第122話 敗北宣言を致します!
『な、なんと、決闘者ヒトラ、もう出てくるかぁあ! 1番手の決闘者ヒョウカは無傷のようだが、戦いを挑んできたぞぉお! 昨日のイーゼァの戦いを見て、血が騒いでいるか、ワナン国の血は勇ましい!』
『トラヒコちゃんも、勇ましいのかしらぁん? ぜひ夜の勇ましい姿を見てみたいわぁ~』
イーゼァはヒトラ様よりも実力は上だと言った。俺は昨日、実際に戦ってみて本当に強いと感じた。1度も攻撃出来なかったんじゃないか? 防戦するだけで、精一杯になってしまった。
ヒトラ様の凄さは分かってるけど、それは学校での成績で、ノアと1度だけ打ち合いをしてるのを見ただけだ。はたして、本気の戦いでは、どれほどなのだろうか?
ヒトラ様は、左手で鞘を握り右手で刀を握りって腰を落としている、居合斬りの構えだ。
イーゼァは中央付近に来ると、左手の掌を開いて前に突き出し、右手で剣を握り顔よこまで上げて突きを出すような姿勢で止める。弓を引くようなハイファルネン流の独特な構えをした。
お互いの構えが成ったを合図に、両者が走り出す。ヒトラ様は距離を詰めるべく、低い姿勢で猛ダッシュしている。昨日の俺のようだ。だが、イーゼァは後退し、距離を詰められないようにしている。
すると、ヒトラ様の動きが少し変わった。距離を詰めつつも、時折、横跳びをして、変則的な軌道で走っていく。
「変な動きだな」
「きっと、奥義に狙われないようにしてるんだよ。イーゼァは初撃から奥義を狙うつもりだ」
俺の呟きに、シェンユが答えてくれる。
「そうなのか? 近い距離でも、あんなに強いのに?」
「たぶんだけど。ヒトラ様も初撃で奥義を狙ってるんじゃないかな? そしてイーゼァも、それを分かってるから近づかせたくないんだよ」
ヒトラ様の奥義。“朧十字”か!
「という事は、イーゼァは接近戦では不利と思ってるのか? 昨日はあんなに接近して打ち込んできた奴が?」
「まぁ~。タツキとヒトラ様だとね~。ヒトラ様が何倍も強いと判断したんじゃない?」
くっ! だが、仕方ない。
遠距離のイーゼァか? 近距離のヒトラさんか? 先に奥義を決めた方が勝ちとなる。
やっぱり、俺も必殺技が欲しいなぁ。ドラグマンパンチ! を本気で考えないと。
『両者、動きまわってる! 昨日とは、うって変わって逃げる決闘者イーゼァ! それを追いかける決闘者ヒトラ! さぁ。先に仕掛けるのは、どっちだぁ!』
先に仕掛けたのはヒトラ様だった。おそらく最初から狙ってたと思われるが、壁側に戦いの場が寄った時に、なんと、壁に向かって跳躍、そして壁を蹴って弾丸のように一直線に跳んだのだ! イーゼァから見れば、面積が少なくなっているので、当てにくい。
しかし、これでイーゼァも動く。空中で動けないと判断したのか、狙いを定めて奥義を放ったのだ! 高速で鞘が突き進む!
俺には鞘の軌道は見えなかった。ヒトラ様には見えていたのだろうか? それとも構えを見て予測したのだろうか? 空中で右腕を振り抜いていた。
甲高い衝撃音が闘技場いっぱいに鳴り響く。そして、打ち払われたイーゼァの鞘が、西門の近くの壁に衝突した。
『叩かれたぁぁああ!』
今の攻防でヒトラ様は、イーゼァとの距離を、かなり詰めている。あと、刀2つ分。あと、ひと跳びで射程に入る。
その、あと少しの、最後の距離を詰める為に、ヒトラ様が着地した。左脚を魔闘気で強化して、一気に詰めると思った。
『足が弾けた飛んだぞ! 大勢が崩れるぅぅうう! 決闘者イーゼァの2発目の奥義が炸裂したぁぁああ!』
そう! イーゼァは奥義を、時間差で2連射したのだ! しかも着地の瞬間の左脚にクリーンヒットさせ、大ダメージを与えたのだ。
ヒトラ様の左脚は完全に折れているように見える。全治2ヶ月か? 少なくとも、この決闘中は使い物にならないだろう。
「ヒトラさん負けるのか?!」
「まだよ! 女ってのは、こういう時こそ怖いのよ!」
えっ? ダリアさん、経験者か?
イーゼァは、剣を後方へと振ると、鞘がゆっくりと戻っていく。3発目の奥義を狙う気だ。しかし、鞘が戻るよりも先にヒトラ様が、たどり着いてしまった。
残りの右脚だけで、距離を詰めたのだ!
『ついに! ついに追い付かれてしまったぞ! 決闘者ヒトラは片足で戦えるのかぁ? 決闘者イーゼァは近距離でも今日の相手を圧倒できるのかぁあ?』
ヒトラ様は、鞘を握ってた左手を放し、下から切り上げる軌道で、素早く振り上げた。
その動きにイーゼァが対応する。振り下げていた剣を戻し、受け止めようとする。
観客席の誰もが思っただろう。何故、そんな動きをするのかと。もしかしたら、近くにいるゼルトワと使用人達だけは納得したかもしれない。
けど、何も持っていない、ただの素振りを何故ガードしようとしたのか。あの技を知らない者は思っただろう。
幻の一太刀を打ち払えずに、空をきったイーゼァの剣が地面を叩いた。
その瞬間、一刀目よりも早い本当の一刀目が、イーゼァの右脇下に突き刺さる。鞘が付いたまま振り抜かれたヒトラ様の刀から、黒紫色の紫電のような物が空間に走り、イーゼァが3メートルほど打ち上げられた。
かなりの衝撃のようで、落下した後もバウンドして転がり、7、8メートルも離れた所で動かなくなった。
『決まったぁ! アレは、おそらく幻魔心流の中級奥義、朧十字だぁぁああ! 決闘者イーゼァ動かない。大丈夫かぁぁ? 殺しはダメだぞぉー! 死んでしまったら、決闘者ヒトラの敗北となる!』
『そんなぁ~! 私のイーゼァちゃん! 立ってぇええ! お願い! 死なないでぇぇええ!』
一撃。 俺が勝てなかった、あのイーゼァを、たった一撃で沈めた。
ヒトラ様も、これまでの授業は、本気じゃなかったのかもしれない。
「立てぇえ! 無駄に吹き飛びおって、貴様、自ら飛んで衝撃を逃したな? 死に真似なんぞで妾を敗北させたいのか? それなら、本当に殺してやるぞ?」
マジか? あの一瞬で、そんな事をしたのか? イーゼァも凄い奴だ。
しばらくして、イーゼァが手を上げた。すると使用人が2人ほど、走ってきて肩を貸し、イーゼァは、なんとか立ち上がっている。
「い、イーゼァ様が、そのぉ~」
特設闘技場が、静まり返って、全員が言葉を聞く
「敗北宣言を致します!」
なんだって?!
『えっ? 本当? 本当か?』
「は、はい! 右腕と、右肋骨が何本か折れてるみたいです!」
『重症じゃねーか! 祭運営の医療班は至急、東の控え天幕へ行くように! では決闘者イーゼァは敗北だ』
観客席から歓声が上がる! ヒトラ様を讃える声、イーゼァに賞賛を送る声、両者の決闘を誉める声。様々な叫びが特設闘技場を満たし、盛大な拍手が送られる。
イーゼァは、使用人に支えながら、闘技場から出ていった。
途中で、ゼルトワに頭を下げていた。苦痛で息も荒そうにしているが、しっかりと膝をつけて、謝ってるように見えた。ゼルトワはイーゼァ肩に手を置いて言葉をかけている。何を言ってるかは聞こえないが、顔を見れば罵倒では無い事が分かる。
ゼルトワの意外な一面を見た気がする。
ヒトラ様は、ヒョウカさんが駆けつけて肩をかり、西門の前まで歩いて戻ると、控え天幕から持ってきたと思われる椅子に座った。
左脚は早く治療しないといけないのでは? と思ったら、老婆が出てきて、添木と包帯を撒いて、何かをしている。
ジンリー先輩みたいな、魔闘気での治療ができるのかな?
『さぁて、ついに決闘者ゼルトワが出てきたぞぉ! 西側からは現役C級冒険者、擬似宝剣使いのトラヒコだぁ。出身はワナン国と知ってたが、まさか今でも配下であったとはぁ』
ゼルトワが剣を構えて出てきたと思ったら、周りに7名の使用人が剣を持って一緒に出てきた。まさか、あの人達も戦うなんて、肉壁なのか? それとも忠誠なのか?
手も足も震えて、構えもぎここちなくて、どうみても戦えそうには見えない。
そこから先は、一方的だった。
トラヒコさんが両手に持ってる刀を振り回した。すると、刀から火が噴き出して、あっという間に、ゼルトワと使用人を囲む炎の檻が出来上がった。
観客席から驚く声や、悲鳴が上がり、炎の檻の中から、使用人達を鼓舞するゼルトワの大声が聞こえてきた。燃えさかる火をトラヒコさんは冷静に眺めている。
炎と人の熱気で、嫌な事を思い出しそうになり、俺は無意識のうちに目を閉じて耳を塞いでしまった。誰かが、優しく背中をさすってくれる。
しばらくして、静かになったので、目を開けると、火は鎮火されていてた。
使用人は全員、酸欠で意識を失っていおり、かろうじてゼルトワは立っていたが、トラヒコさんによって、簡単に倒されてしまった。
こうして、決闘はヒトラ様の勝ちで幕を下ろした。
そして俺のノアは、リー・オ=ワン家から、トクトミノオダノ家の使用人になってしまった。




