第33条の1「行政指導」
「すみません。お待たせしまして。」
「いや、予定通りだ。お初にお目にかかる。
私がアポロ、こちらがローデだ。お主がえぐちだな。」
見た目は40代ぐらいで、その肩と腕の筋肉のおこりから、威圧的な印象を受ける。
最上段の5段の冒険者というのに、外から見えるところに傷はなく、むしろきれいすぎるほどである。
前回の王族特務機関の人が法服のような服を着ていたのに対し、アポロ中央ギルド長は袖の無い襟の立った服を着ている。
「今回はいきなりどういった要件だ。
労働基準監督隊からの話であるから、労働者に関することであろうということで、アルテミスにも同席してもらっている。」
はい、アルテミス事務長は何も報告していないことが発覚しました。
さて、どこから話を開始しようか、と悩んでいたら、アレクシスが説明してくれた。
アポロ中央ギルド長とアレクシス。身長はアレクシスのほうが大きいが、筋肉量はアポロ中央ギルド長が多そうだ。
ここでお互いに闘ったら、どっちが勝つのだろうか。
「今から2か月ほど前、労基隊の隊員が中央ギルドに調査に入らせていただいております。
調査結果はえぐちから後ほど説明させてますが、中央ギルドにおいて、残業代を払わずに労働させている事実が発覚し、そこで、文書指導を行っております。
今回、その報告に問題があった次第であります。」
「なに?
――アルテミス。」
「えぇごく一部に限ってです。」
「ごく一部ですって……!!」
「カリカ。抑えよ。」
アレクシスは、激昂しかけ言葉を失ったカリカを御した。
アルテミス事務長の対応に納得いかない気持ちはよくわかるし、私もそうだ。
ここで私から引導を渡させていただこう。
「……何か事情があるようだな。説明を聞こう。」
「ありがとうございます。まずこちらに見覚え有りますか。」
そう言って私は、是正報告書を示したところ、アルテミス事務長が反応した。
「職務上知りえた秘密は外部に漏らさないという約束ではないのですか!」
「ええ。アレクシス隊長は内部の人間ですから。
アポロ中央ギルド長の署名がある書類をアポロ中央ギルド長にお示しすることに何か問題でも?」
「――!」
「なるほど。
これは我は見ておらぬ。」
私は、事のいきさつを細かに説明した。
労基隊に情報があったことは伏せ、初回の対応、張り込み、聞き取り調査、書類作成時刻と出勤簿の差異、違反の指摘内容、実態調査をしたと報告していたがしていなかったこと、再発防止や長時間労働の抑制方法に問題点があることを。
報告の内容を説明するとアルテミス事務長がすかさず口を出した。
「それは違います。実態調査しました。
した結果、何も意見がなかったので、現行の対応で問題なしとしたのです。
ギルド長の署名をこちらでしたこと、確認を取らなかったことは謝りますが、指摘された事項は重大な問題ではないということになったためです。」
「そう言っておるが。どうだえぐち。」
「私達が行った労働者に対する聞き取りでほぼ全員、賃金不払い残業をしていたと主張しています。
彼らの発言が嘘であるとは思えません。
その点で、こちらが法違反を指摘した以外には残業がなかったという報告は是認しかねます。
さらに、実態調査をしたか、については私どもが直接労働者5名から聞き取りを行っていまが、全員受けていないとの回答でした。
これはアルテミス事務長のあずかり知らぬところかと。」
「え、越権行為です!そのような方法での調査が認められるはずが――。」
「私達が指摘した際、26名の労働者について、依頼や冒険者への報酬の書類を確認したうえで、全員に法違反が認められました。
私達で他の方の分は確認していません。それをいいことに、アルテミス事務長は他の方に賃金不払い残業は無いと報告しています。
今でもまだ、他には残業はなかったと言い張りますか。調査すればわかることなのに。」
私は甲高い声を上げるアルテミス事務長の話を遮り、アポロ中央ギルド長に説明をするふりをして追撃をした。
アルテミス事務長は「いや」「それでも」と言葉に詰まりながら話を続けようとしている。
「それとも、依頼や冒険者への報酬の書類を見られたくない何かがあるのですか。」
「ふざけるなっ!」
「アルテミス。黙りなさい。
適切な調査の結果指導を行った、そのように労基隊の方々は認識されておるのですね。」
今度はずっと腕を組んで説明を聞いていたローデ中央ギルド次長がアルテミス事務長の発言を遮り、落ち着いた声で聴いてきた。
「はい。こちらの対応に問題があったとは思っておりません。」
「報告を受けておりますが、本職も同じ意見であります。」
アレクシスが私に続いて発言してくれた。
「アルテミス。本当のところを話しなさい。
実態調査はしておるのですか、していないのですか。」
「一部の者に対する聞き取りしか、しておりません。そこで問題はないと判断したのです。」
「具体的に誰です。全員の名前を言ってください。」
「そこは関係ないでしょう。こちらで判断したのですから。」
これは私から聞いても何も答えないな。そう判断して、アポロ中央ギルド長に目配せをした。
「アルテミス。貴様はキリアキ警邏隊長の前でも同じことが言えるか。
俺は貴様の発言に疑いを持っている。
この後、キリアキ警邏隊長の元に連れて行こうと考えている。よいか。」
キリアキさんの嘘を見抜く能力――。
それをここで使おうと判断するぐらいには、アポロ中央ギルド長はこちらの発言を信じてくれているようだ。
この発言を聞いたアルテミス事務長は目を大きく見開き、しばらく固まった後に座ったままで下を向いて顔を伏せたまま涙声で話しだした。




