第233話 この場の、皆を救う為に来ました
「おーい! エーコ、無事だったか?」
「ピート、ラング、どうしたのニャ?」
「どうしたの? じゃないだろ。なんか大きな音がしたから、あと、見回りに行ったきり戻ってこないから、様子を見にきたんよ」
「2人だけニャ?」
「俺等の主は寝てるよ「どうせ、どっかの家の中でサボって、ヤッてるだけ」とか言ってたけど、主もサボってるのは一緒だよな」
「だからラングと見に来たんよ。んで、その人間は?」
「隠れたのを捕まえたのか?」
「隠したままにはできなかったんか?」
「えーっと、ニャ」
「「……」」
「……人間さんよ、悪いな」
うん。その一言が聞けただけで満足だ。
南大通りを中央広場に向かって進んでたら、もう少しで炎の壁って所で、向こうから犬獣人が2人走ってきた。
「あの2人は信用できる」と言ったエーコに対して「信じられない」とシェンユが答えた。なのでエーコが、信用できる言葉を引き出そうとしてくれた。
俺はエーコにアイコンタクトを送る。
「ピート、ラング、皆を助けたいんだけど、手伝ってくれないかニャ?」
「皆? 皆って、この町の人達をか?」
「そんな事したら殺されるんよ。いや、そもそも奴隷紋で縛られているから出来ないんよ」
「大丈夫ニャ。エーコの新しい主様が解決してくれるニャ! 強くて優しい主様とその友人様が、この町で苦しんでいる全員を助けてくれるニャ」
「そんな、凄い人間がいるのか?」
「この2人ニャ」
犬獣人の2人は目を見開いて俺とシェンユを見る。
シェンユはそうでも無いが、俺は上半身は裸で、左肩から腕にかけて大怪我をしているし、引っ掻き傷もあってボロボロに見えるだろう。
もちろん、全力で戦える。服は、あのクズ野郎を縛り上げるの使った。引っ掻き傷は、エーコにワザとやってもらった。やられた感がないと、捕まった演技が嘘っぽくなるからな。
「2匹とも頭を下げて、うなじを見せて」
シェンユが右手を出して前に出た。
「えっ、な、何する気なんよ」
「大丈夫ニャ! 信じるニャ!」
互いに目を合わせて少し悩んだ様子だが、エーコの声に従って、頭を下げてくれた。
シェンユが能力を発動して、俺の右手に新しく2つの奴隷紋が追加される。
「これで完了。お前達の新しい主はタツキになった。命をかけて罪を償えるよーに、しっかりと命令に従いなさい! 分かった?」
「おい、ちょっと、そんな言い方しなくてもいいだろ」
「必要だよ。コイツ等は龍支配の空賊なんだから!」
シェンユの憎しみの根は深いな。
「だ、大丈夫なのか?」
「大丈夫ニャ! 大丈夫ニャ! 主様に任せておけば、みーんな助けてくれるニャ!」
そんなに期待されると、ちょっと不安になってしまうが、でも俺ができる事は全部やる!
「そういえば、カゲトラはどうした?」
「姉ニャも、主様の奴隷になったニャ。今は歩くぐらいしか出来ないので、元主を引っ張って、南にあるユウツオって街に向かってるニャ」
「なんでそんな事を」
「主様が手紙を書いたニャ。今の状況とか、奴隷使いの数とか、色々な情報を書いてあるニャ」
「なるほど」
「それより急ぐニャ。時間が無いニャ! この事を、奴隷使い達に知られないように、他の仲間達に伝えて欲しいのニャ」
「分かったんよ」
「とりあえずは、中央広場に戻ろう」
犬獣人2人を加えて、急いで中央広場に向かう。
エーコから聞いた話だと、襲撃は場所によって戦略を変えるらしく、幾つかのパターンがあって、今回は奴隷獣人がメイン戦力となっているらしい。
だが、全てのパターンで、必ず命令される流れがあるそうで、最終的には襲った場所の人達を、1から3箇所に生きたまま集める。その後にボスがドラゴンと共に現れ、全ての生き物を焼き殺すのが決まりだと。
そして、全てを焼き尽くした後に、ボスが大きな旗を振り回して儀式をするとの事。
どうして、集めてから生きたまま焼き殺すのか? 旗には何の意味があるのか? そもそも何故、こんな事をしているのかは誰も知らないようだ。
大きな炎の壁についた。高さは6メートルほどあり、横は見える限りはずっと続いている。かなり熱くて、2メートルほど離れているのに火傷しそうな感じだ。
これが中央広場を囲っていて、中の人達が逃げられないようにしている。
近くにドラゴンが鎮座していた。
大きさは大型バスぐらいだろうか。オレンジ色の体色をしていて、細い顔つきと長い首が、少し鳥っぽい印象を受けさせる。
背中から生えた大きな炎の羽が、そのまま炎の壁になっていて、コイツが東西南北に4体いるらしい。
このドラゴンについては、エーコから事前に話を聞いていて、ドラゴンの中では小型の方だと聞いた。だが、人生で初めて見るので、かなりの迫力を感じる。
「よぉ! エーコ、その人間はなんだブゥ?」
「隠れてのを捕まえたニャ。広場の他の人間と一緒にするから、中へ入れて欲しいニャ」
ドラゴンと一緒にいるのは、山賊って感じの格好をした猪獣人だ。腹に大きな髑髏を3つつけている。
「ブゥ。お前の主とカゲトラはどうした?」
「姉ニャは主と一緒に、他に見逃している隠れている人間はいないか、見回りに行ってるニャ」
「そうかぁ~。ブヒヒヒヒっ。もっと人間がいるとイイなぁ。あの香ばしい焦げる匂いは最高だからなぁ」
「エーコには分からないニャ」
猪獣人は腹についている、真ん中の髑髏の頭に口をつけた。息を吹いているようで、音がなっている。どらやら笛らしい。
炎の壁に人が通れるだけの穴が空く。
「通れ」
「おい、人間。歩くニャ」
エーコにど突かれて炎をくぐる。
中は炎の壁に囲われているだけあって、なかなか暑い。こんな所に長時間いたら、のぼせてしまう。
それも狙いなのかもしれん。
「(主様、すみませんニャ!)」
エーコが小声で謝ってきた。別に気にしなくていいのに。
「(あの獣人には声かけなくて良かったのか?)」
「アレはダメだニャ。ドラゴンを任されて、優越感に浸ってるし、生き物が焼ける匂いを喜ぶようになってしまったニャ。昔はイイ奴だったニャ」
昔は、か。状況に呑まれて変わってしまった奴もいるって事か。
中央広場を見渡す。真ん中にあった石像は破壊されて、その右にあたる東側に空賊らしき奴等がいる。ギルドのピンツオ支部の建物を拠点にしているようだ。
西側には人が集められいて、その周りを20人ぐらいの獣人が睨みを利かせている。
以前来た時は楽しい所だった。カード大会の予選があって、その開会式をした場所だ。アズンさんやユウもジョノもいて、熱気に溢れていた。
それが今は、炎の壁と人口密度による熱気が溢れ、恐怖が充満している。
「エーコぉぉおお!」
デカい声が怒気を混ぜて呼び出しをしている。
「アレがリーダーニャ。ちょっと行ってくるので、ピート、ラング、後を頼むニャ」
「おう」
エーコは走って呼び出した男の所へ向かっていく。
大柄のスキンヘッド頭をした、いかにも山賊の頭みたいな奴で、隣にエロい格好をした女性の兎獣人をはべらしている。
俺とシェンユは、捕まってる人達の中に追加された。中で少し待ってて、と言ってピートとラングは走って行ってしまった。
「おぉ、お前達。大丈夫か?」
「酷い怪我じゃないか。待ってろ、奥に治癒院の魔闘気使いがいたハズだ。呼んでくる」
「見ない顔だな。冒険者か?」
「ピンツオの外にいたのか? 捕まってしまったか」
周囲の人達が、小声で声をかけてきた。
「大丈夫、大丈夫です」
「ちょっと、ちょっとー。オイラの話を聞いて。ねぇ」
「静かにしてくれ。騒ぐとマズイ」
心配してくれるのは嬉しいが、集団ってのは、まとめる役がいないと大変だ。
「なーに、騒いでいる!」
振り返ると、デカい人形みたいな獣人が立っている。身長は2メートル以上はある。横幅は人間3人分ぐらいある。白い巻き毛に覆われているのと、頭に生えてる巻き角からすると羊獣人か?
凄みを利かせてるが可愛らしい顔つきで、上はビキニアーマー、下はスカート、大きな木槌を持っている。
「主様。こいつはムーチョンなんよ。俺等の中で2番目にデカいです」
ピートの方が隣にいた。チーチョンって奴が相撲取りみたいにデカくて見えなかった。
「ムーチョンの後ろでなら、少しぐらい何かしてても見つからないんよ。コイツをここに立たせておきます」
「なるほど、それは助かる」
ピートって奴、急に協力的になったな。
「さっき、寝てる元主を確認してきたんよ。そしたら腕にあった奴隷紋が消えてたんよ! ありがとうございます!」
なるほど。確信が持てたって事か。
「今、ラングが他の獣人に、こっそり説明してるんよ。バレないよーに、1人づつムーチョンの隣に連れてきます」
「よし。いいぞ! 頼んだぜ」
「では俺は、ここにいない奴を、どうにか連れて来れないか、探ってきます」
ピートが離れて行いくと、ムーチョンは背中をこっちに向けて、姿勢を低くしてくれた。
すぐにシェンユが、奴隷紋の書き換え作業を始める。
「どういう事だ?」
「今の話はなんだ?」
「お前達、何者なんだ?」
近くにいた町の人が警戒しながら寄ってきた。
「静かに聞いてください。俺達はユウツオから来ました。ポスメッセの知らせを受けて、ピンツオの町を救う為に来ました」
「な、なんだって」
「今いるのは、オイラとタツキだけど。あと1人すっごく強いノアちゃんも来てるから安心だよ」
「さ、3人だけなのか?」
んっ? 奥の方から集団が割れて、何人かの人が進んでくる。
「通してくれ。すまん、ちょっと、通るぞ」
目の前に来たのは5人。じぃさん、犬獣人、ばぁさん、インテリマッチョ、丸メガネのマッチョだ。
「ワシは、このピンツオ支部のギルドマスターじゃ。コイツはワシの奴隷獣人だから心配するな。大怪我をして捕まったのは、お前達か? こちらの治癒魔闘気使いが、処置しよう」
ばぁさんが、俺の左腕に触れようしたが、俺はそれを止めた。治癒魔闘気は難しい技で体力もかなり使うって、前にジンリー先輩に聞いた事があった。
俺の腕は時間が経てば治る。ばぁさんの体力は、本当に必要な人の為に、残しておきたかった。
「先に話をさせて下さい」
「むむ? 貴方は、もしや、アズン様の友人でありませんか? ユウ様とも友人であられなかったか?」
「あっ。そうです。貴方は、シャン・レン=ワン家の屋敷の人ですよね?」
「おぉ、こんな状況で再会するのは悲しいですな。ですが、生きていて良かった。しかし貴方、ユウツオの出身ではなかったか?」
「そうです。ユウツオから今来ました」
「今、だと?」
話が進まん! 時間が無いってのに!
「ちょっと、オイラの話を聞いて! 時間が無いの!」
ついに、シェンユがキレて、ギルマスとインテリマッチョとメガネマッチョに正拳突きを放ってしまった。
「ちょっと、ちょっと、シェンユ。ハウス!」
「分かった。分かったのじゃ。何が何やら分からんが、まずは話を聞こう」
ギルマスが他の人達を静止させてくれた。
「この場の、皆を救う為に来ました」
俺とシェンユは、出来るだけ要点をまとめて状況を説明した。ユウツオが救出に向けて動いている事、俺達3人は独断先行でやってきた事、この後に全員を焼き殺す為のドラゴンがやってくる事、そして奴隷獣人達も苦しんでいる事。
「そうか。奴隷獣人の事については考えねばならぬが、今は時間がないのじゃな?」
「そうです。まずは全員を助けます。町の人も、奴隷獣人も、全員です。裁きはその後に考えます」
「分かった」
「ちょっと、ギルドマスター! それで良いんですか?」
「ソウメイよ。時間が無い。それに他に良い案あるわけでなかろう?」
「そうですが……」
やっぱり、こんな事をしている奴隷獣人達も被害者なんだ。って話は受け入れずらいか。
「全ては、俺達3人でやります。皆さんは、もしもの時に備えてて下さい」
「良いのか?」
「はい。俺とシェンユにしか出来ない事です」
「分かった。ワシと町長で町の者は説得しよう。好きにやるがよい」
「ありがとうございます」
よし、まずは俺の無限の魔力を利用して、苦しんでいる全ての奴隷獣人の主を、俺に書き換える。
そうすれば、戦力差はひっくり返るし、ノアが合流すれば、奴隷獣人と力を合わせて、町の人を守りながら脱出するのをできるハズだ。
「よし。シェンユやるぞ」
「オイラは、どっちかというと反対なんだけどね」
とか言いつつ、ムーチョンの隣きた6人目の獣人を対応してくれている。
シェンユは本当に頼りになるイイ奴だ。
土曜が仕事だったのでGWは3日からでした。その間、連続投稿するぞ! と密かな目標が何とか実現できて良かったです。今後も出来るだけペースを落とさずに頑張りますので、よろしくお願いします。
投稿を始めた時から出したかった、お気に入りのエーコとカゲトラをやっと出せて良かった。5年もかかってしまった。




