第144話 変人では無い。ドラグマン・レッドだ!
「あるじっ!」
誰だ?
「主っ! コウっ!」
「うっ。うぅぅ……」
「大丈夫? ねぇ、大丈夫?」
身体が怠い。力が入らない。俺は、どうして寝ていたんだ?
「ウルシュか?」
「コウ! 生きてた!」
視界がぼやける。ここは何処だ?
「ねぇ、ロナウちゃんは?」
「ロナウ……」
そうだ! ロナウ! アイツが怪人になって、襲われて、吹き飛ばられたんだった。
ここは、俺がぶつかった建物の中か?
「ウルシュ、怪人がいるだろう? アイツを殺すぞ。動けるな?」
「うん。私は動けるけど……」
「よし、行くぞ。急がないと、あの怪人に、これ以上殺人をさせるワケにはいかない」
「分かった。ロナウちゃんは? 連携して、戦闘してくる」
「ロナウは、いない。アイツの事は後で説明するから、今は怪人を殺す事だけを考えろ」
「分かった」
今、ロナウの事をウルシュに話すのはマズイだろう。ウルシュは強いが、仲間への思いも強い。ロナウが怪人化したと知ったら、たぶん、戦えなくなるかもしれん。
おそらくロナウ怪人は、A級冒険者が必要となるぐらい強い。今は少しでも戦力が必要になる。
「まずは、状況確認だ」
「私が外に出て見てくる」
「いや、俺も一緒にだ。相手は強敵だ。指示を出す俺が状況を直接確認した方がいい」
「でも……」
「なんだ?」
「もう…… 主は歩けないよ……」
俺は自分の両脚を見た。
太腿から先に、俺の足は存在してない。
「ゴメンなさい。勝手に判断しました」
「そうか…… 仕方なかったのか?」
「はい。連れてきた治療院の方が、足が潰れてていろんな所から出血してるから、一旦切断して、それで根本を塞がないと止血できない。って言われて。主が助かるなら、それで良いって伝えました。ゴメンなさい」
「それなら、仕方ないな」
冒険者をしてれば、いつかは負傷すると思ってた。奴隷使いは死のリスクが高まるが、欠損とかは少ないと思ってたが、仕方ない。生きているだけでも良しとしよう。
足の痛みは無いし、腹部の痛みもない。肋骨は折れてはいなかったようだ。それでも優秀な治療者を連れてきてくれたんだな。
「治療者の人は?」
「たくさんの負傷者を、西の大防壁にある兵団詰所に集めてるらしくて、そっちに向かいました」
負傷者が多く出てるのか……
という事は俺が気絶して、結構な時間が経っているのか。
「ウルシュ。すぐに俺を外に出してくれ。状況を確認したい」
「主を? 出るの?」
「俺がやらないといけない!」
「わ、分かったよ。じゃぁ、えーっと。コレ! この細い帯で括り付けるからね?」
「任せる」
俺以外にも屋台の一部が中にあり、散乱しているが、この店は服屋だったみたいだ。血痕とかは見当たらないから店主や客は無事に避難したんだろう。
ウルシュの背中に帯で括り付けられる。まるで、赤子みたいだが、仕方あるまい。
「出ます」
「いけ」
外に出ると、中央広場は様変わりしていた。ほとんどの屋台は破壊されて、中心にあった大きな仮面展示天幕も崩れている。
至る所に血痕があり、抉れた地面があり、倒れてる人いて、単発的な戦闘があったように見られる。
あれから、どのぐらいの時間だ経ってるんだ?
それより、ロナウ怪人は、どこだ?
「あ。主っ。あそこにいます」
中央広場の北側の壊れた屋台を漁ってる、大きな犬がいる。その頭部は球体にで、体表は黒く血管のような赤い模様がある。
「何をしてるんだ?」
「近くに冒険者が4人で囲んでます。けど、戦闘にはなってないみたいです」
どうみても戦闘の跡はあるが、今は戦っていない? ロナウ怪人は周囲の冒険者に襲いかからないのか?
ロナウ怪人が健在してるって事は、やはりB級冒険者では勝てなかったという事か。
あの頭部の球体は硬かった。それにスピードがあるような見た目をしてる。頭部を破壊するには、強力一撃を上手く当てる必要がある。それには、まず手足を切断して動きを止めないといけないだろう。
B級冒険者なら2チーム分12人ぐらいか? A級冒険者でも3人は必要になるかもしれない。
「主、どうする?」
「情報が欲しいな。戦闘した冒険者と話がしたい。あの倒れてる冒険者の所に行け」
「どこ?」
「あそこだ。屋台がいくつか重なって崩れてる。怪人側から見えにくい所に人間が倒れてる」
「えっ? あ~、あっ! 分かった。すぐに向かうよ」
倒れてる冒険者は盾役か? 砕けた盾が右腕に装備されていて、珍しく鎧も着ている。仰向けに倒れておる男の鎧は大きなヒビがいくつも入っていていて、冒険者というよりはユウツオ兵団の人か?
「ねぇ! 大丈夫? 生きてる?」
「うっ、うぅ。な、何だ?」
ウルシュの呼びかけに目を覚ました。手足もあるし、気を失ってただけみたいだ。
「どういう状況だ? 何かあった?」
「お、お前等は?」
「トライアッド商会の奴隷使いだ。怪人討伐に参加する。どういう状況だ?」
「ぐっ、手を出すな」
「何っ?」
男は、ゆっくりと上体を起こして、ウルシュの肩を掴んだ。
「あの怪人は強い。強いが、自らは襲ってこない。こっちから攻撃すると応戦してくる」
「襲ってこない? 大平原の怪人共は出会えば襲ってくる奴等ばかりなのに? 何故?」
「何故と言われても、分からん。相手は怪人だぞ?」
相手は怪人。まさにその通り、怪人ってのは、よく分かってない。何故、生まれるのか? 何故、暴れるのか? 何故、頭部以外は再生するのか?
分かってるのは、そいつの欲求が頭部に形として現れるってぐらいだ。
そうだ。
そうなんだ! 頭部にロナウの欲求が具現化されているハズ。
あの円盤でできた球体には意味がある!
「ウルシュ! 怪人を観察する。少し近づくんだ」
「了解! いくよ~。っと危なっ」
瓦礫の小山から顔をだした瞬間に冒険者と、ぶつかりそうになった。
「お前等、ここで何してる? いったん下がれ!」
「どうしたんだ?」
「ぐるるるるぐぅぁぁああ!」
激しい咆哮が聞こえてきた。急にどうしたんだ? ロナウ怪人の気が変わったのか?
「北側から怪人がもう一体現れた! それから変人もだ!」
「怪人と変人だと?!」
「とにかく、一旦下がれ。そいつはユウツオ兵団か? 大丈夫か? 歩けるか?」
「お前、この兵団の人を頼む。ウルシュ、狙われないように、広場の外周を走れ!」
「了解ぃ~」
ウルシュと中央広場を駆ける。まず外周へと向けて一直線、その中で状況を確認する。
いた。2体目の怪人。
頭部が大きく、元が犬獣人だと分かりやすい見た目をしている。北側から来たとなると、チャイラが怪人化したのかもしれない。
いや、ロナウの状況から考えてチャイラで間違いないだろう。となるとカムロも怪人化してる可能性が高い。
そして、2体を同時に相手してる変人がいる。被り物をしていて顔は見えず、怪人相手に武器を持たないどころか、防具もなく、ほとんど裸のような格好だ。
変人というか、変態というか、バカとしか思えないが、信じられない事に2体の怪人をいなしながら、冒険者を逃している。
「コイツ等は俺が相手する! 離れろー! 倒れてる者の救助をしてくれ!」
なんて奴だ。何者なんだ?
スピードの速いロナウ怪人に対して集中し、突進を避けている。
チャイラ怪人は攻撃されてたから反応し、上手く体制を崩して地面に転がしている。しかも、転がす方向をロナウ怪人に合わせて怪人同士でぶつかるようにしてるなんて……
しかし、あの戦い方では、血を流しすぎる。いずれ動けなくなってしまうぞ。
それにしても、ロナウ怪人は何故、急に暴れ出すようになったんだ?
「主。どこ向きに走る?」
「近づけるか? 戦闘しなくてもいい!」
「任せて!」
ウルシュに西側から北側へと広場の外周を走らせる。近づいていていくと、巨頭怪人の頭にも円盤が1つだけあるのが分かる。
「あの円盤は何だろうな?」
「う~ん。タツキちゃんが作ったのに似てない?」
「タツキが作った?」
「主が沢山貰ったよね? その後に私達に1枚づつくれた遊び道具の」
フライングディスクか!
そうか、分かったぞ! タツキを気に入ってて、タツキが作った物ってものもあるが、ロナウ達はあの遊びを気に入っていた。
ロナウ怪人が、人間を襲わずに屋台を壊してるのも、たぶん、皿に興味があったからかもしれない。
アレを使えば、上手く戦えるかもしれん。
「ウルシュ、お前、フライングディスクを常に持ってたよな?」
「今も持ってるよ。腰に付けてる」
「よし」
ロナウも常に持っていた。空き時間があれば、アレで遊んでいたからな。
なら、ロナウが怪人化した場所に破れた服と一緒に残ってるかもしれん。
「ウルシュ。なっ!」
仮面変人が投げ転がした、チャイラ怪人が運悪く、こっちに転がってきた。すぐに立ち上がりウルシュに襲いかかってくる。
だが、ウルシュは冷静に魔力が高めて、そして大声で叫んだ。獣人特有の咆哮に魔力をのせて打ち出し、相手を短時間だけ麻痺させる技だ。
「ウルシュ、中心側へ走れ!」
動きを止めたチャイラ怪人だが、何故か効果が薄く、一瞬だけの停滞で、すぐに追ってきた。
巨大な口を大きく開けて、進行方向を変えた俺達に噛みつこうと背後から迫ってくる。
しかし、チャイラ怪人が俺達に追いつく事はなかった。
「させん!」
そいつは、いつの間にかチャイラ怪人の背後に立っていて、尻尾を掴んでいた。
すぐにチャイラ怪人は後方に回転しながら跳躍。おそらく仮面変人の背後に周ろうとしたのだろうが、尻尾を引っ張られ地面に叩きつけられしまってる。
さらに、脚をつかまれて、大きく回転した後に大天幕の方へと投げ飛ばされてしまった。
この変人、信じられない見た目をしているが、なかなかの実力者だ。
「君達、大丈夫か?」
「お前、うしろだっ! 避けろっ!」
巨大な球体が猛スピードで迫ってきている。チャイラ怪人に気を取られずきて、俺も仮面変人もロナウ怪人を見逃してしまったようだ。
もう、この距離では避けられない。
ウルシュの咆哮技は、同一射線上にロナウ怪人も仮面変人もいて放てない。
咄嗟にウルシュが手を伸ばしたが、距離がある。間に合わない。
だがその時、空から降ってきた何者かによって、ロナウ怪人は蹴り飛ばされた。
相当強烈な一撃だったようで、内臓と赤黒い血を撒き散らしながら、大天幕より南側へと消えていく。
右脚を血で赤く染めた人物は、仮面変人に負けないどころか、それ以上の奇怪な格好をしている。
顔は分からない。顔面は、大きな一つ目のような、ガラスっぽい丸い物がついていて、その斜め上下左右に小さいガラスがついている。以前、帝都でみた空間撮影機のレンズというのに似ている気がする。
頭髪は藍色で長髪、おでこから肩にかけて湾曲したプレートがあり、両耳にあたる所から頭部を沿うように謎の防具が伸びていてる。そして頭頂部に小さな円盤が浮いている。
首から下は人間らしく、身体のラインが分かる、皮膚に張り付いているような白い服で艶々している。所々、角ばっている部分もあり、関節部分は黒くなっている。
その不思議な服装のおかげで、大きな胸の形が綺麗に張り出していて、くびれた腰と膨らんだ尻と長髪も合間って女性にしか見えない。
最も目を引くのは、至る所に青白く発光する線があるという事。いったい、アレは何なのだろうか?
いったい何者なんだ?
この格好からすると、仮面変人の仲間なのは間違いないだろう。
「なっ。お前! 何者だぁ!」
「えっ? 仲間じゃないのか?」
「こんな顔が見えない奴など、知らん!」
いや、お前も顔が見えないからな。その赤い龍面は何なんだよ!
「主。落ち着いて、この人達は助けてくれたんだよ?」
「それは、分かってる。両名に感謝する! だけど、何者なんだ? そっちの赤い龍面の変人さんは?」
「変人では無い。ドラグマン・レッドだ!」
ドラグマン・レッドだと?!
コイツが噂の奴か。確かに、強いが変態的な格好をしていると聞いた事がある。
「それで、そっちの女性は?」
謎の変態仮面女性は、何故か片足をまげて、両手を空に突き出してポーズを決めた。
「……」
「お前は、何者なんだと聞いている!」
「本当に仲間じゃないのか?」
「知らん」
すると、今度は両脚を広げ、左手を地面に着け、右手を綺麗に伸ばしたポーズを決めた。
「……」
「……」
今度はレッドも黙っている。
「時間がないぞ? アイツ等は怪人だ。回復したら、襲ってくるぞ?」
そして、さらにポーズを変えた。今度は腕を組んで胸を強調しているが、その表情が分からない顔のおかげで、威圧感とエロさが両立されてたポーズだ。
「ワタシハ……」




