10話 忍びの里の鍛冶師見習い
温泉襲撃事件から半月の時が過た。里は梅雨入りし、雨の日が増え始めた。
襲撃事件を起こした男達はそれぞれ罰を受ける事になり、その基準は温泉までの距離で決める事になった。
なので最初の地雷で吹っ飛んだ人たちは一番軽く、温泉目の前まで行った僕と影丸さんは一番重い罰を受けることになる。
まぁ処罰と言っても内容は里の女性に対しての奉仕活動だったのが救いで。一番罪が重かった僕たちは最長の半月を申し付けられた。つまり解放されたのもついこの間なのだ。
この半月の間はもう地獄だった。里の中を歩けばアレをやれコレをやれと言いつけられ。
家に帰っても桜華さんと桃華にあれこれと用事を言いつけられた。
そう、そう。桜華さんと桃華と言えば最初は男と黙っていた事に対して色々と言ってきたが今では。
「え? 和泉って性別が“和泉”でしょ?」
「そうね。もうこれは“和泉”という新しい性別ね」
などと言うようになった。
それでいいのか?
◇◆◇◆◇◆◇◆
温泉襲撃事件で有耶無耶になった事を影丸さんに再度相談しに行こうと思い立ち家を出た。
あの後も接近戦の訓練を続けているがいまいちパッとしない結果だ。
前回訪れた時とは違って今回は男の人は集まっていなかった。
「ごめんくださ~い」
返事がないただの空き家のようだ。
……いやいや、影丸さんが住んでいるから。
影丸さんは今日は家にいるって話しだけどなぁ。とりあえずもう一回。
「ごめんください~。禿丸さ~ん! いらっしゃいませんか~?」
返事がないただの……いや、もういいか。
……ふむ、“禿丸”の言葉にも反応は無い……か。
とりあえず……家探しだな。
僕は勝手にあがらしてもらう事にした。
片っ端から家の中を探索すると、一つの部屋で影丸さんを発見した。
そこはとてもこじんまりとしていて、普段では見逃してしまうのではないかと思う場所にある部屋だった。
「影丸さん? いるなら返事して下さいよ~」
「………………」
「ど~も~影丸さ~ん! 先日の相談の続きをしに来ました~」
「…………」
「あれ? もしも~し! 無視ですか~?」
「……美しい……」
「いや、急に褒められても困ります」
「その鮮麗された体躯。まさに理想的だ」
「嫌ですよ~男の人に褒められても何にも嬉しくない」
「もし。俺の願いがここで叶うなら……お前を抱いて寝たい」
「……いや、流石にそれは本気で勘弁願いたいですね」
「いいだろう?」
「嫌って言いましたよ?」
「もう俺は我慢できんのだ!!」
影丸さんは勢いよく立ち上がると両手を広げた。
これはもうあれだろ。殺っても問題ないだろう。うん。そうに違いない。
「淡雪~~」
「くらえ!!」
ん? 淡雪?
影丸さんとの間に僕の術が入り込む。あの夜影丸さんを気絶させた桜華さんの術だ。
『闇傀儡の術』という闇を操る術で夜に使用すると相手に全く感知されずに仕留める事が出来る術である。もちろん暗殺用。
文字通り僕に操られた人影が影丸さんを思いっきり殴り飛ばす。
「ゴフッ!
何だ!? これは……お頭の術!?」
「はろはろ~影丸さんお元気?」
「和泉!? どうしてお前は毎回毎回そうやって湧いて出てくるのだ」
「人を虫扱いしないで下さいよ。それに影丸さんが僕を抱いて寝たいなんて言うからいけないんですよ」
「何を言っているのだ? 俺はお前なんぞ大金を積まれてもお断りだ」
「こっちだって願い下げですよ。てか自分で言っていたじゃないですか。
『願いが叶うならお前を抱いて寝たい』って」
「ん~? ああ、それはほれ。これの事だ」
そう言って影丸さんは一振りの刀を僕に見せてくれた。
その刀は知識の無い僕でも美しいと思ってしまう代物のものだった。
「これは“淡雪”と言って。この里の刀匠が鍛えたものだ。
あの人の刀を持つのが俺の夢でなぁ……この間ついに念願かなって鍛えてもらえたのだ」
「それで……でも刀を抱いて寝ると危険ですよ?」
「この刀なら斬られてもいい!」
「そうですか……」
本人がいいと言うのだ。最早何も言うまい。
場所を居間に移し、さっさと要件を済ませる事にする。
大事な彼女との時間を邪魔しちゃ悪いしね。
「それで? 俺に相談とは何だ」
「それがですね」
僕は最近の近接戦闘に関する自分の思いを打ち明けた。
桃華にも他の人にも決して遅れをとっている訳じゃないと思う。
しかし、ここ一番での決定力に欠けると言うか。近接戦闘だけじゃ押し切れないと言うか……
影丸さんは僕の話しを真面目に聞いてくれた。こういう時は凄い人なんだなぁと素直に思う。
とても刀と寝たいとか言い出す人とは思えない。
「ふむ。そうだな……確かに和泉の近接戦には思う所がある。
成績だけを見れば上位だろうが……剣術の部分で見れば良い所で中堅と言ったところか」
「そうですよね。影丸さんもそう思いますよね」
スキルで無理矢理剣術を上級にあげてしまう事も考えてはいた。しかし、何故かそれでも勝てない気がするのだ。
何がいけないんだろう?
「そう言えばお前、今何を使っているんだ?」
僕はアイテム欄から脇差を一揃え取り出し影丸さんに手渡す。
この時アイテムを取り出す手元に闇を張ることを忘れない。
一度何も無い所からアイテムを取り出したら急にモノが出たと結構大騒ぎになったのだ。
なので一応闇の術ですよ~という格好をとることにしている。
「ふむ。良い刀だな」
「ありがとうございます」
この脇差は前の異世界で知り合った鍛冶師の少女に作ってもらったものだ。
まぁぶっちゃけ僕の奥さんの一人なんだけどね。
「しかし、武器でもないとすれば和泉自身の問題になるな」
「はぁ」
「いっそ近接戦闘を捨てるのはどうだ?」
「捨てるんですか?」
「そうだ。中途半端に近接戦闘を仕掛けるよりも相手に気付かれる前に仕留めるんだ」
「術でですか?」
「いや、術だけでは心許ない……何か遠距離からの攻撃が……」
「手裏剣でも投げますか」
「手裏剣? 手裏剣か……待てよ……確かあの人は……そうだ、その手があるぞ!
和泉すぐ出るぞ! お前にとっておきの師匠を紹介してやる!」
影丸さんは一人で納得しいそいそと立ち上がると家を出ていく。無用心だな~まぁ忍者の里で泥棒も何もないか。
僕は急ぎ足で影丸さんの後を追った。
◆◇◆◇◆◇◆◇
影丸さんを追って辿り着いた場所は一軒の鍛冶屋だった。
「源さんいるかい?」
「なんじゃい、何かあったか?」
「実は頼みがあって来たんだ」
「刀なら当分作れんぞ」
「違う違う。源さんの弟子にしてほしい子がいるんだ」
「弟子だぁ? どいつだ」
「こいつだ」
「なんじゃ襲撃事件の主犯じゃないか」
「和泉って言ってな。俺の弟子として育てていたのだがどうも剣術の才能が無い」
僕はいつの間に影丸さんの弟子になっていたんだ?
それに剣術の才能が無いってまぁストレートに言ってくれちゃって……
事実だけれども!
「それで? 鍛冶師にしようって魂胆か?」
「それでもいいが、もうひとつの方さ」
「あっちか……」
「どうだろう……近接戦闘以外で強くなるには源さんに頼るしか無いんだが」
「……こっちに来な」
源さんと呼ばれた老人の後を追うと店の裏に出た。
「源さんってあれですよね」
「なんだ、知っているのか?」
「ええ、あの大工の……」
「お前の目は節穴か? こんなに立派な鍛冶屋があるだろう」
「嫌ですよ、冗談です冗談」
「当たり前だ。蕎麦屋でも寿司屋でもなく鍛冶屋の源さんだ」
影丸さん本当は知っているんじゃ無いの?
鍛冶屋の源さん。本名源三郎さんはこの里一番の鍛冶師で投擲術の達人とのこと。
確かに忍術以外での遠距離攻撃となると投擲はもってこいだと思う。
源さんは五本の苦無を手渡すと、とりあえず投げてみろと言わんばかりに頷いた。
頷かれても困るんだけどね。
でもまぁやらなきゃ始まらない。目の前に置かれた丸太に向かって投げつける。
結果五本中三本が丸太に刺さった。
あれ? 意外とセンスある?
「うちのせがれよりは素質があるな」
「どうだろう源さん。鍛えてやってくれないか?」
「ふん! 儂は厳しいぞ?」
「助かったよ源さん! ほら和泉も! お礼を言わないか!」
「ありがとうございます」
「鍛冶の方も覚えて貰うぞ」
「いいのか? 息子が継ぐんじゃ?」
「店はな。じゃが職人は何人いても構わないだろう」
「それもそうか。それじゃ和泉頑張れよ!」
こうして僕は源さんの弟子となった。
◇◆◇◆◇◆◇◆
源さんの修行は言葉通りとても厳しかった。
朝は日の出よりも前に起き、源さんの店を訪ねる。そこから昼過ぎ迄鍛冶師の修行を行い、午後は投擲術の修行を暗くなるまで行う。
そして何故か日が落ちてからは桜華さんの忍術修行が待っていてた。時間が勿体無いと難癖をつけた桜華さんに連行され、お風呂の中でも修行は行われた。
あんなに苦労して覗こうとしたのに……里の男衆、特に影丸さんにバレたら殺されそうだなぁ。
そんな生活も二週間くらい続ければ流石に慣れてくる。
鍛冶の修行では炉を使った普通の鍛冶と金属性の忍術を使った鍛冶の両方を学ぶようになった。これは炉が無い状況でも自分の武器を調達出来るようにと言う源さんの配慮である。
じゃ最初から忍術で作っては?
と質問すると、いくら忍術で作ることが出来ても基礎を知らないと良いものは作れないと解答がきた。 う~ん職人の答えだ。
投擲術の方もめきめきと腕を上げていき今では苦無の他に巨大な手裏剣も扱えるようになった。また苦無に各属性のチャクラを乗せ威力を上げることにも成功した。陰陽適性がここでも役に立った。
「和泉も大分使えるようになったの」
「本当ですか!」
「うむ、金遁を使っての鍛冶は見事なものじゃ。普通の方もこれだけ出来れば良いのにの……」
「ははは、父さんそれじゃ僕の立つ瀬が無くなってしまうよ」
「お主はもっと忍術を精進せい! 儂らは普通の鍛冶師とは違うんじゃぞ!」
「そうは言うけど、僕はどうしても忍術が苦手でね~」
はっはっはっとせがれさんは豪快に笑った。
源さんのせがれさんは豪傑を絵に描いたような人物だった。体が大きく、腕の太さは子供の腰回りと同じ位あるのではないかと思える程だ。多分僕が普通の鍛冶でうまくいかないのはこの筋肉量じゃないかと結構真面目に考えていたりもする。
源さんのせがれだけあって教え方は厳しかったけど細やかな注意をしてくれる人でもあった。
でも名前はうろ覚えだ。確か『源』がついた名前だったと思ったんだけどなぁ……ゴメンせがれさん。
「いっそ和泉が嫁に来ればいいのじゃが」
「父さん和泉は男の人だよ。それに僕には婚約者がいるじゃないか」
「そうじゃったか?」
「もうしっかりしてくれよ。
でも和泉さえよければこのままうちで働いて欲しいくらいだよ」
せがれさんは笑顔で言ってくれる。この人の事だ、たぶん心から誘ってくれているのだろう。
でも僕はその誘いを受ける事ができない。
「ごめんなさい。僕には帰らなきゃならい場所がありますから……」
「そうだったね。友達が待っているんだろう?」
「はい……」
「そうか……うまくいくことを祈っているよ」
「ありがとうございます」
ヤバイよ~せがれさんいい人過ぎるよ~名前うろ覚えだけど……
「和泉~帰れる~?」
その時珍しく桃華が迎えに来てくれた。今日はお勤めでもあったのかな?
「あ、桃華。今行くよ。それじゃ師匠、お先失礼します」
「む。お頭によろしくの。
おっそうじゃそうじゃ和泉よ、お主の刀ちょっと貸してくれんか?」
「これですか?」
「ああ、悪い様にはせんで」
「いいですよ、別に。はいどうぞ」
僕は一揃えの刀を源さんに手渡した。
「うむ。確かに」
「それじゃまた明日」
「お休みなさい、和泉。桃華さんも」
「おやすみなさ~い」
僕は桃華と一緒に家へ向かって歩き出す。
「ありがとうね、迎えに来てくれて」
「いいのよ。私が好きでやってることだし」
「うん。でもありがとう」
ここで会話が途切れてしまった。何か僕から話した方がいいのだろか?
「私ね、誰かを迎えに行ったり、迎えに来てもらえる事に凄い憧れていたんだ」
何の話題を振ろうかと考えていたら桃華から先に沈黙を破ってくれた。
何かこういう所でやっぱり僕はモテないのかな?
「へぇなんで? ……って聞いてもいいのかな?」
「私の家。家族がお姉ちゃんだけでしょ? それにそのお姉ちゃんはこの里のお頭だし。
あんまりそう言った機会に恵まれなかったのよ」
桃華達の両親はある術の実験中の事故で亡くなったのだと話してくれた。
結構しんみりとした空気になってしまった。
「もう! こんな事話す予定じゃなかったのに……和泉! 帰ったら少し付合いなさいよ!」
「これから?」
「ええ、体が鈍ってないか確かめてあげるわ」
「桜華さんの講義もあるんだけど……」
「何よ~お姉ちゃんは良くて私はダメだっていうの?」
「うっ……でも今武器預けて来ちゃったし」
「家にあるのを使えばいいわ! さっ張り切ってやるわよ! “上忍試験”まで時間もないしね!」
そっか。もうそんな時期になるんだ。僕がこの里に居られる時間も残り少ないんだな……
桃華の元気な顔を見ながら僕は少し寂しさを感じた。
今回の取得スキル
投擲術3・鍛冶見習い・金属性忍術3⇒4




