34話 金銭感覚がズレたプレゼント
全ての準備を終えて四人でのパーティーが始まった。これといって特別なものはない。普通の家庭の普通のパーティー。それでも普通じゃない僕が参加出来る事が、家族として迎え入れてくれた事が何よりも嬉しかった。
作られた料理を次々と口に運びその味を堪能していく。いつか僕もこの味が出せるようになるだろうか。
しばらく料理を堪能し、雑談をしていきついに待ちに待ったプレゼント交換の時間になった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「それじゃ私からね」
イルマさんはそう言って一人一人に色違いの小箱を手渡してくれる。
イルマさんに続いてマーリンさん、メリッサの順番で皆にプレゼントを配っていく。配られたモノは小箱や小包といった感じで僕が用意したモノとは明らかに趣向が異なる。
プレゼントの選択を間違えたかなぁ……。
そうこうしているうちに僕の番になったので諦めの境地でプレゼントを取り出す。
「僕からはこれを……」
皆の前に包装されたコートと小箱を置いていく。
「二つもあるの?」
目の前に置かれたモノを見てメリッサは目を見開いている。
ん~やっぱりコートだけにした方がよかったかな?
「セットで一つって事で」
僕は笑って誤魔化しておいた。
全員にプレゼントが行き渡ると皆で一斉にプレゼントを開けていく。
イルマさんからのプレゼントはブローチだった。銀細工が施されたとても綺麗なものだ。
マーリンさんからは包丁を頂いた。これはあれだろうか、もっと精進しろと言うことだろうか。
メリッサからのプレゼントはカバンなどにつけるアクセサリーだった。
これはあれだね、やらかした感がビンビン伝わってくるね。
「イズミこれは……」
「うっそ……」
「これ本当に貰って良いものなの?」
それぞれ包装を解いたところで動きを止め言葉がなくなる。その目に映るのは嬉しさよりも戸惑いの色が濃いように思える。
「えっと……これから寒くなるし一着はあった方が良いかと思って……」
緊張に耐えられなくなり口から出た言葉はなんとも言い訳っぽく聞こえる。
「イズミちゃん……これ素材は?」
コートを広げ自分の体に合わせいるイルマさんから質問がくる。
「本体はキラーグリズリーです。襟元と袖口にはスノーラビットを使いました」
キラーグリズリーはこの学園都市周辺のモンスターの中でも一位二位を争う位危険なモンスターである。危険ではあるが明るい灰色をしたその毛皮は防寒具としても最適で人気の高い素材でもある。
スノーラビットはその名の通り雪のように真っ白な毛皮が特徴のモンスターだ。その真っ白な毛皮は周辺の都市で一番人気を誇る素材なのだが、スノーラビットの捕獲の難しさと一匹から取れる毛皮の量が相まって非常に高価な素材でもある。
と声を震わせながらイルマさんとマーリンさんが教えてくれた。
余ってた素材で作っただけなんだけどね……。
「あの……女の人にプレゼントを贈るのが初めての事だったから出来る範囲で選んでみたんだけど……」
「……冒険者ってのは皆こうなのかい?」
マーリンさんは呆れながらコートを手にとって見ている。
「でもこれすっごく暖かいし、動きやすいわ」
そんな中メリッサは躊躇しながらも袖を通してくれた。そんなメリッサの様子を見てマーリンさんもイルマさんも袖を通してくれる。
突き返されたらどうしようと思っていたけどあの顔を見ると大丈夫そうだ。
「あ、手袋も一緒に作ったから合わせどうぞ」
包みに残っていた手袋を見つけると女性陣は次々に手袋を装着していく。コートと比べると黒が強く出ている手袋はちょっと黒が強かったかなぁと思わなくもない。
「凄いわね、この手袋。暖かいのに指がすっごく動かしやすい」
「これなら外での作業も楽だね~」
イルマさんとマーリンさんは手を動かしながら感想を言ってくれる。
よかった。こっちも好評のようだ。
「アサシンタイガーの革から作った手袋ですから丈夫ですよ、保温性もバッチシです」
僕の言葉を聞いた三人の動きが止まった。あれ? 僕はまた余計な事を言ってしまったかな?
あ、そうか。メリッサにはあの時の事を思い出させちゃうものだったかな……。
「メリッサごめんね。アサシンタイガーの革だとやっぱりあれかな……」
「キラーグリズリーとスノーラビットのコートにアサシンタイガーの手袋って……」
「値段を聞いてみたい気がするけど……怖くて聞けないわね」
しかしメリッサは僕の話しを聞いておらずイルマさんと一緒に自身の手や体を見ている。
「イズミ……これは何処で作ったんだい?」
そんな中、一人冷静そうなマーリンさんが僕に質問してきた。まぁ別に隠すような事でもないから素直に答えるけどね。
「表通りにあるマーベリット被服店ですよ。学園の女子生徒に聞いたらあそこが一番評判が良かったから」
「やっぱり……毛皮を持ち込んだとしてもオーダーメイドだっただろう?」
マーリンさんは何処か納得した表情でさらに質問をしてくる。
「そうですね~急な持ち込みだったけどこうやって期限までに作り上げてくれる所はやっぱりプロの仕事ですよね~」
それに流石エルフと言うかその仕上がりはとてもグレードの高いものになっている。これからも利用させてもらおうかな。
「それでさ……イズミこのコートの値段聞いてもいい?」
そんなことを考えていたらメリッサが好奇心を抑えきれなかったのかおずおずと値段について聞いてきた。どうなんだろう? ここは正直に答えた方がいいのかな? でも嫌味になったりするのも嫌だし……。
「ん~これだけ?」
結局僕は片手を開いて見せる事にした。まぁ実際は六千グラーとちょっとかかっているんだけどね、わかりやすくこれだけってことで。
「これだけって……五百グラー……じゃないわよね?」
流石に言っていて違うと感じたのだろうメリッサの笑顔は明らかに引きつっていた。
「ん~そうだね~丸が一個足りないかな」
「ごせっ……!?」
「私の給料より高いわ……」
僕の言葉を聞いてメリッサよりもマーリンさんとイルマさんが驚いていた。ん~こうなるから値段は言いたくなかったんだよね~。これじゃ金銭感覚のないボンボンみたいだし……。
「これは僕の感謝の気持ちですから。値段とか気にせず使ってくださいね」
僕は笑顔で言ったつもりなのだが、何故か皆は恐縮しまくっている。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「ねぇこっちの箱は何が入っているの?」
メリッサが僕の小箱を振りながら質問してくる。他の二人は未だにショックから立ち直れていないよだ。
「あ~それはね、昔やっていたことを思い出しながら作ってみたんだ。よかったら使ってよ」
メリッサは僕の言葉を聞くと箱を開けて中身を慎重に取り出した。
「すっご~い綺麗~。イズミってアクセサリーも作れるんだ」
「まぁ昔取ったなんとやらってね。あんまし上手じゃないんだけど」
「そんなことないわ! このイヤリングすっごく綺麗だもの!」
メリッサはそう言うとイヤリングを両手で包む込むように握ると胸の前に持ってきた。メリッサが喜んでくれるならそれが一番うれしいよ。
「着けてもいい?」
「もちろん!」
僕が頷くとメリッサはいそいそと両耳にイヤリングを付け始めた。ドロップ型にカットされたエメラルドに聖銀で作られた留め具を付けたシンプルな作りをしたイヤリングだ。
「似合うかな?」
「うん。すっごく似合うよ」
メリッサの質問に素直に頷くと彼女の顔にまた満面の笑顔の花が咲いた。出会ってから初めて見る笑顔だと思う。
「あら? メリッサ、その宝石よく見せてくれない?」
メリッサの耳元で輝くエメラルドを見たイルマさんは興味深くイヤリングを観察していく。
「あの、イルマさんとマーリンさんの分もありますから」
「大丈夫よ、取ったりしないから。それよりイズミちゃん、この宝石イズミちゃんが加工したの?」
笑いながら話しかけてくるが、イルマさんの目は笑っていなかった。迫力に押されてついつい頷いてしまう。ついでに魔法石を使ったタリスマンだとも答えておいた。
イルマさんはメリッサのエメラルドを見た後、自分の箱を開けて中身の宝石を確認し始めた。
なんだろう? 普通に作ったはずなんだけどな?
「どうかしたの? お姉ちゃん」
メリッサも不思議に思ったのか真剣に宝石を見つめるイルマさんに声を掛ける。暫く眺めていたイルマさんだが、ため息と共に質問に答えてくれた。
「これ……龍玉よ。それも高純度の」
龍玉? はて、M〇4とかに出ていたアレかいな? いや、冗談はさておき僕は普通の宝石を普通に加工しただけなんだけど。
「龍玉って何? お姉ちゃん」
メリッサも知らなかったようでイルマさんに質問をしている。ちなみにマーリンさんは知っているようで、驚いて声も出ない感じだ。
「龍玉って言うのはね、ドラゴンの体内で固まった魔力の物質の事を言うんだけどね。高レベルのドラゴンを狩るか、龍族に頼み込まないと手に入らない宝石の一種なのよ」
イルマさんは説明しながら僕を見てくる。
「龍玉を通して使った魔法の威力はそこらの魔法石じゃ足元にも及ばないわ。そのため杖の材料としても宝石としてもとても価値のあるものなんだけど……」
「え? そうなんですか?」
イルマさんは盛大にため息をつく。
まぁ僕も作っている時に何か違うな~っと思っていたけどまさかそんなものになっているなんてね~こりゃ驚きだ。
イルマさんはその後も何か言いたそうにしていたけど僕の態度を見て諦めていた。
それからプレゼントを仕舞い、パーティーを再開したのだが、何故か微妙な空気がながれしまった。来年のプレゼントにはちゃんと相場に合ったものをプレゼントしようと心に誓った夜だった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
テーブルの料理も無くなりかけた為、今日のパーティーはここまでという事になった。
プレゼント交換以降何やらお酒のピッチが上がったイルマさんはベロンベロンに酔っぱらっており、先ほど一足早く寝室へ退場となった。何かあったのだろうか?
マーリンさんの手伝いとしてテーブルを片付け、洗物をし部屋に戻った時は日付が変わりそうな時間帯だった。
程よい疲労感を覚える体をベッドの上に投げ出すと直ぐにでも眠れそうだ。
「そう言えばメリッサとちゃんと話しできなかったなぁ……」
ユンさん達から仲直りのチャンスだと教えて貰ったのにうまく活かせなかった自分が情けない。
しばらくベッドに横になり天井を眺めていると控えめながらノックの音が聞こえてくる。まぁ今回は時間も時間という事でわからなくもないけど、ノックの相手は相変わらずだ。
「は~い。空いてますよ~」
僕が答えるとノックをした人物が部屋へと入ってくる。入って来た人物はちょうど話したいと思っていた人物で……。
「お邪魔します……」
声をした方を向くと寝間着に着替えたメリッサが立っていた。
とりあえず入口に立ったままじゃ話しも出来ないので文机の椅子に座ってもらい僕はベッドに座る事にした。
「ごめんね、こんな時間に。もう寝るところだった?」
「ううん。ちょうどメリッサの事を考えてた」
おや、僕の口から何やらイケメン臭がするセリフが……。
素直に感想を言っただけなのだが、何故か僕らしからぬセリフがでてしまった。それを聞いたメリッサは薄暗い部屋でもわかる位に耳まで真っ赤にしている。
「あのね、あの時言えなかった事を言いたいの……聞いてくれる?」
顔を真っ赤にしたメリッサを正面から見て僕は静かに頷いた。
僕が頷くのを確認するとメリッサは数回大きく深呼吸をして、決心したように話し出した。
「あの……ごめんなさい!!」
どんな話しだろうと色々と想像していたが、いきなり謝られるとは思っても見なかった。驚きで声が出ない僕を余所にメリッサはそのまま勢いに任せて話し続ける。
「本当はもっと早く謝らないといけなかったんだけど……どうしても勇気が出なくて。謝って済む話じゃないのは重々承知しているけど、あの時軽はずみな行動で貴方を危険な目に合わせてしまって本当にごめんなさい!」
どうやらメリッサは初めて会った時の事を謝ってくれたようだ。僕自身では既に終わった事として処理していた為、何について謝られているのかわからなかったけどようやく合点がいった。
「いいよ。あの時も言ったけど、結果的に僕は生きていたんだ。だから僕はメリッサを許すよ。これからは軽はずみな行動は慎もうね」
僕は出来るだけ優しく言葉を掛けるように心がけた。メリッサはこの二カ月間大いに苦しんで十分反省したんだと思う。ならここは許して上げるのが男ってもんじゃないの……多分だけど。
「ありがとう……イズミ。あとね、こんな私でも命がけで助けてくれてありがとう」
これはアサシンタイガーの時だろう。
全く何を今更言っているんだろうね、この子は。
「それこそ当たり前の事をしただけだよ。メリッサはもう家族の様なものじゃないか」
ここでメリッサのダムは崩壊してしまったようで、両目から盛大に涙を流しながら僕の胸へと飛び込んできた。何とか頑張って踏ん張ろうとしたが座っていた為結構な勢いで飛び込んできたメリッサを支えきれず僕達はベッドへ倒れ込んでしまう。
「イズミ……私、助けてもらった時から思っていたんだけど……イズミの事、好き……かも」
ベッドで互いに向き合いながら横になっているとメリッサがいきなり告白してきた。どうして僕はこう毎回毎回女の子の方から告白されるのかな。
「メリッサの気持ちはすっごく嬉しい。でもね、僕は今すぐその気持ちに応えることは出来ない」
「やっぱり……あの時の事があるから?」
泣きそうなメリッサの言葉を首を振って否定する。
そして僕は異世界から来た事。元の世界に六人の奥さんがいる事。アイアンシティに女の子を待たせている事など全ての事情を話した。メリッサは途中で言葉を挟まず全部話し終えるまで聞いてくれた。
「そんなことで僕はクズ野郎なんだよ。六人も奥さんがいるのに、この世界でまた新しいお嫁さんを貰おうとしているしね。それにメリッサが僕を好きだと言ってくれるのもあの時の恐怖によるドキドキと勘違いしているんじゃないのかな」
僕はあえて突き放すような事を言う。メリッサの事は好きだ。だけど僕の事情に巻き込むわけにもいかない。
しかし、彼女は首を静かに横に振ると僕の目を見ながら話し始める。
「そうね、もしかしたら私の勘違いかもしれない。だからもう一カ月。もう一カ月だけ考えてそれでも好きだと思ったら改めて告白するわ。ちょうど年も変わるし。それに他に奥さんが居たって私がイズミの一番になれば問題ないわ」
そう言うとメリッサは僕の腕を強く抱きしめながら寝てしまった。
僕の一番か……。僕はどうなんだろうな……。
今夜は長い夜になりそうだ。




