第六十五話 リームの教義
そうこう言っているうちに、ナルカと浩一が、敵兵を次々と打ち倒す。
ここが村の中であるために、ナルカは魔法を撃てない。そのため地味に魔導撃で殴り続ける。気功士より身体能力が劣る魔道士のナルカも、レベル70ともなるとその動きは素早い。
重い鎧を身に纏った騎士よりも、遥かに俊敏に動き、斬りかかってくる騎士達の攻撃を躱し、彼らの足や股間(?)を打ち据えていく。
一方の浩一は、あの艦上戦の時のように、敵の足を銃で撃ち続ける。流れ弾で、村人に被害が出ないか不安である。
敵も剣を振って突撃したり、魔法を撃ったりするが、それらを簡単に躱していく。浩一もナルカと同レベルで、しかも元よりスピードアタッカーだ。その動きを騎士達は、全く捉えることが出来ない。
ただ避けた魔法攻撃が、村の民家の近くで爆発したときは、かなり肝を冷やしたが……
(うげっ!? これじゃ流れ魔法で村が壊れる! くそっ、魔道士から先に撃つか!)
ゲームでは市街で戦闘になっても、市民に被害が出るような展開は起きなかったが、やはりこの世界は色々違う。
浩一は魔道士を優先的に狙い、敵が魔法を撃つ前に、彼らの手足を撃ち抜いていった。
「おらおらっ! どうした騎士ども! てっ、逃げんなこら!」
戦闘にはいつのまにかルガルガも加わっている。鉞を振るい、騎士達の手足を、盛大な一撃で斬り飛ばしたり、刃の腹でぶん殴って吹き飛ばす。
その勢いに怯えて逃げる騎士がいたが、逃がすつもりなどなく、容赦なく後ろから斬り伏せた。
そんなこんなで騎士達は、あっという間に、ナルカ達によって、戦闘不能の怪我を負わされ、地面に倒れ伏すことになった。
村の地面には手足を撃たれたり斬られたりして、重傷を負った騎士達が呻いている。
「へっ、神聖なる騎士様も大したことねえな。……おっと!」
これで終わったと思ったら、浩一がまた一発。ヒーラーと思われる魔道士が、魔法で自分の銃創を治そうしたところを、更に追い打ちで撃った。腕を撃ち抜かれたヒーラーが、二度目の激痛に悶絶していた。
勝利の余韻を噛みしめる二人に、春明とハンゲツが何とも呆れたような疲れたような顔で声をかける。
「お前らな……やるのはいいけど、もっとやり方があるだろ?」
春明の言葉にナルカ達が、キョトンとした表情で、首を傾げる。
「やり方って……魔法を撃ってませんし、村も燃えてないし……かなり上手くいったと思うんですけど……」
「そんなの私のゴーストスリープで、すぐ片付いたでしょうが……無駄に騒ぎを大きくしただけじゃない」
「「「あっ!」」」
ここで初めて飛び出した面々は気がついた。事あるごとに、うっかりが多いメンバーだ。
あのリームの救助船を奪ったときのように、ハンゲツが魔法で眠らせれば良かったのである。先程の戦闘で、村の家屋や地面に少なくない破損ができている。
「どうする? ロードして時間を巻き戻すか?」
「ああ、そういやその手があったわね。最後のセーブはいつ頃?」
「さっき村に入ってきた頃だけど……やるか?」
「いや、また繰り返すのもあれだし、こいつらにはこのぐらい痛い目見せた方がいいだろ」
「そうか……それでこれからどうする?」
今の戦闘で、村人のほとんどは逃げ出した。これはある意味では彼らにとっては幸いだった。
何しろ自分たちのせいで、村に騎士団の横行が来たかと思うと、村人から宜しくない歓迎を受けるかも知れない。
「そういやさっき、騎士の大将ぽい奴は誰だっけ?」
「あいつよ。さっきナルカ達が割り込んだとき、真っ先に逃げようとした奴」
ハンゲツが指差した先には、両足を撃ち抜かれながらも、地面を這うようにしてここから逃げようとしている一人の騎士の姿。
春明は勿論彼を逃がす気はなく、そちらに詰め寄った。
「おいっ、てめえっ」
「ひぃいいいっ!」
ルガルガが血まみれの鉞の刃を、隊長に向けると、隊長は後ろ向きに倒れた姿勢のまま、両手を挙げてあっさりと降参する。
「リームの騎士が、随分と酷いことをしているもんだな。西洋ファンタジーじゃ、宗教国家は悪役なのが普通だけど、まさにそのテンプレ通りで笑っちまうよ。しかも俺たちをダシにして、こんな外道をするとはな……」
「えっ?」
最初は恐怖で引き攣っていた隊長の顔が、春明の言葉を聞いて、訳が分からず困惑顔になる。
「しかしお前ら、どうやって俺たちがここにいるって判ったんだ? 俺らここに来たのは、ついさっきだぞ?」
「ええっ!?」
「うん? 何か変ね?」
「ちょっと待て、お前が!? 何で本当にいるのだ!?」
隊長のその言葉に、今度は逆に春明達が面食らう。どうやら彼らは、別にここに春明達がいると正確な情報を持って来ていたわけではないらしい。
それからしばらく隊長から聞き出したところ、どうやら春明達一行を捜索する騎士団は、ここだけではないらしい。
春明達が、リームの船を奪って、この国に近づいている、という情報がどこかから入り、それを口実に海辺近くの町村各地に、騎士団が出動したとのこと。
リームでは国民が国の公務に全面的に協力するのは当たり前とされている。国民は国から求められたならば、必ず物も命も喜んで全て差し出すのが美徳とされる。
これは数十年ほど前から、国民皆が喜んで受け入れているのとのことで、彼らがこの村でしたことも、罪ではなく、村民も本心では、騎士団に物資を捧げることを喜んでいたはずだと……
「そういうわけで……お前らのしたことは、この村の者達の名誉も傷つけたのだ! 見よ! 今のこの村を! 皆がお前らを怯えて逃げ出しているぞ! きっと皆、貴様らにとられた我らの無事を強く祈り、国へ貢献できる名誉を邪魔したお前らを、心の底から憎んでいるはずだ!」
「春明さん……この人殺しちゃっていいですか?」
長々と語る隊長に、ナルカが魔道杖を向けて、そう言い放つ。魔道杖には今には火を噴きそうな程魔力が込められ、ナルカの幼い顔にもいい知れない殺意が感じられた。
「ひぃいいいいっ!」
「よせっ! 人殺しは駄目だ! ていうかナルカ……さっきといい、人間に向かってえらく好戦的だな!」
ナルカの殺意に隊長が悲鳴を上げ、春明が慌ててナルカの魔道杖を掴み上げて、隊長から引き離す。
いくらロリコンの彼でも、人殺しはどうしても許容できなかった。まあ何もしなくても、そのうち死にそうなぐらい、血を流してる奴がいっぱいいるが……
「こんな悪党、人だなんて認められません! 正義のために、すぐに殺すべきです!」
「殺す殺すって……子供が言っていい言葉じゃないだろ!?」
「大人になればいいですか?」
「そう言う問題じゃねえ!」
「ていうかさ……お前さっきから、本気で言ってる?」
春明とナルカが言い合っている中……ハンゲツが代わって隊長に質問する。それに隊長は、相変わらず顔を引き攣らせながら答える。
「うっ、嘘です! 教国の教義で……必ずこう言っておくことになってるんです。そうだ全部教国の方針なんだ! 私も本意ではなかったが、国には逆らえなかったんだ! 罪なき民にあのような仕打ち……私も本当は心が痛くて堪らなかったのだ!」
途中で思いついたように、隊長は全ての元凶は教国だと訴えてきた。だが春明達は、その言葉に懐疑的な様子である。
「そうなのか?」
「まず嘘ね。さっきは意気揚々と、村人から奪えとか殺せとかいってたし……」
「やっぱり殺しましょう、この人……」
「だからよせって!」
ナルカを再度止めた後、春明が疲れたように言葉を放つ。
「まさにゲーム通りの、悪徳宗教国家だな。まあ、判りやすくて良いけど……。自国の民にすらこれだし、こんな国が別の国に攻め入ったりしたら……」
「それはないわ。流石に教国がアホでも、ヤキソバの裁きは受けたくないはずよ」
「そんでどうするこいつら? 普通の国みたいに、憲兵に引き渡したりはできないぞ?」
今回はゲールと違って、国そのものが敵である。こいつらを治安組織に引き渡しても、まず公平に裁かれることはないだろう。
「殺すのが駄目なら、このまま放置して村人に任せようかしら?」
「でもそれだと、村人が巻き添えを喰わないか? 俺らの反乱に手を貸したとか……」
「う~~ん」
ある意味今までで一番の難題である。ナルカが相変わらず、なら殺そうとか言ってるのを無視して、春明はこの事態をどうすべきか考え悩んでいた。
「だったらさあ~~~このまま一気に教国に斬り込まねえか? ゲームじゃ、どっちみちリームに喧嘩売るんだろ?」
「いや、その前にまだやることがいっぱいあるから駄目だよ。魔法学校とか反乱軍とか……」
「おいっ、誰か人来たぞ……」
その時一行は、この場に騎士達とは違う誰かの気配が、複数近づいているのに気がつく。敵の増援かと思ったら、村の向こう側から、逃げたはずの村人達が戻ってきていたようだ。
「ややこしいことになったな。どう説明すれば……あれ?」
見ると村人達の様子が尋常じゃない。皆武器や農具などの凶器を持って、殺気立っている様子だ。
「騎士共はもう動かねえ! やっちまえ!」
「「「おおおおおっ!」」」
その号令と共に、村人達が一斉に、倒れている騎士達に群がった。動けない騎士達を殴ったり撃ったりと、既に弱った者達を、更に痛めつけている。村人達の復讐劇が始まったようだ。
彼らの目には、騒ぎの原因の一つである春明のことなど一切目に入っていない。
「私は何もしなくても良いみたいね……これで解決?」
「ちょっと微妙だが……まあいいや。さっさと逃げようぜ!」
かくして一行は、この村での騒ぎを無事(?)解決し、早々にこの村を出るのであった。




