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第六十九話 ジュエル・アルベドソン

 一行はジュエルに連れ出されて、反乱軍の拠点へと訪れていた。その拠点は、何と元教国軍の砦である。

 石造りで頑丈そうな要塞に、高く物見櫓付きの塀に囲まれた、中背ヨーロッパ風の砦。唯一違うのは、物見櫓や砦の庭などの各地に、重機関銃を設置した銃座が置かれていることだ。


「つい先日、反乱軍が奪い取ったロベーン第二砦だ」

「蜂起したのは、ほんの二日前だろ? もうここまでいったのか?」

「駐留していたのは寄せ集めの兵ばかりだったので、あっさりと奪えたよ。この時だけ私はあの学校を離れていたが……すれ違いにならなくて良かったな」


 砦の中で一行を物珍しげに見る、反乱軍の兵士達。この手の蜂起だと農兵など想像するが、意外なことにかなり強そうな戦士や魔道士が沢山いた。

 中には、なんとついさっき出たロベーン魔法学校の生徒達までいた。


「なあ、なんであいつらまで反乱軍にいるんだ?」

「勿論皆、教国を打ち倒すのに集まってくれたのさ。魔法学校の生徒は一般人より国からの待遇がいいが、卒業すればすぐに軍役か工場にとられる。それを避けるには、教国を倒すしかないからな」


 春明は以前ルーリが、良い成績を取ると金や食糧を多く支給されるという話をしていたのを思い出す。


「もしかしてルーリも反乱軍だったのか?」

「ううん。今日初めて入ったのよ。まあ、元から参加する気だったけど」


 一行は砦の中に入り、この基地のリーダーの元へと案内された。砦の守備隊長が使っていたと思われる部屋の中、そこのテーブルと椅子に座るのは、以外と若い男だった。ローブを着ており、魔道士のようだ。


「ジュエルさん! お帰りなさいませ!」

「おう、留守中の指揮ご苦労だったな!」


 そう言ってそのリーダーと思われる男は、ジュエルと春明に再度一礼した後、部屋の隅へと移動する。そして代わりにジュエルがそこの椅子に座った。


「何だ、お前がここの大将だったのか」

「ああ、ここで一番腕が立つのは私だしな。もう一人、君らがさっき会ったロンラー校長も、もうすぐこっちに来るぞ。さてゴードン! 敵の動きはどうなってる?」


 ジュエルの言葉に、隅に寄っていたリーダー代理の男が、皆にそちらの報告をする。


「はい! 敵の部隊は約五千。 現在フレア地区のコーダ村近辺の砦で、現在駐留中です!」

「駐留中? てっきりもう近くまで進軍している者かと思ったが……」

「春明様の討伐隊を派遣した直後に、我らの蜂起が始まったので、向こうも動揺して慎重になっているのでは?」

「ていうかさ……何で俺らが来たと同時に、お前ら蜂起なんかしたんだ? 俺らを殺しに来た部隊と、お前らとは何の関係も無いだろ?」


 春明がふと疑問に思ったことを口にする。自分はこの国には、つい最近来たばかりだ。何故こちらの状況に合わせて、反乱軍が動くのか判らない。


「お前達の事情なんて関係ない。無限魔のせいで国が大きな損害を被ってからというものの、教国は何かと理由をつけて、民衆から強制徴収を行うようになったんだ。教国民は国を尽くすことに一番の幸福を感じているから、何を奪っても皆喜んでくれるとか、無茶苦茶な事を言い出してな」

「無限魔が出る前からも、結構酷い事言ってましたよ。他国から物資を略奪すれば、ヤキソバの神罰が下るから違法だ。でも国内なら、どれだけとっても神罰は下らないから、これは黒の女神様も許可していることだ……なんてね」

「まあ、そういうわけで、お前達の手配と討伐隊が派遣されたことは、我々にとっても蜂起の十分なきっかけになった。恐らく奴ら、これにかこつけて、また略奪を行う気だろう……」

「ああ……そうか」


 春明は最初の村で行われた略奪を見て、一応は納得した。しかし国外に攻め込んだり略奪したりするのは神罰が来るから駄目だが、国内なら神罰が下らないから許されるというのは、何とも馬鹿げた理屈である。


 以前からリーム教国は、技術格差の妬みから、何かと理由をつけて赤森王国を敵視し、奴らは世界の敵だ滅ぼせ、という物騒な事を言い続けた。だがこちら側から、赤森に攻め入ったことは一度もない。

 これは赤森との軍事力との差の他に、ヤキソバという神獣の裁きを恐れていたこともある。


 この世界では黒の女神ワタナベ・コンの命で、侵略戦争及び戦争を挑発するような行為は、絶対的に禁止されているのだ。

 それを破った場合、天者を凌ぐ力を持つヤキソバが降臨し、違反した国を攻撃する。

 その力はおぞましく、それによって滅亡した国は数知れない。ちなみに各国が、リームの領海侵犯を一方的に取り締まらないのも、それが原因である。

 いくら領海侵犯したとは言え、他国の船を攻撃すれば、神法違反と見なされてしまわないかと皆不安なのだ。


「でも敵が動かないなら、そう急ぐ必要はないわね。じゃあそちらと情報交換しようかしら?」


 そのハンゲツの言葉に、ジュエルが頷く。


「じゃあ、一つ目。何であんたら反乱なんか起こしたの? 何かよく話も聞かない内に、いつのまにかあんたらと協力する羽目になってるけど。私がゲールで憲兵をしてたときには、そんな話聞かなかったけど」

「別に話す必要もないと思うが? この国の自滅の被害が、国民全員に及ぶ前に、早いうちにこの国を潰す必要があるからだ」

「自滅?」

「ああ……この国が滅びかかってるのは、誰の目にも明らかだからな。無限魔の出現の時も、多くの国と同様に、大きな損失を受けたが。やつらこれを口実に、赤森へ当たりを強めやがった。今までは赤森が国交で何かする度、色々言い掛かりつけてくるぐらいだったが、今度は他国にまでやっかみをつけてきやがった」

「それは良く聞いてるわ。交易妨害とか散々した上に、各国を侮辱する言葉を散々言ってきたわね」

「ああ。どうもこうやって派手に事を起こせば、無限魔への人々の怒りを、赤森に向けさせられると思ったらしい。実際は逆効果で、世界中から反発を受けたがな。だが一度始めてしまったことは引っ込みがつかず、交易妨害を続けたら、世界中から手を切られた。つい最近、最後の交易国だったゲールからも、王族の失態で交易を断たれたしな……」


 他国が次々とリームと縁を切る中、ゲールはかなり長いこと交易関係を保っていた。さすがに不味い状況だと気づいたリームも、ゲールに対してはあまり大きな態度を示さなかった。

 だがリームから流れてくる大量の移民が、ゲールから大きな反発を買ってしまった。そして止めは、ゲール国内で起こした、王族の殺人未遂罪である。


「そのせいでリームは、他国からの物資を得られなくなってしまった。機械を禁じているせいで、この国は国土と人口の大きさの割に、産業力は他国より弱い。物資を他国からの輸入に多く頼って、無限魔出現以前からこの国の経済は切迫していたが……とうとう最後の絆も断たれた。そうしたら奴ら、以前から不評だった、民衆からの徴収を大規模化させてきた。これでは反乱など起こされるのは当たり前だろう……」

「ふ~~ん。つか前から気になってたけどさ、なんでリームはそこまでして、赤森に楯突くんだ?」


 この話を聞けば、誰もが思う疑問。自国に大きな損失を与えてまで、赤森を敵視し続けるリームの動向は異常としか言いようがない。

 元いた世界でも、春明の祖国は、かつての戦争での問題で、一部の国とギクシャクした関係になっている。だが春明が聞いた限りでは、リームと赤森に、そこまで関係を悪化させるような因縁などない。


「ただの妬みだよ……。かつてはリーム教国が、この世界で最大の国家だった。だがキン大陸の国々が一つに纏まって、リームを上回る大国になった。その上、異常な速さで機械技術が発展して、文明力そのものも、世界最大になったからな。その上、その国を発展させたのは天者という緑人達。この国が崇拝している黒の女神も緑人だ。そのことで赤森は、リーム教国よりも、女神に近い位置にある国だという評価が、かえって妬みを深めたようだ」

「それだけでそこまでするのか?」

「……したんだよ馬鹿馬鹿しいことに。勢いのままに機械技術は邪道だと言って、機械禁止令を出してしまった。それが大きな過ちの始まりだ。禁止令を出した後も、赤森はどんどん機械技術で発展していった。そして赤森と交易をしている国々も、それによって急速に発展していく。その結果どうなったかというと、豊かになっていく国々の中、リームだけが取り残されたのさ。そのことでリームは逆恨みを起こして、ますます赤森に敵意を剥き出しにしていった訳だが……」


 世界的宗教国家として見栄を張り続けた結果、世界最大の国からどんどん転落していった国。それがこのリーム教国という哀れな国であった。


「少し世界史の話しが長くなったな……。まあその話しはさておき、まず伝えなければいけないことがある」


 ジュエルの表情が、今までになく険しい顔になる。ちょっと雰囲気が変わったことに、少し話しに飽きてきた一行も、再び彼女に目を向けた。


「これはある意味、この世界の根幹にも関わるかも知れない話しだ。……実はな、今世界中で起きている無限魔出現。その全ての原因を作ったのは、このリーム教国だ!」

「「「へえ~~」」」


 極めて深刻に、今まで溜めていたものを吐き出すように口にするジュエル。その告げられた衝撃的な事実。だが何故か、話を聞いていた一行は、何とも気の抜けた反応であった。


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