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第六十八話 教皇

 リーム教国聖都、バッカ。日本人が聞けば滑稽な印象を受ける名前のその都市は、人口二百万人を越える、このドウ大陸最大の都市である。

 中枢には白くて大きな建物が建ち並ぶ美しい町並みだ。だが都市の外れの辺りには、ゲールの移民街と似た、無限魔の被災者の貧しい街が広大に広がっている。豊かな者と、貧しい者の格差が、実に大きく表された都市である。


 その都市の最中央に、教国の聖城。教会を際限なく巨大化させて建物の中、そこに今日ある人物が帰還した。


「第二皇子、パトリック・リーム殿下がお戻りになられました!」


 大勢の兵士達が通路を作り、名を呼ばれた人物が城の中を通る。数々の装飾品や、美しいステンドガラスが張られた聖城の中を、パトリック・リームが進む。

 城内のエレベーター(機械禁止の国に何故?という疑問はさておき)で上階に上がり、彼の父=教皇の王座に辿り着く。


 この国の教皇という地位は、春明のいた世界の教皇と違って、世襲制である。そのためその子の地位は、皇子ということになる。

 かつてのリーム王国の国王が、自身は王であると同時に、女神の意思を代弁する聖者の長であると主張したため、このような形式になった。まあ要するにただの権威付けだ。


「ただいま戻りました! 父上!」


 広い王室の中、大勢の騎士が取り囲む中敬礼する彼の先には、豪華な玉座に居座る、白い法衣と黒い王冠を被った壮年の男性。この国の教皇がいた。


「あれだけの恥を晒してきて、よく戻ってきたな、我が子よ……」


 かけられた短い言葉と、教皇の表情には、我が子への慈しみなど微塵も感じられない。実に見下した目線で、教皇は目の前で跪いているパトリックを見下ろしていた。


「もっ、申し訳ありません父上! あの国の蛮族共は、我が国の偉大さも、武人としての嗜みも理解できない愚か者でして……」

「理由も申さず剣を振るえば、捕らえられるのは当たり前だがな……。貴様の愚かな行為は、テレビという蛮族の道具で、世界中に映像が伝わってしまったのだぞ。最後の我が国の交易国だったゲールも、貴様の行いのせいで繋がりを打ち切ってしまった! その上、お前のためにあの春明という小僧を手配したら、今我が国の各地で暴動が起こっておる。これをどう責任とる?」

「えっ!? いや……暴動の方は、私の責任では……」

「口答えするな! どのみちお前のしたことが、この国に多大な損失を与えたのだ!」


 その後彼に続けて出された言葉は、とても聖職者とは思えない、無数の罵詈雑言。その言葉を、パトリックは顔を下げながら、口を噛みしめて耐える。


「おお、そうだ……例の春明という蛮族だが、その居場所が分かったようだぞ」

「そうなのですか!? ではすぐに討伐を……」

「現れたのはロベーン地方の、下民共の集落だ。無限魔を何百と狩り、転移術でその肉を下民共に振る舞っておる。それで大勢の下民共が、その村に集まっておる」

「無限魔を!? まさか……それはこの国の無限魔ですか!?」


 この国に出現する無限魔は、テツ大陸やギン大諸島に出てくる者とは、比べものにならなぐらい強い。

 今まで何度か討伐が試みられたが、せいぜい何百という兵力を損失させて、ようやく一匹殺せる程度の成果しか上げられていない。

 それを大量に狩る力が、あの謎の少年にあるというのだ。


「ああ……中にはお前が前に、無様に負けて逃げ帰ってきた地竜もおるぞ」

「そんな……前に剣を交えたときには、そんな力は……まさか鉄鬼を得たのですか!?」

「さあな。だがまあいい。お前の因縁の相手だ。お前自ら決着をつけたらどうだ? 無限魔を殺せるぐらいの力を持つ者に勝てるものならな」

「それは……」


 嘲笑うように語る教皇に、パトリックは青ざめていた。どう口にすべきか、彼は震えながら何も口に出せない。


「何だ歯切れが悪いではないか? いつものように調子よく、私に任せください、と言わんのか? まあいい。それならば迷いを吹っ切ってやろう。パトリック! 今から貴様に命ずる! 直ちに兵を率い、蛮族春明を討伐しろ! それが片付くまで、この聖都への帰還はゆるさん!」


 その命令に、パトリックは絶望的な状況に追い詰められ、狼狽え逃げるようにして、王室を出て行く。パトリックがいなくなった後、教皇は近くに側近に声をかける。


「あいつが討たれたら、すぐに春明への手配を解くぞ。全てはパトリックが独断で行ったことだ。そして奴

に、民衆に食糧を送ったことに、褒美を与えてやる。そうすれば、奴がこの国に楯突く理由はあるまい」


 ゲームでは最後まで主人公を敵視し、己が滅びるまで戦いを続けていた教国。

 だが現実のこの世界では、かなり早い段階で、春明達に敗北を受け入れていた。






 さて様々な寄り道をしてから、ようやく彼らはロベーン魔法学校に辿り着いた。

 学校はキリスト教の教会を多くしたような建物で、聖都を真似て白い石造りの建物になっている。その学校の校門の前まで一行がやってきた。勿論例の隠身の札で姿を隠してである。


「この後どうすんの?」

「校長室までいくさ。そいつはジュエルのこと判ってるんだろ?」


 堂々と校内に不法侵入する一行。もうとっくに学校が始まっている時間である。

 途中でルーリと同じ制服を着た生徒と、何人かすれ違ったが、隠身の札のおかげで誰も一行のことなど気にかけない。やがて何の障害もなく、一行は校長室の前までやってきた。


「もしも~~し、校長いるか?」


 そう言って躊躇なくルガルガがドアを開ける。着いた途端即効での行動である。


「いやせめてノックぐらいしろよ……おっ!」


 想像と違って、以外と飾り気のない質素な校長室。そこには二人の人間がいた。一人は校長席と思われる所で、書類仕事をしていたらしい、老年男性。

 もう一人はその近くのソファで、カップラーメン(この世界にインスタント食品?)をすすっている一人の女性であった。

 その女性は、見た目は二十代後半ぐらい。赤い長髪を、後ろで結っている。黒っぽいジーンズに、緑色のトレーナーを着ている。背は女性としては高く、ホタイン族のルガルガと同じぐらいはありそうだ。

 二人は突然の来訪者に目を点にさせていた。まもなく状況を理解したようで、慌て始める。


「あわわわっ! 君たちいったいどこから!?」

「どこって校門から真っ直ぐ入ってきたけど?」

「お前たち! 早く中に!」


 鬼気迫るように、女性が一行は手早く中に招き入れる。そして超人的な速さの手の動きで、校長室のドアに鍵をかけた。


「お前たち……ここに来る途中誰かに見つかったか?」

「いんや。姿を隠す術を使ったからな……」

「そっ、そうか……」


 誰も見つかっていないという話しに、女性はホッと胸を撫で下ろした。この時点でこの女性が何者なのか、おおよそ見当がついた。


「お前が噂のジュエルか? そっちの要望通りに来てやったけど……」

「ああ……私は反乱軍の戦士。ジュエル・アルベドソンだ」

「私も同士であり、このロベーン魔法学校校長のヘンター・ロンラーと言います。以後お見知りおきを」


 動揺で息を荒くしながらも、恭しく自己紹介を述べる二人。どうやら事前に春明がここに来ることは分かっていたが、まさかこんな唐突に出てくるとは思わなかったのだろう。

 それに習って春明達も、それぞれ自己紹介をする。


「ここに来てくださったと言うことは、我々に協力してくださると言うことでしょうか?」

「まあ……そうなるわな」


 そもそもそうしないと、ゲームのシナリオ通りにはならない。最もそのシナリオとも、反乱軍との合流までの経緯がかなり変化しているが。


「では早速我々の拠点に行きましょう! 今はまだ生徒がいるので、しばし待ってから……そういえばさっき姿を隠す術と言っていましたが、それは今も使えるので?」

「まあ、いつでも使えるけど。でも何か急だな。協力とか決める前に話すこととかってないわけ?」


 ゲームでは反乱軍と合流した後、すぐに馴れ合うわけではなく、しばしの間交流してから、反乱軍と共闘した。だが今のジュエルは、どうも事を急かしているように見える。


「確かに……本来ならもう少し情報交換するべきなのだろうが……今はもう、そんな時間すら惜しいんだ!」

「何でだよ?」

「今まさに、パトリック・リームが率いる軍勢が、ここに迫っている! 春明殿が行った、民衆への食糧供給で、奴らに居場所が知れたようだ!」

「ああ……」


 とても心当たりがある。いや、本当ならそういうことが起こることは予想できたはずなのに、あえて誰も深く考えていなかったことが、今起きてしまったようであった。

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