11話 新しい仲間
上忍試験を間近に控えたある日、お頭である桜華さんから呼び出しを受ける。
僕何かやったかな? 最近は鍛冶と投擲の修行と桃華の修行に付き合ってばっかしだったけど……
あれかな、桜華さんの修行をサボリ気味なのが……いや、毎回温泉に拉致られているからそれはないか。
「今日は和泉に覚えもらいたい術があったので来てもらいました」
「術……ですか?」
はて、自慢じゃないけど上忍試験に向けて各属性を中級以上に上げてあるから新しく覚える術もそんなに無いと思うけど……
「ええ、仮に上忍試験に合格したとすると里の外に出て任務に就くことが多くなるでしょう。
その時の為に貴方に相棒とも呼べる仲間を持ってほしいの」
「相棒ですか……それが今回の術と関係があるんですね」
「そうよ。貴方には『口寄せの術』で召喚獣と契約してもらいます」
口寄せの術と言えばあれだね、カエルとかヘビとかを喚ぶ術だよね?
「この術は使用者のチャクラに反応して出てくるモノが違うの。だから、上手く使役出来ればとても心強い相棒となるわ」
「桃華も契約したの?」
「したわよ。私は猫だったわ」
「ちなみに影丸さんは鷹でしたね」
上忍や、上忍候補は全員使えるようだ。
なら僕が覚えない理由は無いね。
「やります。是非やらして下さい」
「そう、和泉ならそう言ってくれると思っていたわ」
桜華さんはとても嬉しそうに微笑んだ。
◇◆◇◆◇◆◇◆
周りに被害が出てはいけないと、桜華さんと桃華、それに途中で合流した影丸さんと一緒に山の中にある訓練場へと移動した。
「ここなら大丈夫でしょう。さぁ和泉、この巻物を使いなさい」
桜華さんから手渡された巻物を転写の術で内容を把握し術を行う。
印を結んでいくうちに僕の周りに魔方陣らしきモノが形成されていく。この魔方陣が重要らしいけど……よくわかんないや。
「いきますよ~忍法! 口寄せの術!!」
右手に集めたチャクラを足元の魔方陣目掛けおもいっきり叩きつける。
僕のチャクラを受け取った魔法陣はそのまま目を開けているのも困難な位白く輝きだした。
「こんなの初めて見る……」
呟いたのは桜華さんだったのか桃華だったのか……光の中心にいる僕では区別がつかなかった……
しばらくすると光が収まり周りの景色も見えてくる。しかし、辺りを見渡せど召喚獣らしき影は見えない。
「失敗だったかな?」
「和泉、足元!」
「足元?」
桃華に言われ下を向くとバレーボール位の毛玉が二個……
この毛玉が僕の召喚獣?
とりあえず一つを持ち上げ顔の前に持ち上げて見る。
「キッスはいらんかね?」
「うわっ!」
持ち上げた毛玉が急に話し出したので驚きのあまり地面に叩きつけてしまった。
「アウチ! 我輩を喚んでおいて地面に叩きつけるとは良い度胸だ!」
「阿形が悪いんだよ。急に喋り出すから」
「なにを~吽形が大人し過ぎるのだ!」
毛玉が二、三回振るえるとそのまま犬の形へと変わっていく。
大きさは柴犬位の大きさなのだが、色が白く尻尾は犬の尻尾とは違う様に見える。
全体的にモフモフとした毛並で犬と言うより唐獅子と言われた方がしっくりとくる。
てか一匹でよかったんだけど……
「えっと……吽形……でよかったかな?」
「はい! あなたがボクの召喚者ですね。始めまして狛犬の吽形です」
「そして吾輩が阿形である! さぁ人間! 契のキッスを!」
「阿形は黙ってて!」
「シーサーじゃないんだ……」
「奴は今琉球にいるぞ」
「シーサーもいるんだ……てか知り合いなんだ」
それにしても……狛犬ってこんなんだっけ?
「今は力を抑えている状態ですからこんなんですけどね。本気を出せば強いですよ?」
「俗に言うエネルギーのセーブ中である!」
「ねぇ、何でさっきから阿形は外国語をちょくちょく使ってくるのさ?」
「吾輩にかかればどの言葉も造作ないって事だな! さぁわかればさっさと契るぞ!」
阿形と吽形としゃべっていると見守っていた桜華さん達が近寄ってくる。
どうやら最初は心配して見守っていたのだが、しゃべっているだけでなかなか進まないので痺れをきらして近寄ってきたのだろう。
「まさか狛犬を喚ぶなんてね……和泉は本当に凄いわ」
「そうなんですか?」
吽形を抱きかかえながら桜華さんに質問する。
ヤバイ。この抱き心地癖になる……
「狛犬はいわば神様の使いなの。それを使役するのだから和泉の力は相当なものよ」
「あ、ボク達はまだ駆け出しですので、そこまで期待されても……」
「どうだ! 吾輩の力の凄さがわかったか! わかったら吽形と交代して吾輩も抱いてくれ!」
足元でキャンキャンと吠えるので吽形を下ろし変わりに阿形を抱きかかえる。
「ほほ~これはなかなか……むっ! おっぱいが無いではないか!」
「あってたまるか!」
どうしよ。吽形だけ契約できないかな……
「待てよ……この匂い……貴様“オス”か!?」
「男と言って!!」
「オスならオスと最初から言え。
……どうだ! これでキッスしやすくなっただろ!」
「いや……特に変わった様子も無いけど……」
阿形は数回震えただけで特に見た目は変わっていない。
何がしたいんだ?
「なんだと! 貴様好みのメスになっただろ!」
「犬のオスメス何て見た目でわかるか!」
「犬ではない! 狛犬だ!」
駄目だ阿形と話していると先に進まない……
◆◇◆◇◆◇◆◇
とりあえず阿形を地面に叩きつけて、吽形と話すことにする。
「それで、契約ってどうすれば良いのかな?」
「簡単です。貴方の力を見せて下さい」
「力を見せる?」
「はい! まずは阿形の攻撃を防ぐか避けて下さい」
「ふっふっふ……ついに我輩の真の力を見せる時が来たか!
あとさっきから吾輩を地面に落とし過ぎだと思うのだが……」
阿形はみんなから少し離れ、遠吠えをする。
すると柴犬位だった大きさがみるみる内に大きくなり姿も狼に近くなる。最終的に阿形は見上げる程の大きさへと成長した。
僕が見上げる位だから軽く二mはあるかも……
「ふはははは! どうだ、驚いて声も出まい!」
「いや~大きいね」
「さて、長引いても時間の無駄だからな。
一度だけ貴様に攻撃を仕掛ける。それを防いでみせろ!」
「え? マジで今すぐ?」
僕は阿形がいつ仕掛けて来ても良いように慌てて全神経を阿形に集中する。
どれだけ時間が経ったのだろうか。流石に集中力が続かず、一瞬気が抜けてしまう。
阿形はその瞬間を見逃さず一直線に突っ込んで来た。全身に雷を纏いその巨体からは信じられない速度で僕に襲い掛かる。
そして阿形によって天高く撥ね飛ばされ地面に叩き付けられる影が一つ……
「ふむ、やはり我輩の全力には対応出来なかったか」
「和泉!!」
「安心せい、ナイスちっぱいの娘よ。死んではおるまい」
阿形は一度桃華を見てからゆっくりと地面に落ちた影に向かって歩み寄る。
「どれ、怪我の様子でもみt……」
そこで阿形の声が止まる。
何故ならそこに転がっていたのは僕ではなく僕の上着を着せられた抱き枕(きわどい姿のアニメキャラ印刷)だった。
「バカな! 変り身の術だと!」
「ふぃ~間一髪だったよ」
僕は阿形の影から体を出しつつ抱き枕を回収する。これは大事な宝物なのだ。
阿形の攻撃が当る瞬間練っていたチャクラを使い変り身の術を使い、僕自身は体勢を低くしそのまま阿形の影へと身を忍ばせる。阿形の体が大きくなければできなかっただろう。
それに少しでもタイミングがずれたら攻撃をモロに喰らっていたか逆に避けられていただろう。我ながらナイスタイミングだったと思う。
あ、少し焦げてる……僕の諸〇亮ちゃんが……
「ふっ吾輩の全力が避けられるとは……貴様、なかなかやるではないか!」
「どうも。さて阿形の試験はこれで終わりでいいかな?」
「吾輩の攻撃を避けたのだ。合格だ」
「ありがとう。じゃ次は吽形だね」
「はい! じゃ早速やりましょうか!」
いつの間にか吽形も大きな狼の姿へと変身していた。
やだこの狛犬達やる気満々だわ。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「ボクの試験は簡単です。阿形の逆でボクの守りを破ってください」
そう言うと吽形の前には薄い幕のようなものが張られる。
「体術でも忍術でもなんでもいいですよ。制限時間はそうですね……四半刻でどうですか?」
四半刻と言うと三十分か……そんなに長くやるんだ……
「まぁ貴方ならもっと早く出来るでしょうけど」
吽形は笑顔で言ってきた。声の感じで笑顔だと思うけど何分犬の表情はよみ辛い。
「それじゃ遠慮なく……やらせてもらおうか!」
僕はまずは苦無を数本吽形に向けて投擲する。しかし全て薄い幕に防がれ吽形まで到達しない。
「ん~一発でうまくいくとは思ってなかったけど……次はこれだ!」
今度は各属性を苦無に乗せ投擲する。が、これも幕を破るまでにはいかなかった。
その後も風魔手裏剣、刀等を試すが一向に幕が破れない。
これはあれか、もっと出力のある術でやるしかないのか?
「あと半分くらいですよ? 大丈夫ですか?」
吽形に言われて初めて時間を気にする。もう半分もやったんだ。ヤバイな……やっぱりここは大出力で押し切るのが正解かな?
僕は一度幕から距離を取りチャクラを練り始める。
「今度は忍術ですか。楽しみです」
何か余裕な感じが更にむかつく……ここは全力を出すしかないでしょ!
チャクラを手に集めつつ印を組み始める。何せ使うのは最上級忍術。印の数も多い。
印を組むにつれ僕のチャクラに反応して周辺の木々がざわつき始める。
「これは……凄いチャクラですね」
「余裕を持っているのも今の内だよ! くらえ!
雷遁! 雷神槍・建御雷神!」
上に掲げた右手に集まる雷。その雷が一振りの槍へと変化する。
僕はその槍を掴むと吽形目がけて投擲した。
「ちょっと、ちょっと! 神名の忍術は狡いですよ!」
わんこが何か言っているが気にしな~い。全力には全力で答えるものだと僕は思います。
幕を突き破らんと雷槍が激しく発光し、轟音が轟く。しかしあと一歩と言う所で力尽き消失してしまう。
「危なかった~こんなのもう防げないよ……」
「よかった。じゃこれで最後だね」
「え?」
「火遁! 炎神弾・火之迦具土神!」
「神名の忍術の連続使用なんて反則ですよ!」
雷遁を使った直後さらに印を組み発動したのだ。おかげで僕のチャクラも底をついたようでもうフラフラだ。気絶しなかっただけ褒めてほしい。
「こんなの無理ですよ~~!」
先ほどの攻撃で弱まった幕を弩級の火の玉が打ち破る。そのまま吽形に着弾……からの爆発。
「しまった……やりすぎた……」
「けほっけほっ」
あ、無事だった。
「無事じゃ無いです~もう……
神名の忍術を連続使用とか正気ですか?」
「僕の全力だけど……どう?」
「はぁ……文句なしで合格ですよ。
でももっと自分も大事にしないとダメですよ?」
「和泉! その腕どうしたの!?」
近寄って来た桃華が僕の右腕を見て悲鳴に近い声を上げる。
つられて僕も確認すると見るも無惨な状態になっていた。膨大な量のチャクラを無理矢理使った代償だろう、皮膚は焼け肉が切られ自分の腕でも目を背けたくなる状態だ。
「すぐに治療しないと!」
「影丸!」
「御意! 待っていろすぐに医者を呼んできてやるからな!」
腕を見て最後の気力もきれたのか腰から力が抜け、その場にへたりこんでしまう。
「まったく……無茶だけはしないで下さいね。ご主人様」
吽形がため息混じりに言葉をかけるとそのまま僕の右腕を全て口に含んだ。
「「「「はぁ?」」」」
あまりの事態に四人の目が点になる。その間も吽形は僕の右腕を口の中でモゴモゴしている。
「ちょっとバカ犬! 和泉を食べないでよ!」
いち早く我を取り戻した桃華が勇敢にも吽形の鼻先にくっつき腕を吐き出させようとする。
「黙って見ているのだ、ナイスちっぱいの娘よ。吽形に任せれば問題ない」
いつの間に小さくなったのか柴犬サイズの阿形が横に来ていた。
しばらく様子を見ているとほどなくして吽形が僕の右腕を解放してくれた。右腕を持ち上げて見るとあれだけ悲惨な状態だったのに傷痕一つなく綺麗に修復されている。涎でベタベタだったけど。
「ボクは阿形みたいに攻撃は出来ないけど守備や治療は得意なんです」
吽形が誇らしげな顔をする。多分だけど……
「さて、怪我も治りましたし、契約しちゃいましょう」
「我輩の主になるんだ、しっかりしてくれよ」
そう言うと阿形と吽形は三度姿を変える。
現れたのは上下純白の巫女服を着込んだ白髪の子供が二人。気の強そうなつり目と柔和なたれ目以外はそっくりで双子のようだ。
多分つり目の子が阿形だな……
「さぁご主人様目を閉じて……」
「力を抜きリラックスするがいい」
二人に言われた通りに体から力を抜き目を閉じて待つ。てかチャクラがきれてて力を入れたくても入らないんだけどね。
ちゅ……
何て考えていたら唇を柔らかいものに塞がれる。
「なっ!」
桃華の慌てた声が聞こえてくるけど……もしかして……
「ふふっ末永くお願いしますね? ご主人様」
「はははっ頼むぞ主!」
新しい仲間は頼もしいやらそうでないのか……
まぁ楽しくなりそうだけどね。




