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26話 魔法の国

 肺いっぱいに木々の匂いがしみ込んでくる。

 転送が終わり、目が慣れてくるとまず飛び込んできたのは見渡す限り視界を埋め尽くす樹木だった。これぞ大自然! と言わんばかりの光景に思わず地元の景色が重なり懐かしさを覚える。


「着きましたよ。ここが魔法使いになる為の登竜門。ダーヴィット魔法学園都市の入口です」


 神崎さんがどや顔で説明するけど、見渡す限りの森林地帯だ。ここのどこに都市があるって言うんだ?


「あの、神崎さん。見渡す限り森なんだけど」


「エルフさん達は用心深くて排他的ですから、基本的に都市には結界がはられいます」


「それってさ、見つけられないって事じゃない?」


 いきなり詰みですか?


「このまま真直ぐ進んでください。すると結界との境がありますからそこで門番さんを見つけてください」


「門番なのに見つけないといけないんだ……」


「和泉様なら簡単だと思いますよ」


 そんな無責任な……まぁこのままここに突っ立ている訳にもいかないし……歩いてみますか。


 神崎さんに言われた通り街道らしき道を黙々と歩き続けるとふと足が止まる。何というかここから先は空気が違う……と言うか何か遮られている感じがする。

 そのまま右手を伸ばすと目には見えないがブヨンとした感じの壁に触れることが出来た。なんというか中途半端に空気が抜けた風船に手を押し入れているような感じだね。

 しばらくぶよぶよと遊んでいると右前方に人の気配を感じる。スキルとまではいかないが、忍者の里で修行をしたせいかこの様な感覚に鋭くなった気がする。


「止まれ。これより先は貴様が入ることは出来ん」


 現れたのは長い杖を片手に持ったエルフのお兄さんだった。物語に出てくるイメージそのままの外見で綺麗なブロンドの髪にとがった耳。そしてなによりも美形な顔立ち。あ~見てるだけで腹が立つ。


「あの、この先の学園に用事があるんですけど」


「誰かの使いか?」


「いえ、魔法使いのJobを……」


「何? 貴様冒険者か、ならギルドカードを見せて見ろ」


 門番としては間違っていないんだろうけど、余りの上から目線にちょっとイラっとくる。顔の良さと合わせて更に倍率ドンッだ。

 まぁこんなところで問題を起こしては元も子もないので大人しくノービスのギルドカードを提示するけどね。


「ふんっレベル25か……それなりにデキるようだな」


「どうも」


「試験は三日後だ。余りうろうろしないで宿を探して大人しく引きこもっているんだな。まぁせいぜい頑張れ、ニンゲン」


 かっちーん。何さ! 魔法の素質が僕達より上だからって何様のつもりさ! ココデブチコロシテヤロウカ……


「何だ? まだ何かあるのか?」


「いいえ~ご忠告ありがとうございます~」


 僕は努めて笑顔で答え街に向って歩き出す。多分笑顔だったはずだ。うん。自信はないけど


◆◇◆◇◆◇◆◇


 結界を超え一歩街に踏み込むと今まで心の中を支配していたどす黒い感情は霧散してしまった。

 結界内の樹木は外の木とは比べ物にならない位大きく、そして太かった。あの屋久島の縄文杉クラスの木々が群生し森になっているのだ。そんな光景に目を奪われるのは仕方ないことじゃなかろうか。

 街の入口でボーとしていた為何人かのエルフに邪魔だと怒られてようやく我に返る。


「でも本当に凄い木だ……」


「あんた、余所者だね」


 僕の独り言を聞かれたのか横から声をかけられる。声の主を探すとそこには一人のエルフがこちらを笑いながら見ていた。その笑みは僕を見下すような笑みではなく、この街の木を褒められて嬉しさが隠し切れないと言った感じだった。


「実はここの魔法学園の試験を受けに来たんです」


「やっぱり、その格好からそうだと思ったよ。あんた来たばっかしじゃまだ宿も決まっていないだろう? どうだいウチに来るかい?」


「いいんですか!」


「ここの街は同盟を組んだ時に他種族と交流を持つようになったけど未だにエルフ以外は排他的だからね。人間のあんたじゃ探し辛いと思うよ」


「それじゃお言葉に甘えさせてください」


「はははっいいともいいとも。おっと自己紹介がまだだったね、あたしゃこの街で宿屋をやっているマーリン・ハーンだ。マーリン婆さんでいいよ」


「そんな! そんなにお若いのに婆さんだなんて」


 マーリンと名乗ったエルフはスレンダーな体型ではあるが、身長もそこそこあり、そこらのモデルよりも美しかった。どう見ても二十代後半から三十代の前半っぽいんだけどなぁ。


「嬉しい事言ってくれるじゃないかい。三四〇歳の婆さん捕まえてお世辞言っても何も出ないよ」


 へ? 三四〇!? マーリンさん桁間違えているんじゃないの?


『和泉様。エルフの方々はとても長命なので間違えているわけでは無いですよ』


 姿は見せないが神崎さんが助言をくれた。

 そう言えばそんな話を聞いたことがあるけど。物語は全部作り物って訳じゃないんだなぁ


「どうしたんだい? ボーとして」


「あ、ごめんなさい。マーリンさんがとても美しいのでついつい見惚れてしまって……

 僕は和泉・宇江原です。冒険者でこの街には魔法使いになる為にきました。よろしくお願いいたします」


「イズミだね。まったくお世辞のうまい子だよ」


 マーリンさんは笑いながら通りを奥へと進んでいく。なんと言うか……豪快な人だ。源さんのせがれさんと似たタイプだと思うなぁ。

 まぁ何せよ好い人に出会えて良かった。


◇◆◇◆◇◆◇◆


 マーリンさんに案内された場所は街のメインストリートから少し脇に入った場所にあった。

 巨木をくり貫いて作られた宿には『酔いつぶれの妖精亭』と言う名前の看板が掛かっている。この世界で宿屋をする人達は皆こんなネーミングセンスなのだろうか?


「さぁ入っとくれ! 遠慮はいらないよ」


「お邪魔しま~す」


 木の根元にある入り口から中に入ると街の中以上の木の匂いが出迎えてくれる。総檜木造りの家でもここまでの匂いはしないだろう。

 正面にはカウンターが設置されており客室の鍵等が保管されている。左手にあるドアは食堂へと繋がっていて、朝と夜にマーリンさん自慢の料理が振る舞われるそうだ。反対側には階段があり、上の階から客室となっているとカウンター内からマーリンさんが教えてくれた。


「それじゃこの部屋を使っておくれ」


 マーリンさんはそう言うと壁に掛けられていた鍵の束から二〇二と書かれた鍵を手渡してくれる。


「ありがとうございます! あの……お代は?」


 僕は財布からお金を取り出そうとするとマーリンさんに包み込む様に手を掴まれ首をふられてしまった。


「お代はいいよ、奢りさね」


「そんな! タダで泊まらせていただく訳には……

 あっそれじゃ僕手伝います! 薪割りでも食料調達でも何でも言いつけて下さい!」


「ありがとうね、でも手伝ってもらえる事は……」


 何故かマーリンさんの顔が曇ってしまった。言っちゃいけないことでも言ってしまったかな?


「それよりもイズミに頼まれて欲しい事があるんだよ」


「頼み事ですか?」


 マーリンさんは何かを誤魔化す様な笑顔で数回頷くと早速その頼み事とやらを話始めた。


「実はあたしの孫が今年魔法学院に入学するんだけどね。

 イズミにはその……見張り……とまでは言わないけど一緒にいて欲しいんだよ」


「はぁ……そんなことでしたら別に構いませんが? それだけで宿代をみてもらうわけには……」


「まぁ詳しい話しは夕食の時にでもしようじゃないか。今はゆっくりお休み」


 そのままマーリンさんは夕食の仕込みがあるからと言って厨房へと行ってしまった。

 ん~取り敢えず荷物を置きに行こうか……

 僕は手渡された二〇二号室の鍵を握り締め階段を登った。


◆◇◆◇◆◇◆◇


 二階には部屋が二つしかなく、階段から向かって奥側のドアの前に立つ。ドアのプレートに二〇二と彫られていることを確認して鍵を挿す。

 解錠の為に鍵を回すが手応えが無い。まさかと思いながらもドアノブを回すと何の抵抗もなく、すんなりとドアが開いてしまう。

 ふむ、これはあれだな。ドア開ける、着替え中の女の子が居る、僕変態扱いの流れか。うん。王道だ。

 ハプニングが起こるとわかっていて突入するバカではない。ここは紳士的にいきますか。


「あの~すみません。今日ここに泊まる者ですけど~」


 ドアをノックして中の反応をみる。が暫く待っても何の反応もない。

 中で寝ている白雪姫パティーンですかな?

 何時までもドアの前で立ち尽くす訳にもいかないので恐る恐るドアを開け、中を覗き込む。部屋の中は無人で誰かが使った形跡すらない。

 ん~全部外れか~まぁそう何回もラッキースケベなんて起きないよね。


 入り口付近に設置されているベッドの上に着ていた外套を投げ捨て、そのまま部屋の奥にある窓を開ける。開放された窓から秋と木々の匂いが混ざった風が入り部屋の空気を入れ替える。

 ここの空気は凄くいい!

 今までいた場所がアイアンシティだったのもあり、この木々が運ぶ自然の風はとても旨く感じる。


「……あんた誰?」


 リラックスモード全開の僕を現実に引き戻したのは警戒心の塊の様な声だった。

 声がした方へ振り向くとマーリンさんを小さくし目元を勝ち気にした少女が腰に手を当てて憮然とした態度で立っていた。何故かバスタオル一枚だけを装備した姿で。

 油断した~まさかこんなトラップが仕掛けられていたとは……


「ちょっと聞いてるの!? あんたは誰なの!」


 少女は無視されたと思ったのか入り口からさらに一歩踏み込み、疑いの視線と共に再度問いかけてきた。驚きで声が出なかっただけなのだが、悪いことしちゃったかな?


「言葉が通じないの!?」


「あ、ごめん。僕は和泉・宇江原。冒険者で、ここの魔法学院に入学する為に今日この街に来たんだ」


 僕の説明に少女は鼻をならし疑いの目を強めた。正直に話した筈なのに何で!?


「それで? ニンゲンのあんたが何故この部屋に居るのよ。ここは私がお婆ちゃんから借りた部屋なのよ!」


「マーリンさんに案内されてだけど……それよりもまずは服を着てくれないかな?」


 少女は僕の言葉を聞いて初めて今の自分の状況を確認した。そして顔だけでなく露出させている肩まで桜色に染めながら返事をしてきた。


「ふっ服はこの部屋にあるのよ!

 それに女同士なんだし別に気にしないわ!」


 いや、例え女同士でも初対面の人にバスタオル一枚はどうかと思うよ?

 そしてここで黙っていればいいのに、僕の口は余計な一言を発する。


「いや、僕男だし……」


 部屋の空気が凍った。


「ごめんなさい、よく聞こえなかったわ。もう一度言ってもらえるかしら?」


 少女はわざとらしく片方の耳に手を添え聞き直してきた。何度聞いても僕の答えは変わらないんだけどね~。


「だから、僕は男だよ」


「嘘言っているんじゃ無いわよ! そんなに綺麗なのに男とか……証拠を見せなさい!」


 証拠と言われてもなぁ。

 彼女の手を取り相棒を触らせる……限り無く変態だし、相棒を潰されても困る。

 下半身の装備をキャストオフして相棒を見せつける……警察を呼ばれても言い逃れが出来ない。

 困った……証拠の提示が出来ないぞ。


「まさか……本当に男……なの?」


 証拠を探しウンウン唸っている僕を見て少女は嘘じゃないとわかってくれたようだ。

 しかし、悪いことは続く様で、動揺し、後退りした少女の手元が緩み彼女の唯一装備していたバスタオルが床へと落ちる。


「あ」


 発したのは僕だったのか少女だったのか……そして僕は今まで何とか誤魔化していた欲望と言う名のリミッターが壊れ目の前の光景に釘づけになる。


 細いながらもしっかりと筋肉がついている足、その張は触らずともわかる程だ。そのまま目線を上げ、キュット絞られてた腰は見事の一言に尽きるだろう。まぁ僕個人の感想を言わせてもらえばもう少し肉付きが良くても全然OKだね。そして最後は申し訳程度に膨らんだ二つの青い果実。ここで僕は高らかに宣言させてもらおう! おっぱいは大きさではなく形であると!

 そして最後に羞恥と怒りによって真っ赤になったエルフ特有の美形の顔。今回は大分怒りのゲージが高いようでちょっと残念である。

 あ……ヤバイ、じっくりと鑑賞し過ぎた……

 ここはフォローだ! フォローを入れれば万事うまくいくって死んだばーちゃんの友人の息子が昔言ってたっち!


「え~と……大丈夫。大きさじゃないよ? 形が大事だよ」


 ブチっと何が大切なモノが切れる音が確かに聞こえた。しまった! 選択肢を間違えた!


「いや! 違う! あ、全部が違うって訳じゃないんだけどね? その…あれだ! 大丈夫まだ伸び白はあるさ! これからの成長に期待しよう!」


「……残す……は……か……」


「へ?」


「言い残す言葉は……それだけか……」


「いや……あの……とっても綺麗……だよ?」


「マジマジと見るな~!! バカ~~~~!!!」


 少女の右手に魔力が集中していくのを肌で感じた。これはマズイと思いガードの体勢をとるがここであることに気付く。


 僕、魔法のレジストの仕方知らないや……


 少女が右手を突き出すのと同時に強烈な突風が僕の体を軽々と後ろへと吹っ飛ばす。そして運が悪い事に僕の後ろはたった今空気の入れ替えをする為に全開に開いた窓が……


 元の世界に居るお父さん、お母さん。息子は女の子の裸を見たという罰を受け異世界に散ります。姉貴に義妹達よ、僕の部屋にあるPCを何も言わず壊して下さい。

 そして最後に、最愛なる妻たちよ……僕は先に逝くよ。世界をまたいでまで連れ添ってくれたのに、僕は戻れそうにありません。ごめんなさい。


「ゴフッ」


「あっ」


 地面にそのまま激突するかと思ったが、何やら柔らかいモノに体が当たった。しかし、落下の衝撃は全部吸収されなかった様で顔面から地面に落ちる。その際聞き覚えのある声が聞こえたような気がするが、あれは一体……

 答えが出る前に僕は意識を手放してしまった。


 P.S.まだ死ななそうなんでPCを壊すのはもうちょっと待ってください。

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