第118話 断言します! 貴方では勝てない!
まずは深呼吸をする。心と身体を落ち着かせる。それから身体の状態を確認する。
疲れはあるが、まだまだ動ける。大きな怪我は1つしかない。意識を左腕に集中する。貫通していたので、結構痛いが、我慢できなくもない。骨まで切断されてはいないみたいだ。筋繊維は綺麗に切断されてるようで、右腕で木刀を振る補助ぐらいはできるだろう。
血はたくさん流れてるが、能力で再生が始まってはいる。何故か輸血されているので失血死する事は無いだろう。
額の傷に触ってみると、浅いのにジンワリと血が滲み出てくる。やはり頭部の傷は再生されないみたいだ。気をつけないと。
木刀を離した位置に戻って拾う。まだ、構えはしない。
イーゼァを探すと、闘技場の中央付近で、鞘に収まったままの剣を握ってハイファルネン流の独特な構えをしていた。
宣言通り、俺が構えない限りは襲ってこないようだ。
少し考える。
あの鞘を飛ばす技が、ハイファルネン流の奥義のようだ。ゼルトワがガリャンに使った時も、ガリャンがベムに使った時も、一撃で相手を昏倒させていた。かなりの威力があるのだろう。アレは注意しなければならない。
ガリャンは使う時に、わざわざ距離をとっていた。鞘の助走距離が必要なのか?
ならば、接近戦が有効になるかもしれん。
よし。構えたら、ダッシュで近づく。そして張り付いて、離れないようにして、木刀を使ってなんとか隙を作って、絞め技で決める。
これしか無い!
右手で木刀を強く握り、左手も一応そえておく。両手で握るのが基本だ。基本は大切だ。
剣先を相手に向けて少し上げて、行くぞ! の合図を眼光でイーゼァに送る。
それと、同時に走り出す!
あの技を出せ無いように、少し蛇行しながら全力ダッシュで距離をつめる。つもりだったが、予想外にイーゼァも俺に向かって走ってきた。
剣を寝かせて、剣先を進行方向に向けて、突きを出す前の溜め動作のような、ハイファルネン流の構えのまま、走ってくる。
マズイぞ! もし、突きを出されたら、俺の両手持ちでは突きでも面でも、遅れをとってしまう。かといって、突きの届かない距離を取ろうとしたら、後ろに下がられて、あの技を出してくるかもしれん。
避けるか? 全力ダッシュをしてて、相手の突きを避けるのは、難しい。
どうする?
2人とも走ってるので、どんどんと距離が詰まっていく。
俺は急ブレーキを選択した。
少し賭けだが、突きを出されて、避けれなくても、剣先が少し刺さる程度の距離で。もし避けれたら、イーゼァの握り手を狙える距離。さらに後方に下がろうとしても、すぐに追いつける事ができる距離。
そこを、見計らって、足を止める。
そして、反撃を狙えるように木刀を振り上げた。
イーゼァは右手を伸ばして突きを放ってきた。賭けに勝った。小さなアドバンテージだが、対応しやすい攻撃だ。
しかも突きの速度が、予想よりも遅く、避ける事が出来た。俺の振り下ろしが、イーゼァの剣の握り手を狙う!
しかし、綺麗にかわされた。
よく見ると、突きは斜め下。俺の脚を狙っていた為、伸びきっていたが、流れるように、軌道を変えて薙ぎ払いの構えに変わる。
急いで木刀を引き上げて立てる。
2撃目の薙ぎ払いは、かなり早く、ギリギリ刀身の部分で受けれたが、少しでも遅ければ俺の握り手が潰されていた。
3撃目、4撃目、と、とめどなく流れるように繰り出される剣撃はどれも軽く、昔に剣道をかじった程度でフォルストから短期間だけ剣を習った程度の俺でも、受ける事ができている。
しかし、打ち込まれるスピードは高速で、木刀の思った所で受ける事が出来ず、そもそも受けが間に合わなくて、身体を捻ってどうにか避けたり、擦ってしまったり、だんだんと体勢を崩されて、テンポ負けしてるのが分かる。
『始まるまで、静寂があったかと思ったら、今回は最初から激しい打ち合いだぁ!』
打ち合いってねぇーよ! 俺が、どう見ても打ち負けてるだろ!
イーゼァの剣が振り上げられている。初めての上段からの攻撃だ。俺の腕は何度も何度も上下左右に誘導させられて、下がってしまっている。
頭の上で受けるつもりが、間に合わずに、上体をそらした胸の前で受けてしまった。この一撃は今までの何倍も重く、膝が曲がって、体勢が崩れそになり、後ろに下がって、なんとか堪えた。
観客席から歓声が上がる。皆さん、ゼルトワに大金を賭けているんだろうな。
さらにイーゼァの連撃が続く!
ハイファルネン流は、手数の多さと一撃の重さを両立させる。とか聞いたけど、今、納得した。
素早い連撃で相手の体勢を崩して、少しづつテンポアドバンテージを稼いで、その優位を使って、重い一撃を放ってくる。あくまで奥義は、奥の手か。
これが完成形。ガリャンとベムはハイファルネン流の使い手と呼ぶには、微妙だったのかもしれない。
接近戦も問題なく強い。
くるぞ! 俺がイーゼァの連撃についていけなくなった。空に向かって掲げられた剣が俺を狙っている!
左腕が動かない、間に合わない。片手だけでは絶対受けきれない。
他に手はなく、とりあえず右手だけで木刀を握り、最大限の力を込める。受けきれないと分かっているので、身体も左側に捻っておく。
イーゼァの一撃は俺の木刀の先の方に触れた。全身をこわばらせたが、驚くほど重さを感じなかった。代わりに信じられない事が起こった。
俺の木刀はバターのように、切断されたのだ!
受ける事さえ許されない、鋭すぎる一撃を止められず、それは振り下ろされる。初めから身体の捻っていたので、奇跡的に右腕の手首から肘までを擦めただけで済んだが、ベーコンのように、薄皮1枚分スライスされてしまった。
「うぐぅぅうううう」
俺の静かな叫びと共に、スライスされた部分から血が吹き出る。
頭ではなく身体が恐怖を感じて、無意識のうちに後方へと飛び退いてしまった
右腕の損傷を少し見てから、離れてしまったイーゼァに視線を戻すと、弓を引く構えになっていた!
マズイ!
危険! と頭の中で警鐘が鳴り響くが、身体は動かない。何も考えれなかったが、咄嗟に胸の前に左腕を突き出した。
弾丸に撃たれたのような、乾いた音が響いて、俺の左手が衝撃によって、弾き飛ばされた! 肩から腕が、ちぎれて飛んでいきそうな衝撃で、飛ばされた左手にひっぱられて、3歩ほど後退する。
「うわぁぁぁああああ!」
強烈な痛みを感じて、叫んでしまった。左腕の肘から先の感覚が、痛みしかない。確認すると全ての指がグチャグチャに曲がっている。
ガリャンの奥義はベムを気絶させたが、頭部が陥没などはしてなかった。ゼルトワがガリャンに使った時もだ。
レベルが違いすぎる! あんなもん、頭にもらったら、気絶だけじゃ済まないぞ!
近づけば、連撃と重い一撃によるコンビネーションの、猛攻が襲ってくる。
距離をとれば、目で捉えられない、当たれば一撃必殺級の奥義に狙われる。
強すぎる……
『決闘者タツキが絶叫しているぅ! 決闘者イーゼァの猛攻を凌げないと判断したのか、距離をとった瞬間に、ハイファルネン流の奥義が炸裂したぁ! 左手に当たったようだが、大丈夫だろうかぁ?』
俺の左手があった眼前の場所には、イーゼァの剣の鞘が浮いている。
ガリャンとは違って、コントロールできるみたいだ。アレが剣の元に戻っていけば、2発目の奥義が飛んでくる。
だが、俺の前にあるうちは、奥義は無い。
「断言します! 貴方では勝てない!」
俺が動けないでいると、イーゼァが話しかけてきた。
「その腕は、2ヶ月は使えないでしょう。これから四肢を潰していきます。早めに負けを認めて下さい。その方が、今後の復帰までの時間が短くて済む」
「心配、感謝するぜ! だが、俺は意識ある限りは、ノアの為に戦う!」
そうだ。俺はヒーローだ。ノアを守る! 仲間を守るのはヒーローの基礎だ!
「素晴らしい。並の人間なら、私の奥義を受けると敗北宣言するものだ」
イーゼァがハイファルネン流の構えをとる。また、接近してきてからの突きか
鞘を確認する。眼前でクルクルと回って浮いている。なんか細い鞘は、ちょっと可愛らしい。あの面積で、剣を覆う事ができるのか?
んっ?! 出来ないだろ!
どう見ても、鞘の半分のサイズしかない! アレじゃあ、両刃剣の片面しか収まらないぞ!
「続けます!」
「まさかっ」
イーゼァが1歩も動かず、その場で突きを放った。その瞬間に数分前に聞いた、乾いた音が鳴り響く!
そして、俺の左脚が弾け飛んだ!
左足から全身へと痛みが伝わる。不安と恐怖と痛みを、身体から吐き出そうとするように、勝手に口から絶叫が放たれる。
左手と同じように、ちぎれそうな程の衝撃で、脚が吹き飛ばされて、自重を支えられなくなり、俺はその場に崩れる。
勝てない!
『なんとぉ! ここで2発目の奥義が決まったぁぁああ! 決闘者タツキが崩れる! ついに決着となるのかぁ?!』
まだ、諦めたくない。ノアを奪われるわけにはいかない。守りたい!
木刀を手放す。
歯を食いしばって、右脚だけで立ち上がり、眼前に浮かぶ鞘に右手を伸ばす。
鞘を確保できれば。
とにかく、あの技を出させないように、しないといけない!
だが、鞘は突然動き出し、薙ぎ払うように俺の右側へと鋭く移動した。
イーゼァを見ると、剣を薙ぎ払うポーズを取っている。 どうやら鞘は、握ってる剣と同じ動きができるみたいだ!
今度は剣を振り上げて、イーゼァが距離を詰めてきた。少し遅れて、鞘も同じ動きをする。左手を破壊した鞘は、頭上まで浮かび、左脚を破壊した鞘は、先が顎下を狙ってくる。
全身を使って覆いかぶさり、なんとか顎下で浮いてる鞘を捕まえた。
亀のようになって、暴れようとする鞘を押さえつける。その間、残りの鞘が何度も背中を叩きつけてくる。
箒で叩かれているようで、痛いけど、それほど威力は無い。たぶん、剣から離れた鞘は威力を出せないのかもしれん。
『決闘者タツキ、打つ手なしか? 近距離でも遠距離でも、強い! 決闘者イーゼァが強すぎるぅ! 今入った情報によると、ハイファルネン流の上級の使い手だそうだ! これは、どうしようもない。ただ打たれるしかないのかぁ?』
みっともなくて、惨めだけど、まずは1つづつ情報を得て、対処していく。でないと勝つ方法が、見つからない。
だが、そんな時間を与えてくれるハズもなく。左脇腹から激痛がはしった! おそらく肋骨が折れたと思う。
顔を上げると、眼前にイーゼァが立っていた。その剣は片面は刃が出ているが、片面は鞘が覆っている。
剣に収まると、高威力になるのか。
こんな、弱ってる相手に、連撃のジャブは必要ないと判断したのだろう。イーゼァは、ゆっくりと剣を振り上げる。
それと同時に俺が抑えてる鞘が動かなくなった。無駄な魔力を消費しない為か? コントロールを手放したようだ。
判断が早い。剣技だけでなく、全てにおいて、俺の数段上の実力だ。
だが! ただ黙って打ち込まれる、俺ではない。振り下ろしに合わせて、もう一度立ち上がり、右手で受ける。
俺の右手に木刀は無いが、代わりにイーゼァの鞘を握ってある。
なんとか、重い一撃を受け止めた。右脚と右腕に、全ての負担をかけて、生まれたての子鹿のように震える左脚を酷使して、反撃なんて考えてない。とりあえず、受け止めるだけに全力を尽くした。
これで、少しでも驚いてくれたら良かったが、イーゼァは眉1つ動かさない。
むしろ、トドメを刺すべく、再度、剣を振り上げた。
何度でも受けるつもりだったが、俺の右手は動かない。いや、動かせない! なぜなら、イーゼァが振り上げたのは剣のみで、鞘がそのままグイグイと押し込んでくるのだ。魔闘気の技の陽は、こんな事もできるのか!
どうする? どう対処する?
俺が対処方法を思いつく前に、無防備な右脚にトドメの一撃が放たれた!
これまでと違って、重さよりも鋭さがある感じで、脹脛にダメージが集中して、そこに新しく関節ができたように曲がる。
幸いにも、剣の腹で打たれたらしく、俺の右脚は切断されず、骨折で済んだ。
しかし、両脚のどちらでも支える事が出来なくなり、さらに鞘に押し込まれ、地面に大の字で、伏せる事になってしまった。
『た、倒れたぁー! ついに、決闘者タツキが倒れてしまったぁぁああ! 右脚も負傷したようだ。これまで、2人相手に華麗な身のこなしで避け続け、猛攻を防ぎ、奥義を受けても立ち上がってきた決闘者タツキ。素晴らしい戦いだ! しかしながら、相手が強すぎた。彼の活躍を、もう少し見ていたいが、残念ながら、ここで終わってしまいそうだ!』
動かせるのが、スライス傷がついている右腕しかない。




