23話 試験の終了
五人分の装備はやはりその日の内に準備することは出来ず、武さん達には翌日に取りに来てもらう事にしてもらった。
あれからリッカはひたすら同じ装備を作り僕が作った影人形に装備させ大きさを調整していく。僕は僕でずっと炉の傍で武器を作っている。
騎士団だと聞いていたので全員が片手剣もしくは槍などの武器を希望してくるかと思ったけど、隊員の中には短剣や槌などを希望してくる隊員もいた。
武さんの話しだと元々冒険者なので自分が使いやすい武器を使うのだそうだ。
でもそれだと統率のとれた行動は出来ないんじゃ無いのと質問すると隊長であるマードックさんがうまく指示を出してくれるので余り問題になっていないそうだ。
隊長としてマードックさんが優秀なのか疑問を覚えない程隊員がバカなのか……まぁ前者にしておこう。
店番は完全に阿形と吽形に任せっきりになってしまったが、意外とこの狛犬達は良く働いてくれた。
オーダーメイドの武具の販売は取りやめ予め作っておいた武具を販売するだけにしたのも功を奏したかもしれない。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「終わった~」
武器作りの手を止めて考えに耽っているとリッカが終了宣言をして机に突っ伏した。頭から脚までの装備一式を五人分だ。魔力も相当消費するしそりゃ疲れるよね。
「お疲れ様。いい出来じゃない」
「えへへ……頑張りましたよ~」
「さて、リッカが頑張って作ってくれた装備にちゃっちゃと魔法を付与しちゃいますか」
ここからは僕の仕事だ。
隊員一人一人にどのような魔法が欲しいか今日の内に聞いてあるから後は付与すればそれで終わりだ。
「そろそろアトリエ閉めるぞ~炉を使っている所はしっかりと火の元を確認しろよ~」
さぁこれから作業だと思った矢先に、どうやら閉店の時間になってしまったようだ。
注文された武器や防具も既に形にはなっており、残りの魔法付与は宿でも出来るだろう。
「さて、片付けますか」
「そうですね~今日は疲れました~」
リッカと喋りながらお店の周りを片付けていく。完成した防具は傷が付いてはいけないのでそのまま闇玉の中へ入れておく事にする。
何かアイテム倉庫以上に便利かもしれないな。
夕食を食べ、お風呂に入り疲れを癒した後防具に魔法付与を付け始める。防具が終わったら次は武器だ。順調に進めていくが何せ付与しなくてはならない部員が多すぎる。四人分の装備は整えたところで遂に力尽きてしまった。
残りは明日だ……ごめん、武さん。
僕はそのまま夢の世界へと旅立っていった。
◇◆◇◆◇◆◇◆
夜が明けて試験も遂に最終日を迎えた。
まぁ最後にマードックさんの特注が入ったお陰で目標金額も楽にクリア出来たから、今日は引き渡すだけでいいかなぁ
なんて思ったりもしている。
アトリエに着いたら今日引き渡す予定の防具を並べていく。昨日みたいにサイズ調整するわけではないので安い木製の鎧掛けに装着し並べる。
それにしても同じ形状の鎧がこうも並ぶと壮観だね。それにしても……何か忘れているような……まぁいいかな。思い出せないし。
「装備は出来ているかい?」
開店のアナウンスが流れた数分後、マードックさん達が装備を受け取りに来た。
リッカと吽形が装着を手伝い、僕が説明をするという方法で隊員に装備を渡していく。
その出来の良さに、隊員の皆さんは喜んでくれた。
そして最後の一人。武さんに装備を渡す時に忘れていた何かを思い出した。
武さんの装備だけ魔法付与して無い。
言葉をかける前に武さんはリッカ達に手伝って貰い装備を装着してしまっていた。
「新しいってのもあるけど、何かこう……力が湧いてくる感じがする。和泉さん、ありがとな」
真新しい鎧を着た武さんが今まで見たこともないような笑顔でこちらに笑いかけてくる。
ヤバイ……僕の胸が痛い……!
「それがね……」
「どうした?」
武さんが首を傾げながら聞いてくる。その顔は先ほどの笑顔のままだ。
「それまだ魔法付与して無いの……ごめんちゃい」
「おぃ! さっきのオレの発言どうしてくれる!?」
「とんだ勘違いさんだぁね」
にへらっと笑って誤魔化してみる。まぁ当然武さんは誤魔化されなかったけどね。
「このっ……へっぽこ鍛冶師!」
「あんだと!? こっちが説明する前に感想を言う方が悪いっしょ!」
「ここに用意されていれば全部終わったって思うだろうが!」
「うっ」
武さんの正論に僕は言葉に詰まる。
コイツ~正論を言えばいいってもんじゃないぞ!
「ほら? 反論があるなら言ってごらん? ん?」
僕の反応に勝ちを見出したのか武さんが調子に乗ってくる。
意外とウザイぞこの男。
「う……う……」
「う?」
「うるさーーーーい!」
「アンギャーーーー!!」
全てを誤魔化す為に武さんの下腹部を狙って拳を繰り出す。それは殴る為の拳ではない。目的のモノを握りつぶす為の拳だ。武さんの大事な大事なお宝袋というモノを。
しかも素手ではなく、チャクラを冷気に変換した急冷仕様だ。武さんの属性が『火』だという事は昨日の内に確認してある。握力がなくてもこれなら多少ダメージが乗るだろう。
「あれは仲がいい……のかな?」
「どうでしょう?」
「あっ主! そこは反則だ……!」
ギャラリーが何か騒いでるようだけど気にしない。僕は目の前の男の口を封じる事に忙しい。
◆◇◆◇◆◇◆◇
泡を吹いて気絶してしまった武さんから装備を剥ぎ取り魔法を付与していく。
裸のまま地面にほったらかしておくのも可哀想なので葉っぱを一枚お宝袋の上に置いてあげた。これで大丈夫だろう。
「あの……イズミさん?」
「何? リッカ」
「……何か忘れていませんか?」
リッカが何故かとても心配そうな声を掛けてくる。僕は何か忘れているのだろうか?
「何か……あっそうか!」
「やっと気付いてくれましたか!」
リッカは安心のため息をつく。そうか~心配させちゃったな~失敗、失敗。
「汚いものを触ったんだから消毒しなきゃね」
僕は右手を炉で温めたぬるま湯で洗い、浄化の魔法をかけた。
これから新品の装備を触るんだから気を付けなきゃね。リッカに教えてもらえてよかったよ。
「……もういいです」
しかし、助言をくれたリッカの顔は何故か曇っていく。どうしたのだろう?
気を取り直して武さんの装備に魔法を付与していく。防具は水の加護を付けて……武器は……。
注文された装備に魔法を付与し終わると、ふと思い立った事がありアイテムから玉鋼を二つ、鋼鉄と鉄を一つづつ取り出し炉に入れてスキルを発動する。
炉から取り出した玉鋼のインゴットを忍術でさらに刀へと変化させる。
ん~やっぱり忍術とスキルの組み合わせは楽だわ~。
「よし。あとは……
千早振る、神の御業を宿すモノに恐み恐み白す。
我手に在りし一振りの刀に宿りて全てを焼き尽くす業を授け賜え」
僕の声が終わると同時に刀の刀身は薄紅色へと変化していく。
「武士の氏を持ちし者よ。この刀を持つ者に汝の加護を」
刀身に色を付けた後は魔法と言うか加護を一つつけておく。まぁあんなのでも友達だし? 下手に怪我でもされたら僕が彼の奥さんに怒られちゃうからね。
「う~ん……」
調度武器が出来上がったタイミングで武さんが目を覚ましたようだ。
「オレは……」
「起きたかい?」
「ああ……てか俺の装備が無くなっているんだが?」
「何言ってるのさ、ちゃんとあるじゃない」
「和泉さん。もしかしてこの申し訳程度にオレの股間を隠してる葉っぱだとは言わないよな?」
僕は満面の笑みを浮かべ静かに右手の親指を立てた。
「ははははッ……ぶち殺すぞ?」
嫌だな~冗談ですぜ旦那。
武さんの目がマジだったので早々に謝っておく。
僕は武さんに装備を渡しつつ付与した魔法について説明していく。武さんも内容が真面目だと受け取るとあっさりと態度を変え真剣に聞いて行く。
「……と言うわけさ。何か質問あるかい?」
「いや、大丈夫だ。こんな良い武器を作ってもらって何か悪いな」
「それが仕事だから気にしないで。っと後これ」
僕は出来上がったばっかりの刀を武さんに手渡す。武さんは差し出された刀を受け取ると手数回振り握り具合などを確かめる。
数回振った後一回大きく頷いてからこちらを向いてきた。
「うん。手によく馴染む」
「鞘は出来合いのだからちょっとアレだけど気にしないでね」
「これは?」
「餞別。試験頑張れよ」
「ふっ言われなくても」
僕達は互いに薄く笑い拳同士を軽くぶつける。
ヤバイ! 何かどっかの青春漫画みたいだ!
◇◆◇◆◇◆◇◆
その後マードックさんから代金を受け取り、無事大仕事をやり終えた僕達は脱力しその場にへたり込んでしまう。確かに疲労はあるのだが、僕達の心の中は達成感と充実感でいっぱいだった。
「何かイズミさんとリョウさんって素敵ですね」
「え? いきなりどうしたのさ」
「こう……男同士の友情! っていいじゃないですか!」
リッカが何がそんなに嬉しいのかにやにやが止まらない様子だ。
「そう?」
「そうですよ~特にあの両手剣を渡すときなんかあたしキュンキュン来ちゃいましたよ!」
そう言い、リッカは両頬を手で挟むとくねくねと体を揺らし始めた。まぁ可愛いからいいけど。
「ええ~そうかな?」
『試験頑張れよ(キリ)』
『言われるまでもない(キリ)』
阿形が調子に乗って僕の真似をすると、まさに“阿吽の呼吸”で吽形も武さんの真似をし始めた。
改めて人に見せつけられると何と言うか……恥ずかしい!!
「阿形! 吽形も! 人の真似しない!」
「はははっいいではないか主!」
「ご主人様もご友人も素敵でしたよ」
「阿形さんも吽形さんもそう思いますよね~?」
「も~や~め~て~~」
僕達の出店ではその日いつまでも笑い声が絶えなかった。目標金額を達成できたこともあるのだが、それよりももっと大切なモノが今回の試験で手に入ったような気がするからだろう。
他のお店の人はちょっと不思議な人を見る目で見てきたけど、今日の僕達には全く持って気にしない。それほどまでに気分が良かった。
翌日一週間の期限を終えたのでキースさんの所へ挨拶しに行く。
このアトリエで出店できたのは一週間だけだったけど、それでも得るものが多かった一週間だと思う。
「キースさん一週間ありがとうございました」
「やぁ君たちか。この一週間大分稼いだようだね」
熊……じゃなかったキースさんは自分の作業を中断してわざわざ僕達の前まで来てくれた。
そして一人ずつしっかりと握手をし、にこやかな声でこの一週間分の労いの言葉をかけてくれた。
「マードックさんに気に入ってもらえたからですよ。それにお金以上のモノが手に入ってとっても良かったです!」
「そうか……どうだろう。君たちが良かったら試験に合格したらここで働かないか?」
キースさんは僕の言葉を聞くと一回大きく頷き、笑顔を絶やさずに爆弾発言をしてくる。
多分キースさんは僕達の腕を買ってくれているのだろう。だけど……
「すみません。僕は待っている人がいるので……」
「あたしもまだまだ親方の所で修行を積みたいと思います」
僕達が揃って断りの言葉を発してもキースさんの表情は変わらなかった。
「いや~二人同時にフラれてしまったよ。それじゃこれからも頑張って。またラグズランドに来る事があれば何時でも顔を出してくれ。大したものは出ないが歓迎しよう」
「「ありがとうございます!」」
こうして僕達はルーキーズアトリエを後にした。何か忘れているような気がするけど……思い出せないからたいして重要な事でもない……はず。
何か最近物忘れが激しいような気がするなぁ。少し気を張り詰めすぎたかもしれないし、ここいらで少し休暇も必要なのかな?
ルーキーズアトリエを出た僕達はその足で冒険者ギルドを訪れた。一瞬ノンナの所に顔を出そうかと思ったけど、一介の冒険者である僕と王女であるノンナがそんなに気楽に会えないだろうと考えそのまま断念した。まさかリッカを連れて忍び込むわけにはいかないし。
「あら? あんた達今日はどうしたの?」
「こんにちはエマさん、紹介の件ありがとうございます」
「そう、アイツ行ったんだ」
そう言いながらエマさんは顔に笑顔を浮かべる。
『アイツ』って言うくらいだらか結構仲がいいんだなぁ
「マードックさんのおかげで目標達成できたと言っても過言ではないですよ」
「アイツももう隊長だしね。ふんだくってやった?」
「適正価格ですよ~やったら追い出されちゃいます」
「あははは、それもそうね」
建物内に僕達の笑い声が響く。クエストを受けに来た冒険者のパーティが何事かと見てきたが、エマさんが手を振るとそのままカウンターへ行ってしまった。
「ま、あいつのことはいいとして、どうする? 直ぐ帰る?」
「そうですね。出来れば帰りたいと思いますけど……リッカはどう?」
「あたしはいつでもいいですよ」
リッカは二つ返事で帰る事を了承してくれた。まぁ来たければまた来ればいいしね。
「それじゃお願いします」
「はい。それじゃおアイアンシティまで二人で金貨四枚になります」
僕は売上の袋から金貨を四枚取り出しエマさんに支払った。彼女は受け取った金貨をしまうと今度はチケットを二枚取り出して僕らの手に置くと壁際にいる黒いローブを頭から被った男に渡せばいいと教えてくれた。いや~お世話になりっぱなしです、本当に。
「それじゃ気を付けなさいよ?」
「は~い。行ってきます」
「お世話になりました」
僕達はエマさんに挨拶をすると壁際に居る男に近付いて行く。
壁際に居た男は『転送屋』と呼ばれる人達で教会から転送魔法を習い都市間の移送を請け負ってくれる。移動できる都市はその人が登録してある都市だけ。なのでこの転送屋は現役を退いた冒険者が良くなるそうだ。まぁ冒険者なら色々な都市を巡っているよね。
「すみませ~ん。アイアンシティまで二人お願いします」
「はいよ。アイアンシティまで二人だね。ギルドで発行されたチケットはあるかい? なければ一人金貨四枚だ」
僕は先ほどエマさんから受け取ったチケットを転送屋の男に手渡す。男はチケットを確認すると「確かに」と小さくつぶやき懐へチケットを仕舞い込んだ。
「じゃこっちだ」
男は裏へ続く扉を指差すとこちらを振り返らずすたすたと行ってしまう。扉の向こうは修練場となっておりまばらだが人が数人いた。
「それじゃ行くよ? 準備はいいかい?」
「お願いします」
男は僕達の返事を受け取ると詠唱を始める。詠唱が終わり男が手を地面に向けると魔法陣が展開し白い光の扉が出現した。
「この扉の向こうがアイアンシティだ。それじゃ気を付けて」
男の言葉を背中に受けて白い扉をくぐるとそこには一週間前に出発したアイアンシティの街並みが見えてくる。
はぁようやく試験も終わりか……長かったようなそうでないような……
こうして僕達の最終試験は終わった。そいてそれは僕達の別れの時が近付いてきている事を意味していた。




