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第98話「食堂の課題」

 食堂は相変わらず長蛇の列であり、職に困る人が後を絶たなかった。


 食糧庫は貴族たちが独占しており、彼らが優先的に使う事ができるために平民は自力で食材を確保する事が困難であった。


 ここで1つの問題が発生した。食堂が忙しくなれば最も負担率が高いのは料理番であり、加里と翡翠がいなければ食堂が回らず、彼女らには王都の修繕につき合う時間がないのだ。


 加里と翡翠が帰って来るまでの間、ルビアンたちは仕込みを済ませていた。


 そこでガーネはアンを雇う事で彼女らの負担を減らそうとしたのだが――。


「駄目ね」

「ああ、駄目だ」

「何故だ? こんなに美味いのに」

「あたしは特に問題ないと思うぞ。うん、美味い」


 カーネリアはアンの作った料理を美味しそうにムシャムシャと食べている。


 アンは軍人生活が長かったのか料理にはかなり疎く、レーションレベルの料理しか作れない上に見た目が悪かったのだ。


 カーネリアと同様にマグマのようなぞっとする見た目、素人から見ても抜群にセンスがない。カーネリアは好き嫌いがなくアンと同じくらいのレベルであったため平気だ。アンもまた、カーネリアの料理を問題なく食べる事ができる。


「お前らに問題がなくても、客には問題ありなんだよ」

「しょうがない。ルビアン、加里がいない時はあなたが、翡翠がいない時は私が料理番をやるしかないわね。不本意だけど」

「それは良いけどさ、アンはどうすんだよ? 接客スキルがあるのはガーネとカーネリアだけだし、アンはボディガードでもしてもらうか?」

「そうするしかないわね」


 彼らの様子を見ていたアンが少しばかり悲しそうにカーネリアを見つめた。


「私……もしかして足手まといなのか?」

「気にするな。アンはボディガードとしてしっかり仕事をすれば良い」

「コリンティアや総督部隊では敵なしだった私も、食堂ではただのボディガードか」

「なら今からでも戻るか?」

「断る! あそこまで啖呵を切ったんだ。今更戻れるか」

「だったら――ここで食べていく術を私が教えてやる」

「カーネリア……」

「アン……」


 カーネリアとアンがお互いを嬉しそうな眼差しで見つめ合う。


 そしてアンがカーネリアにすがるように抱擁し、カーネリアはそれを静かに受け止めた。ルビアンとガーネは目を半開きにさせながらその光景を見つめている。


「ふーん、なるほどねぇ~」

「お前らそういう仲だったんだな」

「ちっ、違うっ! 誤解だっ! 私はルビアンだけだっ!」

「そっ、それならあたしだってルビアンだけだっ!」


 2人して赤面しながら慌てて誤解を解こうとするが、それがお互いの敵対心を煽る結果となり、今度は睨み合いを始めてしまった。


「貴様、でかくて立派な胸だからといって調子に乗るなよ」

「お前こそ、そんな細身でスラッとした腰回りだからといって調子に乗るな」

「「ぐぬぬぬぬぬ!」」

「はーい、そこまで。もうすぐお客さんが来るから、さっさと準備しなさい」

「「そんな事は分かっている!」」

「息ぴったりねー。全く仲が良いんだか悪いんだか」


 この2人、何だかんだ言っても結局お互いを認め合ってるのね。


 カーネリアの豊満な胸を始めとしたグラマラスなボディも、アンのスラッと引き締まった腰回りのコンパクトなボディも、両方ともガーネにとっては羨ましい事この上ない。


「アン、俺と一緒に来てくれ。調達の時間だ」

「ああ、分かった。悪いなカーネリア、どうやら選ばれたのは私のようだ」


 アンがドヤ顔で自慢げに語りながらルビアンに近づいていく。


 カーネリアはその様子を悔しそうな顔で涙目になりながらルビアンに近づく。


「ルビアン、あたしも連れて行ってほしい」

「子供かっ!? カーネリアは接客の仕事があるだろ」

「はーい」


 カーネリアはため息を吐きながらカウンター席に突っ伏している。


「今日は加里ちゃんも翡翠ちゃんも修繕作業をお休みにしてもらったけど、明日からはどっちかがいない状況で店を経営しないといけないのねー」

「修繕が終わるまでの我慢だ。こればかりは仕方ねえよ。じゃあ行くぞ」


 ルビアンがアンの腕を掴みジルコニアまでシュパッと瞬間移動をする。


 2人が移動した先はジルコニアの水都であった。


 水都は帝都の西側に位置し、帝都とは一二を争う大都市である。そこは世界でも有数の商業都市でもあり、多くの商人が様々な商品を売買しているところであった。


「王都並みに賑わっているな」

「最近はここのジルコニア米が安くてな、ジルコニア料理を作るのに必要な物が一通り揃ってんだよ。荷物運びを手伝ってくれ」

「ああ、分かった」


 ルビアンはアンと共に食材の仕入れをするが、なかなか交渉が進まない相手もいた。ルビアンはここでアンの思わぬ特技に気づいた。


「あんたえらいべっびんさんやのう。今やったらこの新鮮な海老、特別に1匹30ラズリで売ってもええでー」


 水都に住まう魚屋主人がアンに目をつけて声をかけた。


「べっぴんさん?」

「水都の方言で美人って意味だよ。この前水都の移民から聞いた」

「それは光栄だが、その値段では買えないな」

「「えっ!?」」


 ルビアンと魚屋主人が仰天する。まさかアンが値段の交渉をするとは微塵にも思わなかったからだ。アンは勧められた海老をじっくりと観察する。


「この海老、あまり元気がないし色も悪いな。この鮮度なら1匹10ラズリがいいとこだ。私の目は誤魔化せないぞ」


 アンが威圧感を発しながら魚屋主人を見つめる。


「あんたには敵わへんなー。それでかまへんよ」


 彼はアンの目利きと力強くも透き通るような声と美貌に魅了され、あっさりと陥落してしまった。思ったよりも安い値段で買えた事にルビアンは安堵を覚えた。


 アンに目利きと交渉の才がある事に、彼は目をつけたのだった。

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