はい! ロレッタ・ユーリーと申します!」


 そう言えばロレッタのフルネームって初めて聞いたよ。ずっとロレッタって呼んでたし。


『ふむ、ロレッタよ、よく教えてくれた。礼を言うぞ』


「ありがとうございます、姫様!」


 ノンナの言葉に頭を下げるロレッタ。


「あははは、ノンナってばお姫様みた~い」


『妾は正真正銘この国の姫じゃ!!』


 おっと、そうだった。ついつい忘れてた。いや~ノンナってお姫様って感じじゃ無いんだよね~。


「ママ~この人だれ?」


 今まで黙って話しを聞いていたエリスリナがノンナを指差しながら質問をしてきた。。


「彼女はノンナ・ラグズ・ルーズガス。この国のお姫様だよ。後、人を指差しちゃダ~メ」


 僕の注意を素直に聞き入れるとノンナに対しての興味が無くなったか眠気に勝てなかったのかエリスリナは僕の膝に頭を預けると可愛らしい寝息をたて始めた。多分後者だろうな。


『……そやつ今イズミの事を“ママ”と呼ばなかったか?』


 ノンナが眠ってしまったエリスリナを見ながら震えた声を出す。そう言えばノンナはエリスリナの事を知らないのか。


「あ~うん、実はね……」


『妾と言う子供が居るのに、何故母様は外で子供を作ってくるのじゃ!!』


 説明を遮りノンナが叫び出す。と言うか酷い言われようだ。まるで僕がビッチみたいな言い方じゃないか!


「え? 姫様のお母様ってことは、イズミ、貴女王妃様だったの!?」


 ノンナの叫び声を聞いたロレッタが驚きに目を見開きながらとんでもない事を言い出す。


「僕は男だ!」


 僕はロレッタの言葉を強く否定する。僕が王妃様だなんて、この上ない悪い冗談だ。第一僕は産みの苦しみは一生分からないのだ。


 その後ロレッタの誤解をとき、騒ぎ立てるノンナを落ち着かせ今の状況を説明し終わった時には日付が変わっていた。

 ノンナはまだ色々と言いたそうだったが、近いうちに訪ねると言い残し水晶の中へと消えていった。

 消えていくノンナを見ながら僕はただただ祈るのだった。

 今日の訓練を休みたいと……。


◇◆◇◆◇◆◇◆


 ノンナから初めの通信があってから更に数日が経った。あれから通信は毎日のように来ているのにノンナ自身は一向に現れない。まぁお姫様だし、時間の都合をつけるのは大変なのだろう。


 回復魔法の訓練の方もある程度目処がたった為、今はエリスリナを特訓中である。

 アガサさんの手伝いなどで体は動かしていたのだが龍族の魔法などが疎かになっていたので、これを機に特訓を再開した形だ。


「じゃ右手に魔力を集めて……はい、発動!!」


「ふれいむくろー!!」


 気合いの入ったエリスリナの声とは裏腹になんとも気の抜けた音をたてて右手が振り抜かれる。


「ほら、発動前に魔力が発散しちゃっているよ」


「あう~」


 現在エリスリナは人間形態で魔法を発動させる特訓中だ。龍形態になれば簡単に出来る魔法も人間の姿では感覚が違うのか苦戦している。龍形態で使えるのだか良いのでは? と思ってしまうが常に龍形態でいられるわけでは無いため、ここは心を鬼にしてでも特訓をするしかない。


「もう一回、よく見ててね」


 僕はエリスリナにもう一度魔法を発動させて見せる。魔力の流れとか普通は教えづらいのだが、さすが龍族。デフォルトで魔眼を扱えるため結構楽だ。


「こうやって……こう!」


 左手に集めた魔力が指先に集まり龍の爪を型どる。鉤爪状に形成された魔力は真っ赤に染まり、空気ですら焼き尽くしてしまいそうな程の熱量を感じる。


「まずは形を作るところから始めようか」


 魔力は指先に集まっているのだ、なら後は集中力とイメージだと思うんだけどね。


「ん~! ん~!」


 エリスリナは一生懸命に魔力を集めるが一向に形にならない。

 ん~しょうがない周りに人は居ないし、別の方向からアプローチしてみよう。


「エリスリナ、一度龍になって」


「いいの?」


 エリスリナの問いかけに僕は頷きで返す。了承を得たエリスリナは笑顔になり、一瞬で紅い龍へと変身する。

 まだまだ子供だと思っていたけど龍の姿になるとおっきいね~。


「エリスリナ、右手をよく見て。指がこうあってここから爪でしょ?」


 僕はエリスリナの右手を取り爪の形や大きさ等を実際に触りながらエリスリナに話しかけた。エリスリナがイメージさせやすいようにするためだ。


 しばらく龍となったエリスリナの右手を触りながら話していると数人が駆け足で近づいて来る気配を感じる。


「まずい! エリスリナ直ぐに戻って!」


 エリスリナが人の姿になるのと駆け足の人物が現れるのはほぼ同時だった。


「イズミ!」


 息を切らし駆け寄ってきたのはロレッタだった。彼女には珍しく髪も服装も乱れているところを見ると相当急いで走ってきたのだろう。


「ロレッタか~もう驚かさないでよ~」


「暢気な事言ってないで! 奴らが来ちゃう!」


 鬼気迫る勢いでロレッタがつかみかかってくる。てか奴らって誰よ?


「早くエリーを寮まで連れて行かないと……!」


「“奴ら”と言うのは俺達の事か?」


 ロレッタの言葉を遮るように低い男の声が耳に届く。ロレッタの後ろを覗き込むと四人の男女が立っていた。


「失礼、ここにドラゴンがいると聞いて来たんだが……何か知らないか?」


 先頭に立っている巨大な片手斧を装備した髭面の男が声をかけてきた。多分このパーティのリーダーだろう。身長が高くガタイもいい。典型的なパワータイプの戦士の様だ。


「いきなり何ですか? あなた達は」


「オレ達はこの街の守備隊に任命されているBランクパーティの《ウェザーコック》だ」


 僕の問いかけに答えたのはまた別の男だった。正面に立っている髭面の男の左横にいる細身の男は相当神経質な性質なのか頭の先からつま先まできっちしとした着こなしをしてる。腰には一本の剣が差してあるが、形状からしてレイピアの類いだろう。


 それにしても守備隊? ウェザーコック? 聞いたことないな。

 首を傾げているとロレッタが耳打ちで教えてくれた。街の守備隊とは街の領主と契約を結んだ冒険者パーティの事で、国が指揮権を持つ騎士団よりも使い勝手がいい存在として各街にはほぼ必ず居るそうだ。


「その“風見鶏”の皆さんが一体何の御用で?」


「風見鶏って……まぁいい。ここで匿っているドラゴンをこちらへ渡せと言っているのだ」


 パーティ名を名乗った線の細い男が苛立ちのこもった声で言い放つ。しかし、そんなに苛立っている所申し訳ないが何を言っているのかわからない。


「残念ながらここにドラゴンは居ないよ」


「嘘つくなよ! ここに居ることは既に調べがついているんだ。さっさと出せよ、犯すぞクソ尼!」


 二人の後ろ、目付きが悪い男が叫ぶ。黒いローブを着込み右手には立派なロッドを持っている。他の男性陣に比べると頭一つ背が低い。それにしても目つきも悪いが口も悪いな、こいつ。


「そ、そんな言い方よくないよ~」


「あぁ? てめぇは黙ってろ!」


 口の悪い魔法使いを宥めようとしたプリーストの女性が逆に怒鳴られて体を竦めていた。今の僕達と同じ服装をしてるところを見るとこの教会の関係者なのだろうか。まぁプリーストになる為にはこの教会で修行しないといけないから必然的に皆関係者になるんだけどね。


「あなた……もしかしてカミラですか? 数年前にここを卒業した」


「あう……先輩、お久しぶりです……」


 どうやら相手のプリーストはロレッタと知り合いだったようだ。関係者なら知り合いでもおかしくないか。それにしても相手の言葉にいちいち怯えていたら冒険者なんてできるものだろうか?

 そんな疑問を含んだ目でカミラを見ていると目が合った瞬間引きつるような声と共に高速で視線を外してきた。いや、少々睨みつける様な形になったけどいきなりそれはちょっと傷つくな……。


「話しを戻してもいいかな」


 すっかり放置していた風見鶏のリーダーから声が掛かった。そう言えばまだ自己紹介してないけど……いいかいきなり難癖つけてくる奴なんて。名前も知りたくない。


「え~と、ここにドラゴンがいるって話しだっけ?」


 僕の言葉にリーダーは素直にうなずく。後ろの二人は何か叫んだり、睨みつけたりしているが無視だ。いちいちサルに付き合っていられない。


「何度も言う様だけど、ここに“ドラゴン”は居ないよ。お引き取り願いたいね」


「残念だが、今更隠しても遅いぞ。こちらには目撃情報とギルドからの討伐依頼があるのだからな」


 リーダーは懐から紙を取り出し僕に突きつけた。紙には確かにギルドの名前とこの教会に居るドラゴンの討伐を許可する旨が書かれている。

 しかし、僕はその紙を突き返すとお返しとばかりにポーチからギルドカードを取り出し逆に突き付けてやった。


「ここに居るのは“ドラゴン”じゃなくて龍族なの。ちゃんとギルドからパートナーとして認められているし、登録もしているけど? それでも殺ろうっての?」


 僕のギルドカードを見たリーダーは眉間にシワを寄せて唸りだした。それもそうだろう、ギルドが認めた冒険者のパートナーを殺そうとしたのだ。下手をしたら自分達のパーティが罰せられる事になりかねない。


「おい、オンブル。これはどういう事だ」


 リーダーがそう言うと魔法使いを見た。僕も釣られてオンブルと呼ばれた魔法使いを見た瞬間、体が動き出していた。

 あろうことかオンブルは杖に魔力を溜め魔法を撃とうとしていたのだ。エリスリナを狙って。


「っざけんな!」


 エリスリナに駆け寄りロレッタと共に抱き寄せた瞬間。世界から音が消えた。

遅くなりましたが2015年初めての投稿です。

今年もよろしくお願いします。

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