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魔女が真龍に仕掛けた我儘戦争(仮です。迷走中です。少し変えるかもです)  作者: 漆本李彩(しつもと りあ)
第二章 冒険者学校は才女だらけ?!
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第109話 10日前のお前よりは元気だよ

 中央広場の西通りから3本目の道を、左に曲がって、しばらく進むと見えてる、5階建の“テンジョウテンゲ亭”

 言葉の意味は分かってないらしいが、かつて大魔女サヤ様が口にした名言を使うのが、宿屋の流行りなんだとか。


 ひとフロアに4つの部屋があり、1階だけは角部屋しかない。中央部分は、受付と共用のトイレと風呂場と階段がある。


 その1階、北側角部屋と2階、北側角部屋の2つを8年も借りてるのがフォルストだ。家主の許可を得て部屋の一部をぶち抜いて階段を増設し、中央の共用階段を使わなくても、行き来できるらしい。


 どっちにいるか、分からないけど、とりあえず1階のドアを叩くと、しばらくして返事があった。


 ドアが開くと、無精髭を生やして疲れていそうなフォルストが出てきた。


「誰だ? って、タツキか。おっ? ノアちゃんも一緒かよ! ヤベェな。今は適当な部屋着なんだよ」

「こんな時間に申し訳ありません」

「フォルスト。元気なのか?」


 想像してたよりも、元気そうだ。


「10日前のお前よりは元気だよ」

「あの時は、すまなかった」

「まぁ、入れよ。なんもねーけど、あと散らかってるけどな」


 中に入ると宣言通りに散らかっていた。だが散らかっているというより、まとまって木箱に入ってる荷物がたくさんあって、引っ越し前みたいだ。


「下は作業場にしてるんだ。装備を整えたり、整備したり、新しい物を試したりな。2階に上るぞ。まぁ2階も散らかってるけどな」


 噂の増設階段を上ると、テーブルと椅子が6つあって、そこも木箱がたくさんあった。


もしかして……


「フォルスト。引っ越すのか?」

「んあ? 木箱が多いから分かるか。そうだよ。近いうちに別の場所を拠点に変える。ここは知り合いが、運良くそのまま引き継いでくれるから、増設した階段を戻さなくて済んで良かったぜ」


 そうだな。そうだよな。ユウツオには、パメラ氏と過ごした思い出がたくさんあるからな。ここで冒険者をやってくと辛いんだろうな。

 帝都には妹もいるし、故郷に帰るのか。


「出発は何時だ? 俺も手伝うよ」

「大丈夫だ。力のある牛獣を借りるつもりだからよ。荷車にさえ載せれば問題ない」

「牛獣じゃ、速度が足りなくないか?」

「他の人の迷惑にならないように、ゆっくり進むから問題ねぇよ」

「他の人? 魔獣に遭遇したら、どうするだ?」

「はぁ? 魔獣? なんで、ユウツオの街中で魔獣に出くわすんだよ?」

「ユウツオ? 大平原横断して、帝都に帰るんじゃないのか?」

「なんで?」

「ユウツオにはパメラさんとの思い出が多いから、その、居づらいんじゃ?」

「……そういう事か」


 フォルストはドカっと、イスに座った。


「パメラは、残念だったな。まぁ、冒険者やってりゃ、よくある事だ。もう慣れたよ」

「慣れたって…… パメラさんとは、その、仲良かったじゃないか! パメラさんもお前の事を特別に思ってたんだぞ!」

「怒鳴るなよ! じゃあ、なんだ? お前みたいに落ち込んで、全て投げやりになって、落ち込んで泣いてろ。って言いたいのか?」

「そうじゃないけど。薄情過ぎないか!」

「薄情ねぇ~。お前はどうなんだよ? パメラとノアちゃんだけか? 学校の訓練生も死んでるぞ? 俺達がユウツオに居なかった間に何人の冒険者が死んだか知ってるか?」

「うっ」


 知らない。毎日、どのぐらいの人が死んでるか、なんて考えてたら狂いそうなる。


 俺には世界中の人を全員、救う力は無い。だから俺は、せめて自分の周りの人を、手の届く範囲なら全力で守りたいと思う。

 命に優劣をつけちゃいけないだろう。でも、全ては無理なんだ。だったら、好きな人を優先したいじゃないか。


「パメラさんは、お前の事を好きだったんだぞ」

「知ってるさ」

「知ってる? 男としてだぞ?」

「分かってる。俺はお前よりもアイツと長い間、冒険者仲間やってんだよ!」

「だったら、なんで?」

「最初に言ったろ。慣れたんだよ。それが俺にとって特別な女だったとしてもな」

「パメラ様は特別だったんですね」

「しまった……」

「特別だったなら! もう少し――」

「マスターは黙って!」

「なっ、なんだと?」

「今のマスターは、考えのベクトルが、固まり過ぎています! 私ですら空気が読めますよ? 何しに来たんですか? 目的を履き違えてはいけません! 少し黙ってて下さい!」


 俺が空気を読めてない? ノアよりも?


「フォルスト様。まずは謝罪を。氷雪地帯では私の身勝手な行動でパーティに迷惑をかけてしまい、その後もマスターの事を見守って頂き、大変申し訳ありません。それから本来、謝罪に伺ったのに、空気の読めないマスターですみません。重ねてお詫び申し上げます」


 ノアは深々と頭を下げた。


 そうだ。俺はノアの事と、落ち込んでた時の俺自身の態度について詫びに来たんだった。それで、フォルストが落ち込んでたら、今度は俺が元気つけてやろうって、思ってたのに……

 フォルストの奴があまりにも、薄情な態度だったから、つい……


「すまんフォルスト。俺も謝りに来たんだった。ノアが死んだと思った時の俺は酷い奴だった。見捨てないでくれて、ありがとう。そして、すまなかった」

「……」


 俺も頭を下げた。けど、フォルストは何も言わない。


 しばらく沈黙が流れて、何か言うべきかと思ったが、フォルストが口を開いた。


「あの時の事は、何とも思ってない。ノアちゃんの行動は2度としないで欲しいけどな。タツキに金を渡してたし、実際に戻ってきたし、後先まで考えてはいたんだろ?」

「はい。皆様には迷惑をかけましたが、私にとっては、最善の選択を致しました」


 ノアとジークが敵対してる事を、皆は知らない。だが、知ってる俺からしたら、あの選択は間違ってなかったかもしれん。


「タツキも気にするな。冒険者やってれば仲間が死ぬ事はある。誰か死んだ時に悲しむのは普通の事だ。言ったろ? 俺にも経験がある。家族3人含めたパーティメンバー全員が死んだんだ。俺は1年ぐらい腐ってたよ」


 そうだよ。フォルストが薄情な奴なんか、あるわけない。誰よりも大切な人の死に理解のある奴のハズだ!


「全部、気にして無い。怒ってもない。だから代わりにと言っては、アレだが、1つ俺の話を聞いていけ」

「分かった」

「2人とも、適当な椅子に座れよ」


 俺は、フォルストの隣の椅子に座った。


「私は、このままで」

「そうか、別に構わない。別に大した事を言うつもりじゃない。そうだなぁ、俺はお前が羨ましいよ」

「俺が? 羨ましい?」

「1人の人を、こんなにも強く想えるのがな。俺はパメラをイイ女とは思ってたが、だからこそ側にいて欲しいとは、思わなかった。これでも10歳の頃から18年も冒険者をやってきたんだ。良い感じになった女の1人や2人はいたよ。でも死んじまった」

「そんな……」

「女だけじゃない。友人も先輩も後輩もな。これまでに多くの奴が死んでいったよ。けどな、その度に悲嘆してられないんだ。それは許され無い、俺はな」

「なんで? 少しぐらい、許されるだろ? 想い人の死に嘆く事ぐらい」

「決めたからだよ。冒険者として生きていくってな! 生きてく為に冒険者になった。俺の為に弟と妹は冒険者になった。そして死んだ。だから俺は冒険者を続けないといけないんだ。そうするなら、死は当たり前だ。俺は“死”を強く深く受けとめてはいけねぇんだよ。もし、そんな事をしたら、俺は冒険者を続けられなくなってしまう。分かるだろ?」


 “死”を深く考えては、動けなくなるか…… そして、動けなくなったら冒険者は続けられない。それは、これまでにフォルストを支えて死んでいった家族や仲間を裏切る行為って事か……


「だからな、お前が冒険者を続けるなら、いつか俺みたいになるぞ? センギョクさんやハオランさんは独り身だ。他にも有名な冒険者は孤独な奴が多い。今、学校で訓練している貴族じゃない奴らは、すでに覚悟して奴も多いだろうよ」

「シェンユもか?」

「あいつは意外に大人な所があるぜ?」


 俺が“死”に希薄じゃないのは、元々は別の世界から来たから? この世界の人々は普段から、“死”への覚悟しながら生きてるって事か?


「まぁ、それだけだ。覚悟するか、冒険者を諦めるか、考えておいた方が良い。お前は他の奴らと違って30歳だろ? 引退までの時間も短い。今からでも考えてても遅く無い」

「分かりました。フォルスト様、ありがとうございます」


 フォルストは本当に、いい奴だ。俺に対して文句を言いたいだろうに。なのに、心配してアドバイスをしてくれるなんて。


「フォルスト様、私の提案を聞いて頂けませんか?」

「おっ? なんだ?」

「私は、マスターが1番です。マスターともフォルスト様とも違った死への価値観を持っています。マスターさえ生きてくれたら、他の誰が死のうと、どうでもいいです」

「お、おいノア!」

「マスター、少し黙って。知っての通りマスターも変わり者です。他人の考えや価値観を聞いて、偏見を持ったりはしません」

「それで?」

「今晩だけ、胸の内を曝け出してみませんか? お詫びの品として持ってきた酒がたくさんあります。こんな美人で強くてイイ女が酌をしてくれるなんて、なかなか無いですよ?」


 ノアは持っていた木網カゴから、冒険者育成学校にも渡した酒瓶を4本出して、テーブルの空いてる所に置いた。


「面白いな! けど、言ったじゃねーか。別に慣れてるって。悲嘆なんて出来ない」

「嘘ですね!」

「の、ノアさん?」

「マスター! さぁ! 今こそ畳み掛ける所ですよ! 何を呆けているのですか? 18年も人の死を嘆かないなんて、あり得ないですよ! フォルスト様は、ずーっと1人で泣いてたに違いありません。誰もが見習う素晴らしい冒険者として、かつてのA級冒険者達のように、人前では絶対に悲しんだりしないと、決めてるのです。本当は誰かと酒を飲みながら故人について想い吐露したいハズですよ?」


 そ、そうか! フォルストが薄情な奴なワケないよな! そうだよ! さすがノアだ!


「よーし! 聞いてやるぜフォルスト! イイ酒もあるし、イイ女もいるぞ? お触りは禁止だけどな!」

「はぁ。タツキらしいな。イイぜ。ノってやるよ。俺を曝け出させれるか? それは、お前達次第だからな?」


 そして、追悼飲み会が始まった。


 最初は普通だったフォルストも、酒の量が多くなっていき結局は胸の内を吐き出した。パメラ氏の事をいつも気にかけてたり、危なそうな依頼を受けてたら、声をかけてあげたり。実はトラヒコさんもパメラ氏を狙ってて、少し仲が悪い。なんて話も聞いた。


 それで次の日の昼過ぎまで飲んでしまった。

 二日酔いで動けなくなって、そのまま夜まで居座り、さらに1泊させてもらって、その代わりに引っ越しの手伝いをさせられてしまった。

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